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110話 大逆転劇

 ディックの魔導具から、強烈な光が起こった。

 俺ことフェイスは、あまりのまぶしさから目を細める。

 奴の魔導具は覚醒の段階を踏んでいた。って事は今から、俺と同様に変異するんだ。

 ディックの体が、異質な怪物に変化していく。全身が灰色の硬質な皮膚に変化し、背中に鋭角でシャープなシルエットを持った八枚の翼が現れた。


 籠手と具足が肥大化し、鋭い爪を持つ手足に変わる。やがてディックは、むき出しになった牙を生やした、屈強な悪魔の姿へと変わっていた。

 刀は左腕に生物的に同化し、オベリスクも奴の体に取り込まれている。ディックは俺とまるで対照的な、まさしく魔王その物の姿へと変身していた。


『そいつがハヌマーンの覚醒の力か……いいねぇ! まるで悪魔に魂を売ったような姿じゃねぇか!』


 天使の姿を持つ俺と対極に立つ、我が親友に相応しい姿だ。こいつを殺せば俺は、ディックの愛を独占できる。真の意味で俺達は、一つに結ばれ、溶けあうんだ!

 さぁ、俺を憎め、憎め! お前が俺を憎んでくれれば、お前の視線は俺が独り占めできるのだから!


『悪魔に魂を売るか……そうだな、今の僕ならば、躊躇わずに身を投げられるだろうな』

『あ?』

『僕には、守りたい人達がいる。弱いまま、躊躇う事で、大切な人を失うなんて……もう二度とごめんなんだ』


 ……イザヨイの事を言ってやがるのか? この野郎……。

 刀を引き抜き、ディックは空を飛んだ。


『誰にも僕の大切な人達と……シラヌイを奪わせたりはしない。皆を、彼女を守る力を得るためならば、僕は悪魔だろうがなんだろうが、喜んで魂を差し出してやる。だから、ハヌマーン……お前の力を全部僕によこせ。シラヌイを……僕の愛する人を守る力を! 僕に全て寄越せ!』

『承知……!』


 ディックの四肢から、強烈な光がほとばしる。この感覚、前にポルカとか言うガキと同化した時に見た、心を繋げる力か?

 だが以前よりも規模が違う。より多くの連中とつながるつもりか?


「ぐぅ……四星龍、これほどとは……!」

「も、もうらめぇぇ……」

「……万事休すか」

『姉様……ワード……!』


 スクリーンの中で、奴の仲間どもが敗北寸前に陥る。中でも酷くやられたシラヌイは、涙を流し、呟いた。


「助けて……ディック……!」

『ああ……勿論だシラヌイ、皆! 今助ける! 覚醒したハヌマーンの力で、必ず!!!』


 ディックは奴らと、ハヌマーンの力で繋がった。


  ◇◇◇


 焼かれた腕の感覚がなくなって、折られた足の痛みだけが、私を支配していた。

 痛くて苦しくて、涙が止まらない。体の痛みより、心の痛みが強い。もう私は助からない……ディックとの別れが、近づいている。

 カノンが迫り、斧を振り上げた。もう逃げる事が出来ない。

 そんなの嫌だ。離れたくない、離れたくない! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!


「助けて……ディック……!」


 目を閉じた時だった。分厚い、曲線模様を浮かべた壁が現れて、カノンの斧を弾き飛ばした。

 一体、何が起こったのだろう。思う間もなく、私とシルフィは虹色の摩訶不思議な空間に飛ばされた。


「む? ここはどこだ? ってなんでお前達がここに居るんだ?」

「あら? あらら? 私達転移なんて受けたかしらぁ?」

「……精神空間か何かのようだが……」


 そしたら、他の四天王の姿が。それだけじゃない。


「え……? 姉様?」

「ラズリ? ワイル様まで? えっえっ? ワードもいる!」

「あ、はい……変ですね、今まで、避難所にいたはずなんですが……」


 エルフ達まで同じ空間の中に連れてこられている。何が何だかさっぱりだ。


「おいおい、驚きすぎだって。こうまでやらかすような奴ぁ、一人しか居ねぇだろ?」


 ワイルが楽しそうに笑った。そしたら、私達の中心に……異形の悪魔が降りてくる。


『皆、大丈夫か!」


 悪魔は降り立つなり、変身を解除する。その姿を見て、私は思わず飛びついた。


「ディック……ディック! ディックディックディック!」


 間違いない、ディックだ! ディックは私を受け止めて、皆を見渡した。


「よかった、間に合った……まだ誰も死んでないんだな」

『ほほぉ、成程。ハヌマーンの力か』


 シルフィがしたり顔で言う。そっか、ポルカを助けた、心を繋ぐ力。それを使って私達の心を繋げて、煌力を送ったんだ。

 あの壁はディックが私達を守る為に……もう、なんていいタイミングなのよ!


