始動への転換期 ACT.12
気が付くとステラは広々とした空間に立っていた。
水平線の向こうまで何もなく、ただ踝ほどの高さまで水のような液体がある不思議な空間。
あたり一面、夕暮れ時にも似たオレンジ色に染まっており幻想的な雰囲気をかもし出していた。
(ここは・・・・・・どこ?)
先刻までの記憶が思い出せない。何をしていたのか、何があったのかステラは思い出せなかった。
とりあえず周りの状況を把握しようとステラは後ろを振り向く。すると、そこには巨大な生物が横たわっていた。
まるで鎧の様な形状の鱗(?)のような物が生えた表皮、大きな膜翼、そして巨大な二股に分かれた尻尾に円を描くように曲がった二つの角。
御伽噺やファンタジーに出てくるドラゴンと呼ばれる生物がそこには居た。
他にも東洋型龍、いわゆる長細い形容をした生物やスライムのような液体できた不定形生物。腕が複数ある仏教の何かの神様にも似た生物など見たこともないような現実離れした生物がそこには大勢居たのだ。
「なに、ここ」
薄気味悪さを覚えるステラ、幸いにもそれら幻想生物(?)は襲い掛かってくるようなそぶりも見せず、ただそこに佇んでいるだけであった。
ふとその生物郡の奥のほうに光るものが見えステラは気になってそちらの方へ歩みを進める。
「なんだろ、これ・・・・・・」
それは白い直方体をしていた。ただ白いだけではなく一部分にスリットが入ってオレンジ色に発光いるほか幾何学的な文様も入っていた。
(きれい・・・・・・)
あまりのきれいさについつい手で触ってみたくなり手を伸ばすステラ、脈動するかのように淡く点滅を繰り返すそのハコにステラが手を触れた瞬間だった。
視界が突如ホワイトアウトし上へと引っ張られる感覚を覚えた。
(な、何!?)
突然のことに驚いて声を出そうとするがなぜか自分の声が聞こえない。代わりに脳に響くような声で何者かの声が聞こえた。
『観測者よ、汝はいずれ手にするだろう。そして謝らせて欲しい』
謎の声は一度言葉を区切ると悲しそうな声色で再びステラへ話しかけた。
『私達が災いを引き起こしたことを』
――――――
ゆっくりと意識が戻る。
ピンボケした視界が定まっていき、天井が見える。
白い天井と細長く輝く蛍光灯に仕切いの緑カーテン。その景色からここが病院だということが分かった。
(確か、えーと何があったんだっけ)
病院のベッドにはいる前の出来事を思い出す。
(試験・・・・・・そう試験でスペースパイレーツの襲撃を受けてそれで!)
一時の悲惨な状況とそしてプロの技術を思いだし身震いする。
(あれが・・・・・・実戦)
襲撃されたのは不幸だったが、目指すべき目標である現役のプロ達の技を見られたことは幸運だったと思っておくことにする。
そう思っていないとあの襲撃時の恐怖によるトラウマで二度と武器を握れないようになってしまうのではないかと意識の奥底でそんな思いが渦巻く。
「オハヨウゴザイマス、ホンジツハ3月22日天候は晴レデス」
声のした方を向くとそこには、看護師に変わって採用されている会話インターフェースを搭載した介護ロボットが居た。
「ちょっと待って22日!? 私一週間も寝てたの!?」
驚いてベッドから身を乗り出し、ロボットに近づこうとしてバランスを崩し床に落ちてしまう。
「痛ったい!」
したたかに床で顔面を打ってしまいあまりの痛さに暫くその場で蠢いているとノックと共に扉が開き誰かが入ってくる。
「ステラ~来たよ――――――ってステラ!?」
ステラがは鼻をさすりながら顔をあげるとそこには親友であるルナが居た。
「あ、ルナ。お見舞い?」
「うん、そう。ってそうじゃなくて、やっと目が覚めたんだね。よかった」
「ちょっとルナ!? 泣いてるの?」
「だって、あって。すんっ、このまま眠ったままだと思ったら・・・・・・よかった、よかった」
指で目尻に浮かんだ涙をぬぐいながら笑うルナ。
その姿を見てステラは彼女の元に移動しようとして立ち上がろうとしてふらついてしまった。
「あっ!」
「ちょぶっ!?」
ルナに倒れかかってしまい、彼女を押し倒してしまうステラ。
お互いの吐息が頬にかかる距離、ルナの焦げ茶色の綺麗な瞳が大きく見開かれる。
「ちょちょ、ステラ」
心なしか頬が赤くなっているように見える。
「ご、ゴメン! よろけちゃっ――――――」
ステラがルナに謝ろうとしたその時再びノックと共に扉が開き―――
「あっ・・・・・・」
「ん?」
入ってきたのは試験で同じチームだったウルガノイドのヌタルだった。
ヌタルは床の上で固まる女子二人を見て、ポリポリと首筋を掻いた後後ろを向くと右手を上げ、グッと無言でサムズアップするとそのまま外へ出ていってしまった。
「待って! ヌタル待って―――なべちっ!」
すぐさま誤解を解こうとゾーノの後を追おうとするが足が思うように動かず、もつれて地面に再び倒れてしまう。
「ううっ・・・・・・」
再びしたたかに打ち付けた鼻をさすり、上半身だけ起こすとステラは背後を振り返ってルナを見る。
「あうあうあ・・・・・・」
見るとルナは顔を真っ赤にして水槽の金魚みたく口をパクパクさせていた、どうやらこの手の刺激には慣れていない模様、と言うより何か変なことを想像してしまったようだ。
「ってそんなことしてる場合じゃないちょっと待って! ヌタル」
ステラはよろめきながらも立ち上がると部屋を出ていったヌタルの後を追うのだった。