ラストソルジャーズ
バシャア!
冷たっ!あーもう!何だよ!何だこれ!?椅子に縛られてんのか!
「起きろ」
軍人の格好をした男のガラガラ声が頭に響く。
状況から察するにこれは尋問か。最低だ。薄暗い部屋。ガラス越しに何人もの男達が俺を見ている。
「一体何だよ!俺は何もしてない!そ、そうだ。2人はどうした!」
「落ち着け。質問に答えろ。その方がお前にも彼らの為にもなる」
ガラスの向こうの将校の服を着た男が喋る。
かなりの巨体だ。シュワちゃんをもう一回り大きくした感じだ。
「何だよ!ふざけんじゃねえ!」
ドゴッ!
すぐ横にいる男に鳩尾を殴られた。気持ち悪い。吐きそうだ。こんなに一方的に殴られたのはいつ振りだろう。
「ハア、もう一度アドバイスをやろう。私の、質問に、答えろ。いいか?では早速本題に入ろう。貴様はサイボーグか?」
「あ、ああ」
本当は違うけど、一度ついた嘘はつき通さないとな!
「ならば!何故!貴様からは何の金属物も感知されんのだ!」
将校が机を叩き鼻息を荒くする。
まあサイボーグじゃないし当然なんだが。
「さあな。俺も知りたいよ。だがサイボーグなんだ。なんなら証拠も見せてやる。手を自由にしてくれたらな」
将校は少し考えた後
「いいだろう。だが私たちに危害を加えようとしたら貴様の部屋に毒ガスを流すからな」
将校の合図で横の男が手錠を外してくれた。
そんじゃいっちょかましますか!
ゆっくりと立ち上がり将校に見えやすい様に右手を掌を上に向け差し出す。
ファイアを唱え掌に炎を灯す。
ガラスの向こうが騒がしくなる。
「ふーむ。お前がサイボーグである事は認めるとしよう。だが何故私たちの所へやってきた?」
炎を消して椅子に座る。
「人を探してる。俺をこんな風にした奴を。あんたらかと思ったが違うみたいだな。もう用は済んだ。ここから出て行くから2人を返してくれ」
将校がニヤリと笑った。
「そうか。だがお前には私がそんなお人好しに見えるのか?残念だが私たちの基地に入ってきた者を"生かして"帰す事はできん」
おいまじかよ!
勘弁してくれ!こんな展開ばっか嫌になる!
「この地方にはとある綺麗な花が咲いているんだ。ある時一人の旅人がその花をちぎって家に持って帰った。その花を見て旅人の娘は大喜びをしてそいつの世話をした。だがある時花が娘に話しかけてきたんだ。だがその声は娘にしか聞こえなかった」
急にどうしたんだ?何を企んでるんだあの将校は?
「娘はそれ以来花が一番の優先順位になった。両親が酷く気味悪がって花を捨てようとしたのさ。そしたらなんとまあ!娘は両親を殺したのさ!私の花になんて事するのって。そして最後には娘は花の声に従って大暴れしたあげく自殺でその人生を終えた」
怪談か?しょうもない話しやがって。
「そんな話がある。だが花は本当に話していた訳ではない。花から出ている極少量の粒子によって娘は幻聴を聞いていたのさ。そして私達はちょうどその粒子の実験をしていたんだ。だが一つ困った事があってね」
将校は愉悦を含んだ声で話を続ける。
「まだ人体実験が済んでいないんだよ。仲間に試すわけにもいかなくてね。そこで君の出番だ!君は科学の発展の為の犠牲となるのだ!」
クソ野郎!ふざけやがって!
横にいた男がガスマスクを装着した。
ああやばい!こうなったらあいつのガスマスクを奪うしか!