「ディック、あんたは大丈夫なの? フェイスに酷い事、されてないの?」

「ああ、問題ないよ。でも、フェイスが皆の様子を中継してきたんだ。皆がずっと危険な目に遭っている……それが、気がかりでね」


 ディックは私を抱く力を強める。私の手足を気にしているみたい。


「……皆、ごめん。僕には、皆を一度に救える力はない。だからせめて、この言葉だけを伝えたかったんだ」


 皆、固唾をのんでディックの言葉を待つ。そしたら彼は、意外なことを言った。


「戦いが終わったら、皆で宴をしようよ。ドラゴンと人間を退ける事が出来れば、魔王軍とエルフ達は友人関係になるんだ。皆で派手な歓迎会をして、めいっぱい楽しもう!」


 ディックにしては珍しい提案だった。でも彼はすぐに、こう続けた。


「だから……皆! 絶対死なないでくれ!」


 とても力強い、「死ぬな」の一言。ハヌマーンで心がつながっているからか、胸に大きく響いた。

 全員、顔を見合わせて、頷きあう。危機的状況の時ほど、ディックは自ら先頭に立って戦う。私達を守る為に。

 だからかな、彼の言葉が、素直に染み渡った。


「当然だろうディック。実はな、俺はちゃんと逆転のロジックが出来ているんだよ」

「私もよぉ。でもその直前で疲れちゃって、危ない所だったのぉ」

「……おかげで一息付けた、礼を言うぞ」


 四天王の顔に力が戻っていく。でもラズリは不安そうだ。


「私は……ディアボロスの前に成す術がありません……あいつは強すぎて、どんな策も通じなくて……」

「それならさ、いっそ策なんか捨てちゃえばいいんじゃない?」

「確かにな。勇者パーティは沈黙した、今なら俺達も力を貸せるぜ」


 ラピスとワイルが、ラズリの背を叩いた。


「一対一じゃねぇ、一対三……いいや一対四だ! 俺達の力を持っていけ、んでもって全力で竜王とぶつかってこい! そうすりゃ絶対勝てるさ!」

「一対四?」

「ここに居る色男からも、力を貰えって事だよ。ほら」


 ワイルはワードをラズリの前に出した。彼に促され、ワードは意を決したように手を伸ばし、彼女の頬にキスをした。

 驚き、ラズリの目が見開かれる。ワードは拳を握り、


「僕の想い、どうか持って行ってください」

「は……はい!!!」


 ラズリは真っ赤になって何度も頷いた。なんだろう、さっきまで大ピンチだったのに、なんだかどうにかなりそうな気がしてきた。

 独りじゃない。皆の絆の温かさが、勇気をくれた。

 ディックの誰かを想う心が私達を奮い立てる。彼に背を押されたおかげで、折れた心がもう一度立ち上がっていた。


「皆がもう一度戦えるよう力を貸す。約束、絶対に果たそう!」

『おう!』


 皆が再び戦いの場へ戻っていく。残ったのは私と、ディックだけ。


「シラヌイ、君だけは特別扱いをさせてくれ」

「えっ? ん……」


 急に、ディックからキスされた。優しくて、溶けてしまいそうな口付けに骨抜きにされてしまう。


「……君だけは、死なせたくない。ハヌマーンの力でリンクしている君にだけ出来る、特別扱いだ。長く持つ物ではないけど、役に立つはずだよ」

「ディック……?」

「君なら、必ずカノンを支配できる。だから、必ず生きて、もう一度僕の所へ戻ってきてくれ。そしたら、いっぱい君を抱きしめて……三日三晩、寝かせないから」

「あ……うぅ……!」


 恥ずかしいセリフを言いおってからに……! 私がサキュバスだって事、忘れてんじゃないでしょうね?


