2、アリスはシロウサギから逃げ出す。
体の震えをバレないように必死に抑える。怖い、なんで私は見ず知らずの彼の事を信じ込んでしまったのだろう?
どこか逃げるタイミングを作らないと…っ!
私は少し裏返った声ながらも彼に言った。
「ご、ごめんなさい。少しトイレに行きたいんです…けど…いいですか?」
シロウサギさんは振り返り少し怪訝な顔をしたが
『一刻も早く行きたいが…食べる時に汚物が出て来るのは頂けないな。』
と全く嬉しくない考えをしてくれてそこらの茂みにしなさいと私は軽く森の中に入り少しだけ彼と距離を置いた。
『まず君が今からしなければならない事。一つ目、瞬時に状況を判断すること。二つ目、的確で無駄のない行動をする事。』
『三つ目、上手く逃げる事。』
『それが出来なきゃ君は死ぬ。』
あの時の誰かの助言を自分の中で反芻し考える。
きっとチャンスは今しかない。
では何処に逃げる?
「アリス、早くしなさい。」
シロウサギさんの声が聞こえてくる。…良かったまだ彼は私の頼み通りちゃんと後ろを向いてくれてる。
だけど急がないと…っ
すると、森の奥の方からふわりとあの時を止めた香りと似たような香りがしてくる。
あっちに助言をくれた人がいる…?
私は森の更に奥へ一歩踏み出そうとする。
ーカサリ
小さな小さな、草を踏む音が鳴る。すると彼の耳がピクッと反応したのを見た。
「何処に行こうとしているのです?アリス?」
!!…彼は耳がいいんだ!
「アリス…逃げるつもりじゃないでしょうね?」
ゆっくりと彼が此方を振り向こうとする。
私は咄嗟に右のポケットにあったキノコを思いっきり齧り飲み込む。
食べた瞬間しゅるしゅると体が小さくなる。
…しばらくこの姿で隠れていたらきっと見つからないはず…!
そう思った私は戦慄した、彼の鼻がヒクヒクと動いている。
「まだこの近くにいますね?アリス?何処にいるのです?逃げるのはいけませんよ?今なら怒らないから出てきなさい。」
『足一本くらい折れば逃げられないな…』
…匂いでも分かるの?
私は齧りかけのキノコをほっぽり出し音なんて一切気にしないでひたすらに匂いする方へ逃げる。
「アリス!!」
後ろから彼が迫って来る。
だけど匂いもどんどん強くなっていく!
「…っ匂いが!!」
この強い匂いによっていい鼻が逆に彼を苦しめているみたいで少々スピードがダウンしている!
あと少し…あと少し!
しかし予想外のことが起きた。
次の一歩と思いっきり踏み出した足が空を切ったのだ。
森が終わり崖になっていた事に全く気が付がなかった。
「きゃあああああああ!!!!!」
「アリス!!アリスーー!!!」
私は真っ逆様に崖の下に吸い込まれるように落ちていった。