突然ガラスの向こうの部屋に一人の男がやってきた。
男は将校に掴みかかった。
「どういう事ですか!話が違います!彼らは生きて返すんじゃなかったんですか!」
「落ち着け。よく考えるんだ。こいつがこの場所をバラしたらどうなると思う?一気に外の奴らがやってきて終わりだ!」
「なぜそこまで人を疑うのです!?あなたは一度でも誰かを信じた事はあるんですか?!」
「っ...黙れ!お前は何も分かってないんだ!」
「とにかく!あいつを殺すんなら私も死にます!それはあなたにとっては痛手でしょう?」
将校が大きいため息を吐きこちらに視線を向けてきた。
「分かった。だが奴らにはあの作戦に参加してもらう。もし成功したら奴らを解放しよう」
「ありがとうございます!」
呆然としていると将校に掴みかかっていた男が俺の所にやってきた。
「大丈夫か?ついて来い。仲間と部屋に案内してやる」
「その...ありがとう。だがあんたは誰だ?なんで俺を助けてくれたんだ?」
「そうか...さっきはマスクをつけてたからな。俺さ。さっき共にグレーマンと逃げただろ?俺はフィストだ」
「さっきのガスマスク男か!いやー恩にきる!でも何で助けたんだ?」
「別にお前だから助けた訳じゃない。あれ以上は許せなかっただけだ」
...なんかちょっと悲しい。
フィストに続いて尋問部屋を出て住宅施設が集まっている広場に出た。
と言っても住宅はほとんどボロボロでまるでスラムのようだ。
しかもここの広場だけ壁もほとんど錆びている。
ここに来るまでに通った部屋は全部真っ白な部屋ばかりだった。
「何でここだけボロボロなんだ?」
「うむ...説明すると長くなるんだがなぁ」
フィストが説明を始めようとした時ふと目に付いた出来事があった。
広場の隅の方で兵士2人が1人の男性をリンチしているようだ。
「おい!早く金くれよー!てめぇらみたいな外からやってきたくせにろくに戦いもしない奴らの為に俺たちは働いてるんだぜ?感謝の気持ちは必要だよなぁ?」
「すいません!お願い致します!もう生活がいっぱいいっぱいなんです!」
「ああ?お前みたいなクズの生活なんか俺らにはどうでもいいんだよ!早く金をよこせ!オラッ!」
「おい。あれほっといて良いのか?」
「何とかしたいのだがな。今は無理だ。あんな風になっているのには原因があってな。ここラストソルジャーズでは外からやってきた者は奴隷同然だ」
奴隷か...どうにかしてやりたいが今の俺には無理だな。
「父なんだ」
「えっ?」
「父のせいであんな事になっているんだ。父が差別を推進しているんだ」
「そうなのか?じゃああんたの親父さんは相当高い地位にいるんだな」
「俺の父はさっきお前を尋問していた将校だよ。つまりラストソルジャーズのリーダーさ」
「えっ」
そうだったのか。だからあの将校はフィストの言う事を聞いたのか。
衝撃の事実を聞いた後俺が過ごす事になる部屋に案内された。部屋の四隅にベッド、中央にはテーブルが置いてあるだけの簡素な部屋だ。部屋には既にレントとラスがいて今後どうするかを話し合っていた。
「ああ!カインさん!無事だったんですね!」
「本当に心配したんだから!」
二人が俺の元へ駆け寄ってきた。
「二人も無事だったか!大丈夫か?お前らは何もされてないか?」
「ええ。少しど突かれたりはしましたが大丈夫です」
「フィストがあたし達を案内してくれたの」
「そうだったのか。ありがとうフィスト」
「まあ、必要だと思ったから行動したまでだ。お前達はしばらくこの部屋で待機しててくれ。用があれば呼びに来る。それまでは部屋を出るんじゃないぞ」
そう言うとフィストは部屋から出て行った。
その後3人で今後について話し合い、フィストが来るまで待機しようとなった。
話し合いが終わってすぐ俺達は眠ってしまった。
きっと疲労が溜まっていたんだろう。