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八 六日目 謎の記憶 木曜日

 甘い香に誘われて目を開けると、後頭部にふわふわな感触と真上に天使のように可愛らしい姫野さんの顔が見えた。

 甘い女の子の香が微香をくすぐり意識をはっきりと戻していく。


 「むー! ソラから離れて!」

 「嫌です! 空様が気持ち良さそうに寝ているじゃないですか!」

 「.......ずるいわ。独り占めはずるいわ! 聖、私にも抱かせなさい!」

 「久しぶりなのです、私もう少しだけ良いではないですか!」


 うっ! とわざとらしく声を出して起き上がる.......


 「.......空様! ご気分はいかがですか?」

 「..............んー。柔らかくて最高だった」

 「それは光栄です.......空様」


 とても嬉しそうにしている、姫野さんが変なので、取り敢えずネネに事情を聞く。


 「ネネ、何があったの?」

 「ダーリンが急に倒れたのよ.......ほらダーリン、今度は私の膝で寝なさい」

 「いや.......遠慮しとくよ」


 ちらりとリスティーを見るとテーブルをガシガジかじっている。

 ここでネネのひざ枕とかしたら後で何されるか分からない。

 追いだされるかもしれない。


 「ネネ! 貴方という人は行動が早すぎます! 馬鹿ですか?」

 「良いじゃない! ダーリンがいるのよ! 今ここにいるのよ! それが私にとってどういうことか、まさか聖が分からないと言うんじゃないわよね?」


 また、ネネと姫野さんが理解不能な事を話している。

 この二人はきっと不思議ちゃ.......いやいや、ネネはともかく、姫野さんはそんなはず無い。


 「姫野さん? なんで俺ん家いるの?」

 「空様の家ですから」


 駄目だ。

 姫野さんは不思議ちゃんだ。けどまだネネの方が.......


 「で? ネネはなんでいるの?」

 「ダーリンの家だからよ」


 残念だが.......ネネも不思議ちゃんのようだ。

 


 「リスティー.......学校行こう.......なんか疲れちゃったけど」


 相手にするのも考えるのももう御免だ。

 ネネはセフレになりたいというし、姫野さんもなんか変だし。

 何だかんだで、リスティーが一番落ち着く。


 俺はリスティーの手を取って立たせて、学校に向かう事にした。

 遅刻は良くないからね。


 まあもう、遅刻は確定なんだけど。


 「待ってください! 空様!」

 

 ピタリと足が止まり、振り返る。

 ドクンと心臓がはねあがる。

 この感覚はここ最近何度も経験した事だ。


 覚えがあるのだ。身体が、心の奥底が、勝手に反応する。

 でも。


 「姫野さん.......様呼びやめてくれない?」

 「嫌です! 空様こそ、そろそろ思い出してください!」


 はたと、はてと、はなと気づく。はなと気づくってなんだ?

 まあ良いか。


 「ということは、だ。姫野さんは俺が何かを忘れていると言いたいんだね?」

 「はい。空様は忘れています。でも何を忘れたかを今言うことは出来ません。言っても信じてくれないでしょうし。だから空様が私達のことを思い出してください!」


 私達.......達.......つまり。


 「やっぱり、ネネやリスティーとも会ったことあるんだ!?」

 「それは.......ネネも私もそしてリスティーさんも、忘れていることはあります。空様程ではありませんが.......」

 「ふーん。そうなんだ。凄いね。リスティー行くよ」

 「うんっ!」


 適当に流すことにした。

 嫌だってね。言っていること意味わかんないし、嘘だとは.......まあ言わなくても.......いや。うん。嘘ではないんだろう。

 何故かって?

 逆に聞く。ここで俺が嘘だって言ったらそれでも察しが良いのかよと突っ込むだろ?

 だから、結局。なじられるのなら、信じて失敗したい。

 失敗したくないから。姫野さんが嘘を言っていないことを心から祈ろう。


 でも俺はこの時。心のどこかで懐かしい気持ちをやはり感じていた。

 違和感はさらに続く。


 リスティー、姫野さん、そして、ネネ、三人の言葉に少しずつ、違和感を感じる。


 ーーー......結婚しよう!

 ーーー......様! はい。


 手と足が、止まる。学校へ向けていた意思が無くなる。

 

 ーーー愛してるよ

 ーーー私もよ


 強い目眩と吐き気、それと同時に声と映像がフラッシュバックする。


 ーーー何時までも待ちます。だから必ず帰ってきて下さい。


 大きな部屋で、俺を待ち続ける。麗人。

 同じ部屋で愛を誓い合う、男と女。

 そして、どこか遠い場所で金髪の姫にプロポーズする光景。


 三つの光景が音が頭に流れる。

 

 何処だろう?

