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5 三日目  好意の有無 月曜日

 「美味しい?」

 「まずい。塩と砂糖をまた間違えてるから」


 やけにしょっぱい卵焼きを突きながら、リスティーに答える。


 「むー。しょっぱい方が美味しいもんっ」

 「卵焼きは甘い方が美味いだろ!」


 間違えているのかと思ったらわざとそうしていたのか。どうやら根本的に好き嫌いが違うらしい。


 「星野さん。私の卵焼きは甘いですよ。食べてみますか?」

 「いや、遠慮しておきます」


 姫野さんの申し出を断腸の思いで断る。彼氏を差し置いて食べるなんて事は出来ない。


 「そうですよね。私の手作りなんて嫌ですよね。すいません」

 

 手作りだと!? 食べたい! めっちゃ食べたい!


 「嫌って訳じゃ無いですよ。ただ彼氏に悪いかなと思って」

 「彼氏? ああ彼氏ですね。大丈夫です。彼氏は気にしませんから、嫌で無いなら食べてくれませんか?」

 

 気にしないのか、心の広い彼氏だな。俺だったら絶対嫉妬する。がここは貰っておこう。


 「食べちゃ駄目!」

 「何故お前が止める」

 「その人嫌な人だから食べたらきっとお腹壊す」


 スゲー失礼なことを言う奴だ。が、一理あるな、もしかしたら朝の事を根に持っていて仕返しをしようとしてるのかもしれない。リスティーが何もなくここまで毛嫌いするとも思えない。やんわり断ろう。


 「そうですか.......なら」


 何故か卵焼きを半分食べた姫野さん。


 「これで食べてくれますか?」


 見事に安全性を証明してもう一度俺に聞く。っておい! それって間接キ、キ、キス。

 これは食べるしかない! ここで引いたら男じゃない。


 「駄目! きっと半分だけ毒入ってる」

 「流石にそれは無いだろ! 姫野さん。お言葉に甘えさせて貰います」


 リスティーにツッコミを入れつつ、姫野さんの卵焼き(間接キス)を貰うために箸を動かそうとして気付いた。


 「はい。どうぞ」


 姫野さんが箸で摘んだまま俺に食べさせようとしている事に、これは! 良いのか? 箸って今さっき井村さんが口に含んでいたブツだぞ。


 「星野さん。食べないんですか?」


 ゴクリ。後の事など知るか! もう食べてやる。クラスの男ども俺はやるぞ!


 「むー。パクリ。 モグモグ。んー。甘すぎる」

 「リスティー!! お前なんて事を!!」


 リスティーが卵焼きを横取りしやがった。ムカついたのでゲンコツぐりぐりの刑を執行した。


 「ソラ痛いよ」

 「痛くしてるんだよ! 馬鹿!」


 反省の色が見えないので更にぐりぐりする。


 「星乃さん。まだありますよ。食べますか?」

 「良いんですか?」

 「もちろんです」


 しかし天使姫野さんは、リスティーを怒ることもせずに弁当を細い指で少し押して


 「どうぞ」


 といってくれた。しかしそれを、リスティーがまた横取りしてバクバクと食べてしまう。弁当をすべて食べたリスティーは


 「んー。美味しかった」


 と素直な感想を残した。俺はリスティーの頭に強めのゲンコツをする。


 「リスティー。食べ過ぎだろ、全部食べたら姫野さんが食べる分無くなっちゃうだろ」


 リスティーが食べる事は何となく予想してたがまさか完食するとは思わなかった。


 「流石に謝れよ。お前が悪い」

 「うう。ごめんなさい」


 流石に悪いと思ったのかちゃんと謝罪をしたので頭を撫でる。すると嬉しそうにする。

 コイツは犬だな。


 「姫野さんごめんなさい。コイツ、馬鹿なんですよ。食堂代持つんで許してもらえませんか?」

 「星野君が奢ってくれるんですか!?」


 両手を胸の前で合わせて驚く星野さん。


 「はい。何でも良いですよ.......」


 といってから、金が無い事を思い出して汗をかく。まあリスティーに出させれば良いか。


 「なら、明日のお昼で良いですか?」

 

 俺的には、大歓迎だ今日ちょうど給料日でお金もおろせるし。だが


 「でも、それじゃあ今日はどうするんですか?」

 「実はもう一つお弁当を作ってきたんです」


 といって大きめのお弁当を取り出す姫野さん。きっと彼氏のだろう。そういえば彼氏と食べないで良いのかな? 余計なお世話か、彼氏よ呪われてしまえ!


