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空に罪はない

作者: まるねーね

ある所に一つの王国があった

その王国の温暖な気候は、豊かな自然の恵みを国土にもたらしていた

川が国の南北に走り、川の東には人が住む町があり、西には鳥や虫などの動物が溢れかえる森がある

至る所で命が産まれる国

その国に研究者の青年と羽の生えた少女がいた


「ハカセー、早く遊ぼーよ」

背後を見せている青年に抱きつく少女

”ハカセ”と呼ばれた青年の一つに括られた長い銀髪の髪が、少女の飛びつきにより、まるで流れる川のように揺らいだ

「聞いて!今日ね、綺麗に飛ぶ鳥とお友達になったんだ。でも、おかしなこと言う鳥てね、トーリって名前なんだけど、″君とはずっと前からお友達だよ″って。変だよね、今日会ったばかりなのに」

「私はトーリを知ってるよ」

「えっ、そうなの。私は知らなかったよ」

「じゃあ、ちょっと忘れちゃっただけかもしれないね」

ハカセはそう言って、ルウのうねる金髪の一房を薬焼けでただれてしまった自身の手の上に乗せた

「さあ、そろそろご飯にしようか」

軽く微笑み、さらっと手から金髪をこぼしたハカセは椅子から立ち上がり、台所の方へ向かっていく

「はーい。でも、絶対初めて会ったと思うんだけどなあ」

少女の背に生えた羽根が日の光を浴びて虹色に輝いた


********************************************************************************


「痛みはあるか」

「ううん」

「わかった、じゃあ、これは?」

「痛くないよ」


同じような問答が続く

肉を裂き、抉り出しては縫うの繰り返し

ルウの体は傷だらけだ

とても痛々しい傷跡

人によったら見るだけで痛みを感じるだろう

だがルウには、今、痛みが無い

元々なかったわけではなく、羽が生えた頃から無くなっていった

そのためこれらの数多くの傷はルウに痛みを伝えない

痛みを探る実験をしてハカセは記録をとっていた


国には、人体実験によって作り出された『キメラ』という人造生物が何匹もいた

形はそれぞれでイヌ科に近い生物もいれば、人間に近い生物もいる

『キメラ』の存在は国民に周知されていた

ルウはそのキメラの一種だ

だが、産まれた時からキメラではなかった

ある日、羽を生やされてキメラになったのである


ルウが”人間”から、いや、神経を持つ生物としての存在から離れた別の生物として変化してしまうその記録をハカセは書き記していった

そのような日々が続いたある日、国の王が馬に乗ってハカセとルウのもとにやってきた


「どのようなことを研究しているのか」

王は研究者であるハカセに訊ねた

「キメラの研究です」

「その娘はキメラか」

王の問いにハカセは答える

「はい」

「少し研究資料を見せてもらえないか」

王は、キメラの研究が国を大きくする一つの方法だと思っていたため、この研究者がどんな研究をしているのか気になったようであった

そして、ハカセはこの王の気が短い性格を知っていたために、あまり気は進まなかったが、王様に研究資料を見せた

「ふむ……これはどこの国の字だ。何と書いてあるのか読めん」

「とても遠い国の字です」

元は研究者だった王は、自分の読めない字が使われた研究資料があることに不思議に思った

なぜなら、キメラの研究はこの国でしかおこなわれておらず、王が始めた研究であったからだ


この国は自然に富んだ国ではあったがゆえに人民たちによる生きる為の争いがほとんど起こらなかった


