第16話「そして、次の世界へ」
第16話目になります。そして、この話で第一部が完となります。ここまでお疲れさまでした。そして、ここまでお読みいただきありがとうございました。また、第二部に関しては未定ですが続けられれば良いなっとぼんやりと思っております。最後にここまで読んで頂きありがとうございました!
第16話「そして、次の世界へ」
「ユート、そっちに行きました」
「ああ、分かってる」
アリスの言葉にそう返すと、大蛇が攻撃を仕掛けてきたのを見て、それを飛んで避けた。大蛇はすかさず尻尾で攻撃してくる。
「氷の銃弾!」
銃弾のように固まった無数の氷が、襲って来た尻尾を押し返し地面に叩き付けた。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
大蛇が雄たけびを上げるが、そんなことは構っている余裕はなく、俺は大蛇が怯んでいる間にゴーレムの前に立つと、力を解放する。
「解放!」
再び数十体のゴーレムを氷塊に変えることに成功する。マーナガルムも奮闘していてゴーレムの残りの数は百を切っていた。
このままなら押し切れる!
俺はそう思った。
「マーナガルム!」
俺の声に応えるかのように、マーナガルムは吠えると自身の周りに吹雪を発生させて一気に氷塊に変えていっている。
ゴーレムの心配はもういらなそうだな。後は大蛇に変わってしまったナルザを倒すだけだ。
俺はそう思い剣を構え直した。が、ズキン! ズキン!
激しい頭痛に襲われて片膝を着いてしまう。
「ユート!」
そんな俺の体をアリスが駆け寄ってきて支えてくれる。
「ユート大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
まずい、力を使い過ぎたか。女神にもあまり使わないようにと忠告を受けていたのだが、そうは言っている状況じゃなかったしな。
俺はアリスに支えられながら体を起こした。
そろそろ決めないとまずいか。
俺の頭上に魔法陣が展開する。そこから一つの巨大な銃砲が現れる。
「解放! ムゼリエール! これで終わりだ! 撃発!」
銃口から高エネルギーを思わせる光線が発射され大蛇を包み込もうとしたが、大蛇は俺の予想を超える動きを見せたのだ。
何と空に飛んだのだ。その巨体からは考えられないほどの動きで空に飛びさらには宙に浮いている。
「何アレ⁉ 本当に蛇なの⁉」
隣に立っているアリスも驚きの声を上げている。
かくいう俺は今ので完全に力を使い切り、今度こそ両膝を着いてしまう。そして、ものすごい頭痛が俺を襲ってきて地面に倒れてしまう。
「あああああああああッ」
「ユート! 大丈夫? ユートッ」
アリスの声も遠く聞こえる。
クソッ! 大蛇をナルザを倒さなきゃいけないのに、こんな所で倒れている場合じゃないのに。今度こそ立たなきゃいけないのに。
最後の最後の力を寄越せよ!
大蛇は今もなお空中にいて、俺たちを喰い殺そうと狙っていた。
「アリスの前でぐらいカッコつけろよ俺!」
俺は何とか立ち上がろうとするが、やはり体に力は入らなかった。俺がそうこうやっていると、ゴーレムと戦っていたマーナガルムまでもが消えてしまう。まさか! 俺が力を使い過ぎたからマーナガルムは消失してしまったのだろうか?
しかし、そんなことを考えている場合ではなかった。マーナガルムが消失したことにより、残っていた三十余りのゴーレムの矛先はこっちに向いてしまう。
まずい! まずい!
俺が内心ものすごく焦っていると、突然アリスが俺の上に覆い被さって来る。
「おい、アリス! 何やってる?」
「ユートは私が護る! ユートは私を救ってくれた。だから死んで欲しくない!」
「バカ! このままだとアリスだって死ぬぞ!」
「ユートが死なないならそれで良いもん!」
本当にバカか! こんなんじゃどっちも死んじまう。何かないか! この状況を打破できるような案が!
俺はそこであることに気が付く。体が動くのだ。しかも、あと一回なら力を使えるぐらいまで力が回復していた。
どういうことかと考えていると、答えは一つしかないことに気が付く。マーナガルムだ。マーナガルムは巨大な力ゆえに俺が使う力の量も半端ない。きっとマーナガルムはやられて消失したのではなく、自ら消失したのだ。力の枯渇した俺にわずかでも力が戻るように。
これならいける。あいつらを倒せる!