 「でも少し多いので星野さんも食べますか?」

 

 その言葉にリスティーが敏感に反応している。


 「リスティーの弁当だけでお腹いっぱいになっちゃいました。ごめんなさい」

 「そうですか.......」


 空になっている弁当を見せて空笑いする。同じ事を何度もする俺ではない。姫野さんのためとはいえ、二食も奢るわけにはいかない! 生活が出来なくなる。


 「ソラ~。もう食べられない食べて」

 「そりゃあそうなるだろう。自業自得だ馬鹿」


 姫野さんの弁当を殆ど丸ごと食べたリスティーが根をあげて俺に懇願して来る。


 「食べて~」


 断りたい所だが、リスティーは今日、わざわざ俺の為に早起きして弁当や朝食まで用意してくれている。


 「仕方ないな。次はするなよ」

 「うん!」


 半分程残っている弁当を受け取り。食べていくと。


 「ソラ。これも」

 

 リスティーが卵焼きを箸で食べさせてくる。ので食べる。


 「美味しい?」

 「まずい」

 「むー。嬉しい癖に」

 

 俺の分より弁当の量が少なかったためにすぐに完食した。


 「星野さん。お腹いっぱいだったのでは無いんですか?」

 「あ!」


 適当に言い訳した事を忘れていた。


 「まだ食べられるのですね! 私のお弁当も食べませんか?」

 「それは.......」


 流石に弁当を二つ食べたので今度こそ本当にお腹一杯だ。


 「やっぱり私の手作りなんて食べたくありませんよね」

 「.......一口で良いのなら」

 「もちろんです。良いですよ。どうぞ」


 また箸で卵焼きを差し出してくれる姫野さん。どんだけ卵焼きを食べさせようとしてくるんだろうか? 卵焼きになんかこだわりでもあるのかな? 分からないけど取り合えず。


 「リスティー。ほらくれるって」


 リスティーに押し付ける事にした。俺はお腹一杯だからもう無理だ。


 「え? クリスティーナさんが食べるんですか?」


 驚く姫野さんだが、別に悪い事では無い筈だ。


 「姫野さんが食べきれないんですよね。責任持ってリスティーが食べますよ」

 「そうですよね。そうでした。クリスティーナさん食べますか?」


 やると思ったがプイッと顔を背けた。


 「要らない」

 「おい! 食べるよな!」

 

 無理矢理にでも食べてもらう。元々はリスティーから始まったことだ。責任は取ってもらう。


 「星野さん。良いですよ。残りは......彼氏に食べてもらいますから」

 「その方が良いですね。彼氏も喜びますよ」

 「そうですね。.......食べてくれたら喜ばせる自信はあったのですが」

 

 なんか複雑そうだが、他人の恋路に口を挟むつもりは無いのでスルー。

 弁当を片し終えてもまだ1時間ほど時間がある。大体の人はは自習やら宿題やら、談笑やらをして時間を潰すのだが、俺はいつも仮眠に当てている。だって終わった後仕事があるし。話す友達もいないし.......。


 「それじゃあ、教室戻りますね」

 「星野さん。クリスティーナさんに学校の事説明するのでは無いのですか?」

 「説明っても、俺達もまだ入学して一ヶ月じゃん。する程の事を知らないんだよな~。あの担任、そういうことは担任の仕事だろよ」


 思い出したらムカついて来た。無理矢理押し付けて来て一ヶ月前に入ったばかりの新入生に何を説明させる気だよ。

 ふと姫野さんが笑っていたのが気になった。


 「どうしたんですか?」

 「いえ。星野さんが初めて敬語を辞めてくれたので」

 「っあ! すいません」


 なんか脈無しだと思ってから油断してる気がする。


 「いえ。もっと砕けてください、同級生ですよ」


 俺も中学の時は敬語なんて同級生相手にに使ったこと無かったが。


 「なら、姫野さんも敬語を辞めてくださいよ」

 「私は気にしないでください。癖なので」


 まあ敬語使わないで良いなら使わないけど。


 「姫野さん。じゃあ敬語辞めるからね。同級生相手に使うのも変だし」

 「はい。さんも要りませんよ」

 「それは.......良いよ。じゃあ俺は教室に戻るから」


 さっさと教室に戻って寝たいのだ。彼氏持ちの脈無し美少女と話していても虚しいだけだし、リスティーはめんどくさいし、喋りたかったら家で良いし。


 「星野さん。折角ですから、クリスティーナさんと学校を回るのはどうですか?」

 「うん。良いと思うよ。じゃあ俺は戻るね」

 「え?」


 分かってる。俺も行けと言いたいんだろう。だが、そんなもんは一人で十分だ。三人でぞろぞろと歩くのは馬鹿らしい。さっさと寝るに限る。


 「ソラは戻るの? ならワタシも戻る」

 「うるせー。リスティーは今から姫野さんと学校探検だ」

 

