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第9話「ドゥンナの大災害」

第9話目になります。楽しんで頂ければと思っております。

    第9話「ドゥンナの大災害」


 町長の家は少し盛り上がってできている丘の上にある。この町【ドゥンナ】は辺境の所にあると言う事もあって、そこまで大きな町と言うわけでもなく、とは言ってもそこまで人口も少なくはないような、ちょうどいい町だった。雰囲気としては、昔行った、俺のおばあちゃんの家がある田舎の雰囲気に似ていた。


 俺とアリスは丘を少し上ると、家の中に声をかける。


「おーい、リギンス町長! いるんだろ」


 俺が呼びかけると、家の中から「朝からうるさいわい」とボヤキながら、初老をとうに迎えている、あご髭がたくましい白髪のおじいさんが出てきた。何を隠そう、この人がこの町の長であるリギンス町長その人だった。


「朝から騒がしいと思ったら、ユートとアリスちゃんじゃないか。やっと、ワシの願いを聞き入れてくれる気になったのじゃな」


「だから、その件に関しては絶対にあり得ねぇって毎度毎度言ってんだろうが! それにこんなかわいい嫁さんを誰がやるか! このロリコンエロ爺が!」


 そう叫んだ瞬間、アリスが手を握ってきたので気になって横を見ると顔を真っ赤に染めあげて今にも倒れそうだった。そんなアリスを介抱してやりたい気持ちはあるのだが、とにかく今は目の前の爺を黙らせなければいけない。


「ファッファッファッ! お主、ワシの方がかっこいいからと言って、そんなに闘争心をむき出しにしておったら、ますますアリスちゃんに嫌われるだけじゃぞ」


「寝言は寝てから言えや! このクソ爺が!」


「この町に迎え入れてやった恩人に何て言い草じゃ。やっぱり、こんな奴の所じゃなくて、ワシと結婚しないかの? アリスちゃんや」


「冗談を言わないでください。私が好きなのはユートだけです」


 アリスはそう言うと、俺の腕にしがみつき、リギンスから隠れるように俺の後ろに行ってしまう。


「そんな仕草もたまらなくかわいいのぉ~。それをやるがそいつじゃなくて、ワシにだったら、なお文句がないんじゃがの。オッホッホ」


 これがアリスをここに連れて来たくない理由だったのだ。このリギンスはアリスのことを大層気に入っているらしく、事ある度にアリスを自分の嫁にしようとしているのだ。その度に俺は怒鳴り、アリスは嫌がっているのだが、この爺には聞く耳などなかった。


「それで、ユートたちは今日はどうしてワシの家に訪れたのじゃ?」


 一通りの茶番が終了し(但し、アリスを狙っているのは本気である。絶対にやるか! クソ爺)、リギンスは俺たちをリビングに通した後、そう聞いてきた。


「やっと真面目に聞く気になったか」


「かっ! 何か嫌みの一つでも言わなきゃ、本題に入れないのかお主は」


「さっきの手前があるもんでね、嫌みの一つや二つでも言わないと気が済まないっての。とりあえず、事あるごとに人のかわいい嫁さんに手を出そうとするのやめてくんねぇかな」


「ホッホッホ、年寄りの戯言にも付き合えんお主が、アリスちゃんの夫とは片腹痛いわい」


「言ってくれんじゃねぇか、この爺が!」


 再び俺とリギンス(重度のロリコン)は火花を散らすが、ピシャリと部屋に響き渡った声にその火花を消すごととなった。


「ユートもリギンスさんもそこまでです! 2人はいつまで喧嘩しているつもりですか! ユート、あなたはリギンスさんに話を聞きたくてここに来たのですから、ちゃんと聞かないとメですよ! それとリギンスさん。私はこれからもずっとユート以外の人を好きになる予定はありませんので、いい加減私のことは諦めてください!」


 年下に怒られる男×2人の図がここに完成していた。


 アリスって、本当に年下なのにしっかりしてるよな。まさか、こんな短い時間で再確認させられるとは思わなかった。そして、一緒に怒られているはずのリギンスは鼻の下を伸ばしていた。ああ、駄目だもう手遅れだ。こいつは重度のロリコンで確定だな。


 アリスは言い終えてむすんとすると、俺の膝の上に腰を下ろした。何故に?


「あの~アリスさん。どうして、俺の膝の上に座っていられるんでしょうか?」


 先ほど怒られたこともあったので敬語になってしまう俺。どんだけ弱いんだよと自分自身で思ってしまう。


「ユートは放っておくとすぐにまた喧嘩しますから、ここに座ることにします。ここならユートがまた喧嘩しそうになってもすぐに止められますから」


 おっ、おう。そういう事。確かにそうかもしんないけど、目の前の視線が辛いんだよな。ほら、重度のロリコン爺がこっちを睨んできてるから! でも、アリスの様子を見ると嬉しそうに座り胸に頭を預けてくるものだから、何にも言えなくなってしまう。


 俺はアリスの頭を撫でて気持ちを落ち着かせると、リギンスに本題を切り出した。


***********************


「なんじゃと? 災害についての資料を探している?」


 俺の言葉に、リギンスは訝し気な顔をした。


「どうして、そんなものを欲しがる?」


 まあ、当然の疑問だろうな。町長の家にわざわざ来て災害の資料を見せてくれって言ってるのだから。


「実はある人に言われてな。災害を防げって。つっても、一口で災害って言っても色々とあるだろ。だから、どんな災害を防いだら良いかなんてさっぱりでさ。それで、過去に起きた災害のことを調べれば、何かしらのヒントがあるんじゃないのかって思ったわけ。それで、一番そんな資料がありそうなあんたの家を訪ねて来たって訳だ」


