七 五日目と六日目 気持ちの揺らぎ 水曜日と木曜日
リスティー、音音さん、そして姫野さんを連れて食堂に来たは良いが。
「あ! カツアゲされて金ないや.......」
ということに今更ながらに気付いた。
「ごめん姫野さん、今日も無理だった。三人で食べてて邪魔しちゃ悪いし俺はいくよ」
「待ってください! 星野様! 今何と?」
「様? え? えっとだからカツアゲされて金ないから今日は無理だって」
そんなに俺に奢って貰いたいのかな?
「カツアゲ.......許せません! 私のお金です!」
「俺の金だよ! どんだけだよ!」
確かに奢るとは言ったが諭吉全部奪われたら貯まったものでない。
「..............処刑ね」
「はい。必ず後悔させましょう。私の物に手を出したのですから」
「後悔? そんな暇すら与えないわ! 特定したら私に任せなさい!」
「フフフ、良いですよ。任せましょう」
と姫野さんが携帯を取り出してテキパキとメールを打った。
誰かにメールしたのだろう。因みにカツアゲ犯はこの後何故か自主退学になるのだが今は関係ない。
「もしかして彼氏?」
「いえ。ただの協力者です。私の彼氏はメールをしてくれませんし......あ! そうでした星野さん。メールアドレスを交換しませんか?」
「ん? うん。だね。せっかく仲良くなったんだからそうしようか、友達一姫野聖。登録っと!」
「っ! 星野さん。私の名前を知っていたのですね! 嬉しいです! もう一度.......」
「むっ! ソラ! リスティーとも交換して」
「リスティーはまず携帯買いに行かないと、今度行こうか」
「うん♪ ソラと行く~♪」
サラっと流れで姫野さんの携帯アドレスをゲットできてホッコリしたのでリスティーにも付き合おう。
あ! その前に昼飯。
「どうしたのよ? 私が奢っても良いわよ」
「音音さん。何か明るくなった?」
「.......ちょっと良いかしら、手を貸して欲しいわ」
「ん? 良いけど」
ブチリ.......
人差し指を針のような物で刺された。
痛い痛い。血が出たし。
それをアムと音音さんが口に含んだ。しかもズルズル吸ってごくりと飲んだ。
「え!? 何してんの? 吸血? ヴァンパイア!?」
「ふふん。運命ね。愛してるわ! ダーリン」
「ダーリン!?」
血を飲んで運命でダーリンで告白?
何もんなんだよ!
「むー!! ソラから離れて!」
「.......貴女も貰うわよ」
「え? っ痛い!」
リスティーの血も吸い出した。
そして。
「..............仲良くしましょう.......貴女名前は?」
「な、な、な! 大っ嫌い!」
そりゃそうだよ。リスティーの反応がただしい。
いきなり血を吸われて仲良くしようと言われてもしないよ。
「そう.......残念ね。でもダーリンからは離れないわよ」
「音音落ち着いてください! 何をしているのですか!」
「確認よ、ヒジリも確認させてくれるわよね?」
「..............私を信じられないと?」
「そのための確認よ」
「..............良いですよ。ならこうしますね」
と姫野さんが唇を噛み切り音音さんにキスをして血を飲ませた。
よく見るとウネウネとしてるディープなやつに見える。
元カノに対する嫌がらせかな?
妙にエロい。
「!? 何するのよ!」
「確認ですが? 音音の方はどうでしたか?」
「違ったらそこにヒジリはたってないわ! 酷いわずっと唇だけは守っていたのよ!」
「まあ良いでは無いですか、仲良く出来ますよね?」
「そうね。ヒジリにその気があるのなら仲良くするわよ」
「では仲良くしましょう」
何だろう.......仲良くするようには見えない。
むしろ犬猿の仲のようなピリピリとした空気を感じる。
「ヒジリはまだダーリンとは?」
「してませんよ.......気付いてくれません」
「ふふん。なら私が貰うわよ」
「.......良いですが独り占めは」
「しないわよ!」
「その気があるのならまだやめてください。早過ぎます」
「どこまでなら良いのよ!」
「そうですね.......キスぐらいなら良いですよ」
「そう.......なら貰うわよ」
ギラリと俺に目を向ける。音音さん.......
