始動への転換期 ACT.11
走る。とにかく走る。地面を、木の側面を、そして岩をも。
そして走りながら左手を変形させる。
掌がかちゃかちゃと音を立てて手首へと収納されていき、腕の側面が変形して武器腕 へと変化する。
後ろから洪水のように迫り来るインテグレートの郡体集団。通称フラッドに向けてコッカッションミサイル、衝撃とプラズマだけで構成されたミサイルを放つ。
放たれたミサイルはまるで彗星のように青白い光の尾を放ちながらフラッドに接近すると地面へと当たり爆発、その場に居た大半を蒸発させる。
ソウヤも高速移動しているのだが、それでもものすごい速さで併走してくるパンサー型インテグレートを顕現した先ほどの捕食腕で頭部ごと喰らう。
ぶちゅりという音と共に、頭部がコアごと喰らわれ、残った胴体は赤ぐらい煙を残しながら虚空に消えてゆく。
消費したエーテルを回収、精製したあと内部でミサイルを作成、再びコンカッションミサイルを撃って追いかけてくるインテグレートを撃退していく。
物の側面から飛んですぐに側面へたどりつけない場所は一度地面に降りた後、スライディングで出来るだけ速度を殺さないようにしてスラスターキットを吹かし、宙に浮かぶと速度を維持する。
スラスターキットを利用した高速移動術、スライドホップと呼ばれる業だ。
ウォールランや三角飛び、スライドホップを利用して高速移動をし続けポイントされた座標へとたどり着く。
そこは何もない空中だった。
早かったかとソウヤが思ったその時、どこからともなく降下船が船尾のハッチを開きながら目の前に現れる。
「ソウヤ!」
ハッチからはシグレが手を伸ばしてソウヤの手を取ろうとする。
「ふんぬッ!」
最後の一押しとばかりにスラスターキットにエーテルを流し込み、スラスターをソウヤは吹かして上昇する。
スラスターキットからブボボボと大量のエーテルを原料としたスラスターが排出され、エクゾーストノズルが唸り赤熱化し始める。
「捕まえた! 急速で出して!」
そういうとシグレはソウヤを両手で引き上げながらパイロットに命令する。
ハッチが閉まると、船体が揺れ始め加速感が体を包みこむ。
荒い息をつきながら近くのベンチに座り込むソウヤ。
「大丈夫?ソウヤ」
「まあなんとか……水か何かくれシグレ姉ぇ」
「はいはい」
シグレが生返事二つを返して呼び出した飲料パックをソウヤへと投げ渡す。ソウヤはそれを受け取ると一気に飲み干すと、ゴミをエーテルへと変換してドラムへと戻す。
飲み物を飲んで人心地付くとソウヤは座席にも垂れて額に右掌を置き、左腕をダランとたらし荒い息をつく。
「にしてもインテグレート沸くの多くなかった?」
シグレが窓の外を眺めながら呟く。
「確かにあの沸き方は異常っちゃ異常だけど。そこまで変かといわれるとそいうものかね?」
電車に吊り下げられているつり革のような物にぶら下がりながら全身義体のヒトが話に割り込んでくる。
「そうでもねぇえぞ、マルチド。【茨の王】の時点でかなり居たんだ、だからやばいって話してたんだ、取り巻きに居た時よりさらに増えてやがる。幸いにもノービスに被害でなくて良かったがな……」
ソウヤこめかみをつたう汗を着ていたモッズコートの袖で拭うと、深呼吸をする。
「というか、スペースパイレーツに遅れ取るってどうなんだろうね……」
「不意打ちされたとかなら分かるが、はっきり言って錬度低いぞアイツら……ほぼトーシローって言っても過言じゃない位には。というか不意打ちされたにしても全員やられたってのもちょっと怪しいもんだ」
「またアメリカがちょっかいかけてきたのかね~?」
アメリカが攻めてきたという言葉に少し幸喜が混じった口調で語るシグレ。
「わかんね、ちょっと疲れた。寝るから着いたら起こしてくれ」
ソウヤはそう言うと、靴を脱いで座席に横になるとそのまま眼をつぶって寝る準備に入るのだった。
「デカルタさん、無理矢理救援飛ばしてごめんなさいね」
シグレが謝るとデカルタは気にするなとばかりに片手を顔(?)の前でぶんぶんと振った。
「ちょうど仕事帰りだったし、ツマランかったからこう派手に射撃訓練でも帰ったらしようと思ってたところで呼ばれたから逆にこっちが感謝したい。やっぱり義体とはいえ体動かさないと色々窮屈でね……」
グルグルと肩を回しながらデカルタはシグレに体を向ける。
「それに、新人時代よりも前から面倒見てる教え子に頼まれちゃ断れないのもあるから」
「いやー本当に感謝です」
「なーに、暴れまわっておまけに給与まで入るからもうけ物だよ」
フフフとデカルタが笑うと、胸の辺りにホロディスプレイが表示されそこに笑顔のマークが表示される。
義体と言葉一つに言っても生身を模したものから移動速度やパワーに特化した義手や義足を使用したロボットのような見た目のものまで非常にたくさん存在している。
生身に似せたボディーでは表情表現は問題ないのだが、ロボットだと顔が殆どカメラで出来ていたりということがあるので胸の辺りに笑っていることを示す絵を表示したり、感情表現で頭部の発光色が変わるような仕込がされていることが多いのだ。
「まあ、沸いたインテグレートは後の奴らに処理させるとして、試験は大丈夫かね~」
「一応こういう緊急時に備えて、何かが起こったらそれまでの点数を加算して合格してたらそのままノービス行きに、無理ならすぐさま再試験組まれるはずだからそこらへんは大丈夫だったはず……多分」
と自信なさげにデカルタが言う。これまでスペースパイレーツの妨害等は起きていたが此処まで大規模な事故、警備中の本職たちが全員のされる事は今までになかったのだ。
「なんだか、いやな予感がするね……」
「まあ、荒れそうではある」
二人は遠ざかっていく惑星を眺めながらそんなことを口にした。