第14話「ロキ」
第14話目になります。今回も楽しんで頂ければと思っております。
第14話「ロキ」
「くっくっく、あのバカ女神が選んだ男は話にもならなかったな。なのに、どうしてお前はあんなに苦戦した?」
顔に刺青を入れて、髪を紫色と白色に染めている男は背後に控えている、自身の配下である、ナルザ・バライズは深々と頭を下げた。
「まあ良い。ここからはオレらの時代だ。ここからこの世界を潰す」
ロキが不敵な笑みを浮かべると、足元に魔法陣が展開されていく。そして、そこからビリビリと電気がほとばしり、そこからゴーレムが次から次へと生まれていく。この世界を滅亡へと追い込む存在が。
「ナルザ、お前に命令する。今度こそ、あのバカ女神が選んだ終わらせる者を殺せ」
ロキの声は底冷えするぐらいに低く重みを持っていた。なので、ナルザは再び深く頭を下げる。
「暗黒騎士団第5位ナルザ・バライズの名に懸けて必ずや、あの男の魂を喰らい尽くしてみせます」
ナルザはロキに向かいそう宣言すると、数百とも思えるおびただしい数のゴーレムを従えて、優人を殺すために町に向かったのだ。
「さあ! さあ! 見せてみろよ! お前の力はそんなもんじゃないだろ!」
ロキはもう一度、高らかに笑うのだった。
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ユート、ユート、ユート、ユートッ!
誰かが俺のことを呼ぶ声が聞こえてくる。
誰だ、俺のことを呼んでるのは?
ぼんやりとした意識の中、誰かが俺のことを呼んでいる声が聞こえる気がする。しかし、俺の意識ははっきりとせずどう頑張っても目の前が見えそうにはなかった。
『優人、いつまで寝ているつもりなの?』
今度こそはっきりと声が聞こえた。しかし、先ほどのような安心して鈴音の鳴るような声ではなく、今聞こえたのは、凛とした声だった。俺はこの声を知っている。かつても同じ状況で姿を現したことをよく覚えていた。
『あなたは、この世界を救わなければいけないの。だから、こんなとこで死ぬ何て許さないわ』
分かってる、分かってるんだ!
意識の薄れる中、ロキと言った男はこの世界を滅ぼすために【神々の黄昏】を引き起こすと言ってあそこから立ち去って行った。
俺はそれを止めなければいけないんだ!
やるべきことは分かっていた。しかし、体は糸が切れた傀儡人形のように動こうとはしなかった。
『この映像を見てもそんなことが言えるのかしら』
そう言ってあの女神が見せてきた映像は、今まさに先ほど戦ったナルザと名乗っていた男が、恐ろしいほどの数の得体のしれないモノを引き連れてこの町にやってくるところだった。
『神・ロキはあれを使ってこの世界を滅ぼそうとしているの。そして、アレを止められるのは、この世界ではあなたしかいない』
それも分かってる。分かってるんだよ! 俺は早く起き上がってあいつを止めなきゃいけないって! そうじゃなきゃ、アリスもヴァルも、この世界にいた全員が死んじまう! そんなのを黙って見ていられるわけがないだろうが!
『今一度あなたに言うわ。優人、あなたに女神の加護があらんことを。そして、私達、神たちの暇つぶしにあなたを巻き込んでしまってごめんなさい』
それは謝罪だった。女神が口にした初めての謝罪の言葉。
『だからこそ、あなたには死んで欲しくないの。以前にもこの戦いに巻き込んで死んでいった者はいたわ。だけど、それでも願ってしまうの。死んで欲しくないと。だから、優人、この世界を救って。そして、生き抜いて』
シンプルな言葉ではあったが、実に分かりやすい願いの言葉だった。だから、俺も口にする。その願いを叶えるために。
「俺も生き残りたいし。アリスを護りたい! だから、俺に力を! あんたの願いも、俺の願いも叶えられるような力を!」
俺は懇願にも近い声で女神にそう言い放つ。
そうだ、俺は失いたくないアリスを。アリスが育ったこの世界を。
女神はしばらくの間、無言で何も答えなかった。しかし、逡巡した後女神は口を開いたのだ。
『優人、前にも言った通り力にはそれなりの代償が必要なの』
「分かってる」
女神にも散々言われたし、先ほど俺の剣に宿っていた狼・マーナガルムにもそう忠告されていた。マーナガルムに至っては半分人間をやめろとまで言われたしな。
『力を酷使し過ぎると、あなたはいずれ人間ではない存在になってしまう』
女神の口から驚くべき真実が告げられる。それは、俺が死ぬってことなのか?
俺が思った疑問を口にすると女神は首を横に振った。
『正確に言うと、あなたは死ぬわけではないの。けど、あなたは人間としては生きられなくなってしまう。だからこそ、私はこの力を優人に与えることを悩んでいた。そして、あなたの力にリミッターもかけていた。けど、優人。あなたはこの事実を知って何を望むのかしら?』
女神の問いかけに俺は、少し考えや後自分の望みを口にする。
「俺はアリスを護りたい。だから、仮に俺が人間として死ぬとしても俺は力が欲しい!