お腹が空いたら近くに生えている木の果物を摘み取ればいい

誰でも食すことができる園があちらこちらに増設されていたため、多くの人々は飢えを知らず生活していた


隣接する国々も同じような状況であったのだが、ここ数年で雨が降らなくなり、荒れ果てた土地に緑が生まれなくなった

ともなれば、他国は生きる為に諍いを起こさなければならなくなったのである

本国は戦う術を持っていなかった

武力差は圧倒的で国が崩壊するかと思われた時、ある一人の研究者が立ち上がった

その研究者は夜な夜な怪しげな実験を繰り返し、人間の言うことに忠実で人間よりも力のある生物を生み出したのである

キメラの誕生だ

そこからはあっという間だった

生物と生物をかけあわし、人工的に生物を作りだすことが邪道と考えていた他国ではキメラに勝つことができなかった

剣でも槍でも勝つことができなかったが、本当に勝とうと思えば水攻めや火攻めという手もあった

だが荒れ果てた土地がほしいのではなく豊かな土地がほしい他国にとっては、土地をだめにしてまでも勝つことの利点を選べなかった

生物を作り出すなど、すぐ天罰があるだろうと他国は考え、戦を仕掛けることを止めた

そして元々戦を好まないこの国の人々は他国を攻めることを止めた

こうしてキメラの存在だけがこの国に残ったのである


「私のもとにこないか」

王はハカセの研究に興味を持った

考えたハカセは、王に言う

「私は、陛下のもとには参れません。ご招待はありがたいのですが、私はここで研究がしたいのです」

「なぜ、そのようなことを申す」

「私みたいな卑しい出の者には、相応しくないですから」

嫌がる研究者を連れていっても良い結果にはならないと、研究者であった王は考えた

「では、城に参上すれば、貴殿に大金を渡そう。研究には、お金が必要であろう」

確かに研究にはお金が必要だ

でも、ハカセにとって研究資金よりも高く大切なものがあった

「ありがたいお誘いなのですが、断らせて頂きます」

「では、明日使いの者をここに連れてこさせる」

王は、口達者な使いの者を連れて来て、研究者を城に誘いだそうと思ったのだ

王が帰ったあと、ずっとそばでおとなしく立っていたルウにハカセは言った

「陛下は、あの文字に興味をもっていたようだった。まさか、陛下が来るとは思ってみなかったな、偽の研究資料を用意しとけばよかった。ここはもうダメかもしれない。引っ越すぞ」

ハカセは、家の裏にある小屋から馬を連れてきて、ルウをだっこして馬に乗せてあげる

「さあ、行こうか」

帽子をかぶり、馬に跨ったハカセは左腕に大切な少女を抱きかかえ、森のある西に向かった


*******************************************************************************


王は城に帰ってすぐあの研究資料の文字を調べ始めた

けれど、一向にわからない

「あの字はいったい何なのか。まさか、あやつらの……」

王は地下牢に向かう

地下牢には、ある者が捕らえられていた

「この文字を知っているか」

王はその者に問う

「……いいえ」

「嘘を申すな。この文字は、ある研究者と羽の生えた少女の家で見つけたのだ」

その者は顔色を変えた

王は再度問う

「どこの文字だ」

「……それはとても遠い国の文字であらせられます」

諦めた様子で、その者は答えた

「我は、そのとても遠い国を知らぬのだ。どのような者が使うのか、答えよ。答えぬならば、いっそのことあやつらを牢獄に閉じ込めても良いのだぞ。一生飼い殺し生活もまた一興であろう」

