日常の崩壊の前触れ
八話目です。今回はちょっと長いです。
最初思ってたのとなんか違うかな~って思いつつ書いてます。
戸森のおかげで許斐の緊張も解けてきたので本題に移ることにした。
「なあ許斐、お前はなんでこの部に入ることに決めたんだ?」
「・・・えっと、僕小さい頃から体が弱くて・・・・・入学が遅れたのもそれが理由なんですけど、よく家や病院で安静にしてないといけなかったんです。その時、よくテレビを見てて、楽しかったり悲しかったり感動したり、いろいろなことが感じることができたんです。この学校は部活動に入部しなきゃいけない決まりじゃないですか。運動部は体の関係で入れなかったので、横井先生に文化系の部活をいろいろ聞いていたんです。そこでこの部活を知って決めたんです。」
許斐の話を聞いて思うところは皆あるようだが、一つ。
・・・この子が一番この部活にまじめに入部してたぁー!
まじかぁ、ここの部員の大体が適当に入ったやつ、て言うか全員そんなんだろ。
だけどこの純粋な理由に対し、私たちの部活動のあり方を素直に言っていいものだろうか。
「でも~、私たち基本ダラダラしたりゴロゴロしたりするだけだよねぇ~。」
「だよね~。むしろしっかり映研部として活動したことのほうが少ない・・・」
七瀬と一条が許斐の話を聞いたにもかかわらず、真実を口にした。
途中で一条の口を封じ、その先を言わせないようにした。
「バッカ野郎!今の話からしてもっとちゃんとした部活として入ろうとしてるのはわかんだろうが!実際の私らのこと言ったらだめなのくらい分かるだろうが、バカ二人!」
一条と七瀬は、ええぇ~だのひどいよ~だの言っているが無視。
許斐のフォローをすべくなにか弁明しようとしたが、
「あの、大丈夫です。そのことは山田先生に聞いてます。聞いた上で入部したんです。」
顧問の山田からどう説明されたかはわからないが、とりあえずこのピンチは何とかなった。
一条と七瀬が、ほらほら大丈夫じゃーんと開き直っているので二人の頬を引っ張り制裁を加えた。
「でもよかったの?理由からしてもっとちゃんとしたところに入りたいんじゃない?」
「いいんです。なんとなくなんですけどこの部以外に入るつもりないんです。」
矢野の質問で、許斐がこの部の在り様を知りながら入部したことはわかった。
これで残る疑問はただ一つ・・・許斐があの自称神様とどう繋がっているのか。
実際許斐と自称神様の外見は瓜二つであり何かしらの繋がりはあるはずだ。
「なあ許斐・・・お前、あの神様とは違う奴なのか?」
許斐を除く他の奴らの顔に緊張が走る。
異様な空気となった中、許斐は何のことかわからないようであった。
「えっと・・・佐々羅さん。それってどういう・・・?」
「お前はあの時私たちの前に現れた、ミルファとは違う奴なのか?」
「・・・」
許斐は俯いてしまってどんな顔をしているかわからない。
いきなり変な質問をしてしまって、混乱しているのだろうか。
「・・・ふふっ・・・あははははっ!あったりー!君たちの想像通り、僕はミルファ。夢でも嘘でもない、正真正銘神様だよっ!」
いままで大人しかったのが噓のように楽しそうに笑う許斐・・・いや、ミルファか。
「許斐のときの、あれは演技だったのか?」
「違う違う。あれも正真正銘許斐みつきだよ。この体も元は許斐みつきのものだからね。」
「つまり、ミルファが許斐君の体を借りているってことかな?」
「そうそう、でもその気になれば君たちの体も借りられるけどね。」
とんでもないことを言い出したものだ。
人ひとりの体を借りられるということは、その人の人生すらもミルファの好きにできるってことじゃないか。
「とにかく、あんまり許斐みつきのときに僕に話しかけるようなことはやめてね?この子には僕のことは全く教えるつもりはないんだからさ。」
