第10話「ドゥンナの兵士隊」
第10話目になります。楽しんで頂ければと思っております。
第10話「ドゥンナの兵士隊」
【ドゥンナの大災害】の話を聞いてから一夜が明けた。
俺とアリスはいつものように朝ご飯を食べていた。
「何だか、ものすごく大きなことになってしまいましたね」
「ああ、確かにな。まさか、災害を止めろって言われたことが、こんな大事な感じになるなんて思ってなかったよ」
それに、その一匹のモンスターでそれを引き起こしているってことは、そのモンスターの強さも相当なものだろう。
「それで、俺としてはアリスには安全な所に逃げていて欲しいところではあるだけど」
「ユート、昨日言ったこと分かってないんですか?」
にっこりと笑うアリスだが、その笑顔がやけに怖く見えたのは俺の気のせいなのだろうか? 多分、気のせいじゃない気がする。
「それで、今日はこの後兵士隊の所に行くんですよね」
「ああ、ガータル隊長の所にあいさつに行かないといけないからな。リギンス町長にもあいさつに行くように言われたし」
「私も行きますから」
「分かってるって」
俺とアリスは簡単に朝食を済ませると、兵士隊が使っている宿屋に向かうことにする。
その向かっている最中、店屋を開いているおばあちゃんにアリスが声をかけられている。アリスは、「後で買いに来るね」と笑いかけている。
本当に良く笑うようになったよな。
俺はアリスのそんな姿を見て嬉しく思った。
***********************
兵士隊が使っている宿屋に着くと、その宿屋の目の前にある広場で1人剣を振っている人物がいた。
俺はよく知っている人物だったので声をかけた。
「おい、ヴァル。今日も素振りやってるのか?」
俺の声に気が付いたヴァルは、こちらに振り向くと笑顔を見せてくる。やれやれ、その爽やかフェイスで何人もの女を落としたのやら。
「やあ、ユート。君は今日もデートかい?」
「朝から人をからかうな。俺はガータル隊長に会いにい来ただけだ。そして、アリスは付き添いだ」
「またまた、僕と同い年で結婚しておいて良く言うよ」
ヴァルそう言うと爽やかに笑っている。
「ヴァルさん、おはようございます。夫がいつもお世話になっております」
「おはよう、アリス。お世話になっているのはこっちなんじゃないかな。なあ、町の用心棒様」
「今日のお前は言葉にどこか棘がないか?」
ヴァルが言った通り、俺はこの町で用心棒をしていたのだ。用心棒と言っても危険なモンスターが出たらそれを討伐すると言う簡単なお仕事なのだが。
「いやいや、簡単じゃないと思うけどな」
「まったくです。ユートが帰ってくるまで、私はいつもハラハラとしています」
「だそうだよ、ユート」
「仕方ないだろう仕事なんだから」
俺が拗ねたように口にすると、2人はそんな俺の姿を見て笑っている。
「本当にアリスが、どうして君と結婚したのか僕には分からないよ」
「お前もなのか! どうして、こうも言いたい放題言われなければいけないんだ!」
俺が頭を抱えて叫んでいると、ヴァルが木刀を投げて寄越してくる。
「久しぶりに手合わせをお願いしたいんだけど」
「ああ、構わないぜ」
俺は一つ返事で了承すると、ある程度の距離を取って木刀を構えた。ヴァルも構えているので準備は万端なようだ。
「アリス、開始の合図頼むわ」
「はいはい、また始めるのですね。では、いきます。よーい、スタートです!」
アリスの鈴音の鳴るような声で、俺とヴァルの打ち合いが始まった。
ヴァルはこの兵士隊でも秀才と言われているぐらいの腕が立つ剣士だ。隙を見せればすぐさま決定打ともいえる一撃を放ってくので、常に気を抜くことは出来なかった。
ヴァルが横薙ぎに払ってきた木刀を、俺は木刀で受け止めるとヴァルの足に向けてローキックを放つが、ヴァルは読んでいたのかそれを飛んで避けて、その際に上段から木刀を振り下ろしてくる。俺はそれをバックステップで躱すと、空を切った木刀はそのまま地面を叩いた。
「うーん、やっぱり、ユートは一筋縄じゃいかないね」
「それはお互い様だっての」
軽口を叩き合うと、俺たちは再び真っ向からぶつかった。やはり、普段から鍛えてるだけあるのか、筋力ではヴァルの方が勝り少し俺は押されてしまう。しかし、俺はその力を利用する。
ヴァルの木刀を力を逃がすように受け流し木刀を捨てると、腹に向けて拳を打ち出そうとするが、パンと音が響き途中でその拳を止めた。
「双方そこまで!」
野太い声が響き、俺とヴァルの模擬戦を終了させる。声のした方に視線を向ければ、そこには四十ぐらいを少し過ぎた感じの巨漢な男性が立っていた。
「2人とも見事なものだったぞ」
そう言って俺たちを褒めたのは、ここの兵士隊隊長を務めているガータル隊長その人だった。
「隊長、おはようございます」
ヴァルは慌てて頭を下げている。
「おはようございます」
俺も一応頭を下げておく。俺は兵士隊には入っていないが、仕事の関係で度々この兵士隊にはお世話になっていた。
「町長から話は聞いている。とりあえず、ユートとアリス。そして、ヴァルも私の部屋に来てくれるかな。ここで話す内容でもないからね」
ガータルの言葉に俺たち3人は頷くと、ガータルの後についていく。そうして通されたのはガータルの執務室だった。
二人掛け用のソファーに俺とアリス、ガータルとヴァルの並びで腰を下ろした。