「……禁忌とされている文字なのです」

「キメラの実験とどう関係する」

王と、その者の問答は夜半過ぎまで続いた


「結局わからないではないか」

「殿下」

「なんだ」

「私が研究者の家に行って吐かせてみせます」

王は自らの力で王となり、力ある者を自らの下で働かせていた

力ある者が集まれば下剋上でも起きそうなものだが、この王は冷酷な判断を下せる人物であり、反旗を翻そうものならすぐにでも打ち首にしてしまう面もあった


又、王の周りは王の信者で囲われていた

王の庇護下にいれば、富と栄誉が手に入ると一部の国民は思っている

その一部の国民が臣下となり王を支えていた


「ならば、上手く言って研究者を連れ出し、我の下に連れて来よ」


********************************************************************************


次の日、王の臣下である使いがハカセの家にやってきた

「王の使いの者です。研究者の方はご在宅でいらっしゃいますでしょうか」

誰もいないのかと使いの者は首をひねる

困った、と王の使いは思った

王は城で研究者がくるのを待ちわびており、今日中に連れて行かなければ、きっと首を刎ねられてしまうだろう

とりあえず、辺りを探そうと歩き回ることにした

ハカセの家の周りは花が咲き乱れ、色とりどりの花の絨毯がひいてあるようで美しい光景であった

だが、その花々には目もくれず踏んでいく使いの者

半日、辺りを歩き回った王様の使いは、研究者がいないことで想像できる未来を憂いながらとぼとぼと城に戻った

戻りたくなくとも戻らなければ、しびれを切らした王に愛する妻を殺されてはかなわない

「陛下、研究者なる者は家におらず、家の周りにもお姿はありませんでした」

使いからそれを聞いた王は、自分の思い通りにならなかったことに腹をたてて、使いの首をはねた。

「ならば、包囲網をしき、なんとかしてあの研究者を探しだすのだ」

王様は、側にいた家来に命令して自室にもどっていった。

その堂々とした戻り姿を見た家来は、刎ねられた使いの首を持って王の間を後にしたのだった。


「え」

使いの妻は夫の頭を持ったまま固まっていた

朝、家を出るまで元気だった夫の姿

「そいつは王の機嫌を損ねた」

使いの頭を持っていた家来はそれだけを言い、帰ろうとした

「……貴方達親友だったじゃない、陛下を止められなかったの」

「王の勅命も果たせないような奴など親友なんかじゃない、下種だ」

「そんな」

「ちなみにその下種の体はキメラの餌となった。おいしそうに食べてもらえてよかったな。少しは王の役に立てたようだ。」

「どうして、どうして、どうして。昔の貴方はそんなこと言うような人じゃなかったのに」

目に次々に涙をためてぼろぼろとこぼす使いの妻

そしてその姿を見ながらも何も言わず家来は去って行った


近くの木が揺れる

両者を眺めていた監視が去った

瞬間、家来の目から涙がこぼれた

「ごめんな。お前の大事な妻を泣かせてしまったよ。ごめんな、ごめんな。もうやだよ、こんな国。お前がいなければこんな立場なんてちっとも楽しくない」


本来であれば使いの全身がキメラに食べられる予定であった

だが、

「こいつには妻がいる。その妻にこの頭を持って行けばきっと面白いものがみれるんじゃないか」

そう同僚に言って、頭だけ持ち帰ることができた。

そして、城に戻る頃には何もなかったかのように家来は戻った


********************************************************************************


その頃、ハカセとルウは町と森の境目にある川に来ていた

「川の水を汲んでくるから待ってなさい」

カバンを地面に置き、二人は川の側まで歩いていった

馬の背からみる自然は輝いて見える

ピピピピ、チュンチュン

どこからか鳥の鳴き声がする

(トーリは元気にしているだろうか)

連れてくることが出来なかった愛らしい茶色の小鳥

「ほら、水だよ」

水の入った逆さまの帽子を受け取った

「ねえ、どこまでいくの」

「誰もいない場所に」

そして、二人は再び馬に乗り、浅瀬を選んで渡っていった


ハカセとルウは、数百年間、人が足を踏み入れていない森にやってきた

「もうそろそろ注射の時間だ」

馬から少女を下ろし、ハカセは持っていたカバンを開ける

カバンの中には、人の腕くらいの太さがある注射器と一ミリの太さもない注射針、筒型のケースに入った赤い液体が20本、そして、大量の花があった

「腕を出して」

ハカセは注射器の中に赤い液体を入れながら、ルウに言う

少女は着ているワンピースの袖をたくしあげて、ハカセの方に腕を出した

注射器のボタンが押される

「はい、終わり」

一本の赤い液体は、全て羽の生えた少女のからだの中に入っていった

「この花は、この場所にはないようだ。持ってきている花の量を考えると、1年ほどしか持たないだろう」

悲しそうな顔をしながら、ハカセは言う

「どこからか花を探してくるしかないか」

それとも、戻るか

ハカセは悩んだ

その様子を見たルウが言う

「花はここにないけど、薬は作れるんでしょ」

「だが……」

少女の羽は、七色の輝きを放っている


じっとしていることに飽きたのか、馬がヒヒーンと啼いた

「とりあえず奥に進むか」

そして、二人は更に森の奥へと歩みを進めた


********************************************************************************


「どうした、まだ見つからないのか」

王の機嫌は悪くなるばかり

家来たちは、なぜ王があの研究者に拘るのかわからなかった。家来たちは意を決して、王に訊ねる。

「なぜ、あの研究者に固執なさるのですか」

王様はにんまりと笑って答えた

「それはな、あやつは蝶化の研究をしているからだ」

家来たちは、「蝶化」という言葉の意味を知らなかった

お互いの顔を見合わせたが、誰も知らないようで皆首を横に振る

「お前たち、もしや蝶化を知らないのか」

家来たちの体は汗まみれになった

もし、ここで王に粗相をすれば、物理的に首になる

そのような未来を憂えた家来たちの考えを知ってか知らずか、家来たちの固まる表情とは異なるにこやかな表情で話を始めた

「知らぬのも無理はない。蝶化というのはな、平たく言えば蝶になることなのだ。この現象は自然に発生したものなのか、故意に誰かが発生させたものなのかはっきりとはわかっておらんが、飛べないもの誰もが惹かれる魅力的な現象であるといわれておる」

