死闘
「ホープが来るぞ!」
全員が目をパチクリとさせ、口をあんぐりと開けた。そして最初に言葉を発したのはフィストだった。
「あなたは確か、グレートウォール市長のラースさん。今が重要な会談ということは理解していただけていると思うのだが。それでそのホープというのは?」
ここまで走ってきたのか、ラースは汗でぐっしょりだった。カウボーイハットで顔を仰ぎながら呼吸を整える。
「ホープってのは、昔俺がいた組織なんだが...。説明すると長い、ざっくり言わせてもらおう。奴らは兎に角自分達以外の人間を殺すか、支配下に置こうとしてる。そいつらが軍隊を連れてここへ向かってるんだよ!」
ラースは元ホープだったのか!?確かにラースは突然現れ市長になったと聞いていたが...。それよりホープが来ている方が問題だ。恐らくはこの会談を潰しにきたんだろう。
嫌な予感がしていたが、こう来るとはな。それにタイミングが良すぎる。余程優秀な密偵がいるな。もしくは初めから全リーダーが集まるのを待っていたか...。どちらにせよこの会談を潰される訳にはいかない。
「カウボーイじじい、それ本当か?でもそんな組織は聞いたことが無いぜ。もしあったとしても、聞いたことが無いなら大きな組織じゃあ無いって事だろう?ここには四勢力の軍にグレートウォールセキュリティもいる。敵じゃないでしょ」
そうじゃないんだ、ファンキーズリーダー!が他のリーダーもウンウンと頷いている。ここは俺からフォローを入れれば納得してくれるだろう。
「ラースの言うホープは実在します。しかも彼らの軍隊は正直ここに居るどの勢力よりも、強いです。それにどうやらファイアーマンもホープに所属しているようです」
俺の発言を受け、リーダー達がざわつき始める。
「もしホープが本当に俺達を攻撃しに来ているなら応戦しなくてはならないが、この会談はどうする?」
「そうだよ。私も個人的にはこの会談をぶっ壊したくはないんだ」
「兎に角、応戦準備をするよう各軍に伝えるとしないか?」
「それもそうですね、使徒様が用意した会談。それを台無しにするのは気分が良くない」
それではひとまず、とリーダーが席を立とうとした時に轟音が響いた。
全員が急いで建物の屋上に上がると、頭上にはいつもとは全く違う光景が浮かんでいた。まだまだ距離は遠いがそれでもかなりのスピードで大量の輸送ヘリがこちらに向かっていた。そしてその奥には...町が...浮かんでいた。
その光景を見るや否や全てのリーダーが無線機を取り出し部下に指示をあたえた。
「どうやら文書にサインをする余裕は無さそうだな。皆はどうするか知らんが我らガーディアンズは奴らを迎え撃つ。それではな」
そう言い残しガーディアンズのリーダーが足早に去っていった。
「ではラストソルジャーズも続こう」
「私も行くよ。...部下を説得できるかな?」
フィストとファンキーズのリーダーも去っていった。
「使徒様?どうします」
「徹底抗戦」
「承りました」
イスも部下の元へと向かった。これでひとまず四勢力間での戦闘は無くなるはず。ただ不安はまだ残る。
ホープの数がかなり多い。四勢力の軍がここに居るとはいえ流石に全兵員を展開しているわけではない。ここのセキュリティも合わせてようやく数的な差は五分五分か。だが練度や装備はホープが上...。まあやるしかない。
ーーー
ーー
ー
雨が降り始めた。
グレートウォールが被害を被るのは不味いと言う事で壁の外側で奴らと戦う事にした。だが心配なのはグレートウォールを守るために戦線が横に伸びていることだな。まあ敵も馬鹿正直に戦線を横に伸ばすつもりみたいだし、なんとかなればいいが。
やばそうなとこは俺が行ってやったほうが良いな。だがもしファイアーマンが来たら?奴が来たら俺は完全に抑え込まれる...いや殺されるかもしれない。ラスは今頃どうしてるだろうか。無事に住民同様逃げてると良いんだが。
「敵接近!戦闘準備!」
今思えば、あの時もっとラスの側に居てやるべきだった。彼女はまだ子供だ。なのに俺は突き放すような真似をしてしまった。後悔しても遅い...か。今はラスにホープの魔の手が及ばないようにするだけだ。
「発射用意!...撃てっ!」
号令と共に着陸しようとするヘリめがけて携行式地対空ミサイルが放たれる。6割ほどは当たったがそれでも回避したヘリが遂に着陸し、兵士が出てきた。味方の援護射撃に合わせながら敵を続々斬り捨てる。
ーーー
ーー
ー
徐々に敵が少なくなっていく。なんとか凌ぎきったが、奥の空にはまだまだヘリが飛んでいる。一体奴らはどれだけいるんだ?
