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同世界

令嬢の懐古もしくは現実逃避

作者: 猫側縁



特に何かをした覚えもなかった。

どの繰り返しも、1番最初は同じである。

5歳の王家主催のお茶会で、人混みから外れて日影で私は静かに本を読みながら暇つぶしをしている。飽きた頃に飲み物を取りにテーブルの近くに行くと、フリルやレース、リボンをふんだんに使ったドレスを身にまとった少女達が目の前を通過する。その刺繍が見事だったので、目で追った先に、大抵王子はいるものだ。

王子の相手探しのお茶会で、色とりどり、華やかなドレスで着飾った小さな令嬢たちに囲まれた彼と偶然目が合ったので、淑女の礼を取った。距離はかなり開いていたし、その後何か会話をする事もなく、正直な話、親とともに直接自己紹介程度の挨拶もする事なく帰った。両親は義妹が挨拶できたのでそれで満足したらしかった。


その次の日、桃色の薔薇が1輪、そのお茶会の為に王都の屋敷にいた私の部屋の窓に置かれていた。

私の部屋は一階の、物陰になるような端の部屋だったので、侵入を使用人の誰かに気付かれたりするような場所にない為、塀の抜け穴から入って置いていったのだろう。……ああ、義妹が出来てから私は部屋をこの場所に移されたの。元物置部屋。日影で涼しくて、裏庭が見えるから私は気に入ってるんだけど、私が生まれる前から仕えてる使用人達は、私をこんな所に閉じ込めるなんてと父親に抗議しようとしてた。何度目かの繰り返しで見てきたから、面倒な事になるのは間違い無いので、まあまあ、と落ち着かせた記憶がある。


その一連の流れが、どんな繰り返しでも始めに存在する記憶である。


毎年誕生日になると、今は亡き私の母の友人達からプレゼントが届く。父親は私の誕生日パーティーなど開く気は無い代わりか、直接私に贈り物を持って人が訪問するのを咎めた事はなかった。まあ、体裁もありますしね。王子の相手探しのお茶会の直後の誕生日からは何故か贈り物の数が増えた。相手が相手の場合はその側近や従者が直接訪れた。従者が部屋を見て驚いてその主人からの手紙を後日持って再来訪する事が多々あったが、どれにも問題ないですと返した。

窓の外には桃色の薔薇が3輪。特にメッセージは無し。


6歳で貴族の子供が通う初等部に成績トップで入ると、寮の部屋の机に、紫苑の薔薇が五輪、ブーケにされて置かれていた。またメッセージは無かったけど、王都の屋敷で私の部屋の窓に薔薇を置いていっていた人間が近くにいる事は分かった。若干薄ら寒い。

初等部には3年間通い、その間も私が賞をとったり誕生日を迎えたりする時には、いつのまにか色や本数は違えど薔薇の花束が届けられるようになった。差出人は未だ不明。


9歳、中等部に上がると同時に、父親が私に婚約話を持ってくる。まあ、貴族の娘なので、しょうがないけど。同い年くらいの、王子殿下の側近の誰かである事が多かった。

その婚約が発表されると、薔薇は赤色か、緋色、紅色のどれかになった。薔薇は元々好きな花なので、鑑賞するのは好き。でも意味を調べたことはなかった。というか、調べない方が賢明だと、私の頭が危険信号を出したので調べなかった。


12歳、高等部入学と同時に、今までマナーの悪さや学力の低さや魔力の低さ故に学校に通えていなかった義妹が入学。私の婚約者に有る事無い事吹き込んで、婚約者が私を避け始める。

数年過ごす間に、婚約者は義妹に惚れ込み、婚約は白紙撤回される。

いつのまにか届けられている薔薇が白に変わる。


12歳から15歳までの間に大抵何故か義妹を虐めたとされて義妹の思い通りに事が進んでいる場合元婚約者に殺されるか、名ばかりの修道院へ送られ拷問の末殺される。思い通りに事が進まない場合は、私を傷物にしようとして自分が襲われ父親に私のせいだと泣きつくプランに変更される。


ここまでが100回繰り返して毎回懲りもせずに起こった事。途中何度かやり返すか、無実証明をしようとしたけど、その度に私は動けなくなり、これは強制力というやつなのかなと、面倒になったので抵抗するのはやめた。どうやらこの世界において、ルートの未来を変えるような出来事を起こせるのは、ヒロインと攻略対象だけであるらしい。


15歳、卒業と同時に成人。私は家を追い出される予定だったところ、私の母の友人たちのお陰で公爵位を私が得て、領地の事や王都での仕事に明け暮れる。……あー。父親は入り婿だったらしく、血族として正式な公爵家の人間はわたしだけらしい。義妹に家をあげたくて、お家簒奪作戦を狙ってたらしいが、そんなのは母の友人たちが許さなかった。……私としては別に構わなかったのだけれど。

そして、何故か王子に婚約を迫られている。

ここまで生き延びていたのは初めてだけど、これは恐らく、義妹の思い通りにいかなかったパターンだろう。ここまで生き延びたのも恐らくこの15歳になるまで求婚されなかったからだろうし。