 幾人もの美少女に囲まれて幸せそうに笑う......


 ーーーなら、また会いましょう。私達始まりの三人だけは、例え生まれ変わっても貴方を愛しましょう。


 四人で頷きあって、赤い液体の入ったグラスを煽る光景......


 ドクン


 トクン......トクン。


 心臓が、音を立てる。


 モサッと、何か柔らかい物に支えられて、現実に引き戻された。

 俺はそのもさもさの柔らかい物を触る。


 「空様......」

 「......ごめん」


 いやね、触ってからね。気づいたけどね。あれね。おっおっお胸。だったんだよ。

 そのマシュマロみたいな胸をもみもみと......

 これが噂のラッキースケベね。

 じゃあこの後の展開も予想ができるよね?


 「殴られる前に揉みまくる!!」


 モミモミもみもみ。ああ気持ちい。

 もう悔いは無い。


 「空様はやっぱり、胸を揉むのが好きですね」

 「そうね。相変わらずね」

 

 が、姫野さんも、ネネも普通に受け入れた。

 もみもみする手が止まらない。


 「え? 何これ? 怒らないの?」 

 「触りたいのなら触れば良いのですよ、私もネネも空様を受け入れます」

 「マジで? 良いの?」

 「良いですよ」


 ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!


 なにがって? 俺もう止まれないよ? やっちっゃうよ?

 

 「そのかわり! 空様は私の彼氏になってください!」

 「は? 彼氏? でも姫野さんにはもう彼氏が.......」

 「妄想です!」

 「え?」

 「妄想彼氏です。ずっと空様を妄想彼氏にしていました」

 「それって.......え? .......」


 ふぅーっと大きく深呼吸して、ピンク色の思考を外に追い出す。


 「デートしようか!」


 そして行き着いた場所はデートだった。

 俺は誰かと


 「お付き合いしたい! ネネは個人的に好みだし! 姫野さんは一目惚れだし! そしてリスティーもフラグありそうな気が......しないでもない!」


 しないかな~リスティーは無いか。


 「とにかく、デートして楽しかった人とお付き合いする!」

 「フフフ。良いでしょう。この姫野聖、立候補します!」

 「ふふん。そうね。私もやるわ! 勝ったらセフレよ!」

 「むぅ~っソラはリスティーの物だもんっ誰にもあげないもんっ」


 バチバチ視線で花火を散らせる参加達を見て思う。

 モテ期到来!!


 「ネネとはセフレでも良いけど、俺はちゃんとネネ以外とは付き合わないからね」

 「............どうするのよ!」


 ネネが挑発的に姫野さんに問う。

 

 「良いでしょう。並ば私が負けたときは、......空様を諦め身を引きましょう!」

 「良いのね?」

 「はい」


 ネネと姫野さんが頷きあって握手する。何百年も昔からの盟友の用に。

 あ! 姫野さんにお願いして様呼びだけは辞めてもらった。


 で、その日の放課後デートの相手は先ずはリスティーからだった。何でもじゃんけんで決めたらしい。

 テキトウだな。まあ良いか。


 「ソラどこ行くの?」

 「んー。リスティー何処か行きたいところある?」


 正直デートなんて生まれてこの方初めてなのだ。何をするのかも分からない。手探り状態だ。最初がリスティーで本当によかった。

 姫野さんとする前の良い予行練習になる。


 放課後なので遠くには行けないがリスティーが行きたいところがあるならそれに付き合う感じで良いかもしれない。


 「むーっ! ソラが決めてよ」

 

 が、作戦失敗。どうやらリスティーは俺に行く場所を決めて欲しいようだ。

 まあデートは男がリードするものか。

 

 んー。デート。デート。


 「じゃあ。駅前のゲームセンターとかいってみる?」

 「うん! ソラが行くなら行く~」


 デートコースとしては無難だろう。しかも手近で良い。問題はお金だが.......途中で銀行に寄れば問題ない。流石に何万も使わないだろう。


 そして駅前のゲームセンター。


 リスティと共に入口をくぐると耳の鼓膜をつんざく様な爆音。

 リスティーはすぐに耳を両手で押さえて五月蝿そうにしている。ムードなにも無いな。デートにゲームセンターは辞めておこう。


 と、決めたは良いが今日はもうこのまま行くしかない。

 さてとどうするかな?


