始動への転換期 ACT.0
視界の端が赤く染まっている。
ハザードシールドは全部削れ数秒前に再生を始めたばかり、生命力を可視化したバーは7割ほど削れ、万全の状態ではないという事を知らしめてくれる。
実際すでに左腕は脱臼してあらぬ方向へ曲がっており、脚は品質の悪いリアクターを利用したであろう低温プラズマ弾を射出するライフルに撃たれジグジグと痛みを発し、動かそうにも主あるじの命令を一切受付けない。
辛うじて動く右腕に力を込め、ステラは上半身を起こす。
それに伴って頭部の位置が上がり、視界いっぱいに広がっていた地面から一変、苛烈な戦場の状況が目に飛び込んでくる。
敵は鳥類型二足歩行系の宇宙人、それとステラと同じ地球人の混成部隊。
その数約30――
宇宙という大海原を駆け回り惑星開拓をして、生活するために資源回収をしてるただの温厚な放浪種族なら特に害はないが、この部隊が所属している一族はそんな生やさしいものではない。
金で雇われ傭兵として働くほか、時として輸送船等を襲撃して積荷を奪っていく。大航海時代の海賊にも似た集団。
彼らはスペーツパイレーツと呼ばれ、政府から警戒指定されている程に危険極まりない集団である。
対してこちらはというと、まだ本格的に仕事もしていない卵から孵ったばかりのひよっこ傭兵が多数と、万が一に備えてのバックアップとして今回一緒にやってきた【エイジス】民間警備会社の契約社員の8人。
人数では圧倒的にひよっこ側の方が多いが、練度はパイレーツ側の方が何枚も上手だった。
次々と凶弾に倒れていく仲間達、凶刃によって真っ二つにされた顔見知り――
一瞬にしてステラ達は壊滅した。
ジャリッジャリッと砂利同士が擦れ合う音と共に一人の地 球 人アースノイドの男がステラの元へと歩み寄る。
ああ、私死ぬんだ。とステラは直感した。
左腕は動かず両足は使い物にならない。ステラは右腕にありったけの力を込め、やっとの思いでなんとか上半身を起こしている。
その状態でプラズマハンドガンなど照準して撃つことさえかなわない。
何もできずただただ生贄に捧げられる子羊の如く、抵抗することすら叶わないで無慈悲に殺されるのだ。
そう想像しただけでステラの両目に涙があふれてきた。
自分が今の今まで頑張ってきたのは何のためだったのか、自分は何がしたくてこの道を選んだのか。
死ぬであろう前に少しだけ思い返そうと彼女は悔し涙を流した。