「ちょっと音音さん! なにする気?」
「固いわよ。ダーリン。ネネと呼んでくれるかしら?」
といいながら急激に距離を縮めて来るネネ。
「キスしましょう。ダーリン」
「いきなりすぎるよ!」
「良いじゃない。面倒なのよ過程は飛ばしましょう。結果が欲しいのよ、愛して居るのよダーリン」
そういって唇を近づけるネネの息がくすぐったい.......
ドクン。
「待って待って! 確認したいんだけど?」
「何かしら? 早くキスしたいわ」
「ネネは俺の彼女になってくれるってこと?」
俺もネネの事は最初見たときから気にはなっていた。だから不思議ちゃんだけど付き合ってくれるのなら嬉しい。初恋はもう叶わないし......俺に初めて告白してくれた女の子だ。
彼女いない歴イコール年齢だけどもここまで積極的なってくれるのなら俺は......
「そうなら俺は君を.......」
「それはダメです」
何故か姫野さんが止める。酷い自分は彼氏いるのに。だがネネは止まらなかった。
「そう.......そうね.......じゃあセフレで良いわよ」
「それなら良いですよ」
何かとんでも無いところに着地した。
俺の彼女かと思っていたらセフレだった様ですよ.......ちょっと最近流行りのライトな小説風に形容してみたぜ!
「ダーリンキスしたいわ.......ダーリン」
「俺もキスしたい! でもセフレとはしない! 絶対しない! というかセフレなら断る!」
心臓がドクンドクン鳴り響くがネネを突き放す。
「あら? ダーリン、イケずね良いのよ、セフレでもそこから始めるわ、結果が先よ」
「嫌だよ! 俺を好きなら正式に付き合ってよ! そしたら.......俺もネネとなら.......そりゃねそのうちね.......そういうこともね。すると思うけどね」
「そのうちなんて我慢できないのよ! いますぐしたいわ! ダーリン愛してるわ! ダーリンも私を愛してほしいわ! 愛してくれるのなら良いじゃない! 呼び方なんて良いじゃない!」
呼び方.......称号.......
「いや、ネネの事を大切にしたいからこそ不純な関係は嫌だよ。セフレが欲しいならクラスの男にしなよ喜ぶよきっとネネならね.......俺は彼女としかしない! というかちゃんと責任持ちたい」
「するわよ! 出来なきゃ私達が困るわ! 嫌よダーリン......私はセフレで良いのよ、愛してるわ! 愛してるのよ!」
ちょっと超展回過ぎてついていけない。
その時姫野さんの携帯に着信が来た。
「時間切れです、ネネ、もう良いでしょう。まだ早いのですよ。焦ってはいけません。カツアゲ犯見つかりましたよ?」
「そう.......わかったわ.......ダーリンいつでも待ってるわ、ダーリンがよければいつでもよ」
歩き去ろうとするネネの背中に懐かしさと切なさを覚えて。
「ネネ!」
「何かしら? する気になったのかしら? 良いわよ」
言葉に騙されるな、ネネはキチンと俺を好きでいると思う.......初めて告白された。
だから俺も誠意をもたないといけない。
「ネネ! 俺と付き合ってくれ!」
「「!!」」
思ったより簡単に言葉が出た。初めての告白だ。それにネネは顔に陰を落とした。
「残念ね。それは出来ないわ、ダーリン.......私はダーリンの彼女にはなれないのよ」
「何で!?」
「色々あるのよ、でも信じてほしいわ私はダーリンを愛してるわ運命だもの、だから私を好きになって良いのよ。怯えずに私を愛してほしいわ」
怯える? 今俺が怯えてるのか?
「好きよダーリン.......」
好きなのになれない.......
告白は失敗に終わった。
人生初だったのに.......
「愛してるわ」
その姿が懐かしい.......懐かしい? 俺はネネを知っている?