「いったいどのような現象なのですか」

「蝶化をしたものには、羽が生まれ、空を飛ぶことができるようになるのだ。たとえ人間であってもな」

人間を基にしたキメラの中には、羽や翼を持っているものもいたが、飛べるものは誰もいなかったのだ

いくら実験を重ねても、空を飛ぶ人間は作り出せなかったのである

人間という陸でしか生きられない生き物にとって、空を飛ぶことは今までは夢でしかなかった

「さらに蝶化はただのキメラ実験とは違い、心を失うことはない。」

「そんな……そんなことがあるなんて」

キメラになった人間は、心を失ってしまう

獣のように生きていくしかなくなるのだ

だからこそ、自分でキメラになろうと思うものはなく、キメラの研究ができる金持ちの人たちは自分の心をなくしたくないと思っていたため、人身売買で売

られている人間をキメラの研究に使うのが普通であった

そう考えると、王のいう蝶化はとても魅力的な話であり、臣下は心惹かれた

「これで我にも羽の恩恵をもらえるかもしれないのだ」

王の目には一筋の暗い光が煌めいた


********************************************************************************


ハカセとルウが森に来て、数ヶ月の時が流れた

「ねえ」

「なんだ」

「そろそろ王は諦めたかなあ」

二人は森の中の池で水浴びをしていた

「まだ諦めていないだろう」

「そっか」

沈んだ顔をしてルウは池から出ていった

ルウはトーリに会いたいと思うようになっていた

大事な友達であったからだ


「もう失うのは嫌なんだ」

ハカセは一人池でポツンと呟いた


その頃、国では大変な事態が起きようとしていた

王のあまりの横暴に国民が反乱を起こしたのである

城下町からは

「玉座から降りろー」

「私達国民を何と思っているんだ」

城中からは

「いつまであの研究者を探し続けるつもりなのか」

「見つからないと報告するたびに首を斬られてく友の姿を見るのがどれだけつらいか」

「次期王としてあの方を推薦する」

王は国民の反乱に対して何も対策を練ろうとはしなかった

なぜなら玉座に興味がなかったからだ

研究ができる環境があればいい、その研究に必要な金が欲しかったために王になっていたのである

「次期国王が決まっているのなら……まあ、いい。我は何としても飛べるようになりたいのだ」


王は姿を消した。

「王が消えたぞ」

「どこに行った」

「探せ」

王は見つからなかった。

国民と王の家来は王がいなくなったので、今まで王だけしか入れない管轄となっていた場所で王の姿を探し始めた。


「ここにも王はいないのか」

「いったいどこに行ったんだ」

「見つからない」

「なあ、ここってもしかしたらお宝があるんじゃないか」

「俺、一番乗り」

「おい、俺が先だぞ」

「そんなところで喧嘩するなよ」

「きゃあ、当たったじゃない」

「痛っ」

「お前ら止めろよ」

「今のうちに俺がお宝貰っていこーっと」

「抜け駆けしようとしている奴がいるぞ」

「待て、こら」

城内は荒れていった


荒んでいく城の渡り廊下を、研究者を探して連れて来られなくて殺された王の使いの親友であった家来は、王が通っていた地下牢へと足を向けた

「王はいなくなりました。もう出ても大丈夫ですよ」

家来は鍵を扉に挿し込みながら訊ねる

地下牢の扉がゆっくりと開いていった

「外に出てもよろしいのでしょうか」

長い間、拘束されていた体

1日3回の不味い食事

王からの監視

以前、王と問答していた者であった

煩わしかったそれらから解き放たれる

「ええ、貴女の好きなところに行っていいですよ」

「ありがとうございます」

地下牢から出た女には虹色の羽が生えていた


これで王はもう終わりだ

やっとお前の仇を取れるよ


********************************************************************************


森の中でのお茶の時間

「ハカセ、ハカセ」

「そんなに駆けたら、転ぶぞ」

「鳥たちが言ってるの。母様が帰ってくるって」

ハカセの持っていたカップがこぼれる

「何だと」

部屋の中にまぶしいほどの光が渦巻いた

光の中央に一人佇む姿が見えた