公爵にもなったし、殺されるのも疲れてきたので、王子には義妹を引き取ってもらい、平穏無事に爵位を返還して私は国外にでも行きたいので、散々義妹を勧めてきたのに王子はかけらも興味を示してくれない。忙しく仕事をする私を他所に、毎日毎日こうして私の執務室を訪れては求婚してくる。しつこい。義妹は今までの私の婚約者同様、私の事を意地悪で冷徹で犯罪紛いのことを平気で行う汚い人間だと王子に吹き込んでいる筈なのだが、うまくいかなかったようで、私は物凄くおどろいている。引っかかって、私を国外追放の刑にしてくれたらよかったのに。


そして何故か義妹や継母に父親は、王子の独断の采配により揃って身分剥奪国外追放の上炭鉱暮らしをする事になった。因みに、私の母の友人たちが、彼らの私に対する今までの扱いについて証言したため、王子の独断という認識はすぐさま消えて公正無私の采配ということになった。権力、すごい。


「それでね、……レイシア?聞いてる?」

「……ええ。見事な薔薇園の監修をしているのが王子殿下だということは」

「王子殿下だなんて呼ばないで。ロイって呼んでよ。婚約者なんだから」

「契約書にサインした覚えは御座いません」

「大丈夫、最終的にレイシアが自分で書いてくれるようになるから」


怖い。帰りたい。


現在私は仕事のために王城まで来て、書類提出を終えてさあ帰ろうというところで王子に捕まり、散歩に付き合ってくれと言われて渋々、王子自らが管理しているという薔薇園を一望できる場所に来ていた。

今自分が城のどの辺りにいるのか、ここから最短で王都の屋敷に帰る方法は何か、人の位置までちゃんと把握している。


朗々と語られる私への愛の言葉(?)を避難経路確認と過去の回想で、右から左に聞き流していたことがバレないように、直前まで言っていた薔薇の話の続きを促すと、王子は揚々と話の続きに戻ります。


「ここの薔薇園は、存在する全ての色を取り揃えてある。用途に合わせて色を変えて使いたいから。

一番最初に贈った相手は初恋の人で、恥ずかしながら一目惚れだったんだ」

「へえ……」

「ただ……その時はまだ自覚もなくてね……。でもピンクの薔薇を1輪、こっそり届けたんだ」

「あら……」

「誕生日が分かったのが、数日前だったので、手の込んだ物は無理でもと思い、特に出来の良かった美しい3輪を選んで届けたよ」

「はあ……」


話を聞き流しながら、たしかに綺麗な薔薇を眺める。うん、流石ロイヤルローズとして、プロポーズ用に欲しがる貴族が後を絶たないだけある。これ、一株もらえないかな。増やして香水とか蜂蜜とか作って売り出したい。儲かること間違いない。


「入学と同時に入寮する話を聞いて、成績優秀なところを称えて、少し作るのが大変だったけど、紫の薔薇を作って贈ったよ。……ただ、少し驚かせちゃったみたいで、その次からは侍女を通して届けるようにしたんだけどね……」

「……紫」

「うん。それで、見てわかるようにこの庭園は大きく赤と白と黒、その他の4つに分けてあって、花の数まできちんと考えているんだよ」


……あの当時、紫の薔薇を国内に卸している業者は居なかったはずだ。回想と同じ色の花の事が王子の話に出て来たので、耳を傾けることにした。


「先ず赤色の薔薇は常に50輪、

白い薔薇は101輪、

その他はその時々によって変える」

「……黒バラだけ、やけに多い気が……」

「!気づいてくれて嬉しいよ。

黒薔薇だけは、絶対に本数を維持してるんだ。それこそ魔法まで使ってね」

「何故そこまで拘るのですか?」

「……僕がここまでするってどう思う?」

「……王子自ら花の数まで気を遣い、ここまで見事な薔薇園にしたという点において、とてつもない執念と執着を感じますわ。王子は出来る事は魔法を使わないで行いますから、私的に力を使っている時点で相当な想いが詰まってらっしゃるのかな、と」


すると王子は物凄く嬉しそうに笑いました。伝わって良かった。と。


……何だろう、物凄く逃げた方がいい気がして来た。


「……では私、まだ仕事がありますので、失礼いたしますわ」

「うん。頑張ってね。後でお菓子を持って行くから」

「来なくて結構です」


私が仕事の合間だということはちゃんと分かっているようで、簡単に離してもらえた。よかった。


____________________


レイシアの後ろ姿を見送りながら、黒薔薇を愛でる。彼女への想いを目に見える形にする為に、この薔薇園は整えた。

特に大切なのは黒薔薇。1輪多くてもダメだし、365輪では表しきれない。


出会う度に恋をして、想う度に花を贈った。

彼女への純粋な愛が度々虫の存在で仄暗くもなったが、虫が消える際には純白の薔薇を贈った。

面倒事を嫌う彼女は、そのうち私からの求婚を断る方が面倒になって婚姻に応じてくれる事だろう。100回目になるまでずっと待ったのだから、かかってもたかが1年待つくらい、どうってことは無い。


999輪の黒薔薇を、再度目に焼き付けてから、今日の気分で選んだ赤薔薇を6輪摘んで、彼女の部屋の窓に置く為歩き出した。

黒薔薇の花言葉

「決して滅びることのない愛」

999輪の薔薇

「何度生まれ変わってもあなたを愛する」

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[一言] こわっ!サイコホラーとかおっかないっす
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