ポケットに入れていた無線機が震え始めた。ボタンを押し応答する。
「カイン!?今すぐガーディアンズの応援に行ってくれないか?!」
爆発音が無線機越しに聞こえる中、フィストは切羽詰まった声をしている。
わかった、と伝え無線機を切る。早くも戦線が崩壊しかかっているのだろうか?兎に角ガーディアンズのいる場所まで全速力で駆けていく。
ガーディアンズの守備地域は酷い有様だった。全体の5割はすでに死んでいるか、戦闘不能の怪我を負っている。普通の戦争なら半分も戦力が減ったら撤退するんじゃないか?
まあこんな有様になった理由は想像できる。それは、さっきから轟音をあげている戦車のせいだろう。まさか戦車が出てくるとは思ってなかった...。
でも俺にかかれば対処は簡単!グラビティを唱えて戦車を敵のヘリにシューーート!!一石二鳥ってやつだ。
その後も、戦線が崩れかけている所を救援してはまた違う所を、というのを繰り返した。
戦闘開始から3時間、いよいよこちらの兵力も尽きかけという時に天がこちらに味方した。天候が悪化し嵐になり、雷がそこら中に落ちまくった。結果、敵のヘリにいくつも当たり、奴らは撤退を余儀なくされたようだ。
ひとまず各リーダーのとこに行こうとした時、空から1人の男が降ってきた。
「くそったれ...。ここでお前が来るのかよ...」
ファイアーマンだった。即座に神経を研ぎ澄まし、魔法を唱える準備をし、剣を握りしめる。が、奴は両手を挙げた。
「落ち着け、ここではもうこれ以上戦わないさ。ただお前に是非我らが基地に来て貰おうと思ってな」
「はっ、誰がそんな誘いに乗ると思う?」
「ははははっ!そう言うと思ったぜ。まあお前が来ないって言うなら、今すぐ戦闘を再開しようかな?あとついでに攫ったあの女神もぶち殺すか」
は?女神を攫った?いや、ハッタリか。戦闘再開も同じくハッタリだろう。この様子じゃまだまだ嵐は続きそうだし。
「ハッタリじゃないぜ?」
そう言ってファイアーマンは無線機を投げ渡して来た。そこからは確かに女神様の声が聞こえた。さらに奴が天を指差すとその部分だけみるみる内に雲が裂け、晴空が見えて来た。
クソが...。行くしかない、女神様には前の世界での借りがたくさんある。それに快晴にされても困る。これ以上はどの勢力もホープを抑えられない。いや、戦力を一箇所に集中すれば対抗できるだろうが、それはグレートウォールを犠牲にする様なものだ。
「分かったよ。俺をどこにでも連れて行けばいいさ」
俺の言葉を聞き、ファイアーマンが無線機で誰かと話し始めた。しばらく話した後、無線機を切り俺を指差した。
すると急に体が浮き上がり始めた。慌てて声を出そうとするが、何故か声が出ない。そのままファイアーマンも浮き始め、2人ともどんどん上昇していった。
だんだん地面が遠くなり、雲のさらに上に行った時、遂に空飛ぶ街が見えた。今まで見て来たどの都市よりも巨大だった。
街並みは、地中海沿岸にあるようなものであった。街の奥に一つ、高くそびえ立つビルがあった。
そのビルの前に着地し、ファイアーマンに後ろから押され中に入った。そのままエレベーターに乗せられ最上階まで一気に移動した。
エレベーターから出ると、無駄に広い空間が広がっていた。奥には玉座がありそこには、ホープの頭であるフューチャーが鎮座していた。そして横には女神様が。
「いやいや、ようやく来たのか。てっきり来ないかと思っていたよ」
「俺をここに連れて来てどうするつもりだ?」
「おや?この麗しき女性の心配はしないのかね?まあいい。君をここに呼んだのは他でもないーー」
プルルルル、プルルルル。
玉座の横に置いてある電話が鳴り始めた。
「ったく、いい所だったんだが。もしもし?ふむ?...そうか、分かった。すぐ行く。ふう。いや、すまないね。急用が入った、私が帰って来るまで好きにするといい」
