ガスマスクってかっこいいよな
「起きて下さいー朝ですよー」
んあーなんだよー俺はまだ眠いんだ。寝させてくれーどーせまたあの糞女神だろう。あいつには魔法はきかんがイライラするし一発ぶっ放しておくか。
俺は布団からだるそうに手を出し目はつぶったままフリーズを唱えた。
「ええ!なんですかこれ!段々身体が凍っていくんですけど!誰か!助けて!」
そう言い終えたレントはすでに動かなくなっていた。
なんかレントの叫び声が聞こえた気がするがまあいいか。もうひと眠りだ!
「ちょっと!起きてカイン!レントさんが凍っちゃった!なんとかして!」
ラスは俺の身体をバシバシと叩く。
「なんだよー俺はまだ眠いんだ!寝させてくれ!」
俺がそんな事を言って布団の中に身を隠そうとしたらラスがライフルで俺を思い切り殴りやがった。
「痛ってー!何すんだよ!」
「そんな事どうでもいいからレントさんをなんとかしてあげて!」
俺が何かしたのか?
そう思ってレントを見るとそこには綺麗な氷の彫刻があった。
「これは…見事な彫刻だぁ…勿体無いが助けてやろう」
俺は弱めのファイアーを唱えレントを溶かしてやった。
「ビックリした!急に身体が凍ってくから!死を覚悟しましたよ!」
レントは身体を小刻みに震わせている。
「本当に!一体なんなの!?私の見間違いじゃなかったらカインの手から火が出たように見えたんだけど!」
しまったー!やってしまった。どうしよう?このままじゃまずい。嘘をつくしかない!こいつら、というかこの世界の人間に魔法が使えると知られたくない。もしかしたら魔女狩りみたいな事されるかもしれないしな。
俺は少し暗い顔をし口を開いた。
「実は俺…サイボーグなんだよ。ある朝気づいたらサイボーグに変えられていた。そのせいで手から火や水が出るようになってしまったんだ。今でも調節は難しくてな。俺はこんな風にした奴を見つけるために旅をしてるんだ」
ちょっと無理があるかな?
「そうだったんですか…僕も何回かサイボーグを見た事があります。尤も殆どは気が狂っていましたが。カインさんはすごい精神力ですね」
あるぇぇぇぇぇ?
「あたしも噂には聞いていたんだけどまさか本当にいるとわね。なんだかごめんなさいね。誰しも辛い過去はあるよね」
お、おう。なんだか心が痛い。
まあいいか。さて目も覚めてきたし出発するか。
俺たちは荷物をまとめ再び歩き出す。
「では出発!」
「ねえレントさん。もしかしてカインって結構おちゃらけた人なのかな?」
「うーん。多分ね。この世界じゃああいう人は少ないから僕は歓迎だけどね」
ーーー
ーー
ー
今俺たちはとあるビルの前にいる。
そのビルはところどころ塗装が剥がれてはいるものの綺麗な黄色のペンキで塗装されている。
高さは大体15階ほどだろうか。
「それで、ここにリージョンバンカーがあるんですか?」
「その筈だ」ラースのおっさんが嘘をついていなければだけどな。
「んじゃ早速行くか!」ドシドシとビルの中へ入る。
「こんな簡単に入っていいのかな?」
「んーカインさんって結構頑固だからなー。仕方ないんじゃない」
カインを追って二人もビルへと入って行った。
ビルの中は近未来的な丸いデザインが特徴的なオフィスになっていた。
「えーと、ここだ。あの棚の下だ」
そこはおそらく会議室だったのだろう、大きな机と椅子が中央にある。
そしていくつかの椅子にはぐったりと骸骨が座っていた。そういやレントはともかくラスは骸骨を見てもビビらないんだな。もっと酷い光景を見てきたのだろうか。
「じゃあ1、2、3!で動かすぞ。1、2、3!」
棚の下にはハッチが隠れていた。
「いかにもシェルターって感じですね」
「ああ、ではいざ行かん!」
ハッチを開けると下へと続く梯子がかかっていた。
どれくらい深いのだろう、底は見えない。
梯子を下り始めてから5分程経った頃。
「ねえ、まだ着かないの?もうクタクタだよ!」
「まあまあラスちゃん、そんな怒らずに」
「そうだ。顔にシワができるぞ」
「うっさい!余計なお世話よハゲ!」
俺ハゲちゃうんやけど。良かれと思って言ってやったのになぁ〜。
再び黙々と梯子を下り始める。
それからまた5分経った頃だろうか。
ようやく、地面へと到達した。
そこには一本道の通路の奥にドアが一つ。
「なんだか不気味だね」ラスが少し顔をこわばらせつぶやいた。
ドアの向こうには綺麗な正方形の形をした部屋が一つ、椅子が5列程配置され正面にはプロジェクターでオリエンテーションの映像が流れていた。
ドアが左右に列ごとにあるが全て完全にロックされていた。
「まるで何かに誘われてるみたいだ」
「縁起でもない事言わないでください。こういうとこには大抵グレーマンがいるんですから」
「グレーマンか...ゾンビみたいな奴だろ。そんな奴等俺がこの剣でちょん切ってやるよ」
グレーマンーー感染により理性を失った人間で肌が灰色に変色している。いわゆるゾンビみたいな奴だ。
ゾンビなら前の世界で戦い慣れてるから大丈夫だろ!