「……帰ってきたのか、ナル」

「ただいま」

虹色の羽の生えた彼女”ナル”はルウの母親だった

「母様、お帰り」

「ルウも大きくなったわね」

「うん、ハカセのおかげだよ」

「……ハカセ?」

「母様、ハカセの名前忘れちゃったの、ハカセだよ、ほら」

「……ふふ、冗談よ、冗談」

「もう、母様ったら」

母親の腕を抱えてニコニコ笑うルウ

その姿を微笑ましく見つめながらナルは博士に言った

「貴方、あとでちょっと」

「……はい」


「ねえ、ルウは覚えてないの」

「ああ、蝶化で記憶が消えていっているらしいんだ」

「私にはそんな副作用はないのに」

「可能性だけで言うなら君にもあるんだよ」

「ガル、ハカセだなんて名乗って、じゃあ、あの子は父親がいないことをどう思ってんのよ」

「ルウは、父親は死んだものだと思っているんだ」

「どうしてそんなことに」

「僕が言ったんだよ、君の父親は死んだんだって」

「貴方が父親なのに」

「僕が父親だっていう資格はないんだよ。羽を生えさせる実験をされてしまったのだから。娘一人守れず、君も囚われてしまった僕には」


********************************************************************************


数年前、お金をたくさん使える生活はできないもののガル、ナル、ルウの三人は幸せな暮らしを送っていた


だが、ある日、突然他国に攻められることになる

三人が逃げた先で匿ってくれたのは優しい領主

けれども、その優しい領主は裏の顔を持っていた

そしてナルとルウは囚われ、実験台にされてしまう

ガルは囚われた二人を助けようとして、ある人物に出会う

その人物とは王の家来で、いつか王に謀反しようと企みを考えている者だった

その家来には親友がいて王の使いをやっているらしい

いつ王に殺されてしまうかもしれないとはらはらする家来とは反対に使いは出世をするために王に取り入れられようと危険な道ばかりを歩もうとする

だから、何とかしたいのだとその家来が言った

もし、親友を助けてくれるなら君の愛する者を助けようと

ガルと家来は協力して、囚われた二人を救い出したが、救い出された彼女たちの姿は以前と異なっていた

優しいと思われていた領主は、よくわからない不気味なものと契約を交わし、彼女たちに羽を生やしたという

その結果、領主は死んだのだと


********************************************************************************


「王は居なくなりました」

「王太子であった貴方様が王でございます」

「さあ、玉座へと」


「一つだけやり残したことをやっておきたいのだが、よいか」


「はい、どうぞ、トーリ様、いえ、王様」


********************************************************************************


王は居なくなり、束の間の幸せの暮らしを送るガル、ナル、ルウのもとに一羽の鳥が飛んできた

「あっ、トーリ」

その鳥を見つけたルウは笑顔で出迎える

「久しぶりだな、ルウ。私のことは忘れていなかったか」

「トーリ、忘れるわけないじゃん、会いたかったよ」

「あなたがトーリさん?初めましてかしら、貴方の声は私聞いたことがあるのよ」

「奥方は長い間、城にいらしていたのだと聞いたことがあります。王、いや、父上に囚われていたのだと。助けられなくて申し訳なかった」

「いいえ、謝罪はいらないわ。たしか、あなたも酷い扱いを受けていたのだと知っていましたから。それにルウのお友達なんでしょう。私が聞いたことがあるって思ったのは、あなたが王の息子だったからなのね」

「はい。この王国の王太子。トーリング=マナフォルダと申します。ルウ、私はずっと隠していたが、次期国王として育てられた者なのだ」

「トーリは王子様だったのね」

「正式には王太子だが」

「やはり、トーリ、お前が王とつながっていたのか。おかしいと思っていたんだ。急に王が家に来るなどあまりにも不自然すぎる」

「確かに血の繋がりでいうならば私は王とつながっていた。だが、ルウのことは話していない。ハカセ、君だって私が排除するべき者だと思わなかったから、ルウの側に置いていてくれたんだろう」

