1、アリスは世界に引き込まれる
不思議の国のアリス原作に出来る限り寄せれるように頑張ります。不定期かもしれません。
「ふぅ…。」
人気のない図書館の中私は、大量の取り出した童話書籍に顔を埋めた。
今は夏休み、部活で提出する小説のネタを探しているのだが…中々ピンと来る物がない。童話からモチーフにする事は決めたのだがどの童話にするか中々定まらないのだ。
ぼんやりとため息をつき、シンデレラと白雪姫を本棚に戻そうとした。
すると、
ぼたっ
本棚から一冊の本が落ちた。
「あ、」
私は慌てて拾い上げた。
赤い頑丈な皮表紙に古い本なのか上に埃をかぶっていて重量感がある厚い紙でできていた。
金色に英語の筆記体で刻まれた題名が少し掠れていてちょっと目を凝らし読むとこう書いてあった。
Alice in wander land
「Alice in wander land …『不思議の国のアリス』か…」
正直アリスはあまり分からない…ほぼ意味不明だし。だけどなんだか…この本は少し周りの本と雰囲気が違うし…もう殆どの童話が駄目だったから…
ちょっと読んでみようか。
私はその本を机の上に置きパラリと最初のページを見る。
すると、一瞬英語の文字に見えたのにぐにゃりと日本語に変わったように見えた。
「!?」
慌てて目を擦るが最初から全て日本語だった。
変なの…気のせいかな。
文字は黒の万年筆で書かれており最初のページはプロローグのようだった
『アリス、アリス
今貴方は何処にいるの?
私は此処、此処に閉じ込められてるの。
だからアリス
早く助けに来て。
今すぐに。』
「え…?」
…不思議の国のアリスって…こんな始まり方だったっけ…?
そう思った次の瞬間だった。
ーズォォ!!!!!!
「!?」
本の文字一つ一つが、カエルや子供、女の人などの無数の手に変わり私の体を掴み本の中に引きずりこんでくる!
嘘、いや!!!!!!
振り払おうとするも余りの手の数と力に抗えずなす術も無く飲み込まれていく。
耳元でいくつものヒソヒソ声が聞こえて来る。様々な言語で囁かれて殆どの言葉がわからなかったが一つだけ聞き取れた。
複数の人の声が重なり合いまるで合成音声のような寒気がするような声
お い で よ あ り す き み が ひ つ よ う な ん だ
その声を最後に私は、まるで海に沈んで行くように意識が消えていった。
**
ードサッ!!
「……う……」
体に走った激しい衝撃により目を覚ます。
高い場所から落ちたようだが、ぶつけた痛みはあったが何処も怪我はしていないようだ。
ふと自分が座り込んでいる地面が柔らかい事に気付き自分の落ちた所にだけ落ち葉が重なっておりそれがなんとかクッションになったんだと気がついた。そして自分の服が見た事あるワンピースに変わっており頭にはピンク色の大きなリボンのカチューシャが付いているのがわかる。
これ…何処かでこの展開見たことある。
「お目覚めでしょうか?」
「!?」
考えを巡らしていると突然誰かに声をかけられて驚き後ろに転んでしまった。いつの間にいたんだ!?
「え、ええっと…」
おずおずと体を持ち上げ声の主を見ると私はまたしても驚いた。
彼は少年なのか小柄で可愛らしい美少年とも言える整った顔立ちでほぼ白に近いの銀髪に緑色の貴族の男の子の服を着て胸ポケットには金色の懐中時計が入っており、目が赤くて
きちんと人間の耳もあるのに頭には白いウサギの耳が余分にも二本生えていた。
なんだろう、この人外のキャラクターが出てくる時に良くある獣の耳つけたら人外だろ?って言うやっつけ感を感じる…
「どうかなさいましたか?」
「あ、いえいえ!!すいません…えっと…貴方は…?」
少し苦笑いをしながらも彼の名前を聞く、私の考えが正しければきっと彼は…
「ああ、僕は『シロウサギ』と申します。」
ほらやっぱり!
ここは『不思議の国のアリス』の世界なんだ!
あの引き摺り込まれたのは夢じゃないんだ…じゃあ何故私は引き摺り込まれたの?
「あ、あの…」
「はい。」
「何故私はここに連れて来させられたのですか?」
シロウサギさんはそれを聞くとにこりと優しく微笑んで私の手に口づけをした。
「ひゃ…!?」
「無論、貴方様を待っていたのです。貴方が私共の世界を開けるまでずっと」
「そ、それはどう言う…?」
シロウサギさんは跪く。
「貴方様は私共の世界を救ってくださる救世主なのです!まるで天から舞い降りた天使のように、貴方は選ばれた存在『アリス』なのです!!」
シロウサギさんはうっとりとした顔で言う。
「アリス、貴方にして貰いたい事はただ一つクイーンの説得です。彼女は最近癇癪持ちになっており様々な人をすぐ死刑にしてしまう私共の力では止められず少々手に余っていました。しかしアリスは特別な存在なのです。貴方なら彼女を説得できてこの国を元の平和な国へ戻す事が出来る。」
突然の無茶振りに応えが詰まる、そんな事私にできるの…?それに物語の中だと女王様をアリスは止める事なんて出来なかった筈なのだけど…とりあえず今思っている事を全部言ってみる。
「…本当に私なんかが出来るのですか?物語みたいに『打ち首』だって言われて首を切られてしまったら…」
「大丈夫ですよ。アリス」
彼は私の頬を両手で持ち顔を自分の方に向ける。余りに冷んやりと冷たい手にひっと声が出そうになった。
「この世界もまた貴方が聞いた普通の世界とは違う特別な世界なのです。ほら私が逃げないでしょう?」
「…はい、たしかにそうです…けど。」
「いいじゃないですか、逃げないシロウサギが居たのなら貴方を愛しているクイーンが居ても、ね?」
「…」
「それにアリス、もし貴方が駄目でクイーンに処刑されそうになった時はすぐに貴方を助けましょう。そしてそのあときちんと元の世界にお返しします。」
「本当ですね!?」
「ええ、この心臓に誓って。」
シロウサギさんはスッと胸に手を当て軽やかに笑った。
ちゃんと助けてくれるなら少し安心だ…。私は少しほっとした。
「では行きましょう!!」
シロウサギさんは私の腕を掴み引っ張っていく。
「あ、わわ、待って下さい。少し早いです。」
「ああ、すいません少し優しくします。」
離してはくれないんだな…
コツコツと広間を引っ張られるままに進む。
すると私の背とちょうどいいくらいの高さのドアが現れ、シロウサギさんはそそくさとズボンのポケットから金の鍵を出した。
ううん?まてよ?