「なるほど、事情は理解したが簡単に見せるわけにはいかんよ。そもそも、お主の話には一つ理解できない部分がある。ある人とは誰なのかじゃ」


 やっぱり、ツッコまれるよな。しかし、女神から言われましただなんて言って信じる奴はまずいないだろう。でも、ある人としか言いようもないし……。


 俺が頭を抱えて悩んでいると、俺の膝の上からアリスがリギンスの名を呼んだ。


「リギンスさん、私にその資料みせてくれませんか?」


「よし分かった。アリスちゃんの頼みならしょうがないの」


 ぶっ! 俺は思わず飲んでいたものを吹き出しかけてしまう。何だ今のは? アリスの甘えた声もそうだが、それを聞いた瞬間、百八十度態度を変えやがったぞあの爺。


「ユート、勘違いしないでくださいね。私が好きなのはユートだけですから」


 きっと今の光景を見て誤解されたくなくて、アリスはそう言ってきたのだろう。


「ああ、分かってるよ。俺もアリスしか好きじゃないから安心してくれ。それと付いて来てくれてありがとう。アリスのおかげで助かったよ」


 俺はアリスの綺麗な銀髪を撫でた。アリスは嬉しそうに、くすぐったそうに眼を細めている。その様子がどこか小動物めいていてものすごく愛くるしくかわいかった。


 俺の嫁はマジで天使です!


 しばらくして、リギンスは戻って来た。


「ほれ、これが災害関連の資料じゃ。けっ、アリスちゃんにかんしゃするんじゃな」


 さっきの言葉をそのままこいつに返してやりたい。あんたも十分嫌みを言ってきてるよね! 


 俺は礼を言ってからその資料を見ていくのだが、そこでとあることに気が付く。あっ、俺この世界の文字って読めないや。


「アリス、一つ頼みがあるんだけど良い?」


「ユートの頼みなら喜んで」


 お菓子を食べていたアリスは嬉しそうにそう答えてくれたので、俺はアリスに資料を見てもらうことにする。何か気になったものがあったら声をかけてくれと伝えておく。


「どうだ?」


「う~ん、何だか自然災害のことが多いですね。火山が噴火したとか、竜巻が起きて甚大な被害が出たとか、そう言ったことですね」


 やっぱ、空振りだったかのか? 仮に女神が指した災害が自然災害だったのであれば、どうやったって太刀打ちできねぇぞ。人間は自然の猛威には勝てません。


俺がそう考えていると、アリスが俺の裾をくいくいと引っ張ってくる。


「どうした? アリス」


「気になった資料があったので」


「どんな内容なんだ?」


「かつて、この町は崩壊寸前まで追い込まれたそうです」


「崩壊寸前までって、それはどうしてなんだ?」


「とある一匹のモンスターによって、そうなったとここには書かれています」


「モンスターだと? おい、リギンス町長どういうことだ?」


 俺が目の前に視線を向けると、リギンスは難しい顔をしていた。


「ドゥンナの大災害。それが、この災害に付けられた名前だそうです」


 アリスがそう続けると、リギンスは少し迷った末にその重い口を開いた。


「【ドゥンナの大災害】 それは以前、隣町を襲った悲劇でな。とあるモンスターがふらっと現れてそこを一夜にして火の海に変え、人々を蹂躙していったのじゃが、どういうわけか、そのモンスターはいきなり忽然と姿を消したのじゃ。そして、生き残った者は、ここに逃げ込んだのじゃが、人々の胸にはひどい傷を負った。そして、この災害はそう名付けられ、語ることさえも恐れられている。それ以来、そのモンスターの姿も見られていないのじゃ」


 なるほど。こんな辺境の地にある町なのに、ものすごく厳重な警備体制を強いていたのはそのためか。町を護るための兵士が相当な数この町にはいるのだ。


「それじゃあ、俺が防がなきゃいけないのって……」


「もしかしたら、【ドゥンナの大災害】が再び訪れようとしてるのかも知れぬな。じゃなきゃ、お主がこんな資料を求めに来るとは思えないのじゃ。そして、お主に災害を防げと言い残したその人物も、この【ドゥンナの大災害】を知っておったと言う事じゃ」


「そんなことがこの町で起きていたなんて思いませんでした」


「それはそうじゃのう。あんな不可解で謎の多い事件なぞ、余計な不安を煽るだけじゃがら、こちらで秘匿するべきなのじゃよ。それで、住人が不安になり安心して暮らせなくては元も子もないからの」


「でも、この大災害って各地で起きているとここに記されていますけど」


 アリスの言葉にリギンスは頷いた。


「この大災害はその町以外でも、すでに4回も起きているのじゃ。いつも突然現れて、夜に起きている。そして、それ以外の法則性は皆無じゃ。だから、ユート。もし、この大災害が再来するようであれば、お主の腕を見込んで力を借りたい」


 リギンスはそうしめると、頭を俺に下げて来た。


「元々はそれを防ぐためのヒントを探しに来るために、ここに着たんだ。だから、俺は全力でそれを防ぐことに協力させてもらうぜ。それに、リギンス町長は何も言わず俺たちをこの町に迎え入れてくれた。それこそ恩を返さなきゃ罰当たりってもんだぜ」


 俺の言葉にアリスも力強く頷いた。


 そんな俺たちにリギンス町長はもう一度頭を深く下げるのだった。



 

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