レントの同僚
テントが集まっている広場の中心には木製のテーブルや椅子が置いてあり、そこでたくさんの人間が食事や酒を楽しんでいた。
バーカウンターの様なものも設置されていた。そこではイエローマンが普通にバーテンダーをしていた。やっぱりここにとってイエローマンは普通の存在らしい。
「すいません。最近ここに夫婦とかラスっていう名前の女の子を連れているレントって男とか来ませんでしたか?」
質問に対しバーテンダーはコップを拭いていた手を止めしばし考えた後、
「悪いが知りませんね。記憶力には自信があるんですが、覚えはありません。それよりも一杯いかがです?」
「悪いが遠慮しとこう」
どうやらバーテンダーは何も知らないらしい。だが困ったな。こんなに沢山の人にいちいち聞いて回るのは効率が悪いぞ。
手掛かりが無く人々の声が飛び交う中1人で突っ立ってると3人の迷彩柄の服を着た人間が歩いて来た。
1人は女性で真っ赤な瞳に真っ赤な髪。顔立ちも整っていていわゆる美人というやつだ。後の2人はガスマスクで顔を覆っているので性別はよく分からない。
「そこの君。人を探してるんだよね?さっきカウンターで聞いちゃったんだ。実は私達君が探してる人達の事知ってるんだ。取り敢えず座りながら話さない?」
誰しもが怪しいと思うだろう。俺も怪しいと思う。だが今はどんな情報でも欲しい時だ。聞いて損はないだろう。それに幾ら何でもこんなに人が大勢いる所で派手な事は起こさないだろう。
というわけで怪しい3人の誘いに乗り椅子に座りながら話を聞くことにした。
「それでね君が探してる人の事なんだけど、夫婦の事なんだけど。彼らなら5日ほど前に見たよ。っても怪しい奴らと一緒だったけど。確か最上階に行くって言ってたかな」
怪しい奴ら?怪しい奴なんてこの世界には腐るほどいるからな。見当も付かん。唯一思い当たるとしたらマグマ発電所の時の奴らだな。
「それだけ分かればもう大丈夫です。ありがとうございました」
椅子から立ち上がろうとすると女性にまだ椅子に座っているよう手で促された。
「ちょっと待ってよ。さっきレントって君言ったよね?君と彼はどういう関係かな?」
「どういう関係も何もただの旅仲間だよ。あんたらこそなんで知ってんだよ」
「旅仲間?君みたいな奴が彼と一緒に?本当かな?」 そう言うと彼女は後の2人と話し合いを始めた。全く嫌な感じだ。
しばらくして、それじゃあ、と彼女が話し始めた。
「自己紹介と行こうかな。私はレッド。それでこっちの無口な2人がウィズとウェッズ。ガスマスクに星のステッカーつけてる方がウィズね。で、私達とレントとの関係だけど、かつての同僚って所だね」
「って事はあんた達がレントが昔いた傭兵団の?」
「そそ。で、君はレントを探してるんだよね?実は私達もそうなんだ。何年も前になるけどあの野郎急に消えちゃってさ。仕事しながら適当に探してたんだけど」
「そこに俺が現れた訳か」
その通り!とレッドがピースをする。あっ、そんな軽い感じですか。
「旅仲間って事は最近まで旅をしてたんだよね。元気だった?」
「まあ、普通?」
そっか、とレッドが胸撫で下ろす。心なしか後ろの2人も喜んでいる気が....する。
でもこんな風に安心するって事は少なくとも険悪な関係では無いってことか。喧嘩別れとかいう訳じゃなさそうだな。
「でも最近まで一緒に旅をしてたのに、どうしてこんな所であいつを探してるの?それに夫婦とか女の子とかもだけど」
「それはーー」
俺は3人にここまでに至る経緯をかいつまんで説明した。
「待って、待って、待って。じゃあ君は記憶が無い。銃が使えない。おまけにレントは急に消えた?とてもじゃ無いけど全部信じられないよ」
レッドが首を横に軽く振りながら答えた。ウィズとウェッズもウンウンと首を振っている。
まあ信じてもらえないとは思ってたけど。だからどうだって訳じゃ無いけどさ。
「信じないなら信じないでいい。俺も元から信じてもらおうとは思ってない。そんな事より俺は早く先へ進みたいんだ。もういいだろ?」
「確かにそうだね。じゃあ時間も惜しいしさっさと準備しようか」
3人が椅子から立ち上がる。よーし、と俺も椅子から立ち上がる。
ん?おかしく無いか?まるで今の言い方だと俺についてくるみたいじゃね?恐る恐るレッドの顔をちらりと見るとニコニコしながら
「ん?もちろん私達も君と一緒に行くよ?どーせ君が今の所一番の情報源だし。私達も頂上に行きたいと思ってたし。それに剣だけを使うっていう君の戦い方も見てみたいし」
計画が狂い始めた。俺の計画じゃ1人だと魔法が使えるからそれを使ってサクサク進もうと思っていたのに、他に人がいるんじゃ魔法が使えない。
という事は頂上に行くのが遅くなる。その分レント達はより移動する。3人もレントの仲間だったんだからある程度、というかかなり腕が立つんだろう。それでも時間は1人よりかかる。
よし!ここはなんとかーー
「君!私達は連れて行かないとか言っても無駄だからね。無理やりついて行くし」
あっ、予想済みでしたか。つーかそんなにニコニコしながら言われると怖いんですが...
