光になった少年
二回目の投稿です。
よろしくお願いします。
一
彼は、走るのが好きだった。
彼はまだ好きになった理由を、分かっていない。ただ「速い」ということは彼にとって、最高の価値に値するものだった。
だから何処に行くにしても彼は走った。小学校に行くときも、力の続く限り走ったし、家族と行った旅行先でも、出来るだけ走って移動した。
そんな彼を両親は、不思議に思っていた。自分達は「走る」という行為に、これ程の興味を抱いた事は無い。だから息子の興味を理解し得ない。が、同時にそれは、嬉しくもあった。何かに夢中になれる、という事は素晴らしい事だ、と両親は思っていたからだ。
そうした両親に見守られながら、彼は走り続け、高校生になり、全国大会に出場する程の実力をつけたのだが、彼は大会など眼中に無いと部活にも入らず、独りで毎日、毎日走っている。
それを周りの人間は理解出来ないと疑問に感じ、学友の何人かで授業の合間に集まり、彼に訊いた。
「どうして大会に出ないの」
「お前は全国に行ける力があるのに……」
彼は問いに答えたが、周りの人間は、その返答を聞いて、益々、首を傾げる事になった。
「僕は競うのに興味は無いんだ。……ただ、なりたいんだよ。……光に」
そう言った彼は、空を真っ直ぐに見つめていた。
二
二年後、彼は大学生になった。
どれだけ走ったのか、彼自身にも分からない位に走り、ついに世界を見渡しても彼に追い付ける者はいなくなっていた。
そんな彼に、世界中の人間は興味を示し、幾度も取材を受けた。そんな折、彼は、日本のテレビ番組で、走ることになった。
収録当日、彼は今までに無い、体の好調を感じ、気持ちを高揚させていた。これなら自分は達する事が出来るかもしれない。今までに走ったのは全てこの為だから全力で走ろうと……。
彼は、自宅に迎えに来てくれた車に乗り、競技場に着くと、すぐさま運動着に袖を通して、グラウンドへ行く。テレビ関係者に挨拶をし、その数十分後、撮影は始まった。
彼は、競技場に真っ直ぐ引かれた線の間に立ち、青空を見上げ深呼吸をし、クラウチングスタートの体勢になる。
彼の傍らに立つ人間は、黒色の拳銃を模したスターターを天に向け、構えている。
彼は思う。この引き金を引かれた時に僕は走るんだ。彼は、喜びに口元を弛めた。
競技場は静閑に包まれ、彼には少しの時間も、永遠に長く感じた。その時、沈黙を破る銃声が、辺りに響き渡り、彼はそれをきっかけに、全力を込め走った。
――誰よりも速く――風よりも速く―――音よりもはやく――――光よりも―――――
走るにつれ、風を切る音は消え、風景は色褪せ、そして時間は間延びして、ゆっくりと流れて見えた。
それでも尚、彼は足を動かし続ける。と、一瞬何か「光って」彼以外の、全ての事物は静止した。いや、彼の周り――たくさんの、白く輝いている球体だけが動き、彼と同じ速度で、空中を飛んでいる。
それを目を凝らして見ていた彼は、何だかその球体を自分の様に感じ、地面を走るのを止め、輝球を追いかけて行った。
――何処までも遠く、何処までも速く、真っ直ぐに――
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