 着いて来ようとするリスティーを追い払う。コイツと教室に戻ったらまたクラスの連中に囲まれる。後、悪目立ちするし。


 「星野さん。寝るのなら、そこに日陰がありますよ、外の方が気持ちいいと思いますよ」


 確かに屋上で睡眠するのは気持ち良さそうだ。姫野さんは気が利くな。どっかの銀髪少女とは訳が違う。


 「ん? そうするよ。じゃあ俺は寝るから、リスティーは学校探検に行くこと。良いね」

 「えー。ソラと行きたい」

 「クリスティーナさん。あんまり邪魔すると嫌われちゃいますよ。行きましょう」

 「むー。分かった」


 なんだよやっぱり仲良いじゃん。よかった。はしごを降りていく二人を見ながら思ったが。心地好い風に誘われて眠ってしまった。最近はリスティーがいるから良く寝れてなかったのだ。


 ーーーあれ? 俺姫野さんに寝るなんていったけ? まあ良いや


 そうして春の心地好い風にさらされながら良い夢を見た。


 


 ついつい熟睡してしまった。空が夕焼けになってる.......


 「今何時だろう?」

 「16時ですよ」


 俺の疑問に答えてくれたのは天使の笑みを浮かべる姫野さんだった。

 盛大に寝過ごして午後の授業をまるまるサボったみたいだ。


 「良くばれなかったな」


 お腹の上に乗って寝ているいるリスティーを払い落として立ち上がろうとして気付く後頭部に感じるふわふわな感触に。姫野さんにひざ枕されている!


 「良く寝ていたのでつい.......すみません。寝苦しかったですか?」

 「いや......めっちゃ心地良いよ」

 「フフフ、良かったです。ならもう少しこのままでいかがですか?」

 

 嬉しそうにニコニコ微笑む好きな人にそういわれれば断れない。何よりこの心地好い場所から動きたくない。今はもう彼氏持ちとか忘れよう。ただ奇跡のようなこの時間を。優しい姫野さんの好意を受けとろう。そう思った。


 「必要ないとは思いましたが星乃さんのノートを変わりに取ってお来ましたよ」

 「おお! 姫野さん。ありがとう」


 姫野さんが手にしてるのはまさしく俺のノートだった。


 「サボったのに、なんか良いことだらけだよ」 

 「疲れていたのですよね。休憩も大事ですよ」


 なんか。姫野さんが本物の天使に見える。光が見えるもん。


 風の音を聞きながら夕焼けの空を眺めていると。

 姫野さんが恐る恐るという感じに口を開いた。


 「星野さん......その......私は星野さんに嫌われることをしてしまったのでしょうか?」


 姫野さんの声はとても震えていて涙が混じっているようにも聞こえた。まあ姫野さんの性格なら誰かに嫌われることなんて無いだろうし当然だ。

 それにしても、だ。


 「俺が姫野さんを嫌ってる? って事は無いよ。ちょっと彼氏の件は残念だったけどどうせ俺にチャンスは無かったし.......姫野さんはいい人だよ。って言うか何でそんなこと思ってるの?」

 「だって! 星野さん話しかけても何時も無視するではないですか! 一緒に帰ってもくれませんし.......私星野さんが嫌がることをしてしまったのかと思っていました」


 なぜだろうこうしてひざ枕されながら空を見て話しているとこころが綺麗になったように感じる。だからか普段な恥ずかしくて言わないようなことを口走る。


 「それは、姫野さんが余りにも可愛すぎるから緊張しちゃって、声が出なくなるんだよ。それに.......一緒に帰らないのはアルバイトの仕事があるし.......」

 「嘘です! 無い時も帰ってくれませんでした」


 まあ、同じ方向に帰ってるんだ。ばれてるか。

 どうごまかそうかと思っていたらぽたぽたと雫が落ちてきたそれが姫野さんの涙と分かったらもうその涙をはらしたくて本当のことを言うしかなくなった。


 「本当は姫野さんと帰りかったけど。俺何時も姫野さんに気を使ってもらってるのに何も言えないから迷惑だと思って、それに姫野さん何時もかっこいい人や可愛いに囲まれて眩しいから近寄れなくて.......だから姫野さんを嫌ってたわけじゃ無いよ」

