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100話 救い出せ、エルフ達の心。

 エルフの国、世界樹の麓にある広場。そこに住民達が集められている。

 ワードの根回しによって舞台の準備は整い、簡素だけどステージが造られた。エルフの人々は皆不思議そうな顔で、ステージに視線を向けている。


「大丈夫かな、成功するかなぁ……」


 私ことシラヌイは、本番を前にして緊張していた。

 ある意味戦うよりも恐いのよね。だって失敗したら大勢の人達をがっかりさせてしまうんだもの。

 ドラゴンに怯えるエルフの心を助ける……それを初めて使う魔法でやり遂げなきゃならないのか。

 そんな緊張している私に、ディックは寄り添っていた。


「不安なのかな?」

「当然じゃない。幻術なんて不確かな物を使いこなさなきゃならないんだもの」

「そうか。けど大丈夫だよ、シラヌイなら。君は沢山の心を救ってきたんだから」

「あら? 私そんな実績あったかしら?」


「僕がイップスにかかった時、君はずっとそばにいてくれた。ポルカが傷ついた時には、あの子に笑顔を取り戻した。ポルカを取り戻して、ケイとアスラを絶望から救い出した。何より、君自身が幸せになって、多くの人を安心させた。だから大丈夫、君ならエルフの心を救い出せるよ。君に救われた男が言うのだから、間違いないさ」


 ……ったく、こっちの心救った奴が何言ってんのよ。

 あんたこそ、ずっと私の傍に居て、私をすっかり夢中にさせて、どんだけ救われたと思ってんのよ。

 けど、そんな奴の言葉なら、私は信じる事が出来る。


「そんじゃあ、いっちょやってみましょうか。私が新しく手に入れた力、幻魔の魔法をね」


 開演の時間と共に、シルフィから力を借りて幻術を使う。広場の周囲だけを夜のように暗くして、プラネタリウムを展開した。

 よし、今回は上手く行ったわね。

 ざわめくエルフの前に煙幕が噴き出て、シルクハットを被った小太りの中年親父が現れた。変装したワイルだ。

 スポットライトを浴びたワイルは、仰々しい仕草でお辞儀をした。


『レディース・ヱン・ジェントルメン! ようこそお集まりくださいました! これより始まりますは、ドリーミングなエンターテイメント! 皆様から不安を取り除くショーとなります! どうか心行くまでお楽しみあれ!』


 ワイルが私達に目配せする。私はすぐさま幻術を操り、幻のクラッカーを鳴らした。

 それと同時にゲートが開き、エルフの騎馬隊とホムンクルスの楽隊が飛び出してくる。明るい音楽に合わせて騎馬隊が軽やかな馬術を披露して、エルフ達は皆拍手を沸かせた。


「よし、僕の出番だな。衣装は任せたよ」


 ディックがボールを持って飛び出した。幻術で彼の服をクラウンに変えると、どっからともなく出てきた大玉に乗っかってジャグリングを始めた。

 私達の前で見せた背面キャッチや股下くぐりを披露して、さらには逆立ちしての片手ジャグリングと、器用に大道芸を披露する。イザヨイさんから教わったらしいけど……あの人なにやってんのよ……。


 でも曲芸は大うけしている。ディックはサービスでブレイクダンスを見せた後、袖から退場した。

 ディックの次は巫女姉妹よ。世界樹の根が伸びて、即席のシーソーが造られる。そこに変装したラズリとワイルが出てきた。


 ラズリの登場に住民達が沸き立つ。するとワイルがシーソーに乗って、ラズリが反対側に飛び乗った。

 ワイルは勢いよく飛びあがる。そこへ投げ縄が飛んで、伸びていた枝にかかる。


「いーはぁー!」


 でもってラピスが縄を握り、ブランコのように振って、ワイルを空中でキャッチした。

 これまた即席の空中ブランコだ、よくラズリとやってる遊びらしい。こっちもこっちで何やってんだかねぇ。

 ラピスがワイルを投げると、彼は器用に枝へ乗っかり、鉄棒の要領で体操を始める。盗みに入る時の身のこなしみたいだけど、こうしてみると曲芸みたいだわ。


 巫女姉妹と大怪盗の大道芸に拍手が起こる。そこへハヌマーンを装備したディックが飛び込んで、ラズリと演武を始めた。

 ハヌマーンの光の軌跡が美しく描かれる。その中で舞うラズリも世界樹の魔力の粒子を舞わせて、私も思わず見とれるくらい綺麗だった。


 本当だ、皆の特技を組み合わせるだけで、人々を感動させる大道芸が出来てる。

 ラピスは世界樹の根を駆使してサーカス道具を即興で造り、ワイルが怪盗の技術で梯子芸や大掛かりなマジックを披露する。時折ディックがクラウンとしてふざけた演技を見せ、パフォーマンスの緩急をつけていた。

 その間も私は幻術で様々な演出を披露する。時には紙吹雪を散らし、夜空に流れ星を振らせて、華やかに会場を彩った。


 加えてホムンクルスの楽隊や、色鮮やかに変化する光、ゲートを駆使して予想もつかない登場をする演者達。エルフ達の気持ちは瞬く間に明るくなって、人々に笑顔がともっていく。


 よぉし、そろそろ、私の出番ね。


 満を持して、シルフィと一緒に舞台へ出る。シュヴァリエを振るい、炎を出しながらステップを踏んでいく。多数の敵を相手にするとき、的を絞らせないよう立ち回るための動きなのだけど、前にディックからその動きが綺麗だって言われたのよね。


 あいつがそう言うのなら、人に見せてもおかしくないはず。


 杖を振る度、火の粉が艶やかに散って、小さな花火がはじけ飛ぶ。そこへシルフィが炎の色を変えて、虹色の花火にしてくれた。

 エルフ達が感嘆とため息をついて、私に見とれている。そこへ、ディックが刀と大剣を持って参加してきた。

 私のステップと彼の演武が、ステージの上で舞い踊る。刀の紫のオーラと、大剣の青い輝きに、炎の赤が交じり合って、幻想的な空間が出来ていた。


 ディックとの共演が心地いい。彼と身も心も繋がっているようで、えも言えない充実感が湧いてくる。

 この幸せな時間が、永遠に続けばいいのにな。

 だけど、夢は必ず覚める物。私とディックの舞いが終わると、雨のような拍手が降り注いだ。

 彼と共にお辞儀をし、最大限の礼をする。最後にフィナーレとして、このサーカスに協力してくれた人達を紹介した。


『ご紹介します。今回、特別キャストとして来ていただきました……魔王四天王の皆様です!』


 ワードのアナウンスで、リージョン、ソユーズ、メイライトの三人も紹介する。ディックが連絡して、急遽来てもらったのだ。

 おかげで、エルフ達を救う事が出来たわ。みんな、本当にありがとう。

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