「い、言ったわね? か、か、覚悟しておきなさいよ! あ、あ、あ、あんたが干からびるくらい求めて、わ、わ、わ、わ、私の方があんたを骨抜きにしちゃうにゃあ…………」


 なんで最後の最後噛むのよ私わぁっ! はぁ、どこまでもポンコツすぎるわ、自分……。


『おーい、そろそろいいか? こっぱずかしいシーンを見せられる方の身にもなれ』


 シルフィの声にハッとなる。あんた居たの!?


「い、今すぐ戻るわよ! ディック、あんたこそ、約束忘れないでよ! 絶対、絶対三日三晩、してもらうんだからね!」

「ああ、約束だ!」


 我ながらどんな約束してんだか……でもおかげで力が湧いてくる。もう一度ディックと会うんだって決意したら、何も怖くなくなった。


『……しかも、特別扱いの具合が酷いっての』


 次に気付いた時、私はカノンの所に戻っていた。精神世界は時間の流れが違うらしく、ものの数秒とかかっていない。

 でも私には、劇的な変化が訪れていた。

 ディックからハヌマーンを通して、煌力を渡されていたんだ。怪我は全快して、全身に曲線模様が浮かんで、底知れない力が満ち満ちている。

 彼の使う煌力モードを、私も発動していたんだ。


『精吸によって強化されるサキュバスの性質を利用したか。中々考える奴だな』

『当然よ。だってディックは、私の男なのだから!』


 もうさっきまでの私じゃないわよ、覚悟しなさい、炎獄龍カノン! あんたを文字通り、支配してやるからね!


  ◇◇◇


『てめぇ、何をした? なんで四天王どもが全回復してんだよ!』


 ディックの光が収まると同時に、スクリーンの連中が急に回復していた。

 あのガラクタの力はただ単に心を繋げるだけ、なのにどうしてあいつらは元通りになっているんだ?


「ふっ、ディックめ、煌力で俺達の治癒力を上げたんだな」

「んもぉ、かわいい事してくれちゃって。お姉さん嬉しいわぁ」

「……それに、ディックを傍に感じる。頑張れと、応援してくれている」

『胸のつかえがとれた気がする……ワードが私に力をくれる……よし!』


 次々に蘇る四天王と世界樹の巫女。ディックの奴、ハヌマーンで何をしたんだ?

 しかもシラヌイは煌力を身にまとっている。あの野郎、俺という者がありながら、シラヌイを特別扱いしやがったな。


『ばっはっは! 何が起こったかわからんが、大した自信に満ちているな! だが実際問題、ワシをどう対処するつもりだ? 力の差は歴然、敗北寸前の貴様に勝機はないように見えるがなぁ、ばっはっはっは!』

『それはね、四人で戦えばいいんだよ!』


 もう一人の世界樹の巫女が声を張り上げる。そしたらワイルが姿を現した。


「俺も元巫子だ、僅かだけど力が残っている。そいつを全部くれてやるぜ後輩!」

『僕も、ラズリへ祈りをささげる……どうか、僕の想いも持って行って!』

『いっくよラズリ! 私達だけじゃない、エルフの国全部の想いを貴方にそそぐから!』


 ラピスのボケが叫ぶなり、ラズリへ多数の光の粒子が向かっていく。あれ全部、エルフ達の力かよ。


『漲ってくる……私の、守るべき人達の想いが……! よぉぉぉし!』


 迷いが吹っ切れたように、ラズリはディアボロスへ攻め立てた。拳に枝を纏い、さらには多数の木の根も突き出してくる。策も何もない、ただ真正面からぶつかるだけの特攻だ。


『ばっはっはぁ! 力比べとはまたシンプルな、面白い! 返り討ちにしてくれるわぁ!』


 ディアボロスが嬉々として向かい、木の根をかみ砕き、枝の拳を爪で壊し、ブレスでラズリを焼き払う。ってのに、ラズリはひるまずディアボロスに連撃を見舞った。


『確かに、策を立てても無駄なのなら、力ずくで突破するしかない。あれこれ考えるよりも、手を出すのが一番の策だ!』


 ラズリの手数はさっきの倍以上だ。時間が経てば経つほど攻撃の密度が濃くなっていく……!