フューチャーはそう言い残し、床ごと下へと消えてしまった。
「好きにしろだとさ。じゃあそうするか」
「どうするつもりだ?」
「ん?決まってんだろ。そこの糞女神を、2度と日の目が見れない程痛めつけるのさ」
「そんな事、俺が許すと思ってるのか?」
「ふっ。俺に勝てるようになってからほざけ」
ファイアーマンと向かい合い、円を描きながらお互い移動する。恐らく、俺は奴に勝てない。だが、目の前で女神様を好きにさせる訳にはいかない。どうせ死ぬのなら、ここで全力を出そう。
ありとあらゆる能力向上の魔法を幾重にもかけ、空気の流れすら感じれる程に感覚を研ぎ澄ます。
頃合いを見て、一気に詰め寄り剣を左下から右上に振り抜く。手応えは無し、奴も剣を取り出し上に弾かれた。弾かれた反動を利用し、天井まで飛んでいき、そのまま天井をバネにし、地上へと剣を突きながら落下する。全て避けられ、頭を掴まれ吹っ飛ばされた。受け身を取り、起き上がるともう目の前に奴がいた。
「こんな程度か?」
剣が右下から振り抜かれ、慌てて避ける。
「ぐああああっ!!」
が、間に合わず右眼を切られた。右半分の視界がほぼ見えなくなった。後ろに跳躍し距離を取る。
「糞がっ!これでも喰らえや!」
メテオというファイアボールの強化版を奴に放つ。メテオの陰に隠れ間合いを詰め、奴にメテオが当たる寸前で背後へ回る。いける!剣で喉をかっ切ろうとしたが、
「残念」
奴は左手に持った剣でメテオを弾き飛ばし、右手で裏拳を決めて来た。嘘だろ?剣で弾き返せるような魔法じゃないのに?
顔を守ろうとして左手で顔を覆う。またしても吹っ飛ばされ受け身を取る。今度は左手の感覚ない、完全に壊れたみたいだ。今のがもし顔に直撃してたら....。
逃げたいと思う気持ちを抑え、真正面から向かい、常人なら見えない、恐らく達人にも見えない速さで剣を振るが、奴も当たり前のように対応してきた。それどころか段々こっちが奴の剣撃を捌くので精一杯になってきた。奴の剣撃に押され、ほんの一瞬だが隙が生じてしまい、左膝を思い切り蹴られ吹っ飛ぶ。
起き上がろうとするが、起き上がれなかった。左膝を見てみると、反対向きに折れ曲がっていた。それを見た瞬間に身体中から汗が噴き出る。体力を消費するのは惜しいが、背に腹は変えられん。治癒魔法を左膝にかけると、人から出るとは思えないような破裂音がし、膝は治っていた。
顔を上げ、奴を探すが見当たらない。次の瞬間自分の胸から剣が突き出てきた。一瞬で後ろに回られたみたいだ。剣が引き抜かれると、そこから血が溢れ出し、地面に倒れた。
治癒魔法を急いでかけるが、今度は足を刺された。足に魔法をかけると次は腕、という風にそれからしばらく、奴は俺の体を弄んだ。
ーーー
ーー
ー
もうどれだけ治癒し、切られたのか覚えてない。100回を超えたところで数えるのをやめた。次で恐らく、俺は死ぬだろう。
「そろそろ、飽きてきたなぁ。それにお前ももう限界だろ?体力を使い果たして魔法はもう使えないはずだ」
悔しいがその通りだ。今は片膝をつき、剣を持ち、奴を睨むので精一杯だ。
じゃあ死ね、奴がそう言って剣を振り下ろそうとした時、銃声が2つ響いた。銃弾はそれぞれ奴の両手に当たった。
突然すぎたのか、奴も困惑し、一瞬だけ注意力が散漫になった。剣を奴の顔めがけて薙ぎ払う。当たった感触を確かに感じ、後ろに下がる。
「大丈夫カイン!?
「カインさん!早くこっちに!」
「レント...ラス...」
良かった...2人にまた会えて。
「感動の再会はそこらへんにしといてくれないか?」
クソ!当たった感触したがやはり擦り傷か!奴の傷の具合を確かめようと顔を見た時、俺は、いや3人ともが言葉を失った。そこにあったのは到底信じられない光景。
「驚いたか?まあもうすぐフューチャーが戻る。そしたら説明してやるよ」
奴の顔は、そっくりそのまま俺の顔だった。