俺は深呼吸をして立ち上がると、アリスを抱きかかえた。
「ユート!」
アリスが恥ずかしそうに頬を赤らめている。ん? どうしてだ? お姫様抱っこしているだけでどうしてそんなに恥ずかしがるんだ? っとそれよりも、
「アリス、しっかりと掴まっててくれよ。こんなくだらない戦いは終わらせるぞ」
「うん!」
アリスは頷くと、俺の首に手を回すとギュッと音がしそうなぐらいに体を密着させて掴まってくる。
俺はそんなアリスを見ながら手を天に伸ばした。
「破壊者! グラム!」
天から一本の剣が降りてくる。このくだらない戦いに終止符を打つ魔剣が。
俺はその剣の柄を握ると地面を蹴った。そこからは一瞬でゴーレムを土くれに戻していく。
あっという間に残っていたゴーレムを土くれに戻し終えてしまい、最後は宙に飛んで隙をうかがっていた大蛇のみとなった。
大蛇は雄たけびを上げると、毒の塊をこちらに向かって次から次へと吐いてくる。俺はそれをバックステップで躱していく。
「アリス、しっかり掴まっててくれよ」
「うん! ユート」
アリスは嬉しそうに抱き着いてくる。俺はそんなアリスを愛おしく感じると同時に、足に力を込める。そして、一気に力を解放し跳躍する。
大蛇がいる高さまで跳躍すると、剣の力を解放する。
「グラム!」
剣のリーチが伸びていき、あっという間に倍の長さになった。
「アリス、力を貸してくれるか?」
「もちろんだよ、ユート」
アリスは微笑むと自身の手を俺の手に重ねてくる。
大蛇はこちらを一睨みすると、愚直とも思える突進攻撃をしてくる。しかし、宙を自由自在に駆けまわっているため、そのスピードは恐ろしいものだった。
これで決める!
「「絶対的に斬る! グラム!」」
2人の声が重なり合い、グラムの力は最大限まで引き出された。
足元に魔法陣が展開され、何もない空中を俺は蹴って前に飛び出す。
そこに大蛇も突進してきていたので、俺とアリスは真っ正面から大蛇とぶつかり合った。
ほんの一瞬の交錯で決着は着いた。俺たちが大蛇の胴体を輪切りにして、大蛇は力なく地面に落ちていったのだ。
それと共に俺たちも地面に着地する。俺が手を離すとグラムは役目を終えたかのように消えていってしまう。
今度こそ俺は力を使い果たし、地面に倒れそうになってしまうが、アリスが寸の所で支えてくれる。
「ユート、無理し過ぎです!」
支えてくれたと思ったら素で怒られてしまう。
「ごっごめん」
「そもそもユートはいつもそうです! いっつも、いっつも私のことを顧みず無茶ばかりして私に心配ばかりかけます! 少しは私のことも考えてください!」
二歳も年下の少女にガチで説教される男の何とも情けない図が完成していた。しかし、涙を流しながらそう言うアリスに、本当に申し訳ない気分になる。
「アリス、本当にごめん」
「ユートは少し反省してください」
アリスは俺の胸に顔を埋めてくると、そのままぐりぐりと頭を押しやってくる。
俺はそんなアリスの頭を優しく撫で続けていた。
アリスが落ち着いたのを見計らって、俺はずっと気になっていたことをアリスに聞いた。
「そういや、ヴァルはどうしたんだ? アリスが飛び出さないようにヴァルに見張っててもらったんだけど」
そう。俺がヴァルにしたお願いとは、アリスが俺の元に来ないように見張っててもらうことだったのだが、現にアリスはここにいるため意味はなかったことになる。
「ああ、ヴァルさんならぐっすりと眠っていますよ」
「何だって⁉」
「ユートは私が元盗賊団にいたことを忘れたのですか? けど、ユートを助けるためとは言え、盗賊団で教え込まれた技がここで役に立つなんて何とも皮肉な話ではありますけどね」
アリスの言葉にはどこか憂いがあるが、しかし、俺を助けられて良かったと言う想いの方が強く伝わって来て、何だか照れくさくなってしまう。
