始動への転換期 ACT.10
パララララという小刻みな銃声と共にマズルフラッシュが瞬く。
眼前には斥力性質の壁が展開されており術者が射ち出す弾丸を加速させ、飛来する弾丸を防いでいた。
「ほれほれほれほれ~」
ふざけた掛け声と共に、弾丸は撒き散らしているのはアオギリ=シグレ。目標はスペースパイレーツの残党だ。
「何やってんだ!相手は一人だけだぞ!]」
鳥頭のリーダー格と思われるスペースノイドが部下達を叱咤するが、発射されたプラズマ弾はシグレを傷つけることは叶わず、すべて斥力の壁に吸い付くされてしまう。
そして、シグレが放った弾丸は壁によって回転と弾速が斥力によって強化され、とてつもない速さでパイレーツへと襲いかかるのだった。
シグレのアサルトライフルのストック部位に填められたドラムマガジンが納められた弾丸をすべて吐き出して中が空となると、シグレはカチャッと音立ててマガジンを外しエーテルドラムへと収納すると新しいマガジンを呼び出して嵌め込んだ。
「クッソ、何で・・・・・・のわっ!?」
スペースパイレーツの一人が奇声を上げ、倒れる。その背後からぬるりと顕れたのは・・・・・・
「ホッパーだぁあああああああ!撃て撃てう・・・・・・ああああああ!」
錯乱状態となったならず者の一人が叫び声を上げ逃げ惑うがあえなく、ホッパーの鋭い爪の餌食となる。
「あーこれはマズイ・・・・・・」
シグレが独り言を呟いたその時だった。赤黒いプラズマ弾が何処からか飛来し、展開中の壁に当たり、侵食性質のエーテルが辺りを漂う。
弾が飛来した方向を見えると、先程一番最初にホッパーに屠られたパイレーツが体を起こして彼女へとプラズマガンの銃口を向けていた。
だが、パイレーツの動きは妙にゆっくりでおまけに体表からは赤黒いエーテルが湯気のように涌き出ていた。
さらに最悪なことに、転がっていた死体やホッパーに襲われたパイレーツもムクリと体を起こすと、元々もっていた得物をシグレへと向ける。
「【グール】化したのね・・・・・あーこれはマズイ感じだね」
シグレは左腕の導具からカードを取り出すとそのまま投擲、グールと化したパイレーツへとカードが刺さったのを確認後術式を起動する。
刺さったカードからバチリと稲妻が走り、グールが感電して行動ができなくなった。
その後周囲のグール達にも稲光が走り、周囲も最初に感電したグールと同じように感電し一時的に行動ができなくなった。
「三十六計逃げるにしかずってね!」
呼び出したプラズマグレネードをスタン状態にあるグールに投げつけるとシグレはそのまま元いた場所へと走り始めたのだった。
――――――
「クッソ数が多すぎる」
左から襲いかかってくるホッパーを義手で殴り飛ばし、近くにいた他のホッパーを斬りつけて処分する。
先程のサイクロップスを倒してからいきなりインテグレートが大量に沸き始めたのだ。
数体のインテグレートを蹴散らし、ソウヤは背後を振り向くと待機中のゾーノに向けて命令を出す。
「ゾーノ!ノービス達とそこで伸びてるアホンダラ共を連れて巡宙艦に逃げ込め!俺もあとで行く」
「分かった、ソウヤ。死ぬなよ」
「ここで死ぬ訳ねぇえだろうッが!」
台詞と共に構築性質で構成されたブレードをホッパーに降り下ろして叩き潰すと左腕を自身の顔と同じ高さにまで上げ水平になるよう構える。
「ぬうん!」
義手に力を込めると、肘のつけね辺りから赤黒いエーテルが沸きだし、一瞬にして何かを形作る。
それは巨大な生物の頭部ようだった。
黒い生物の頭部のようなフォルムをしたそれは、無数の繊維質の何かで構成されており頭部らしく見せている目のような部位は、蒼く脈動するように妖しく光り、二等分に切り開かれたスリットからはキザキザの歯のような物が生えていた。
その頭部が口を開き、ホッパーを丸ごと飲み込むと咀嚼し始める。
ゴリゴリと硬質なもの同士が触れ合う音と共に分解され吸収された後、再び義手の肘付け根に出てきた時の映像を逆再生のように頭部が収納されるのをステラは見た。
(なに……あれ)
ヒトがインテグレートを喰らう。そんなのは不可能だ、そうステラは学んだ。
まず第一に侵食の問題がある。活性化したエーテルでないとインテグレートに対しての対処が出来ないのというのはありとあらゆる学者達が言っており、そして常識である。
特に生身の生物や非活性化エーテルよりも、植物や鉱物といった意思がない物や無機質といった物のほうが侵食されやすいことが長年の研究で分かっている。
ただの金属で出来た義手ならばシールドが削れた瞬間にインテグレートに制御を乗っ取られてしまうだろう。
第二にヒトが扱えるエーテルの属性変異で侵食は存在しないということだ。
基本的にパイロ系性質2種、構築分解系性質2種 斥力引力系性質2種の6種類に活性化エーテルがそもそも持っている性質である電気系の7種類。これがヒトが扱うエーテルの力の限界である。
仮に侵食性質を使えるとすれば、それはもうヒトでなく死体に侵食が入ったグールか生きているうちに侵食されたゾンビのどちらかだ。
だがソウヤはゾンビやグールのように本能で動いているわけでなく、ちゃんと考え理性で行動している。
インテグレートを喰らい散らしていく姿は頼もしいが、その左手に潜む力は見るものを恐怖へと落ちいらせる。
実際ステラは底知れぬ恐怖と忌避感を抱いていた。
(こんなの……ありえない!)