「本当にやめて下さいよ。あいつらはいつも集団行動をしますから、いくらカインさんでも死んでしまいすよ」
そうなのか?どうせ10匹ぐらいだろう楽勝楽勝!
ドアの奥にはロビーのような部屋があり二階建てになっていた。
それぞれ左右の壁にドアがありいくつも部屋がある。
食堂室や遊戯室、人が住んでいたであろう部屋がドアのガラスごしに伺える。
その時「ガタッ!」
「ひっ!」ラスが小さい悲鳴をあげる。
二階から音がした。
できる限り小さい声でレントに話しかける。
「何だと思う?グレーマンか?」
「おそらく違います。それならここ1階にもグレーマンがいるはずです」
「なら調べに行こう。しばらく待っててくれ」
「気をつけてくださいね」
俺はゆっくりと階段を登り音がした場所へ向かう。
このドアの向こうだ。ガラスごしには何も見えんが。
じゃあ行くか!
ドアをゆっくりと開ける。中は小さな個室だ。
所々家具が置いてあるだけだ。
「気のせいか」
そう言って後ろを向いた時後頭部に冷たい鉄の感触がする。
「お前は何者だ。答えろ」
男が俺に質問する。
落ち着け、落ち着け。
「俺はカイン。ここにはグレートウォール市長ラースの情報でやってきた」
できる限り無感情を装った声を作り出す。
「何の為に?」
「なあ、そっちを向いてもいいか?話をする時は相手の目を見ろと母ちゃんに教わってな」
「駄目だ」
チッ、油断のない男だ。
「俺はラストソルジャーズに会いにきたんだ」
「そうか」
何故だ?何故黙る?何をしている?耳をすませろ。
指を動かしている音だ...まずい銃を撃つ気だ!
自らにプロテクトの魔法をかけその上にサンダーをさらにかける。
「ぐえええええええええええっ!」
男が痺れ少しの隙ができた。
素早く体を反転させ男を壁に叩きつける。
剣を首筋に当てる。
男はガスマスクを着け特殊部隊のような服装をしていた。
「待て待て!やめろ!それ以上壁に押しつけるな!頼む!お前の為にもなる!」
「そんな事を言われて止める奴がいると思うのか?」
「くそっ!もう知らんからな!」
ガスマスクの男がそう言ったすぐ後にボタンを押す音が聞こえた。
「警報発令!全要員は今すぐ所定の位置へ移動してください!」
アナウンスが警報音と共に大音量で流れ出す。
「カインさん!上で何が!?早く下へ!グレーマンが来ます!」
「お前!何をした!」
「今はそんな事を言っている場合じゃないだろ!早く逃げるぞ!」
男が俺の腕からスルリと抜け1階へと走って行った。
あいつは一体誰なんだ!とにかく俺も下に行こう!
一階に降りるとさっきの男がラスとレントに銃を向けられていた。
「おい!お前こいつらの仲間だろう?銃を降ろすよう言ってくれ!」
「一体どうなってるんですカインさん!」
ああ、ごちゃごちゃうるさいな!
「銃を降ろせ。今はグレーマンの対処が先だ。俺がここでグレーマンの相手をする。その間にお前らは逃げろ!」
「でもそんな事言ったってーー」
「いいから逃げろ!」
俺の声を合図に3人は走り出した。
さーて、ゾンビ共をぶっ倒すか。
ドドドドド!!