そんなアリスが愛しくて、俺はそんな彼女をギュッと抱きしめた。
「ユート、どうしたんですか?」
いきなりの行動に驚いたのか、アリスが俺の腕の中で不思議そうな表情を浮かべている。
「いや、君がいてくれて良かったと思って。本当にアリスありがとう」
俺の言葉にアリスは微笑んだ。そんなアリスに溜まらず、俺は思わずアリスにキスをしてしまう。突然過ぎたかと思っていたが、アリスは嬉しそうに目を細めている。
「うふふふ、幸せですユート」
「ああ、そうだな」
しばらくの間、俺たちはお互いの体温を感じ合っていた。
「そろそろ帰るか」
「はい!」
俺が動けるまで回復したのを待って、俺たちはヴァルの元まで帰ろうとしたが、そこで不自然な光景を見ることになる。
俺たちの目の前の空間が不自然に歪んだのだ。そして、そこから俺にとっては因縁の相手が現れることになった。
「やってくれたな、終わらせる者!」
「お前はロキ!」
歪みの中から出てきた男を見て、俺は身構えてしまう。背中から剣を抜き構えた。
「折角の舞台を台無しにしてくれやがって!」
ロキはそう言うと、俺を睨みつけてくる。
「アリスは下がってろ」
「ユート?」
アリスは不安そうにこちらを見ると、俺の服の裾を握ってくる。
「そう怖い顔するなよ」
「無茶を言うなよ。俺はお前に殺されかけたんたぞ」
「はっ! 生きてんだから良いんじゃねぇか! お前をここで殺すのもアリだが、それじゃあ面白味も何もねぇ。だから」
ロキはそう言うと、指をパチンと鳴らした。そうすると、ロキの後ろに大きな扉が一つ現れた。
「ここで潰すのも楽しくねぇ。だから、お前を次の世界へ招待してやるよ。この扉に入れば、お前は次の世界へ行くことになる。そこで今度こそお前を殺す!」
ロキはそう言って笑うと、その扉へと入って行く。
次への世界へと行ける扉。それはロキの罠なのかもしれない。だけど、俺は行かなきゃいけないんだ。
俺はアリスに向き直ると、真っ直ぐに薄桃色の瞳を見た。
「アリス、聞いてほしいことがある」
「ユート?」
「俺はこの扉を潜って次の世界に行こうと思う。もしかしたら、あの扉はあいつの罠で危険なものかもしれない。だけど、俺はあの扉に賭けたいんだ。だから、俺は行くよ。それで、アリスにはここで待っていてほしんだ。もう君を危険な目にあわせたくないんだ」
俺の言葉を静かに聞いていたアリスではあるが、最後の方は怒ったような表情を浮かべていた。
「ユート、私はどんなことがあってもあなたといると決めました! ユートが何て言おうと私はあなたに付いていきます。その道のりが辿るのが市の道だとしてもです! もし、ユートがそれでも私を置いていくと言うのであれば、私はユートを行かせるわけにはいきません。ユートだけ危険な目にあっているのに、私だけ安全な所で待っているなんて、そんなの自分が許せなくなってしまいます。だから、私も一緒に連れて行って下さい!」
アリスの目はどこまでも真剣だった。揺るがない意思を持っていることがその目からうかがえた。
だから、俺は改めて決意する。彼女をどんなことがあっても護ると。そして、彼女は俺の中ではとても大切な存在でそばにいてほしい人物であることも事実だった。
「アリスはどんなことがあっても俺が護る。だから、一緒に来てくれるか?」
俺の言葉にアリスは満面の笑みを見せながら大きく頷いた。
ああ、守りたいこの笑顔を。アリスを。
俺とアリスは手を繋ぎ合った。あの扉を潜れば次の世界に行くことになる。次の世界ではどんなことが待ち受けているかは分からない。だけど、アリスが一緒ならどんなことがあっても乗り越えられるそんな気がしていた。
俺とアリスは頷き合うと、扉の開けその中に入って行った。
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