 リスティと共にぶらぶら店内を歩き回るとリスティーがクレーンゲームの前で足を止めて、大きなくまさんの人形を見つめている。


 「アレが欲しいの?」

 「.......」


 答えない。無視ですよ。はい。とりあえず財布を取り出して小銭を見ると百円玉が三枚あったので一枚投入。

 リズミカルな音楽がクレーンゲームから流れ出してボタンが光る。どうやら縦と横で二回押すタイプのようだ。

 空間把握能力がとてつもなく凄くなければまず取れないだろう。でもまあデートだし.......リスティー欲しそうだし.......


 「リスティー、ほらやって見なよ」

 「うん! ソラ。ありがとう」


 リスティーに声をかけると嬉しそうにボタンを押す。そして一瞬で離した。

 リスティーが?? マークを浮かべている。

 

 「やり方知らないか.......まあそうだよな」

 「ソラ! 動かないよ?」

 

 困った顔でリスティーが聞いてくるが一度離したボタンはもう戻らない。クレーンの位置ではくまさんを取ることは出来ないだろう。が。


 「大丈夫。もう一回今度は長めに押してみな」

 「うん!」


 楽しそうにリスティーがボタンを押すと起動音と共にクレーンが横に動く。するとリスティーは目を見開いて驚いてボタンを離した。

 

 クレーンはそのまま何も無い空間に腕を拡げて定位置へと戻りもう一度腕を拡げる。要するに空振りだ。

 だけど。


 「分かった? 今みたいに動かしてクレーンをくまさんの位置に持っていくんだよ」

 

 そう言いながら俺は百円を二枚投入する。


 「ほら見てて。一回目は縦の軸。ーッとこんな感じかな?」

 「ソラ凄い!」


 喜んで褒めてもらうのはいい気分なのだけどこんなもん。日本人なら誰でもできる。クレーンゲームはここからが難しいのだ。


 「二回目は、さっきリスティーがやったみたいに横に動くからーっとここかな?」


 クレーンが上手いことくまさんの真上で止まり.......ら無かった。くまさん一つ分横を空振り戻って来る。

 まあこんなものだろう。全然悔しくも悲しくも無い。がこれでリスティーもやり方を分かっただろう。


 「ほら、リスティーやってみなよ。もうできるでしょ?」

 「うん!」


 一度実践し二度目は観察していたリスティーはクレーンゲームの操作を完全に覚えて三度目でくまさんの真上に持ってきた。すげー。


 リスティーが期待しながらクレーンを眺めている。俺もちょっと期待している。ドキドキしながらクレーンがくまさんのクビをガッチリ掴んで持ち上げ.......無かった。クレーンの腕はくまさんの重さを持ち上げる程握力が強くなくするするとかすりながら元に戻り失敗。

 リスティがとても落ち込んでいる。


 「ソラ.......取れないよ?」

 「みたいだね」

 「何で? ちゃんと真上だったのに.......」

 

 理由か.......リスティはそこで理由を考えられるから凄い。初心者ならさっきの取れそうな高揚感にしたがってもう一度投入することだろう。

 クレーンゲームはそういう心理を使ってお金を掠めとるゲームだ。つまり一度じゃ絶対に取れないのだ。

 取れる奴もあるけど.......だがそれをリスティーに言うのはなぜか憚られた。


 そしてこのまま騙しながら取れるまで続けさせるのも.......リスティーが楽しみながらやるならよかったけどきっと取れない度にこうして悲しむんだろう。

 なら。


 「リスティー、他のゲームしに行こうよ。クレーンゲームはきっと機嫌が悪かったんだよ」

 「..............うん。分かった!」


 リスティーは何度もくまさんを名残惜しそうに見ながら頷いた。

 欲しかったんだろうな.......


 気分を変えてクレーンゲームの場所からコンピュータゲームのエリアに移動する。更に騒音が激しくなるが段々慣れてきたので気にはならない。


 リスティーが目を輝かせながらゲーム機を見ている。もうくまさんの事なんか忘れているかも知れない。

 まあ良いか。


 やらせて上げたいがどうせまたやり方が分から無いんだろう。格ゲーは絶対にダメだ、ボタンが多過ぎてわからないだろうし、俺もわからない。テキトウに連打すれば攻撃は出来るだろうがリスティーに教えられ無いからつまらないだろう。


