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第4話「盗賊【プランドラー】

第4話目になります。また、この後15時に引き続き第5話目を投稿いたしますので、そちらの方もよろしくお願いいたします。

           第4話「盗賊【プランドラー】」


 ここは……どこだ?


 俺は痛む頭を抑えながら、辺りを見渡した。そこは、ごつごつとした岩の壁に囲まれ、目の前には鉄格子といった空間で閉じ込められているのだということが予想できた。


 俺はどうなったんだ? 俺はあの時……


 あの時のことを思い出して、俺は歯を食いしばってしまう。


 そうだ。俺は負けたんだ。圧倒的な力の前に何も出来ずに。


 くそっ! くそっ! そうだ、アリスは!


 俺はアリスを探していたことを思い出し、アリスを探そうと体を動かそうとするが、そこで体が動かないことに気が付く。俺の体は両手両足を鎖で繋がれていて動けない状態になっていた。


 ここは本当にどこなんだ? 俺はどうしてこうなったんだ?


 俺が気を失っていた時のことを考えていると、何も音がなかったこの場所に小さな足音が響いてくる。その足音は静寂で支配されていたこの場に、ひどく虚しく響いていた。

 そして、目の前に現れた人物を見て俺は驚愕に見舞われた。だって、俺の目の前に現れたのは、銀髪長髪のあの少女だったのだから。


「アリス……⁉」


 アリスが、どうしてこんなところにいるんだ?


 アリスが生きていたことの安堵するのと同時に、アリスがどうしてこんな所にいるのかと言う疑問が生まれてくる。


「ユート、目が覚めたのですね」


「アリス……どうして君がここに? ここはどこなんだ?」


「ユート、最初に謝っておきます。ごめんなさい」


「どうして、君が謝るんだ?」


 どうして、アリスが謝るんだ? その理由が俺には分からなかった。


「ユート、あなたは気絶する前のことを覚えていますか?」


「ああ、覚えてるよ。俺は襲撃者に襲われて、俺は負けたんだ」


「あの男は私の仲間です」


「っ⁉ 仲間……だって? それはどう言う事なんだ!」


「言葉通りの意味ですよ。私はこの盗賊【プランドラー】の仲間なんです。そして、ユートは(にえ)に選ばれたんです。私たちのボスがあなたを(なぶ)り殺す贄に」


「要はアリスが俺のことを騙していたってことか?」


 俺の問いに彼女は静かに頷いた。しかし、どこかその顔には後悔があるように俺は感じた。


「私を恨んでくれて構いません。今はあなたは生きていますが、直に殺されるでしょうし。だから、ユートには私を恨む権利がある。だから、死んでもあの世で私を恨み続けてください」


 アリスはそれだけ言い残すと、その場から立ち去ってしまう。


「アリス! 待ってくれ!」


 俺の声はアリスには届かず虚しく響き渡るだけだった。


***********************


 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…………


 アリスはずっとあの後から、優人に向けて謝罪の言葉を繰り返していた。


 確かにアリスはこの盗賊一味【プランドラー】に所属し、ボスであるジャルガンに獲物を届ける役目を担っていた。

 幸いアリスの容姿の良さはあの街でも抜きんでて良かったため、ある程度の男はすぐにアリスに好意を抱きアリスの指示に従った。それも隙あらばアリスに手を出そうと考える男ばかりだったことをアリスも覚えている。


 しかし、優人に関して言えばこれまで出会った男たちと色々と違った気がしていた。自身に見惚れているんだろうなっとアリスは感じていたが、それだけでどこか下心があるようにも思えなかったのだ。そして、優人の存在はどこか温かいものを感じた。アリスが数年前に無くしてしまった温かさを。だからこそ、アリスは優人のことを殺したくないと思い、あの時は咄嗟にああ口を開いてしまったのだ。

 しかし、このままでは確実にジャルガンの手によって優人は殺されてしまう。それは何としても避けたいと思ってはいるアリスではあったが、それは出来ないと自身の頭で考える。

