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勝ち誇ったような顔をする奈穂子に、一応聞いてみる。
「私、坪内さんのこと、好きなのかな?」
私の問いに、奈穂子はわざとらしく大きなため息をついてビールジョッキを片手に力説する。
「それを私に聞く?まあいいわ、言ってあげるわよ。日菜子は王子様のことが大好きでたまらない。」
他人の口から言われると恥ずかしい。
でも、そうなんだよ。
一緒に仕事するのも楽しいし、ランチでお店を開拓するのも楽しい。
坪内さんの家でご飯を作るのだって、美味しく食べてくれるといいな、喜んでくれるといいななんて考えちゃうし、ただいまって帰ってくるのを見ると、おかえりって迎えちゃう。
髪を乾かしてもらうのも嬉しくてたまらないし、私がベッドを拒否してソファーで寝ることも、しぶしぶながら尊重してくれる。
明日不動産屋に行こうと思ってるけど、本当は気が進まない。
たった数日で、私は坪内さんから離れがたくなってしまった。
だけどそれを坪内さんに伝える勇気はないよ。
だっていつかまた、あのときのように捨てられたらどうしたらいいの?
今度こそ立ち直れないよ。




