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103話 世界樹の巫女の決意

 早いもので、二日が経った。

 僕ことディックはその間、シラヌイ軍とエルフ軍の橋渡し役として奔走していた。

 何しろ、たった数日で結成した混成軍だ。いきなり連携を取るなんて不可能に近い。だから前後衛をエルフ軍、中衛をシラヌイ軍と明確な役割分担をして、相互に独立して動けるよう連携パターンも単純化させて、完熟期間を大幅に縮小させていた。

 この打ち合わせだけでも、信頼関係が出来ていなければ進まない物だ。けど僕は模擬戦でラズリを破ったことで、エルフ軍に実力を認められている。そのおかげでどうにか話はまとまり、連携に関しても形にだけはなったと思う。


「あとは、付け焼刃がどれだけドラゴンに通用するかだわ」

「多分、何とかなるはずだ。エルフの国にドラゴンが来ないよう、専守防衛の作戦にしたからね。僕らの目的を果たすまで持ちこたえてくれればいい」


 間違いなく、ドラゴン軍はフェイスとディアボロスを導入してくる。僕らの目的は、その二大巨頭の撃退だ。

 司令塔である二人を倒せば、ドラゴン軍は止められる。改めて僕らは地図を広げた。

 主戦場は、エルフの国北西、山間の樹海だ。ここが龍の領域とエルフの国の、対角線を結ぶ境界だ。

 ここはぎりぎり世界樹の影響が及ぶ範囲で、エルフ側に地の利がある。ここを防衛ラインとして、人間、ドラゴン混成軍を食い止める予定だ。


「ディアボロスはラズリが相手をしてくれる、僕は当然フェイスを」

「私はワイルとラピスを交えて、あんた達を援護すればいいわけか。気になるのは、四星龍ね。一体誰が来るのやら……」

「魔王四天王と同格のドラゴンか。一応、全員分の対策は考えたんだろ?」

「まぁね。けど中でも来てほしくない奴は、炎獄龍カノンだわ。そいつが来たら、私でもちょっと厳しいかも」

「あんまりそう言う事言うと、現実になっちゃうよ」

「わーってる。ま、来たら来たでどうにかするわ」


 シラヌイは自信なさそうだ。炎獄龍カノン、炎を扱うシラヌイにとっては天敵か。

 もしカノンが来たら、シルフィが勝負のカギになるだろうな。


「頼むよ、必ずシラヌイを守ってくれ」

『保証できないな、私はあくまで力を貸すだけだ。私の力をシラヌイがどう使うか、それだけの話よ』

「……これだものなぁ」


 サーカスと戦いは違う、なんだか怖くなり、僕とシラヌイはため息を吐いた。

 ともあれ、午後は休養に当てよう。明日は休んでもいられなくなる。


「……剣の手入れでもするかな」

「私も杖の調整に当てるわ。装備品のチェックは事故の元だしね」


 そう思い、二人で部屋に行こうとしたらだ。


「あの、すみません。少しだけ時間、いいですか?」

「二人にちょーっと、相談事あるんだよね」


 世界樹の巫女姉妹に話しかけられた。


  ◇◇◇


 メイライトが持ってきてくれたタイムサワーのお茶を出し、僕らは巫女姉妹の話を聞いていた。

 明日に大一番が控えているとあって、二人とも緊張気味だ。そんな二人がする相談とは、なんだろうか。


「単刀直入に言います、私達をそれぞれ、想い人と一緒にさせてくれませんか?」

「ラズリはともかく、私は警備の目が酷くてさ。ワイル様に会いに行けないんだよぉ」


 ……また恋愛話か、懲りないな。

 でも、二人の表情は重苦しい。最初の頃に見せた無邪気さは、欠片もなかった。


「明日はディアボロスと勇者が攻めてくる日です、前線へ向かう貴方達は勿論、私とワイルも無事に戻ってこれる保証はありません」

「だからさ、ラズリはワードと、私はワイル様と、今日だけは一緒に居たいんだ」


 ラピスはラズリにしなだれかかった。


「私ね、ラズリがディアボロスに負けるなんて思ってなかったんだ。ラズリは強いから、絶対倒してくれるって信じていたから。でも……本気を出していないディアボロスに、負けちゃった」

「明日は相手も本気で来るでしょう。そうなれば、私は無事に帰ってこれる保証はない……勿論先々代、ワイルも。そう思うと、居ても立っても居られないんです」

「勿論禁は破らない、そうなったらエルフの国が酷い事になっちゃうし、好きな人に格好悪い姿を見せちゃうことになるから。でも、巫女だからって想いを伝えられないままバイバイだなんて、絶対嫌なんだ」

「だから……行く前に自分の気持ちだけは、伝えておきたいんです」

「……そうですか……」


 ふと、僕の脳裏に母さんの死に際が浮かんだ。

 最後の瞬間、大事な人に何も伝えられない苦しさは、よく分かる。胸が張り裂けそうになるくらい、悲しくて、辛くて……地獄のようだった。


「シラヌイ」

「分かってる。私達が時間空けられるのは、午後いっぱいだけ。その間だけでも、好きな人と一緒に居たいわよね」


 流石シラヌイ、話が分かる。

 二人の場所は気配察知で探れるから、あとは人払いをして連れ出すだけか。それならシラヌイに頼もうかな。


「幻術で出来るよね」

「そのくらいなら簡単よ、任せてください。バルコニーとテラスを開けとておけばよろしいでしょうか」

「ありがとうございます……!」

「じゃあ、お願いね、二人とも!」


 巫女姉妹はぱたぱたと出て行った。僕とシラヌイは顔を見合わせ、


「なんだかんだ、幸せになってもらいたいな。こんな状況だからこそ、心から思うよ」

「そうね。ってか、私がこんな事考えられるようになるとはね。いやぁ、我ながら変わったもんだわ」


 ドラゴンと人間達に、エルフの国の幸せを破壊させるわけにはいかない。

 決意を固めるためにも、二人の恋路を応援してあげないとな。

 よし、そうと決まれば行動だ。


「僕はワードとワイルを誘導するよ、シラヌイは二人の場所を作ってくれ」

「任せときなさい。戦う前のラストミッション、巫女の恋路をしっかり成功させてやろうじゃない」

「んー、誰の恋路の成功を祈るって?」


 急に背後から気配がして、僕らは驚いた。

 振り向けば、そこには渦中のエルフであるワイルが。


「いつの間に?」

「いや、ついさっきさ。お二人さんが乳繰り合ってるもんで邪魔でもしてやろうかなと」

「燃やすわよ」

「冗談。ラピスが俺を探してるって話だろ? 一応聞いていたよ」

「いつから聞いていたのか気になるな……けどそれなら説明が省けるな。ラピスの所に行ってくれるかい、ワイル」

「そうさなぁ……断る理由もないしいいぜ。ラピスは一度口説きたいと思っていたところだしな」


 ワイルは飄々と言い、踵を返した。


「たーだ、個人的にゃあ返答に困るんだよなぁ」

「なんでだ?」

「ま、俺にも俺の事情や考えがあるってわけさ。美女の相手なら喜んで引き受けるけど、ちょっと今回は困ってんだよねぇ」


 ワイルは肩をすくめ、部屋から出て行ってしまった。

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