此処ではドアは小さくて、またアリスは小さくなるドリンクを飲んで小さくなったんじゃなかったのかな?
「…あれ?」
「ドアが小さくない事に疑問をお持ちですか?」
「!!」
私の頭の中を読んだように彼は私の疑問を口に出す。…というかずっと気になっていたのだけど…
「あの、もしかしてこの世界が本だって言う事、本来の『不思議の国のアリス』をご存知なのですか?」
「はい。隅から隅まで知っておりますよ?当たり前のことですよ。よってアリスの為にドアは大きくしないと不便と思いまして。」
そんな当たり前の事何故聞くのかと言う顔で見てくる。『不思議の国のアリス』の住人は皆最初からアリスが来る事を知っていたのだろうか?…原作も特殊すぎるからそれが嘘か本当かわからなかった。
「では行きましょう。僕から離れないように」
「はい…」
シロウサギさんはカチャリとドアを開けた。
ドアを開けると一気に場面が飛んであの狂った人達がいる森だった。
へぇ…こんな所まで飛ぶんだ。
私はキョロキョロとこの摩訶不思議な森を観察しながら歩く。
「…そう言えば私、三月ウサギさんや帽子屋さんとかには会わなくて大丈夫なのですか?」
物語の中だと次会うはずなのに…?会わないならそれはもう「不思議の国のアリス」と言えるのだろうか?
そう思い何気なく話すとピタリとシロウサギさんは歩くのをやめこちらに振り返る。
変わらない笑顔だけど目が笑っていなかった。
「アリス…キチガイの非国民の事なんて考えるだけ無駄ですよ。そんなゴミの事に気を取られている時間があるならとにかく進みましょうね?」
…地雷だったみたいだ。
案内役のチャシャ猫も見当たらないし、一体何が起こっているのだろう?仕方ないから今は流れに任せてシロウサギさんに着いて行くしかないのかなあ。
「はい…」
するとその時だった。
「いいの〜?君このままだと死んじゃうよ?」
どこからかそんな声が聞こえたと思うと、その声を合図にするみたいに草木や、花や、シロウサギさんまで全ての物が一瞬でセピア色に染まりまるで時が止まったように何一つ動かなくなる。
「!?シ…」
「喋っちゃダメ。」
突然耳元で声がした。いる、わかる、誰かが私の肩に乗っている!
気が動転し悲鳴をあげそうになるが後ろから痩せ細っている腕が二本にゅっと突き出され私の口を塞ぐ。
「喋っちゃダメって言ったじゃん。君まで喋ったら香りの効果がなくなるの早くなるんだから…いいかい?時間がないからまとめて言うよ?」
足がすくんでどうしても後ろを振り返れない。
震えている私を気にせず淡々と声の主は話し続ける。
「まず君が今からしなければならない事。一つ目、瞬時に状況を判断すること。二つ目、的確で無駄のない行動をする事。」
「三つ目、上手く逃げる事。」
「それが出来なきゃ君は死ぬ。」
痩せ細った手は親指を立て私の首が切られるジェスチャーをした。
震えが止まらない。私にどうしろって言うの?状況が全然理解できない。
「でも安心して、アリス!君に素晴らしい君の助けとなる三つのアイテムを渡しておくよ!」
「一つ目は大きくなるキノコ。君から見て左のポケットに入れておくよ。二つ目は小さくなるキノコ、君から見て右のポケットに入れておくよ。最後に他人の心が分かるようになるキノコ。君の口の中に入れておくよ。」
え?
ーズポッ!
「!!?!」
理解する間もなく指が口の中に突っ込まれ何かを食べさせられる。
喉の奥に押しやられたせいで飲み込むしか手段がなくなった。
「じゃ、それ食べたら時間が流れ出すと思うからしばらくサヨナラだね!アリス!」
ーゴクン!
「ケホッケホケホッ!」
「如何なさいましたか?アリス?」
「だ、大丈夫よ咽せただけ。」
本当に止まっていた時が動き出したようだ…一体アレはなんだったの?
そう思いながら息を整えてシロウサギさんの方を向いて
…え?
「そうですか、それなら良かった。」
『女王に首を切って貰わないと肉が食えないからな。』
「では早くクイーンの所へ向かいましょう。」
『嗚呼、今回のアリスも相変わらず肉付きがいい、きっと美味いだろう。』
「じゃあ行きましょう、アリス。」
『じゃあ行こうか、生贄よ。』
シロウサギさんの声が二つ聞こえる。
片方はいつもの片方は耳を塞ぎたくなるような声が
『他人の心が分かるようになるキノコ』
あ…あああ…
「……はい。」
だ、ダメだ……逃げなきゃ殺される。
体の震えをバレないように必死に抑える。怖い、なんで私は見ず知らずの彼の事を信じ込んでしまったのだろう?
どこか逃げるタイミングを作らないと…っ!