それに俺は死なない! アリスを残して死ぬわけにはいかないからな!」
俺の宣言を聞いた女神は、満足そうに微笑んだ。
『良い宣言よ、優人。なら、今のあなたにならこの力を渡しても心配なさそうね』
女神がそう言うと、俺の体は光に包まれていた。
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「……ト……ート……ユートッ!」
俺を呼ぶ声が聞こえる。その声が聞こえた瞬間、俺の心は不思議と安らぎに包まれていく。
この声は俺が一番世界で安らぐ声だろうと感じてしまう。
ゆっくりと目を開けると、そこには涙を流したアリスの姿が映った。
「ア……リス……」
「ユートッ!」
アリスは俺が目を覚ましたのを見ると、感極まったのか涙を流しながら笑うと、俺のことを抱きしめてくる。
「ユートおかえりなさい! そして、ごめんなさい!」
アリスは俺の首筋に顔をぐりぐりと押し付けてくる。まるで、俺の存在を確かめるかのように。
俺は本当にこの小さな女の子に申し訳ないことをしてしまったと思う。
「ごめんアリス。謝るのはこっちだよ。それとありがとう」
俺はアリスに告げると、俺の胸の中で泣いているアリスの頭を優しく撫でていた。俺はアリスをなだめながら、ベッドの横に備え付けてあったイスに座っていたヴァルに向き直った。
「なあ、ヴァル。俺はどれぐらい眠っていたんだ?」
何となく刺された後、ヴァル医務室まで運んでくれたのは分かった。それに手当ても。だけど、どれぐらい時間が経ったのかまでは分からなかった。
「びっくりな事にユートが眠っていたのは、数時間程度だよ。あんな傷を負ったのにも係わらずね。ユートの生命力には驚かされるよ」
「アリスを残して死ねないからな。それと、ガータル隊長のことなんだけど」
俺は言うか言わないか迷ったが、あの場にヴァルは居合わせたのだ。だったら、隠すごとでもないだろう。
俺はそう考えて、ガータルのことを告げようとしたが、その前にヴァルの方が口を開いた。
「ユート。ガータル隊長のことは知っているからもういいよ。それと、ユートに見てもらいたいものがあるんだ」
ヴァルは真剣な顔でそう告げてきたので、俺は首を縦に振った。
ヴァルに連れられてやって来たのは、医務室から二部屋ほど離れた部屋だった。
「アリスはここで待っててくれるとありがたいな」
ヴァルの言葉にアリスは不思議そうな顔を浮かべるが、俺がお願いすると素直に頷いてくれる。
俺はそんなアリスに笑いかけると、ヴァルと共に部屋の中に入った。
部屋の中に入ると、そこには一体の死体が寝かされていた。姿を確認するとそれはガータルであることがうかがえた。
「これは?」
「間違いなく隊長の遺体だよ。そして、それがさっきユートを襲った奴が隊長に化けていたのだと裏付けている」
「確かにいきなり姿が変わったから、そうなんだろうと思ってはいたけどいつの間に入れ替わっていたんだ?」
「それは今更考えても意味がないと思うよ。隊長は現にこうして死んでしまっている」
確かにヴァルの言う通りではあるか。だけど、
「どうして、ヴァルがガータル隊長が死んでいることを知っているんだ?」
「それは、ユートが意識を失った後、あの男が隊長の遺体の場所を告げてから去ったんだよ。何故かは知らないけど」
「でも、ヴァルやアリスが襲われてなくて良かったよ」
アリスやヴァルではあの男を倒すことは愚か、何も出来ずに殺される可能性があったからだ。
「ああ、それなんだけど。何だかあの男はユートにしか興味を見せなかったんだ」
実際、ヴァルは優人が気絶した後に斬りかかろうとはしたのだが、簡単にあしらわれ、なおかつお前に用はないとはっきりと言われていた。
それはきっと、俺が終わらせる者だからだろう。未だにその意味は分からないが、きっと奴らにとっては重大な意味を持っているということか。
「それとユート。一つ謝んないといけないことがあるだ」
ヴァルはそう言うと、いきなり俺に頭を下げてきた。
「ごめんユート! 僕はアリスに傷をつけてしまった!」
詳しい話を聞くと、アリスは戦闘中によそ見をしてしまい、そこでリザードロードキングの攻撃をもらって、毒に侵されたこと。そして、今は解毒出来たがしばらくは絶対安静なことを伝えられる。
「頭を上げてくれヴァル」
俺はヴァルに向けて、静かにそう告げた。ヴァルは渋々と言った感じに頭を上げる。
「アリスがそうなったのも、俺が不甲斐無かったのが原因だ。ヴァルは悪くないさ。けど、ヴァルがどうしても自分のことが許せないって言うのなら、一つだけ俺のお願いを聞いてくれないか?」
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さてと、本当の勝負はここからってことだよな。
俺は数十キロ先にある山を見ながら、そんなことを思っていた。きっと、奴らはそこからやって来ると言った確信めいたものが俺の中にはあった。そして、それは当たっていた。山の方からこちらに飛んでくるおびただしい数の何かが飛来してくるのが見えた。
あれが女神が言っていた、この世界を滅ぼす災害の正体か。
俺は静かの背中の鞘から青色の剣を抜いた。それと同時にそのモノ――ゴーレムは俺の目の前に着地した。その数は優に百を超える。
「はっ! 死にぞこないのお前からのお出迎えとはな。だけど、それも今までだぜ! 何故ならここがお前の墓場になるんだからな!」
そのうちの一体に乗っていたと思われる、ナルザ・バライズがそう言ってくる。
「俺の墓場か。勝手に言ってろよ」
「強がりはよせよ! お前一人でこの数を前に何が出来る!」
「ごちゃごちゃうるせぇ! お前は俺の大事な嫁を手にかけようとしただけじゃなく、死に追いやった! その罪は償ってもらうぜ!」
「うるさいのはどっちだよ! 焼き払えゴーレム!」
ナルザがそう指示を出すと、ゴーレムの目から数百もの数のレーザービームが放たれる。
「解放進化!」
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