始動への転換期 ACT.2
「ヌゴゴゴゴ・・・・・・痛つつつつつ」
圧縮空気で駆動するピストンが稼働し、シュッという音を立てて部屋と通路を隔てる自動ドアが開く。
苦悶の声を上げ腹をさすっている茶髪の青年が部屋へと入ろうとして――足が止まった。
「あー・・・・・・」
青年はまるで見てはいけないものを見てしまったかのように、ばつの悪そうな顔をして頬をぽりぽりとかくと、くるっとその場でターンを決め180度真逆の方向を向き背後に向かって手を上げる。
「俺は何も見てなかった。その・・・・・・ごゆっくり」
青年のとった態度と行動に初めステラ達は眉根を寄せ分からないといった表情を取っていたがものの数秒後、二人同時して目を見開きお互いの距離をとるため離れた。
「ちょ!? カル! 私達そういう関係じゃ――」
「大丈夫だ、問題ない。俺はそう言うのを言いふらすつもりもないし・・・・・・その・・・・・・まあ、ヒトそれぞれだろ?」
ルナが両手を突き出して頭をブンブンと音が出そうなほど振る。その度に後頭部で結った焦げ茶色のショートポニーテールが右へ左へと激しく揺れた。
カルと呼ばれた青年はステラへとゆっくりと振り向きニッコリと笑う。本人は二人を安心させようと笑みを浮かべたのだろうがその表情は少々ぎこちないものであり、見る者からすると引いているととられても仕方ないものであった。
「その・・・・・・俺だって秘密の一つや二つ位あるしさ、うん」
「いやだから、誤解だって! ほらステラからも言ってちょうだい!」
顔を真っ赤にしたルナはカルに抗議しステラの方へ顔を向ける。その時だった、ガガガガッとなにかが擦れあう音が部屋中に響き渡る。
「何の音だ? ・・・・・・まさかッ!?」
サッと靴底と床が擦れ合う音と共にカルが背後へ退く。
そう、気がついてはいけないものに気がつきカルはその場から離れようとしたのだ。
「隠さないでいい。俺はお前らがどんな趣味嗜好だろうが絶対に引かないし誰にも言いふらさないからさ、安心してくれ・・・・・・」
「いや! 今思いっきり引いてるでしょうが! ドン引きだよね!?」
「ちょ、二人共――駄目だ、聞いちゃいない」
やいやいとルナとカルが言い合いしてるのを宥めようとステラは声をかけるが当の本人達はステラの事など露知らずといったばかりに口論を続ける
「はぁー・・・・・・駄目だコリャ」
頭をガシガシと掻きながらステラは溜め息を付くと今なおガガガガという騒音源へと近づく。
「何が鳴ってるの・・・・・・?」
ステラは今なお罵詈雑言の応酬をしている二人を放置して部屋中央部に設置されたテーブルへと近づき、床に手を突いて四つん這いになるとテーブルの下を覗く。
「あー・・・・・・何時の間に」
テーブルの足に引っ掛かっているそれを手を伸ばして取る。
手の中でもブルブルと震え続けるそれは横幅10cm縦幅20cm 厚さ10cmの長方形型で、人工衛星や宙域に佇む母船との通信に用いられる太いアンテナが一本上部に付いており、直径およそ3cm程の球体型立体映像投射器が備え付けられている。
最新型の八甲]重工業製情報携帯端末、製品コードはIPT-055T.S。
ステラ達がこの船に乗り込む際に配布された物の一つであり、まだ一般には出回ってない品である。
ステラは側面についている入力機器を押し込む。ブゥンという羽虫が羽ばたく音にも似た立体映像投射器の起動音とともに、青白い光が放たれ空中で虚像を描き出す。
四角いホロパネルがまず最初に現れ次に現在時刻を示してくれるデジタル時計が表示、ここまでは普段と変わりなかった。
次に現れたウィンドウが表示されるまでは。
【アラーム:OST 15:50 ブリーフィング】
そのホップアップを見るや否やステラはその場で凍りつく。
震える指を懸命に動かし、アナログスティックを操作。ホップアップを消し現在時刻を見ると15時55分。
(ヤバイ!)
ステラは顔面を蒼白にしながらその場から慌てて立ち上がろうとして、テーブルの角で頭を打った。
「いっ!? っっっつぁぁああああ!」
ゴンという鈍い打撲音と共に、後頭部へ広がった予期せぬ鈍い痛みにステラは苦悶の声を上げぶつけた箇所を咄嗟にさする。
「あ?」
「うん?」
その声に反応して口論していたルナとカルが一時的に争うのをやめ、ステラの方へ首を向ける。
当の本人は後頭部に広がる疼痛をなだめる為、ぶつけた後頭部に手を伸ばし患部を抑えている。
「いつつつつ・・・・・・って、痛がってる暇じゃない!」
先ほど俯いて後頭部をさすっていたステラはバッと顔を上げるとすぐさま部屋の外へ出ようと駆け出す。
急に慌てだしたステラを見たカルが驚きと戸惑いが混ざったような表情を彼女に向ける。
「お、おい。ステラ一体どうした?」
「どうしたもこうしたも、今から【ミーティング】なの忘れた!?」
「「え゛」」
ルナとカルは目を見合わせた後視線を何も無い空中へと向け―― 一気に青ざめる。
「まずいまずいまずい」
カルが頭を抱えてこの世の終わりとでも言うべき表情を見せた。
「ぎゃあぎゃあ騒いでる暇があったら走るよ!ほら」
ステラはカルの胸を手の甲で小突いた後自動ドアへと向かう。カルが入ってきたときと同様にドアは圧搾空気で動くピストンによって横にスライドし、通路へといざなう。
重力制御装置が何かの不具合で稼動停止した際に頼りになる、という理由で壁に設置された手すりを使って方向転換し、ステラはデッキのある方向へと走る。
「ちょっと、待って!」
ステラの後を追って部屋から出てきたルナが自動ドアの溝に靴を引っ掛けこけかけかけるものの、なんとか踏み止まって顔面で通路を掃除するというマヌケな始末を回避する。
「道理でヌタルが部屋戻ってないわけだ!」
悪態をつきながらカルが部屋から飛び出し、バランスを崩したルナの横を駆けていく。
「口動かす暇あるなら足動かす! 点数足りなくて追試は勘弁!」
カルの横をルナが通り抜けそのまま追い抜いていく。
「その台詞、そっくりそのまま返すぜ! ドジっ子」
「なっ!? 生意気な。そもそも――」
ぎゃあぎゃあと罵倒に告ぐ罵倒が飛び交い再びルナとカルが言い争いをはじめる。
「あー・・・・・・前途多難だ」
ステラはボソッと独り言を吐き出すと走るスピードを上げた。傭兵になるためのライセンス取得試験、その[[rb:序章> プロローグ]である [[rb:状況説明> ミーティング]に間に合うために。