恐怖に顔を引きつらせ、尻餅をついたままになっていると何処からともなく誰かに体を掬われて持ち上げられるとそのままステラは運ばれる。
「ちょっと、放して!」
「本当に放してもいいのかな?」
声の主をよく見ると、アオギリ=シグレだった。
「シグレさん!?」
ステラは自身の気持ちを静めるためにも自分の状況をよく見回してみる。
現在ステラは後ろを見たままシグレの左肩に担がれている状態であり、身動きが取れない。
よくよく見てみるとシグレは腰のところにスラスターキットをつけていた。
「シグレさんも、キットつけてるんですね」
「キット?ああスラスターね。一応ダブルジャンプとホバリングだけ出来るくらいだよ。ソウヤみたいな器用なことは出来ないかな~」
「そのソウヤさんについてなんですけど……」
先ほどの咀嚼光景がステラ脳裏によぎり、一瞬身の毛がよだつ。
「あーあれね。まあ色々あったのよ昔に」
自身の背ほどもある大きさの岩をスラスターを吹かして飛び越し、落下の衝撃をシグレはキットを使って殺す。
何処かへと走っていく最中、ひっきりなしに降下船が飛び立っていくのをステラはみた。自分達が乗っていたものだ。
飛び方を見るに半分がオートで飛んでいるらしく緊急で呼び寄せたものが殆どのようだ。
「シグレさん、何処向かってるんですか!?」
「朝霧艦の降下船の残り、全部飛び立っていたら私達の船ッ!」
突如現れたヒトの姿をしたカマキリのようなインテグレート、通称【マンティス】の襲来を側にあった木の側面を蹴ってシグレはかわす。
「高いから使いたくなかったんだけどッ!」
ステラを抱えている左手とは逆の空いてる右手にシグレは武装を呼び出す。
(ハンドガン?)
シグレが呼び出したのは片手で使用可能な銃火器、拳銃と呼ばれる種類の武器であった。それも火薬式である。
いくらシグレが射撃の名手であったとして、女の子を一人抱えたままで片手でハンドガンを打ったとしても殆ど当たらないだろうとステラが思っていたその時だった。
シュピピピピと火薬式にしては甲高い音発砲音共に弾丸が発射されるとなんとマンティスの頭部とコアを的確にそしてほぼ同時に撃ち抜いたのだった。
それならばそこまで驚くことでもなかったが、シグレは照準を覗かずに腰だめで拳銃を撃ったのだ。
いくら近距離とはいえ片手で照準を覗かずに的確に弾丸を当てるその技量にステラは感心した。
「うっひーアレピ様様~」
シグレはウサギのようにピョンぴょんと前に跳ねながらそんなことは当たり前だというように目的地へと移動し続ける。
「すご……おえっぷっ」
ピョンピョンとシグレがはねる衝撃が彼女の肩骨を通してステラの胃に直接来たため嗚咽が漏れてしまった。幸いにも胃の中は特に何もないので吐きまではしなかった。
「おっし、ギリギリ最後の一台!」
シグレは最後とばかりにスライディングをして降下船のハッチをズサーっと砂埃を立ててくぐると、ステラを備え付けのベンチに横たわらせた。
「シグレ、その子大丈夫か?」
「あーちょっと撃たれてる。パイロット、出して!早く!」
操縦席の方へ移動したシグレが搭乗していたらしいパイロットに早く離陸するようせかす。
完全、とまでは行かないが足のほうは殆ど治っているが脱臼した左肩と無理して片手でライホウを打ったため右腕が痛い。
顔をしかめていると、フレームが剥き出しのロボットのような全身義体のヒトがステラの元へやってきて右手に何かを呼び出す。
「しばらく寝てるといい。起きたら多分回復してるだろうから」
義体のヒトはそういうと右手に持った注射器のようなものをステラのお腹に打つ。
薬を打たれた瞬間、ステラの視界がグワンと揺らぎ、そしてだんだんと辺りが暗くなっていく感覚を覚えた。