「ああ。ルウが気にかけていたからな。動物と触れ合いたいというルウの思いはできるだけ叶えてやりたかったんだ。それに君はあの花を見つけてくれたから」


********************************************************************************


命からがら逃げた先で傷ついた私より傷のある優しい少女と出会った

「ねえ、あなた、怪我してるの?こっちにおいで、治療してあげる」

その少女は一生懸命に私を治療してくれた

その甲斐があって私は完治した

空を飛び回る私を見てこう言った

「あなた、綺麗ね。私のお友達になってくれない?」

私と少女は友達になった

友達生活が続いていたある日、少女が言った

「最近、ハカセの元気がなくて、心配なんだ。元気にしてあげたいんだけど」

私はその憂い顔を晴らしたくて、昔、本で読んだ時に知った赤い花を探し、摘み取ってきた

「ならばこの赤い花を渡すと良い。昔、本で読んだことがあるんだ。願う者に道を開く花なのだと」

「ありがとう」


********************************************************************************


「この花はどこで手に入れたんだい」

「お外で会った綺麗な鳥にもらったの」

「そうなのか、この花ならもしかしたらルウの薬になるかもしれない」


********************************************************************************


「私、この綺麗な世界が好きなんだ」

「ならば、私が君の世界を守れるように尽くそう」

「それなら、私はトーリの世界を広げてあげたいな、約束ね」

「ああ、約束だ」

「忘れないでね」

「忘れるはずなどないさ」


私は約束を忘れなかった

だが、君は忘れてしまった

約束した次の日に


「あなた綺麗ね、私のお友達になってくれない」


初めて会った時と同じようなセリフ

なぜ、あの赤い花は君の記憶を溢さず留めておくことができなかったのだと

不思議な力を持つものの恩恵は必ずしも授かるものの願いを聞き届けて貰えるものではないのだと


********************************************************************************


「私は、見つけたのだ。遠い国への行き方を」

「教えてくれるの」

「ああ、私は行くことができないが」

「どうして」

「…約束したからな」

「約束?」

「ああ」


私は君の好きなこの世界を守るよ

そしていつかこの世界に帰ってきた時に、君が笑顔でいられる毎日を送れるような世界にしよう


「ハカセ、王はすでに遠い国に旅立った」

「トーリ、それは本当なのか」

「ああ、王がどのようね方法で遠い国に旅立ったのかはわからないのだが、王の居なくなった寝室に『遠い国に行く』との書き置きがあったのだ」

「王は行き方を見つけたのだな」

「そのようだ、私は独自に行き方を見つけたが」


この世界には私たちの居場所などない

ならば、違う場所に行くしかない

共に行きたければ

遠い国へと

羽が生えた原因を知っていると思われるよくわからない不気味なもののいる場所へと

向かわなければならないのだ


「こちらに来てくれないか」

トーリは円を描いて飛ぶ

『我、世界を橋渡しする者、願いを聞き届けてくれたまえ。我の愛する者たちの幸せを願う。我の愛する者たちの豊かな生活を送れることを願う。我の愛する者たちの思いが伝わるように願う。世界への道を開きたまえ』

空から銀色の光が降り注ぎ、大地が轟く

「道は開かれた。この光の行く先に遠い国への世界がある」

「じゃあ、行こうか」

「行きましょう」

「うん、トーリ、一緒にいれなくてごめんね。また会える日を楽しみにしてる」


″ありがとう″


3人は最後にそう言い残して光の中に入っていった


********************************************************************************


空に罪はないけれど、空を恨みたくなってしまう

なぜなら羽根を持つあなたたちには空は道だから

羽根を持たない僕にとったら空は空っぽでそこに何も見えない

ただ青く広がるものがあるだけで

狭い世界を僕は生きている


空に罪はないけれど、空を恨みたくなってしまう

だって、私にとったら空は進む道であなたにとったら進めない道

身近にありながら身近な人には触れられない世界

青く広がるものであるけれど私の世界は広がらない

狭い世界を私は生きている


空に罪はないから、私は私を恨む

自分の犯した過ちを

きっと記憶は戻らない

忘れたことも忘れてしまう

それでも私は生きていく

私の狭く、けれど空のように広いこの世界を

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