という訳で現在レッド達と共に101階にいる訳だが。
なんでもここ101階から150階まで敵は出ないらしい。その替わりに催涙ガスが充満しているらしい。だから100階まで来たとしてもガスマスクが無いと無駄足というか訳だ。でもこの世界でガスマスクを持っていない奴は殆どいないだろう。
ウイルスでこんな世界になったんだ、持ってない方がおかしい。
俺はガスマスクを持ってないおかしい奴だったんだけど。幸運にもレッド達がいくつか予備を持っていたのでそれを貸してもらった。
ガスが充満してる中どうやって睡眠を取ればいいのだろうかと思っていたが、どうやら普通にガスマスクをつけながら寝るらしい。
大丈夫だろうか?朝起きたら死んでたなんてのは嫌なんだが。
そんな不安も無事解決した。というのもこのマスクは優れものでフィルターを交換する時が来たらアラームが鳴るらしい。更に常に1人は起きて見張りをしておく為アラームで起きなくても見張りに起こしてもらえる訳だ。
勿論何事もなく俺達は151階まで来た。そこは今までの階の様に迷路ではなく、一つの部屋になっており中央に上へと続く階段があった。案の定敵ーー例のロボット達ーーがいたが。
距離を詰めようと剣を抜き走ろうとしたがレッドに手で遮られた。
「ここは私に任せてよ。とっておきがあるんだ」
ニコニコしながら彼女は右手をロボットの方に向ける。すると彼女の手から雷がロボット達へとはしり、一撃で敵は活動を停止した。
「驚いた?実は私魔法ってやつが使えちゃうんだー」
我に返る前に答えを告げられた。
この世界にも魔法はあるのか?でもレントやラス、今まで会った人達は一言も魔法なんて言ってなかった。
「実は私、子供の頃から使えるんだ。なんか神様みたいな奴が、奇跡あげまーすって言うからありがたく貰ったんだけど結構使い勝手が良くってさ。それに魔法を使える人は私が知ってる中じゃ私だけ。これは大きなアドバンテージでしょ?」
何も聞いてないのにレッドが語り始めた。俺はウィズとウェッズが、またかと溜息をつくのを見逃さなかった。
「そんなアドバンテージを俺に教えて良かったのか?もしかしたら俺が裏切るかも」
そんな馬鹿な、と彼女は笑った。
「裏切るつもりなら君が見張りの時にとっくにやってるでしょ。それよりも私は君と信頼関係を結びたい。ここじゃちょっとのミスで命を落とす。だから私は秘密を教えた。君もあるよね?秘密が」
ガスマスクの奥からでも彼女の真っ赤な瞳が、こちらをしっかりと見据えているのがわかる。俺が秘密を話すと思ってるのか?まあ話すんだが。
「そう、だな。じゃあ俺も秘密を打ちあけよう。実の所俺も魔法が使える」
ほら、と手のひらから炎を出す。
「おおおおお!凄い!やっと仲間に会えたって訳だ!どんな魔法が使えるの?!私はね、雷と水なんだけどさ!」
レッドが鼻息を荒くしながら詰め寄ってくる。
「えーと雷と炎と水と木、っていうか殆ど全部?」
「うそっ?!いいなー。じゃあさ、じゃあさーー」
興奮するレッドの肩をウィズが掴み、おい、と声を掛けた。
「ゴホン。じゃあ先へ進もうか」
ウィズはさしずめレッドの保護者ってとこだな。てかレッドてあんなに子供っぽいんだな。いや、魔法の話になった時だけか。それだけ話を誰かと共有したかったんだろう。
レッドが魔法を使える事が判明したことによって、俺も遠慮なく魔法を使う事ができた。
そのお陰で俺の計画よりずっと早く、進む事ができた。勿論3人が強かったのもあるが、やはり魔法が使えるのが大きい。
ちなみにだがウィズは後ろから正確な援護射撃、ウェッズがそれで怯んだ敵を近距離からショットガンでぶっ放すという完璧なコンビネーションを何度も見せていた。
そして199階では、あのボールが五体出て来たが、魔法がバンバン使えたので凍らせてからウェッズに粉々にしてもらった。
やっぱ魔法ってチートだな!
そしてついに200階。階段を登るとそこは今までと違い何もない小さな部屋だった。
すると突然部屋の四隅からガスが吹き出した。
「ガス?まあガスマスクもしてるし大丈夫でしょ」
そうだな、と答えようとした時意識が突然朦朧とし始めた。3人がばたりと倒れていくのが見えた。
なんで?ガスマスクをしてるのに。てゆーかまたこんな展開かよ。
次の瞬間意識が消えた。




