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アリスの存在理由   作者: 魚屋めばる
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5、芋虫は中指を立てる

「マーチ」は三月ウサギの本名です。



「シロウサギ殿のおなーりーー!おなーりーー!」

チャシャ猫が笑いながら告げる。あいつは中立だから面白くなればそれで良いのだろうね。後でまた殴る。

あーあー、ずらずらとトランプ兵まで連れちゃって、なんかヘマしたらすぐに牢獄行きにする準備万端だな。


「……嗚呼まだ生きていたのかシロウサギ。二度と来ないで欲しかったのだが。」

「ウプッ…此処はあいも変わらず気色の悪い甘ったるい匂いが蔓延っているな。誰が来たくて来るか醜い非国民め。」

シロウサギは自分に目もむけずいつもの調子で紅茶を飲んでいるあいつに一瞥しあたしの方に顔を向ける。

平常心よ、大丈夫。

「……私に何用でしょうかシロウサギ殿。」

シロウサギは私に盗まれていた食べたら小さくなるキノコを見せつける。

一口だけ齧った後が残ってある、あの子がうっかり落としてしまったのだろうか。

「これは何だ、芋虫女。」

「体を小さくする効果があるキノコです。」

あたしは淡々と答える。おい、やめなチャシャ猫笑うのを堪えているんじゃない。

「違う。」

シロウサギは自分が愛用している赤黒い汚れがこびり付いた巨大なフォークをあたしの首に突きつける。

「コレはアリスが食べた物だ、コレのせいでアリスは逃げてしまった。コレは貴様の商売道具だろう?」

シロウサギはキノコを地面に叩きつけ踏み潰す。やめてよ、人が誠心誠意育ててるのに

「はい、私の商売道具ですけど時折不届き者が盗む事があるんです、それもその一つだと。」

「嘘をつくな、貴様はアリスをこの世界から逃がそうとしている国賊だ。アリスの居場所を知っているだろう?」

シロウサギはあたしの話を一切聞かず巨大なナイフも取り出してあたしの首に当てハサミのようにあたしの首を挟む。

「…いいえ?私は存じません。」

そう答えるとシロウサギは激昂し、あたしの首を軽く切る。痛い。

「貴様…まだしらを切るつもりか!!!!」




「いい加減にしろ、シロウサギ。」




!!

いつの間にかあいつがシロウサギの背後に回っていて杖をシロウサギの首に当てていた。

全く気がつかなかった。

シロウサギはあいつの方に向き直り彼の胸ぐらのヒラヒラを掴む、あれなんて言うんだったっかしらあの貴族とかがつけるヒラヒラ。

シロウサギはいやらしく笑い思いっきり皮肉を込めて言う。

「……此れは此れは我が国の裏切り者代表の汚らわしい赤兎族の成り上がりの長殿、罪人の処刑に何か言いがかりでもあるのですかな?」

「彼女は罪人ではない。彼女は何も知らない一般人だ。それを言いがかりで殺そうとするのは中々に気が違っているのではないのだろうかな?…濁りきった灰色のドブウサギよ。確かにアリスを隠しているならば国賊に違いはない、しかし彼女や私はアリスの居場所など何も知らない、もし疑うならこの場や私の館を調べてればいい、当然アリスは見つからないだろう。そもそも隠していないのだから、それが分かると彼女や私はアリスを隠しているなんて根拠はさらさらなくなる。よって私達は全くの潔白、一般人だ。私達に関わる時間など死にかけのハエをじっと眺めている時間よりもよっぽど価値が無い、だからとっとと少なからず国の為となる勤務に戻る事を勧める。私も貴殿の酸素を無駄遣いして作るヤマアラシの汚物のような吐く息を吸う時間を1秒でも縮めたかった所だ。お互いにメリットがある素晴らしい提案だと思わないか?」

その皮肉交じりの主張を聞き少しシロウサギは焦った表情をしたが、ふと何かに気がついた様に表情を変え笑い出す。

「フフフフフ…フフフフフフフフ」

「何がおかしい?」

「フフフフフ……『見つからなければ』確かに貴様らは国賊ではない…だが!!」


そう言い放つとシロウサギは巨大なフォークをあの子が入っているティーポットにテーブルごと、ぶっ刺した。


破片が重なって中は見えないが…中から赤い液体がツーっと流れ出す。


あたしは思わず声を上げそうになるのを口の中を噛んで抑えた。

しくじった

匂いの事を考えていなかった…っ!

だけどシロウサギ、あんたも馬鹿じゃないの!?下手したらあの子死ぬじゃない!!!あんた達にとってもあの子は必要なんじゃないの!?


「匂いでは誤魔化せないぃぃ!!!!!!さぁトランプ兵共!!!この国賊を捕らえろぉ!!」

シロウサギが興奮して叫ぶとトランプ兵がその声に応えるようわらわらとあたし達を取り囲み取り押さえようとする。

睡眠効果がある香水でもブチ撒いてみんな取っ掴んで逃げてしまおうか?

いけるか?

あたしがコッソリ香水を掴んだ時、あいつがトランプ兵からするりと抜け出しあの子がいたティーポットに近づいてあの赤い液体をペロリと舐めこう言った。


「やれやれ困りましたな、せっかく集めていた木苺を入れていたのにぐちゃぐちゃになってしまった、これではもうジャムにもする事も出来ない。」


それを聞いたシロウサギは目を白黒させあいつを突き飛ばしティーポットの破片を投げ捨てどけると、あの子が居たはずのティーポットには全部潰れてぐちゃぐちゃになった木苺しか出てこなかった。


シロウサギはしばらく死にものぐるいでその場をトランプ兵達と共に探したけど見つける事は出来ず悔しそうにしながら森を出てあいつの館に探しに向かった。


あたしはもう見えなくなったアイツらの言った方向に中指を立てた後マーチに慌てて問いただした。


「マーチ!あんたあの子を何処にやったのよ!!?」



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