「ネネと俺ってあったことあるの?」
「無いわよ.......」
「いや何してんだ俺、馬鹿じゃん初めて話すネネに告白してうまくいく訳ないじゃん、馬鹿だな。何で行くと思ったんだろう.......愛してるなんて思ったんだろう.......馬鹿過ぎる」
ああ馬鹿過ぎる。
「..............ネネ、気持ちに答えて良いですよ」
「ヒジリはどうするのよ、それじゃあ意味ないわ、私は!」
「大好きな人から告白されたのですよ、なら考えるべきはその方の事だけです。今を生きてください! これからがネネにとっての本番なのでしょう? それに私は一瞬でも好きな人が悲しんでいる姿は見たくありません」
「そうね貴方はそういう女よね。でも.......」
「失敗しても良いですよ。そうとだけいっておきます」
「分かったわ.......貰うわよ! でも悲しいのは嫌よ」
「分かっています.......」
ん? ん?
ネネが俺を見てくる。
「ダーリン気が変わったわ、是非付き合ってほしいわ、ダーリンの初めての彼女にしてほしいわ」
「俺まだ交際経験無いって言ってないんだけど?」
「そうね。不思議な女の子は嫌かしら? 隠し事の多い女の子は嫌かしら? ダーリンが嫌なら良いのよ」
自分で分かってるのかよ。
「何かね、ネネを見てると心がざわつくんだ。幸せな気持ちになるんだ。声を聞いて綺麗な声で.......」
「ダメ!! ソラダメ!! 付き合っちゃダメ!!」
口を挟んだのはリスティーだった。
それに対して俺が言う前にネネがため息をついた。
「ならダメね、仕方ないわ、やっぱりセフレになるわ」
「何でだよ!」
あっさりと引き下がってしまった。
「ダーリンとの認識の違いね、そこまで彼女という枠に興味は無いのよ、愛があれば何でもいいわ、でもなりたくない訳じゃ無いのよ.......その娘の反対じゃ仕方ないじゃない」
「そうですね.......やはり早かったみたいですね.......いきましょう」
「そうね」
姫野さんとネネが食堂を出て行った。
残された俺は謎の疲労感と胸のどきどきが止まらなかった。
「ソラ.......怒ってる?」
「いや。よくわからない.......あの二人どんな関係なのかな? リスティーはわかる?」
「..............教えない!」
「言うと思った」
多分心当たりはあるのだろう。そして言えない事情もあるのだろう。
『愛してるわダーリン』『運命だもの』
ネネの言葉は心に刺さったままになった。
リスティーとあったときに感じた物をネネにも感じた。
そして勢い余って告白まで.......
「うーーーーっ!! 俺の馬鹿!!」
バイトを終えて家でがたがたと思いだし身震いする。
「ソラ.......いつまでやってるの?」
ジトメを向けて来るリスティーがいつの間かにちょっと大きくなった真新しいテーブルの前について料理を載せている。
「リスティー.......俺の一生一代の告白が失敗に終わったんだよ.......少し思い出して悶々しても良いじゃん」
「むーっ。ソラは絶対誰とも付き合っちゃダメだからっ!」
誰ともって酷い話もあった物だ。
「まあしばらくは良いよ。結構来るものがあったし.......でもセフレが良くて彼女が駄目なんてネネって一体......」
「セフレって何?」
セフレ.......の説明をしたら確実に殴られるしもしかしたら食事もくれないかもしれない.......
「セフレな、セック.......シャルフレンドの略で意味は性的なゲフン」
あれ?
セクシャル? 性的? セックス、性行為、
性的な友達と性行為の友達とで意味があまり変わらない。
「セフレはあれだ、エッチの関係だけの友達の意味だ。違うかな? 友達なのにエッチする.......かな? つまりネネは友達以上にはなりたくないけどエッチはしたかったと.......」
何物なんだ!? ネネは、音音音音は何物何だ?
「ソラはそんなにエッチしたいの?」
「したいかしたくないかを男子高校生に聞いちゃダメだよ.......」
意外と冷静なリスティーに驚きつついたって平然に答える。
「セフレ.......リスティーがなってあげようか?」
「.......え?」
だけどもリスティーまでそんなことを言い出したからびっくりする。
「ソラがしたいなら良いよ! セフレになってあげる」
だからセフレ、セフレうるさいわ!
ん?
「じゃあ恋人になってよ.......リスティーも可愛いし全然.......」
「か、可愛い.......馬鹿! エッチ! 変態! ソラの馬鹿ぁ!」
殴られたこてんぱんに殴られた。
怒るところがおかしい気がする。え?