 アリスとて、好きでこんな盗賊一味の中に身を潜めているわけではなかった。アリスは数年前にこの盗賊一味に自身の両親を殺され弟を囚われていた。その弟を取り戻すためにアリスはこの盗賊一味に身を置いていたのだ。しかし、未だに囚われの弟に会わせてもらえていないのが現状だった。

 ジャルガンは、俺の欲を満たせれば弟を解放してやると言っていた。そして、この数年、アリスはジャルガンの言う通りに獲物を誘き寄せ、ジャルガンとグライスが嬲り殺す様に見て見ぬふりを繰り返した。

 そして、アリスの中の感情はいつの間にか麻痺していった。相手を誘き寄せる作り笑いならいくらでも出来るようになったが、心のそこから笑うことは次第にできなくなっていった。自分自身が嫌いになっていった。

 なのに、今になって誰かに死んで欲しくないと感じたのは、何故だろうとアリスは考えるが、答えは一向に出てくる感じはしなかった。


 アリスはその足でジャルガンの元に向かった。優人が意識を取り戻したことを報告しなければならない。


 この胸を締め付ける痛みは何なのだろうか? いつかはこの気持ちを忘れることが出来るのだろうか?


 アリスはそう感じながら、足を速めた。しかし、その反面、気持ちの方はどんよりと重かった。


***********************


 アリスが俺を裏切った。


 その事実は、俺の頭にものすごい衝撃を与えた。


 どうしてアリスはこんなことを?


 いや、さっき言っていたか。最初からこうするために近付いたと。そして、アリスのことを恨みながら死んでいきなさいと。


 それじゃあ、あの時見せた笑顔は表情はすべて嘘だったって言うのか?


「はは、人生に絶望していたからこの世界に来てやり直そうと思っていたのに、こんなことになってるんだから、やってられないよな」


 俺は己の浅はかさに笑ってしまう。元いた世界で人間を信用できなくなり、孤独を貫いていたというのに、この世界で初めて会った少女に気を許してしまった。同じ過ちを繰り返してしまった。


 本当に俺は馬鹿だよな。人なんて信じるもんじゃないって分かっていたのに、そうやって後悔していたのにも関わらず、同じ過ちを繰り返していた。

 だけど、あの少女がどうしても人を裏切るようには見えなかった。あの優しい微笑みはすべて嘘だったのだろうか? いや、俺はそれを学校で家で見ていたのではないのか?

 それを嫌と言うほど見て嫌気が差していたはずなのに、例え異世界だとしてもその考えは同じはずだったはずなのに、俺は同じことをしてしまった。


 俺は本当に馬鹿なんじゃないのか。やっぱり、人なんて信用するもんじゃないだろう。


 俺はそこまで考えてやはり、あの少女の微笑みを思い出してしまう。どうしても、あの少女の微笑みが頭を付いて離れなかった。


 俺はそんな虚言に満ちていたあの世界が心底嫌いだった。だからこそ、この世界に来て新しい生活を手に入れようとしたのだ。結局はこの世界も虚言にまみれていたと言う事なのか。

 実際、虚言にまみれていない世界何てものは存在しないのかもしれないけれど。


 俺がそう考えていると、再び足音が聞こえてくる。しかも今度は大小含めて三種類ほど混じった足音だった。そして、その足音が止んだと思っていたら目の前には3人の人影があった。その内の2人には見覚えがあった。1人はアリスでもう1人は俺を襲撃してきたあの大男だった。そんな2人を背後に従え立つ長身細身の男には見覚えがなかった。