「それで、町長から聞いたのだが、【ドゥンナの大災害】が再来する可能性が出てきたと言うのは本当かね?」
鋭い眼光が俺を射抜く。その様は歴戦を戦士を思わせるぐらいの迫力があった。実際、ガータルは歴戦の戦士なのだ。
「確証は持てませんか、多分数日もしないうちに起きると思われます」
きっと、この大災害がこの世界の滅亡と繋がっている。俺はそんな気がしていた。
「そうか。ヴァル、兵士をすべて集めろ。緊急ミーティングを始める」
「はっはい!」
ヴァルは大急ぎで部屋を出ていった。
「それで、ユート。一つ聞いてもいいか?」
俺は黙って頷く。
「多分、大災害はこれまで以上に危険な戦いになるだろう。前にやって来たモンスター討伐以上のな。それを踏まえてお願いしたい。この兵士隊に力を貸してもらえないか」
「もちろん、最初からそのつもりです。俺もアリスも。こちらこそよろしくお願いします」
「ああ、恩に切るよ2人とも。これから緊急ミーティングを始めるので、2人にもぜひ参加してもらいたい」
「それはもちろん構わないっすけど、ガータル隊長一つ聞いても良いですか?」
「何かなユート」
「やっぱり、ガータル隊長は、【ドゥンナの大災害】の内容については知っているんですよね?」
「ああ、もちろんだ。それに元々この兵士隊はそのモンスターを討伐する目的で強化された兵士隊であるからね。しかし、ここ数年も現れなかったモンスターがいきなり現れるなんて実に奇妙な話ではあるよね」
ガータルが最後呟いた後、ヴァルが戻って来た。
「隊長、全兵士の招集が完了いたしました」
「ご苦労、それでは私たちも行くとしようか」
***********************
「諸君、このドゥンナにSSクラスの危険度を持つモンスターの襲来が予想された」
ガータルの言葉に集まっていた兵士たちからは、驚きと困惑の声が漏れた。
「隊長! そのモンスターはいつこの町に襲来するのですか?」
集まっていた一人がそう質問している。
「正確な日時は分からないが、この数日中だと予想されている」
さらに会場にどよめきが起きた。
それもそうだろう。いきなり、自分が護っている町にSSランクのモンスターが現れると言われているのだ。困惑しない方が無理だろう。
普通の兵士であれば、通常の任務では精々Bランク程度のモンスターと渡り合うのか普通だった。そして、AランクやSランクと言ったモンスターはその中でもさらに上級者が狩ることになっている。それをも凌駕したSSランククラスのモンスターと言われれば、恐怖心などが顔を出しても仕方ないだろう。
「確かに動揺する気持ちや、混乱してしまう気持ちは分かる。だから、私は諸君らにお願いしたいことがある。この町から東に数十キロ進んだところに【オリール】という町がある。そこまでここの町の住人を率いて避難してもらいたい。この町には私が残ろうと思う」
ガータルの話を聞いて、「隊長1人では無理だ!」という反対意見が上がる。それをガータルは片手を上げて黙らせた。
「大丈夫だ。私には強力な助っ人がいる。共にこの町に残って戦ってくれる、ユートとその妻であるアリスだ」
ガータルに名を呼ばれたので、俺とアリスは壇上に上がった。そして、会場にいたものは一斉に息を呑んだ。きっと、アリスの姿を見てだろう。
「誰だよあいつ?」「でも、隣いる女の子はめちゃめちゃかわいいぞ」「確かさっき隊長があいつの妻とか言って紹介してたぞ」「何でだよ! 結婚してたのかよ! すなわちあいつは男の敵というわけか」…………
それからも色々な言葉が飛び交うが、ガータルは気にした様子もなく話を続けていく。
「ユートは以前から我々の任務に同行して、数々の脅威モンスターを倒してくれた、腕の立つ剣士だ。だから、安心してほしい。必ずや私たちがそのモンスターを倒すことをここに誓おう」
ガータルの言葉に、兵士たちは「おおーー」と声を上げた。
それからしばらくしてから、この緊急ミーティングが終了して、今度は住人を集めて、町長からに話で、ここから【オリール】に越すことが話された。住人達もその話に戸惑いを見せていたが、さすがそこは町長と言うべきか、たちまち住人の不安を取り除いてしまった。
あの重度のロリコンクソ爺だと言うことを知っているのは、俺だけなのだろうか?
町長の話を聞いていて、俺としては何とも言えない気分だった。
そして、住人の移住は今日から始まることになった。そして、兵士たちも同伴するため、ほとんどの兵士たちが出払って、兵士たちの数は10人足らずをといった感じになっていた。
「ユート、よそ者のお前を巻き込んですまなかったな」
「いえ、俺はこの町の用心棒なんで、こんな所で逃げたら用心棒の名が廃ってしまいますよ」
「ははっ言ってくれるね。アリス、このバカが無茶しないように見張っててくれよ」
「はい、私がいる限りユートに無茶はさせません!」
アリスの返事に納得したのか、ガータルは俺たちの部屋から出ていく。俺とアリスは、兵士隊の宿屋の一室を借りて休んでいた。
「ユート、大丈夫ですよね?」
「アリスはどんなことがあっても俺が護るよ」
「ユートは私が護ります」
「ああ、よろしく頼むな。アリスがいると安心だよ」
俺がそう言うと、アリスは微笑むのだった。
面白いと思って頂けましたら、ブックマークや評価のほどをよろしくお願いいたします。