 「理由はそれだけですか?」

 「いや.......まだある。けど流石に言いたくない」


 一度泣かしてしまった姫野さんに嘘は付きたくなかったけれど。この時の俺には、姫野さんを本気で好きできらわれたくなかったからなんて言えなかった。それを言う勇気は無かった。


 だって言ったところで姫野さんにはもうーー彼氏がいるのだから、ズキンと痛む心を俺は抑えた。


 「そうですか。なら聞きません。ですがいつか聞かせてください。貴方の全てを私は知りたいのです」

 「え? それって.......」

 「すみません。星野さん私にも言いたくないことはあります。今はちょっとタイミングが悪いようですし、星野さんに嫌われてはいなかった、私はそれだけで我慢しておきます。何時か続きを聞かせてくださいね?」

 「.......ん? うん。何だかよくわからないけど分かったよ。要するにこれからは仲良くしようって事だよね?」


 俺がそう結論すると姫野さんはニコニコ笑った。


 「どうやら星野さんは察しが悪い様ですね」


 と。自分的にはかなり察し良い方だと思うのだが。


 「.......ソラ、一緒に帰ろ~」

 「お! 起きたんだ。って俺バイトだから.......ってリスティーも来る?」

 「良いの?」

 「うん。喫茶店の方だから」


 連れて来いと言われてたし。問題ないだろ。


 「じゃあ、俺達帰るから。リスティー。早くしないと遅刻になるから急ぐよ」


 身体を起こして姫野さんに別れを告げてさっさと下校してしまう。先生にでも見つかったら厄介だ。


 「星乃さん!」


 が姫野さんに呼び止められた。急いでるのに.......


 「私も一緒に帰って良いですか?」

 「うん」

 「ワタシはやー」

 「本当ですか!」


 リスティーにゲンコツを一つ入れる。


 「彼氏は良いの? 流石に怒るでしょ?」

 「怒りません。大丈夫です」


 信頼しあってるんだなとなっとく。俺なんかじゃ怒る必要も無いのかも知れないけど、信頼の方で納得しとこう。悲しくなるから。

 

 場所は変わって喫茶店。姫野さんがついて来たがったので、リスティーと一緒に連れて来た。どうせお客様が一人も来ないだろうしマスターも喜ぶだろうと思って。

 そしたら。


 「星野君。応援するとは言ったけど、二股は駄目だよ」


 と怒られてしまった。そういえばマスターは俺とリスティーが結婚をすると思ってるんだった。

 

 「っわ! 美味しいです」

 

 マスターの入れたコーヒーを飲んでそういって微笑む、姫野さんは天使のようだ。


 「何の豆を使っているか分かるかな?」

 「え? 豆ですか?」

 「分からないのに美味しいと思ったのかな?」

 「す、すみません。勉強不足で」

 「マスター!! ちょっと来てください」


 姫野さんに冷たく当たるマスターを奥に呼ぶ。


 「何で折角のお客様を脅してるんですか! 普通の客は使ってる豆の種類なんてわかりませんよ」

 「お嬢さんのライバルだったらそれくらい分からないと駄目だと、おじさん思うな」


 ライバルじゃあ無いし。なんか暴走してるし。マスターってこんな人だったのかよ。


 「マスター。姫野さんは俺とリスティーの友達ですよ」

 「お嬢さんの友達だったのか! お嬢さん勘違いしちゃったよ」


 現在進行形で勘違いしまくっているんだがそれは良いか。


 「とにかく、普通にしてください」

 

 何故か俺がマスターを叱り付けるという。珍しい構図が出来てしまった。普段は真面目な人なのに。

 マスターと一緒にカウンターに入ると。

 

 「ソラ。座って」

 

 今度はリスティーが騒ぎ出した。


 「今は着替えたばっかりで遊んでられるか! まだ仕事あるわ!」

 「むー。なら手伝う」

 「客に手伝わせる店があるかよ、大人しく座って待ってろ」


 やっぱり連れて来たのは失敗だったかも知れない。五月蝿くて仕方ない。

 