『が、あ!? なんと、まるで嵐の如き連撃っ! ばっはっは! 面白……ぐがぁっ!?』


 ディアボロスが一瞬で攻撃に飲み込まれた。絶え間ないラッシュに姿が見えなくなり、巨大なクレーターが生み出された。

 力の塊である龍王を、力でねじ伏せただと?


『やった、ディアボロスが、沈黙した……次は貴方だ、ディックに私の力を託します!』

『凄いなラズリ! 受け取ったよ、君の想い!』


 覚醒したディックが攻撃を開始する。瞬間俺は、衝撃的な光景を見た。

 奴の腕に、世界樹の枝で出来たナックルが装備されている。

 咄嗟にエンディミオンでガードするが、木の枝が逆立ち、鋭利な爪となって俺を切り刻む。こいつ、どうして世界樹の巫女の力を?


「残念だなヲキシ、お前とのダンスはここでおしまいだ」


 ふとリージョンを見て、俺はさらに愕然とする。なぜか、ヲキシがリージョンの前で膝をついていたのだ。

 奴は水になる力を持っているはず、空間を操る力といえど、水に勝てるはずがねぇだろ?


「お前は狂戦士の呪いで、凄まじい憤怒の感情に支配されていただろう? そこを突かせてもらったよ、俺の感情を操る力でな」


 リージョンは指を鳴らした。


「お前の憤怒をより増幅させ、必要以上に魔力を消費させたのさ。ペース配分を考えず、力をフルパワーで使い続ければ、魔力が枯渇し能力が使用できなくなる。今のお前は水に変化できない、ただのドラゴンだ」


 ……そう言う事か。呪いでハイテンションになってる所をさらに上げても気づかれにくいわけだ。じわじわと内側からむしばむたぁ、陰険な鬼だぜ。


「感謝するぞディック、お前のおかげで見事勝機を見いだせた!」

『どういたしまして、リージョン!』


 ヲキシは頭を潰され絶命する。そしたらディックが手を翳し、俺にリージョンの空間能力を発動しやがった。

 ゲートを中途半端にとどめて閉じ、腕を千切られる。でもってディックはゲートを使い、俺との距離を強引に詰めてきた。

 ……間近で見るディックの顔、中々そそられるぜ。


「はーい、ズシンちゃんももうおしまいよー」


 メイライトの呑気な声が聞こえた。まさかズシンがやられただと?

 見れば、ズシンの潜む大地に、樹海が出来ている。メイライトの創造の力か。


「土に隠れているのならぁ、土を枯らせるくらい栄養を吸い取る植物を植えればいいのよぉ。ホムンクルスで爆撃した時、こっそり周囲を囲う感じにタネを植えてたの。あとはその囲いから出ないよう誘導しつつ、タネを時飛ばしで急成長させればぁ」


 見る間に大地が枯れ、ひび割れていく。このままじゃズシンも体液を吸収されて殺されるな。

 たまらず出てきたズシン本体。当然、メイライトは時止めで捕縛するわな。やり口が陰湿かつえぐすぎるんだよ堕天使が。


「やったわー! 私の勝利勝利ー! いっえーい☆」

『流石だよ、メイライト!』


 ディックは今度は、メイライトの時間を操る力を使いやがる。危うく捕まりかけた所で首をねじ切り、体を再生して逃げ延びる。


「……ビュンの対処、終了した」


 ってソユーズまでか! どうなってやがる四星龍!?

 ソユーズは多数の鉄板を用意し、光を当てて急激に熱している。空気が温められ、上昇気流が発生するほどに。

 ソユーズが起こした上昇気流はやがて力を増していき、ビュンですら制御できない台風となった。

 一体鉄板を何度に熱すればあんな台風が起こる? 見た目に寄らずやり口が豪快だな。


「風は自身より強い風に勝つ事は能わず、飲み込まれるのみ。いかに貴様が風になろうとも、自身の力を超える災害にはかなうまい。そして制御できぬ力は、貴様の本体を引きずり出す」


