表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

115/179

115話 共闘するディックとフェイス、勇者パーティ再結成

 独房に戻されてから、魔女の動きはない。

 気が付けば夜に差し掛かり、僕ことディックはため息をついた。


「魔王軍に捕まった直後は、きちんと食事が出たものだけど」

「ここにゃあ、そんなサービスなんざねぇんだろうな。そもそも魔女以外に誰も居ねぇしよ」


 隣でフェイスがぼやいた。

 気配察知で何度も探ったけど、この監獄には看守が居ない。魔女の他には監視人形が獄内のあちこちに設置されているだけで、囚人を管理する体制が全く整っていなかった。


 捕らえた人を使い捨てとしか思っていない、劣悪な環境だ。と思うなり、腹の虫が鳴く。


 こんな状況でもお腹が空くのは困りものだな、気持ちが余計に滅入ってくる。

 人形の魔女はその体ゆえ、空腹を感じないんだろう。そのせいで、捕虜に対し食事を与えるって発想が無いみたいだ。多分この先も、食事が出されることはないだろう。


 いつ魔女に呼び出されるかわからない重圧に、呼び出されたら無理難題を言い渡される恐怖、そして牢に閉じ込められ、食事も水も与えられないストレス……あまり長期間居たら、僕らでも死んでしまうな。


「……念のため、これを用意しといてよかったよ」


 何となく嫌な予感がしたから、食事を作った時、自分用の食べものを作っておいたんだ。

 シシャモをしっかり焼いて、ついでに根野菜のソテーを作り、紙に包んで懐に隠しておいた。監視人形に睨まれていたから、一食分しかないけど。


「おいてめぇ、何こっそり飯作ってんだ。俺にも寄越せ」

「ただではあげられないな。何か交換できる物を出してくれ」

「ちっ……ウォーター」


 フェイスが水魔法を使い、水の球体を出して僕の牢に差し出した。


「こいつでどうだ。ここにゃあ水がない、飯より渇きで死ぬぞ」

「……分かった、いいよ」


 十分価値のあるトレードだ。オベリスクのおかげで水魔法を使う感覚を覚えたから、僕もウォーターは使えるけど、引き換えに魔力を消費する。

 魔力の消費は体力の消耗に繋がる、今後も食事が出ないことを考えれば、出来る限り体力消費を抑えなければ。

 食べ物を半分渡し、水を貰う。監視人形はとくに咎める様子が無かった。


「味付けしてねぇのかよ」

「仕方ないだろ、監視の目を盗んで作ったんだから。文句があるなら食べるな」

「うるせぇな、不味いとは言ってねぇだろうが」


 ほんの少しの食事を終え、一息つく。……なんか余計にお腹が空いた気がするな。


「おいディック、てめぇ俺が蹴り飛ばされた瞬間、ちゃんとアレ取ったんだろうな?」

「やっぱりあの迫り方は、監視人形の目を引く演技だったか」

「は? 何言ってやがる、あわよくば襲うつもりだったよ。監視人形が手を出さねぇならチャンスだしよぉ」


 ……もうヤダ、こいつ恐い……。

 ともあれ、フェイスのおかげで手にした戦利品を出す。厨房のテーブルに使われていた針金だ。


「てめぇが物欲しそうに見ていたからなぁ。そいつで鍵を開けられるのか?」

「ソユーズにピッキングを教わったんだ。このくらいのカギなら、ハヌマーンと併用して開けられるよ」

「四天王直々の技術かよ。……にしてはしょぼくね?」

「言うな。彼が暇つぶしにやってる遊びなんだよ」

「あの根暗野郎、寂しい遊びしてんなぁ。んじゃあよ、鍵はどうにかなるとして、監視人形はどう切り抜けるつもりだ?」


 確かに、そこは問題だな。壊せば魔女が飛んでくる、迂闊な真似は出来ない。

 ただ、何か方法はあるはずだ。考えるしかない。


「くくっ、俺ならどうにかできるぜ?」


 言うなりフェイスは人形を睨み、ギン! と目を開いた。

 途端、人形が痙攣する。


「エンディミオンでシラヌイの幻術をコピーしていたんだよ。人形が見ている光景をいじって、俺達が大人しく寝ているように見せてやったぜ。これなら、カギを開けてもばれやしねぇさ」

