105話 四星龍
世界樹の巫女達の恋路は、上手く行ったようね。
私ことシラヌイは、目を細めて二組のカップルを見つめていた。……片っぽはカップルって言っていいのか分からないけど。
でも愛情の形なんてそれぞれよね。私とディックのように、種族がまるで違うのに、深く繋がっているのもいるんだから。ラピスとワイルの関係も、一つの愛の形よね。
ディックと一緒にエルフの国を見下ろす。そしたらあちこちで、エルフ達が明日に向けて、大切な人たちと過ごす姿が見られた。
両親と過ごしたり、恋人と過ごしたり、夫婦で過ごしたり。エルフは情が深い種族だ、大切な人達との時間は、何よりもかけがえのない物だ。
「……必ず守らないとな、この国を」
ディックは刀を握りしめ、そうつぶやいた。
イザヨイさんを失った痛みを知るからこそ、ディックは誰かのために戦う事が出来るんだ。それにフェイスの理不尽な破壊行動を間近で見ているからこそ、クソ勇者の行動が許せないの。
「この国には、大勢の人達の心が詰まっている。それをフェイスとディアボロスに壊されてたまるものか……」
「そうね。明日は相当な大一番になりそうだわ」
改めて幸せそうな巫女姉妹を見やる。二人の未来の道筋が出来上がった以上、絶対に負けられない。
今回は四天王全員が出張る総力戦よ、四星龍だろうがかかってきなさい。
エルフ達は必ず、私達が守ってみせるわ。
◇◇◇
「さて、出てこい。ディアボロスの下僕ども」
俺ことフェイスは、四星龍を呼び出していた。
龍王を使い魔にしているから、俺もそいつらを自由に呼び出し、使役できるそうだ。聞けば魔王四天王と同格の実力を持ったドラゴンだとか。
楽しみだぜ、ディアボロスに喧嘩を売るようなバカトカゲどもだぞ? さぞかし狂った連中に違いない。
「ま、お前らよりは役に立ちそうだな」
役立たずの女どもを見やる。女どもはびくりとすると、すみっこに逃げ出した。
あいつらは捨て駒としておくか。抱いても楽しくなくなったし、もう用済みだ。
「精々頑張って活躍してくれよ。なぁ」
「は、はい……! 必ず、ご期待に応えて見せます」
女剣士が代表して答えるが、まぁお前達に先なんかないけどな。
四つの魔法陣が展開され、ドラゴンが召喚される。どいつも五メートル程度のドラゴンだ。
一匹は赤色の皮膚に、シャープな体を持った、斧を装備したドラゴン。
一匹は青色の皮膚に、魚みたいな鱗を持った、槍を装備したドラゴン。
一匹は茶色の皮膚に、鎧のような革を持った、槌を装備したドラゴン。
一匹は緑色の皮膚に、十枚の鋭い翼を持った、鎌を装備したドラゴン。
成程、地水火風の力を持ったドラゴン達か。見た目が個性的でわかりやすいぜ。
「お前らか、そこのトカゲジジィに喧嘩を売った馬鹿ドラゴンってのは」
「…………。……、…………!」
「 、 。 」
「〇◇×○○○。▽▲□×」
「ksyznfggansuzmasuxnu?」
あ? なんだこいつら、なんで俺に分かる言葉で話さないんだ?
つーか、目が死んでるような気がするな。ディアボロスを前にして微動だにしないし、感情も見えない。なんつーか、ゾンビを前にしているみたいに、生きている感じがしねぇんだ。
ディアボロス直属の配下だってのに、なんだこの覇気のなさは。
『ばっはっは! どうだ、頼もしい戦力であろう?』
「馬鹿抜かせ、これのどこが頼もしいんだよ。つーかどうして言葉を出さねぇんだ」
『なぁに、簡単なことよ。ワシを殺すために、あらゆる能力を戦闘に振り切った結果だ』
ディアボロスは俺に顔を近づけた。
『狂戦士の呪いを知っているか? 感情、声、生気……自己のあらゆる感覚を戦闘力に変換する、心を犠牲に力を得る呪いだ。奴らはそれを自らかけたのだよ。それゆえ、まともに会話する事も出来ぬし、表情も出せない。あるのはただ、ワシを殺す憎しみだけ。勝利のためだけに己が全てを捨て去った、命の抜け殻。それが四星龍の正体よ』
「へぇ、中々面白いドラゴンどもじゃねぇか」
俺好みだぜ、気に入った。まともに話せない、廃棄物みたいなドラゴンだが……戦力になるなら別に構いやしないぜ。
明日はこいつらを四天王にぶち当てる。その方がゲームが盛り上がって楽しくなりそうだしな。
「つかよ、各々の名前くらい教えろや」
『ばっはっは! こいつは失礼したな。では一匹ずつ。
赤のドラゴンは炎獄龍カノン。マグマの如き剛力を誇る炎の権化。
青のドラゴンは水害龍ヲキシ。激流をその身に宿した水の化身。
茶のドラゴンは地厄龍ズシン。如何なる者も打ち砕けぬ地の盾鎧。
緑のドラゴンは嵐災龍ビュン。触れる物を何もかも切断する風の覇者。
どいつもこいつも、ワシの体に傷をつけた猛者ばかりよ。魔王四天王を相手に面白い喧嘩が出来るはずだぞ、ばっはっは!』
名前は随分とご立派なもんだ。お前らがどれだけゲームを盛り上げてくれるのか、せいぜい期待しておくよ。
俺達の勝利条件は、エルフの国を乗っ取るか、もしくは消し去るかだ。どっちかでも達成できれば、ゲームは俺達の勝利になる。
『くくっ、しかし勇者フェイスよ、貴様が来てから随分と面白い事が起こる物だ。付き合っていて飽きの来ない男だな』
「へっ、てめぇこそ……俺が強くなるのを見て楽しそうだな。大方、また俺に喧嘩を売るつもりでいるんだろ?」
『当然だ。そもそもなぜワシが貴様の使い魔になったかわかるか? 使い魔は主が強くなれば、相応に実力が上がるようになっている。貴様が戦い、強くなればなるほど、ワシも強くなる。さすればまた、楽しい喧嘩が出来るではないか! いずれは使い魔の契約を解除し、貴様にリベンジを果たすつもりだ。だからその時まで、この龍王がしっかりと指導してやろうではないか。より強くなり、ワシを楽しませてくれよ。ばっはっは!』
けっ、そんな事だろうとは思っていたよ。
俺とクソジジィは決して一枚岩じゃあない。力のみでつながった、薄っぺらな絆だ。
ただまぁ、かまわないさ。ディックを手に入れるまでの我慢だ。
あいつさえ手に入れば、俺は孤独から解放される。明日俺は、ディックの愛を独占できるんだ。
さぁて、楽しみだぜ。必ずお前を殺して、俺の物にしてやるからな、ディック!