5、アリスは突然の人外イケメンにテンパる。
私達は森の奥にチャシャ猫さんを先頭に進んでいく。
チャシャ猫さんと森は仲良しらしくチャシャ猫さんが思った所が目的地になるらしい。
なんてタチが悪い。
「いい?彼の機嫌を損ねちゃダメよ?彼はこの世界の裏の支配者なんだから。」
「もし損ねてしまったら?」
「諦めてクイーンになりなさい。」
「…損ねないよう気をつけます。」
「気をつけなくても大丈夫なんじゃなーい?」
チャシャ猫さんはくるっと後ろに首だけ180度回してこちらを向く。
それ本当に肝が冷えるからやめて頂きたい。
「また、あんたはそんななんの根拠も無い事言って。」
「あー!楽しみ!どんな顔するのだろうね!帽子屋と三月ウサギがアリスを見たら!!」
「え」
協力者って三月ウサギと帽子屋なの!?
大丈夫かなぁ…
「では!お茶会会場に到着!」
チャシャ猫さんの高らかな声と同時に目の前の空間が見えてくる。
たくさんのお菓子が乗ってあるテーブルの近くにある椅子に座っている二人の人影が見えてくる。
大きなシルクハットを被り金髪で目が見えない小学生くらいの蝶ネクタイで短パンに白タイツの少年に
赤紫色の赤いタキシードを着たほっそりとしたウサギの獣人だ。
「おや、緑の美女がお通りだよ狂ったウサギ君!!それに今日は…とても珍しい客人がお待ちかねだ!」
「おおシガリッタ、どうした?何用かな…………」
三月ウサギさんが私の姿を見て今まで飲んでいた紅茶のカップを地面に落とす。
「マーチ、ちょっとあんたに頼みたい事があっ…どうしたのよ。」
三月ウサギさんは明らかに動揺したようにグリーンさんに言う。
「………………その少女は何だ?……」
「何って、今回のアリスよ。今回は運が良くて何とかシロウサギから逃げれたらしいんだけどこんなチャンスきっともう無いわ。今回こそクーデターを…あんた今日は本当におかしいわよ。大丈夫?」
いつの間にか木の上に登っていたチャシャ猫さんが笑いを必死に堪えている、一体何に三月ウサギさんは動揺しているのだろう?
私は思い切って白いローブを脱いで三月ウサギさんに話しかけに行った。
背が高いのは遠目から見ても分かったけど間近で見たらまた凄い…190cmくらい?スタイルがとてもいいなぁ。それに獣人でもすごくカッコイイ顔をしているのが分かる。…ああ緊張する!!
「わ、私は鶴崎沙織、えっと『アリス』です!突然ですいませんがどうか私が元の世界に戻るのに協力して頂けないでしょうか!」
私は勢いよく頭を下げた。
「ニッシッシッシ!ニッシッシッシ!ニッシッシッシッシッシッシッシッシッシッシ!!!!!!!!!」
その途端耐えられなくなったのかチャシャ猫さんが笑い出す。緊張したけど頑張って言ったのに…失礼な!
「…………声まで同じなのか。」
「え?」
三月ウサギさんは私を見ているのに何も見ていないようにブツブツと呟きながら片手で頭を抱えて回れ右をした。
「……すまないシガリッタ、帽子屋殿、急用を思い出した。相談はまた今度にしてくれ。」
「ちょっと!その子の何が不服だった訳?バカ真面目でちょっと抜けてるけど性根はいい子よ!!」
グリーンさんが私の肩を持ち説得する。しかし何故か三月ウサギさんはひらりひらりと話を変えようとする。
私が何かしてしまったのだろうか?分からない。私みたいな地味な子に話しかけられた事自体が不快だったのか?
周りの空気がギクシャクしてきたその時、チャシャ猫さんがそんな空気をぶった切るように大声で衝撃発言を全員に告げた。
「はーい!一つ報告!報告です!まもなく〜まもなく〜、シロウサギが此処に偵察に来まーす!!」
「え!?」
「ハァ!?早く言いなさいよ。」
「到着まで何分くらいだ、笑い猫よ。」
「んー…散々迷わせても後3分くらい?」
グリーンさんは慌てて持っていた籠から紫色の香水を取り出し、私に吹きかける。仄かにスミレの匂いがしてするするとまた体が小さくなる。
グリーンさんは手のひらの上に私を乗せ小声で最後に告げた。
「あんたはここにしばらく隠れてなさい。分かっていると思うけどシロウサギに見つかったら…即、あんたもあたし達もゲームオーバーだから。」
グリーンさんはそっと私を空のティーポットの中に入れ蓋をした。
悪夢のお茶会が始まる。
アリスの簡易プロフィール
鶴崎沙織
17歳
身長158cm
文芸部の部員