何なの? 彼女よりセフレの方が清純なの?
意味がわからない。
そもそも、リスティーが来てからというもの分からないことだらけだ。
今日のネネしかり、姫野さんしかり.......
姫野さんの彼氏か、良いな。あの金髪イケメン.......はぁ。
「ソラ?」
自分で殴った所を指すってくれながらリスティーが俺の名を口にする。
少しだけ馬鹿らしくなって軽く笑う。
「何でもないよ。セフレにはならなくて良いからね!」
強めに言っておく。
いくら童貞の俺でもお情けで捨てたくない。
というか俺は! 出来ることなら! 姫野さん.......
やめよう。悲しくなるだけだ。
初恋は、はかなく終わった.......ただそれだけの事だ。
その日夢を見た。
大きな白の大きな一室で、三人の女性と.......その.......あの.......アレをね? アレしてたんだよ。分かる? わかんなくても良いけど.......まあ有り体にいえば、セックスゲフンゲフン。
しかも、その内の二人がリスティーとネネに似ていた。そして俺を優しく微笑みながら姫野さん似の少女が.......
そんな夢を見た。
うん。ただの欲求不満だろうな。
金曜日の朝だ。
今日さえ乗り越えてしまえば明日からはまた.......と、勢いよく玄関を開けたら。
ガン!
と何かにぶつかった。
うおぉ!
と、ひびりつつ、恐る恐る何にぶつけたか確認すると。
「ダーリン。痛いわよ」
「あ、ごめんネネ」
ネネがいた。あの音音音音音、がいた。ん? 音が一つ多いな。
「って! 何でいるんだよ!」
最初に言っておくがこのアパートにネネは絶対に住んでいない。
と思う。
きっと、多分、そうだったら良いな。
「そんなの良いじゃない! それよりダーリン、お風呂貸してくれるかしら?」
「ん? お風呂? 良いけど今リスティーが使ってるよ」
「リスティ? ああ、あの子ね、なら良いじゃない。入るわよ」
良いのかな?
良くない気がするけ.......ど!?
何故か俺の腕を掴んでお風呂に入ろうとしはじめる。ネネ。
「どうしたのよ、ダーリン? 入るわよ?」
「良いの!?」
言っておこう。俺はここで引くようなチキンではない。というか夢とかリスティーとか昨日のこととかで溜まりすぎてて止まらない。それに何度も言うがネネは可愛い。クラスでも1位2位を争うぐらい可愛い。
1番は姫野さんだが......姫野さん........
それでも可愛い女の子とお風呂に入れるなんて!
「良いに決まってるじゃない、私の体はダーリンの身体なのよ」
「え? じゃあおっぱいとか揉んでも良いのかな?」
「良いわよ」
ネネが薄い胸を突き出してくれる。
これは.......マジなのか!?
「じゃあ、彼女になってくれる?」
「それは.......出来ないわ.......でもダーリン.......私は、ダーリンを愛しているわ! それだけは信じて欲しいのよ」
心がざわつく.......下ネタ言ってふざけていても.......
ネネにダーリンと言われると心がざわつく。
「ねぇ。ネネ、俺達あったこと無いかな?」
「無いわよ。ダーリンに会ったのは音楽室が始めてよ」
「いやいや、俺は高校初日からネネの事知ってたよ」
「そうね.......私は気付かなかったわ.......許してほしいわダーリン.......」
俺の首に手を回して熱い息をかけるように.......言葉を発する。
何故かネネに謝られたら何でも許してしまえる気がする.......
おかしい.......あったことがある気がする。遠い昔どこかで.......リスティーに行かないでと、止められた時のように.......ネネにダーリンと言われると何かを.......
「ダーリン、良いのよ。ダーリンがしたいことを私にしてほしいわ、それが私のしたいことなのよ」
「うっ! 頭が!」
頭痛が.......何かが?
意識が遠くなった。
平行感感覚がなくなり.......そのまま倒れる。
「空様!!」
ふっくらとした何かに身体を押さえられた。
そのまま心地の良い香を嗅ぎながら深い眠りに着いた。