「よおよお、気分はどうよ?」


 俺がぼんやりと前を見ていると、その3人の中で中核を担っていると思われる男が、そう問いかけてくる。


「最悪だよな」


 俺は軽口を返してみる。相手の真意が見えない以上、何を言っても無駄だと思ったからだ。


「はは、この状況で軽口を言えるって、お前まだ余裕あんのな。面白れぇじゃん」


 男は本当に面白かったのか、腹を抱えて笑っている。とりあえず、その鼻につく笑い声を頭の隅に押しやり、アリスの姿を盗み見た。


 アリスは心なしか元気がないように見えた。顔は俯いているのでその表情は分からないが、雰囲気的にそう感じたのだ。


「それで、どうしてお前がこんな状態になってるのかお前は分かる?」


 唐突な問いに俺は戸惑うが分からなかったので、そのまま首を横に振った。


「はは、そうだろうな。なら教えてやるよ。お前は本当ならあの森で死んでいるはずだったんだよ。だけどな、そこの女がお前には利用価値があるから生かしておくべきだって言ったんだよ。それで、お前は分かってるか? お前がどうして生かされたのかを?」


 それにも俺は首を横に振る。


「だったら、教えてやるよ。お前、数日前まではまったくモンスターと戦えなかったらしいな。だけど、お前はこの数日でこいつとやり合うまでに剣術を上げた」


 男はそう言いながら、隣の大男を指差した。


「本来、このグライスの奇襲は、ひよこなんかのお前に躱せるもんでもなければ、剣を受け止められるわけがないんだよ。てことは、お前には何らかの力の強さがあるわけだ。だから、その力の強さの秘密を教えな。そうして、惨めにここで死んでいきな」


 強さの秘密か。別に秘密があるわけではない。俺は元の世界にいたときに武術や剣術などをやったこともなければ、運動神経がとりわけ良かったわけでもない。それじゃあ、俺がどうしてここまでの力を得られたのか。それには簡単だった。あいつの言っていることが本当だったってだけだ。


「答える前に一つ教えてくれ。アリスは自ら望んでこんなことを?」


「はっ! それを知ってどうするつもりだ?」


「良いから答えろよ!」


 鼻で笑う男に俺は怒鳴っていた。


 俺もやっぱりアリスは俺を騙すために近付いていたと思った。だけど、あの笑顔を思い出せば思い出す度に、アリスが自ら望んでこんなことをするとは思えなかった。否、思いたくなかったのだ。だから、俺はこの男に問いかけたのだ。


 男はそんな俺を心底かわいそうな奴を見るような目で俺を見ながら楽しそうにこう言ったのだ。


「ははは、お前もこの女も本当に馬鹿だな! この女は()()()()()()()()()()()、弟を助けるために俺たちに協力し、数多くの男を自らの手で死の場所に追いやったんだよ!」


 男はそれはもう愉快そうにさらに声を上げて笑った。そして、弟の死を知らなかったのか、アリスは膝から崩れ嗚咽をこらえながら涙を流している。


「うそ……うそ……もうリーゼは……いない? そんなのうそよ……うそなんでしょ?」


「ああん! お前の弟なんか当の昔に殺したさ。お前は利用できると思ったからとことん利用させてもらっただけ。おかげで、めちゃくちゃ俺の欲が満たせたぜ」


 男はアリスの縋りつくような声にも、特に気にした様子もなくアリスに向けて残ごくとも言える言葉を口にした。


「うそ……私は……私は……」


 そこから先は言葉にならなかった。


「あははは! ああ、愉快だ! 愉快! その絶望に染まった顔を見るのが俺は大好きなんだよ! さあ! 質問にも答えたことだ! お前の強さの秘密もとっとと吐いて土に帰りやがれ!」


 やっぱり、アリスは自らの意思で臨んでやっていたわけではなかったんだ。


 俺はそれを聞いて一安心した。そして、それと同時に目の前の男に激流の如き怒りが湧いてくるのを感じる。


「さあ! さあ! とっとと吐いて嬲り殺させろよ!」


 アリスの様子を見ると、アリスは泣き崩れ放心状態になりかけていた。それもそうだろう。弟のためにやってきたのに、弟はすでに死んでいると言われたのだ。自らやってきた行為を完全に否定されたのだ。ああもなるだろう。だから、俺は呟く。頭に浮かんだ呪いにも似たような言葉を。


「女神の加護があらんことを」


 突如、俺は青白い光に包まれた。

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