 射撃ゲームと、レースゲームだなと当たりをつけて最初にカーレースゲームの前を通るとリスティーの視線が釘付けになった。

 やりたいのだろう。よし。十千円で降ろしたばかりの野口さんを両替機で百円に替えて、レースゲームに入れる。リスティーを運転席に座らせてシングルモード(二百円)でプレイさせる。


 後ろからアクセルとブレーキを教えてあげながらリスティーのプレイを見守る。途中からコツを掴んだリスティーが体ごと動かしながら運転して最終的に十人中三位を獲得した。すげー。


 「ソラ! もう一回!」

 「うん。ほら」


 リスティーに急かされたのでもう一度コインを投入(二百円)しゲームさせる。


 「ソラもやろうよ」

 

 隣をぽんぽん叩きながらリスティーが対戦モードを選択していた。

 俺はちょっと涙目になりながらお金を投入して運転席に座る。


 カウントダウンが始まる時に楽しそうに鼻歌を歌っているリスティーに声をかける。


 「リスティー俺が勝ったら.......」

 「ん?」


 勝ったらデートだし。キス.......いやいや、ダメだろう! 馬鹿やろう!


 「勝ったら、どうする?」


 思い付かなかったので丸投げしてみる。


 「んー。キスしてあげる!」

 「え? マジで? よっしゃ頑張ろう!」


 唇を押さえてリスティーがそういうのでやる気を出す。マジでやろう。

 いつのまにかリスティーに魅力を感じている俺に気がついたが、リスティーは美人だし普通の事だろう。

 うん。普通。


 で、結果。リスティー、一位。俺断トツびり。途中でクラッシュするわ、対面車とぶつかるわ、崖から落ちるわ、車が火をあげるわ。散々だった。うん。知ってた。


 リスティーがめちゃめちゃ笑い飛ばして来る。


 「クスクス、ソラ運転下手過ぎ!」

 「うるせー。こういうゲームは苦手何だよ」

 「クレーンの時も下手だった」

 「クレーンも苦手何だよ」

 「じゃあソラが得意なのは?」

 「あれかな?」

 「じゃあソラ。あれやりたい」


 そんな感じで何故か勝負になって色んなゲームやりまくった。全戦全敗だった。リスティーに操作方法を教えずやったゲームも負けた。悲しい.......さっきからリスティーがクスクス笑って来る。


 やけくそ気味に時計を見たら20時を回っていたので。


 「リスティー、そろそろかえろっか。思ったより楽しめたし、明日も学校あるから」

 「.......うん。分かった。ソラまた来るよね?」

 「そだね、またいつか来ようか、バイトが無い日に」


 因みに今日はたまたまバイトが無かった。

 

 「ソラ。来て」

 「ん?」


 ゲームセンターをでた所でリスティーに呼ばれて近くに行くギクシャクしていたリスティーとの距離も今日で一段と近くなった気がする。


 「動かないで」

 「ん? うん」


 リスティーの言われた通りに動かないでいると、リスティーが顔を近付けて、


 ちゅっ。 (ガサガサ)


 唇を合わせた。その後すぐにリスティーは離れるが俺は異性との未知の接触に驚き思考が止まった。

 湿った自分の唇を人差し指で触っても現実感が湧かなかった。


 え? 今。え? リスティーと? え?


 「何で?」


 口からでた言葉はそんな言葉だった。

 リスティーはクスクス笑って、顔を赤らめて。


 「ソラとの勝負。ワタシが勝ったから!」

 

 そういった。そのままリスティーは楽しそうに笑って。



 「ソラ。帰ろ」

 「う、うん? うん。帰るか」



 今の行為を追求する気にはなれなかった。

 俺は高鳴る胸の音をおさめるために何度も深呼吸したのだった。いきなりは反則だろう!

 リスティーって本当に俺が好きなのかな?


 と考え込む位には衝撃的な事だったが、リスティーの今までの経緯を考えると挨拶程度のものだったのかも知れないと思った。



 ***********



 リスティーと空がキスしたその時、その瞬間を後をつけていたネネと聖がバッチリ目撃していたのだった。


 「ああ! 嗚呼亜。空様のファーストキスが!」

 「辞めなさい。見苦しいわよ。..............ダーリンの初めての相手.......」

 「ネネも落ち込んでいるじゃないですか!」

 「.......そうね。とてつもないショックだわ。でも明日は私の番よ、キスの初めては貰えなかったけれど.......下の初めては貰うわよ」

 「!! そんなぁ、ネネ。酷いですよ」

 「ふふん。早いもの勝ちよ」


 

  

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