段々奴等の足音が近づいてきた。
音から数を推測するんだ...1、2、3...
えっ。いや。ちょっと待って。きっと俺の聞き間違いだろう。もう一回耳を澄ませて...
っあれー?おかしいぞ。なんか10体とかそういうレベルじゃなくて3桁レベルの足音がするんですけど。
俺が恐ろしい事実に気づきつつあった時、目の前のドアが勢よく開いた。
ーーそこには数え切れないほどのグレーマンが。
「おいいいいいい!多すぎだろぉぉぉぉ!なんじゃこりゃーーーー!!」
叫びながら突進してくるグレーマンをひたすら斬る、斬る、斬る!
時に盾で、時に魔法で、時に己の肉体で。
「いてっ!ちょっと待って!もう無理!ごめんなさい!許してっ!」
体勢がほんの一瞬だけだが崩れる。
その瞬間様々な記憶が脳裏をよぎる。
ああ、これが走馬灯なんだなって。俺死ぬんだなって。
眼の前にいるグレーマンが俺に向かって鋭い爪を振り上げた。
さよなら、みんな。
バンッ!
銃声と共にグレーマンが崩れ落ちる。
振り向くとそこにはガスマスクの男がいた。
「遅いと思ったらこのザマとは。さあ、行くぞ!走れ!こっちだ!」
この瞬間ほどガスマスクが頼もしく思えた事は無い。
ガスマスクの男と共に狭い通路内を右に左にひたすら走りまくる。
そしてようやく安全な部屋へとたどり着いた。
そこにはラスとレントもいた。そして部屋の外では大量のグレーマンがドアを叩きまくっている。
「死ぬかと思った...何だよあの数聞いてねぇぞ」
俺は力なく呟いた。ガスマスクの男は糸が切れた人形のように座り込んだ。
「バカなんだね、カインって」
「ラスちゃん。やめてあげてよ」
ううっ、心に刺さる。さてと
「おい。お前があいつらを呼んだのか?」
「あ?」
ガスマスクの男は何の事かわからないといった様子だ。
「だーかーらー、お前がボタンを押してあいつらを呼んだのかって聞いてんだよ。日本語聞こえますかーって日本語じゃねえわ」
「何を言っている。お前のせいで奴等が来たんだ。お前が俺を壁に押し付けたろ?ちょうどそこに警報ボタンがあったんだよ。
あ、そう言われればそんな気が。
「えっとーそのーみんなごめん!」
「いや、まあ僕は生きてさえいればいいんで」
「あたしはまあ、少しイラついてるけど。いいよ」
ガスマスクの男が立ち上がる。
「所でお前達は何しに来たんだ?」
「それはかくかくしかじかで」
俺は今までの経緯を話した。
「そうか。だが俺にはどうする事もできん...ちょっと待て」
ガスマスクの男が壁際へ行き無線機らしきものを取り出した。
「はい...ええ...分かりました」
「あいつ、一体どこの奴なんだろ?」
ラスが首をかしげる。
「分かりません。あんな格好のひとは見た事がないもんで」
「どうなんだろうな?助けてくれたし悪い奴じゃないと思うんだが」
俺たちがヒソヒソ話をしていると男が壁を探り始めた。何をしているのか聞こうと思った時急に壁が扉のように開き始めた。
「こっちだついてこい」
それだけ言うと男は先へ進んでいった。
「ど、どうする?」
「行くしかないんじゃないですか?」
「そうだよ。どうせ此処にいても何も出来ないし」
「そうだな」
意見が一致した所で男の後を追い始める。
しばらくすると凄く小っちゃい駅のような場所に着いた。
「乗れ」
目の前のモノレールを男が指さした。
俺たちは不安を感じながらもモノレールに乗り込んだ。
男が乗り込み無線機と会話してするとモノレールが動き始めた。
........俺こういう誰も喋らない空気大嫌いなんだよー
30分ほど経った頃俺達はモノレールを降りドアの前に立っていた。
男が再び無線機で合図をしている。
すると扉が開いた。と同時に銃を構えた兵士の様な奴らが目に飛び込んできた。
突然、レントとラスが地面に倒れこんだ。
何だ!俺がそう言おうとしたとき眠気が急に俺を襲う。
段々狭まって行く視界の隅にガスマスクの男がドアの向こうの兵士と言い合いをしているのが見えた。