まるでさっきの話が脅しのように聞こえるお願いだった。
「この間聞けなかったこと、聞かせてもらうぞ。お前の目的はなんなんだ。なんで神様なんてものがこんなところにきてるんだ?」
「そうだね・・・僕は君たちの日常を壊しに来たんだ!」
「なっ・・・ふざけるなよ!そんなことする権利がお前にあるはずがない!」
「それって、まさか映画とかである殺し合い・・・とかじゃないよね?」
冷静に一条がとんでもないことを聞いた。
それにミルファはニコリと笑い、
「そんなことしないよ~。僕はこれから結果を与えるんじゃなく、きっかけを与えるからね。その中には、僕の力でありえないことが含まれるかもしれないけど。」
「例えば、どんな?」
「フフッ、君たちは目で見たものを信じたい人たちだったね。そうだなぁ・・・例えば見た目だけ幼くしたりとか・・・」
その言葉の後、隣にいたはずの七瀬が急にいなくなった、ように見えた。
よく見ると七瀬は縮み、小学生くらいの大きさになっていた。
「身体的特徴を入れ替えたりとか・・・あとこれはあんまりする気はないけど・・・」
机をはさんだ先にいた、矢野と一条が立ち位置が変わったように見た目が変わっていた。
髪の長いはずの矢野が、一条くらいの髪の長さになっていて顔が出ていた。
逆に一条は、矢野のように髪が長くそれが鬱陶しいのか手で前髪をあげていた。
普段から顔を出すようなことをしなかった矢野が、前髪をあげるようなことはしない。
つまりはミルファの言った通り、身体的特徴が入れ替わっている。
そしてそのミルファは手をパチンと叩き、
「・・・存在自体を消したり・・・とかね。」
何を言っているんだろう。
ミルファが手をたたいたことで他の奴らがもとに戻り、特に変わったことはなかった。
「ねえ、遥ちゃん。ここに誰かいる?」
そういってミルファは私を指さした。
全く持って何を言いたいのか理解できなかったが、七瀬の発言に背筋が凍った。
「えっと、私の隣だよね・・・誰もいないけど。」
存在が消えていたのは私だったのだ。
私はここにいるのに誰も私を認識していない・・・ミルファ以外は。
あまりの恐怖に涙が溢れてきたところで、またミルファが手をたたいた。
「ごめんね、早苗ちゃん。怖い思いをさせちゃったね。」
他のみんなはいきなり私が現れたように驚き、そしてこの事実に恐怖しているようだった。
「だ、大丈夫、早苗ちゃん?」
七瀬が心配そうに聞いてきた。
ここで心配させるわけにはいかない・・・大丈夫と言おうとした、言ったはずなのに。
「大丈夫なわけない。怖い怖い怖い怖いよ。ヤダヤダヤダヤダ・・・消えたくないよ・・・」
自分の声とは思えないほど恐怖におびえた声をしていた。
涙が溢れて止まらなくなっていた。
怖くてたまらなかった・・・が、ギュッとなにかに包まれる感じがした。
「今のは本心を言葉にしてもらったよ。早苗ちゃんは大丈夫って言いたかったようだけど。」
意識の隅でミルファの声が聞こえたがうまく考えられなかった。
ようやく落ち着いてきて、周りが見えてきた。
どうやら七瀬と戸森が私に抱き着いていたようだった。
私の反応がよほど苦しそうに見えたらしく、二人の表情が重く悲痛なものだった。
「今みたいなことはする気はないけど、僕がいろいろできるってことはわかってもらえたよね。」
これで皆がミルファの存在を再度確認し、敵であると認識した。
「じゃあ今日はここまでにしておくよ。じゃあまた、五人が揃ったときに。」
そう言ってミルファが扉から出ていこうとしたとき戸森がそれを止めた。
「ちょっとまって。一つ聞かせて・・・あんたの目的は私たちの日常を壊すことって言ったけど、最終的にあんたは私たちをどうしたいの?」
「・・・誰かが望んだ願いをかなえるためだよ。」
振り返ることもなく言い、部室を去っていった。