 俺はいつも通り、テーブルやカウンターを拭いて、床の掃き掃除とモップをかける。殆どお客様が来ないから汚れてはいないがホコリはあるし、細かいゴミもある。

 色々掃除して帰る準備をしていくのがポイントだ。

 30分程して落ち着いたら今度は暇になるのでリスティーの隣に座る。


 「マスター。ソラに甘いコーヒーをください」

 「はい。分かったよ」


 それを見てリスティーがマスターに注文をする。


 「リスティー。お金は?」

 「あるよ」

 「なら良いか」


 昨日、払わされたので警戒するが、リスティーに限って守銭奴的なことをするとは思えないのできっと俺の分も払うだろう。

 .......お金を使わなかったから日本にまで来たのだが、リスティーがお金をケチる所を見たことが無い。


 「ソラは何で働くの?」

 「何でって、働かないと金が手に入らないだろ」


 いきなり、何を当たり前なことを聞いてくるんだコイツは。そういえばさっきからへんだな。何かリスティーが。ずっと悩んでいるようなきがする


 マスターが入れてくれたコーヒーをちびちび飲みながら答える。

 甘くて美味い。そういうえばリスティー、甘いコーヒーを頼んでた。

 リスティーも気を使えるんだよな~。お風呂とか沸かしてくれるし、弁当だって作ってくれる。なんか奥さんみたいだな。


 「お金ならワタシがあげるよ!」

 「いらねーよ。馬鹿」

 「何で? 沢山あるよ?」

 

 リスティーの目を見て分かった。


 「お前。本気で言ってるだろ」

 「うん」


 ため息が出る。死ぬほど呆れる。ムカつく。


 「お前。俺が金目的だと思ってる訳?」

 「思ってないよ」

 「なら、そんなにぽんぽん渡そうとするなよ。お前の金はお前の物であって俺の物じゃないんだから、それは決して俺が使っていいお金では無い。リスティーの両親がリスティーの為に残したお金なのだ。それを分かってるから今まで誰にも使わせなかったんじゃ無いのかよ」

 「ソラが必要なら、良いんだもんっ」


 全然分かって無いみたいだ。今まで良く使わなかったものだ。


 「じゃあ俺が全財産寄越せって言ったらどうするだよ」

 「欲しいの? 良いよ」

 「良くない。全部受け取ったらまずリスティーを追い出すからな」

 「ソラは、そんなことしないもん」


 しないけど。そうじゃなくて。


 「もうワタシのお金はソラの物だよ」


 コイツのこの好意の根源が全く分からない。


 「いつまで居るのか分からない奴を頼れるか馬鹿」

 「ずっと一緒に居るよ、家族でしょ」


 家族だから、俺の分のお金も出すのか。そういわれれば納得出来なくも無いな。家族って便利な言葉だな。


 その後も淀みなく会話が弾み.......弾み、いつの間にか閉店時間になっていた。

 既に夜のトバリは落ちて、真っ暗だ。


 「姫野さん。駅まで送るよ」

 「いいですよ。今日は楽しかったです。また一緒に帰って貰えますか?」

 「良いけど.......彼氏は?」

 「気にしません」

 「.......気にすると思うけど」

 「気にしません」

 

 二度、はっきりと言われては、仕方ない。でもあんまり、姫野さんを連れ回していると誤解されかねない。藪は突かないほうが良い。


 「またいつか帰りますか」

 「いつかとはいつですか!」


 いつかといいつつ、それっきり戦法がかわされただと!? 手強い。ん? 


 「リスティーと帰りたいんだよね?」

 「.......そうですね」


 そうだよね、俺と帰りたい訳じゃないよね。知ってた。期待してない。


 「リスティー姫野さんが今度一緒に帰りたいってどうする?」

 「やー。帰りたくない」

 「おい、リスティー。お前そのままだと誰とも仲良くなれ無いぞ、折角だから姫野さんと仲良くなっとけ、そうしたら絶対イジメられないから」

 「星野さん。聞こえてますよ.......」


 クラス一、学校一のアイドルである、姫野さんと仲良くなることで自分を守る作戦だ。所世術である。人気者の影に埋もれてしまえばそこそこ楽しい学校生活が送れるだろう。


 「イジメられても、ソラがいるから良いもん」

 「俺がお前を助ける分けないだろ! 悪め立ちする、俺がイジメられるわ! 良いから姫野さんと仲良くしとけ」

 「やー」

 

 リスティー相当姫野さんを嫌いになったみたいだ。


 「姫野さん。リスティーに何したの? まだあって間もないしこいつ馬鹿だけど理由も無くこんな事言うとは思えないんだけど」

 

 怒るときは怒るが許してくれる時は許してくれる。リスティーはちゃんと弁えてるしここまで毛嫌いするとは思えない。何があったのか超気になる。


 「フフフ。気になりますか?」

 「いや全然気にならない」


 気になると思ったけど、やっぱりどうでもいい。もうさっさと帰ろう。


 「リスティー。帰るぞ」

 「うん!」

 「星野さん。クリスティーナさん。また明日会いましょうね」

 「うん。またあした」

 「べー」

 

 したを出していたリスティーにはゲンコツを入れておいた。


 

 


 



 

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