 風になっていたビュンは、台風に飲まれて身動きが取れていない。たまらず実体化したところを、


「我が友に感謝を込めて、うなれ……邪眼!」


 ソユーズの光線が貫いた。

 これでビュンもやられた。んでもってディックもソユーズ同様、


『右腕が疼く……くらえ、破滅の閃光!』


 強力な光線をぶっぱなし、俺を焼いてきた。

 ……ここまでくれば俺も分かってくる。あの魔導具の覚醒した力が。


『お前と関係を深めた奴の力を、そのまま使えるようになるってわけか』

『フェイスに効果のある物限定だけどな。でもそれでいいんだ……お前さえ倒せる力が手に入れば、僕は構わない! 僕の大事な人達を守る為に、今ここでお前を駆除してやる!』

『はっはっは! はーっはっは! 嬉しい、嬉しいねぇ! お前が背負っている愛全部を俺によこしてくれるってのか! 最高じゃねぇか!』


 流石だぜ親友! 俺をどこまでも喜ばせてくれるなんざ、この世でお前一人だけだよ!

 お前が俺を憎み、痛めつける度、俺の体にお前の愛の証である傷が刻まれる。それを思うと、傷つく痛みも苦しみも、何もかもが快感に変わってくる!

 傷つける事もまた愛! 嫌よ嫌よも好きの内ってなぁ!


『だが流石にシラヌイは無理だろう、あいつじゃカノンに勝てねぇよ。あいつだけは貰っていくぜ!』

『そうはいかないさ。シラヌイには特大級の特別扱いをしたからね』


 ディックは、シラヌイを見やった。


『無駄よ、もうあんたの攻撃が私に当たる事はないわ』


 カノンはてんでバラバラの方向に斧を振り回している、煌力で強化された幻術を食らい、完全にシラヌイの姿を見失っていた。


『……炎使いとして、炎魔法でやられっぱなしってのも、癪だわね』


 したらだ、シラヌイは幻術を解き、カノンに真っ向から炎魔法をぶちかます。そしたら、炎が効かないはずのカノンに火炎攻撃が通用した。

 煌力でカノンの実体を捉え、無理やり炎を当てやがったんだな。

 躍起になったのか、カノンは体を炎に変える。シラヌイの炎すら飲み込んでいた獄炎だ。ってのに、


『私の目を見なさい、カノン!』


 シラヌイの挑発に乗り、カノンはまともに目を見ちまう。そしたら、強力な幻術にかかりやがった。


『この幻術は、あんたを意のままに操る魔法よ。あんたが炎その物になると言うのなら、私が全部飲み込んでやる。あんたの炎の力、シュヴァリエの中に全部閉じ込めてやる!』


 幻術にかかった以上、カノンには成す術がない。強制的にシラヌイと使い魔の契約を交すなり、奴の体が杖に飲み込まれていった。


『龍王をも焼く、ドラゴンの炎……確かにもらい受けた!』


 なんてこった、幻術で強引に奴を取り込むとはな。その手があったか。しかもカノンを吸収して、ドラゴンの力まで自分の物にしやがった。

 ちっ、結果的にシラヌイを強化させやがって。役立たずの四星龍が。


『ディック、邪魔者を倒したから、今すぐ行くわ。だって、フェイスは二人で倒すって誓ったもの。ハヌマーンで繋がった私達で、全部終わらせてやりましょう!』

『……うん、待っている。君が来るのを! それまで、僕も格好悪い姿は見せられないな!』


 刀を握り直し、ディックは鋭い眼光で俺を睨んだ。


『これで、お前の用意した駒は全滅だ。ようやくここまで追い詰めたぞ、勇者』

『ああ、そのようだな……全く、どいつもこいつも忌々しいと言うか、しぶといというか……全くよぉ、お前は本当によぉ、俺を飽きさせねぇよなぁ!』


 俺が笑うなり、ディックはシラヌイの炎魔法を使いだした。

 手を空に翳し、まるで小さな太陽のような、圧縮した炎を生み出し、俺に直撃させる。熱すぎるディックの愛に焼かれ、危うく体が溶けそうになったぜ。


 はぁ……最高だ、気持ちいい、最高に気持ちいいぜディック!


 お前の愛はどこまでも深く、深く、深く深く深く深く心地よく俺を愛撫し刺激する! こんな快感を覚えちまったら、もう女を抱くなんて馬鹿馬鹿しくなっちまうなぁ!


『はっはぁ! 必ずお前を俺の物にしてやる、殺してお前を嫁にしてやるよディック!』


 どこまでも楽しもうぜ、限界を超えた愛の語らいをよぉ!

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