「だけど、それじゃ魔女も気づくだろう?」

「いいや、問題ねぇよ。気配察知を使ってみろ」


 ……確かに、魔女に動きはない。相変わらず奇怪にもぞもぞ動いていた。


「魔女に隙が無いわけじゃねぇ。あいつが癇癪を起した時、本来なら俺達はもう死んでいたぜ?」

「ああ、そうだな。怠惰の右足で拘束されたら、僕達に暴食を避ける術はなかった。力の使い方が拙いように感じたよ」

「おまけに、あいつが向ける感情は全部自分に向いていた。思い出してみな? あいつは俺に料理をぶちまけられた事よりも、それに怒りを感じない自分に怒っていただろう?」


 言われてみれば、病的なまでに自分本位な思考をしているのが分かる。人形の魔女は、自分以外の存在に対し、徹底的に興味が無いって事か。


「現に監視人形の目の前で飯の交換をしたのに、魔女にゃ動きがないんだ。って事は、自分に都合のいい光景さえ見れていりゃ、幻術を使われたことにも気づかねぇだろう。それに看守どころか、部下らしい奴すら引き連れてねぇところを見るに、てめぇの力を過信してるはずだ。自分が居ればここから出る事は不可能だってな。その慢心をついて行けば、監獄の探索をすんのはそう難しくねぇだろうよ」


 ……凄い分析力だな。そういやこいつは超がつくサディストだ。相手が嫌がる事をするために、弱点や心理を読む技術を身に着けているんだろう。


「いい気味だぜ、てめぇの腹の中で獲物が好き勝手に動かれるなんざ、ざまぁねぇや。あいつが悔しがってヒス起こす姿を見てやりたいもんだ」

「本当に嫌がらせをさせたら天下一品だな……」


 けど逆を言えば、それだけ洞察力と頭脳に優れている事になる。フェイスの厄介なところだよ。


「だがよ、いくら行動を確保しても、目的もなしに動くのはバカのやる事だ。なんか方針あんのかよ」

「ああ。どうにか南東の方角に、居場所を伝える手段を考えようと思っているんだ」

「あ? なんで南東なんだよ? ここの大まかな位置がわかってんのか?」

「おそらく、北極側の海域だと踏んでいるんだ」

「なぜわかる?」

「魚だよ」


 材料を物色した時、監視人形に取った場所をそれとなく聞いてみたんだ。そしたら、この近辺の魚だと言っていた。


「シシャモにホッケ、タラ。これらは全部寒い海域に生息する魚なんだ。なのにこの牢獄の気候は、防寒具を着なくても過ごせる。って事はこの近辺は温暖な季節だとわかる。今の時期だと、北半球がその季節にかかるんだ」

「……だがそれだけじゃ情報が足りねぇぞ? 俺達は西の大陸に居たんだ、それがどうして東側にあると分かる?」

「時差で分かるよ。もし僕達から見て西側に目的地があるのなら、監獄は僕達の居た場所から真裏に位置する。それだと僕達は昼夜逆転しているはずだ。でも僕達は、きちんと昼夜の感覚が一致している」

「……そうか。それだと俺達の居た場所から、そう離れてねぇ事になるな」

「だろう。それに夕日が差し込んできたから、僕達の独房は西側に位置しているのが分かる。当面の目的は、監獄の東側を探る事になるかな。勿論、母さんの刀も並行で探していく」

「へぇ、魚如きでよくそこまで行動方針を立てられるもんだぜ」


 フェイスがくつくつと笑った。

 どうにか魔王領まで僕達の手がかりを運ぶ事が出来れば、捜索隊が駆けつけてくれるはずだ。希望は捨てない、最後の最後まであがいてやる。


 ただ、僕だけでは魔女の監獄から抜け出す事は出来ない。


 僕は幻術が使えないから、道中に他の監視人形があったら、どうしようもできなくなる。でもフェイスが居れば切り抜けられる。

 それに、互いに意見を出し合えば、より正確な判断もできるようになる。あいつの事は嫌いだけど、意地を張っている場合じゃないな。


「……フェイス、提案がある。手を組まないか?」

「はっ、言うと思ったぜ。俺としても、こんな場所に長く居たくはねぇ。だが、俺でも一人じゃ脱獄は難しい。利害は一致しているわけか」


 フェイスは鼻を鳴らすと、


「いいだろう、乗ってやるよ。この監獄から出るまでの間だけ、お前と組んでやる。仮とはいえ、勇者パーティ前衛コンビの復活か、滾る展開だねぇ」

「僕としては忌々しい思い出しかないんだけどな」


 ともあれ、脱獄にはフェイスと共闘せざるを得ない。

 なぜ魔女が僕達を誘拐したのか、魔女が何を目的として動いているのか。多くの謎がひしめいているけど、そんな物は脱出した後で改めて調べればいい。

 何としてでもここから脱獄しなければ。僕には、帰らなければならない理由があるのだから。

 待っていてくれシラヌイ、必ず君の下へ、戻ってみせるから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