不屈の男
なかなか眠れん。
グラビティは結構疲れるし横になれば眠れると思ったが眠れん。
てか、時々聞こえてくる爆発音が心臓に悪すぎ。
フィストと司令官は相変わらず地図見てるし、ラスはすやすや寝てる。
おや?レントが居ないぞ。まあいいか。
気分転換にトイレに行くとしよう。
トイレっていうにはあまりにも酷すぎるけど。
ちょっとした穴があるだけでもちろん水洗式ではない。当然か。
ってかよく考えたら俺排泄制限の魔法かけてたわ。
解くのめんどいし戻ろう。
トイレから司令部に戻るとレントがいつの間にか居た。
「どこ行ってたんだ?」
「ちぃと腕と脚の整備を。こんなんですからほっとくと動かなくなるんですよ」
「ふーん」
こいつ今目そらしたな....まさかイエローマンの味方な訳ないよなぁ。
それなら橋で俺を殺してる筈だし。
ま、いいか。男には一つや二つ知られたくないもんがあるもんだ。
「司令官、最低限の見張りだけ残して皆を集めろ。作戦の説明を行う」
「了解」
どうやらもうそろそろ始まるな。
ラスを起こそう。
ーーー
ーー
ー
「全員集まったな?それでは作戦の説明を行う」
「全隊敬礼!」ビシッ!
おおーすごいすごい。
兵士達が椅子から立ち上がってフィストにむかって敬礼をした。
やっぱり本物の敬礼ってのは違うなぁ。
ちなみに俺たちは敬礼をしなくていいらしい。
そもそも俺たちは司令部の端に追いやられてるし。
「諸君、楽にしてくれ。早速だが説明していこう。我々は昨日流れ者の助けで橋を確保した。次は向こう岸を完全に制圧する時だ。向こうにはたくさんの建物があり、かなりの拠点があると考えられる。その中でも要衝なのが対になっているどでかいマンションだ」
確かにあったな。結構高かったぞ〜
「右側のマンションは流れ者を筆頭にA,B,C隊に任せる。左側は私とウルフチームが行く。残りはその他の建物にあたれ。建物を確保したら司令官に連絡しろ。夜明けと共に攻撃する。以上だ。解散!」
合図を聞き兵士が一斉に散らばっていく。
説明すんのたったこれだけなら別に皆を集めなくても...
「ねえカイン、今日は一緒に行ってもいい?」
物思いにふけっているとラスに声をかけられた
またこの話か。絶対ダメだ。
「ダメだ。ここで待ってろ」
「あ...でもっ........分かった」
「ちょっと厳しすぎませんか?」
おいおいレント、まさかラスの味方か?
「ダメだ。あの年齢の子が戦場に行って無事でいられると思うのか?絶対許さん」
もう夜が明けそうだ。俺たちは今前線で作戦の開始を待っている。僅かな防衛隊を残して殆どがここに居る。
さあくるぞ、3、2、1...
「進め!」
合図だ。俺たちを先頭に全隊が走り始める。
四方から銃弾が飛んでくる。運の悪い奴は既に何人か死んだみたいだ。
次々と部隊がおめあての建物に入り戦闘を開始している。
俺たちももうマンションに着きそうだ。
入り口に何人かもう部隊が到着してるな。
結構激しい戦闘だったみたいだ。
「カイン殿!入り口は既に確保しておきました!数名の犠牲はありましたが...A,B,C隊全て到着しております」
言い忘れていたが、昨日の戦闘以来俺はなんか尊敬されたみたいで、殆どの隊員が輝いた目で俺を見てくる。結構恥ずかしい。
「了解した。俺は今から突入するから援護と余りを頼む。レントお前はそいつらといてやれ」
はいはいとレントにため息をつかれた。
まあ、確かに偉そうに命令したけどさぁ
「では、突入!」
内部にはかなりのイエローマンがいる。
これはめんどい。
地道に頑張るか。
ーーー
ーー
ー
いや、ちょっとまてぃ。
俺もう何体倒した?俺もう何階登った?
待って待って待って。
全然減らない、全然屋上見えない。
あかん!切っても切っても出てクルゥ!
魔法使うか?でも兵士に見られる。
どっちのリスクを取る?
このまま疲弊して死ぬか、魔法を見られるか。
た、多分魔法使っても大丈夫だよね。
きっとただの異常気象だよ。
そう、そうだ!これは魔法じゃない!俺がちぃと異常気象起こらないかなって思ったら偶然起こっただけ!
よ、よーし!
フロストを最大まで強めて...ブリザード!!
対象は凍る!!!
攻撃が一瞬にして止んだ。
い、異常気象だー。
す、すごーい。
じゃあ兵士のみなさん後よろしく!僕ちゃんは屋上に行ってきます!
さあ、この扉を開けば屋上。
気持ちを整えいざ行かん。
扉を開くと、そこには一体のイエローマンが居た。
「突破されたか」
キィィィヤァァァ!!!!
喋った!って知能は人間と一緒だったか。
「諦めろ。ここで退けば見逃してやる」
イエローマンがゆっくりとこちらを向いた。ちょうど人間でいう初老ぐらいか?
こいつは完璧に違う。今までの奴とは圧が違う。
これは油断できない。こんな奴とあったのは久しぶりだ。
「退く?一体どこに?これ以上どう退けと?」
「な、何を言ってる。お前達にも家はあるんだろう?」
「家?あるとも。"ここ"だよ。ここが我らの家だ」
ま、待てよ。どういう事だ?あいつらの家がここ?あいつらが攻めてきたんじゃ?
「そうか、何も知らされてないか。我らは決してどこも攻めて居ない。ここに住んでいただけだ」
っ!こいつ心を読んだ?奇跡持ちか!
「奇跡?なんだそれは?」
奇跡の事自体は知らない?
「ふむ。じゃあ俺に戦う理由はなくなったな」
「そうか?確かにお前には理由がなくなったかもな。だがそいつらは?」
何を言って...
後ろの扉が開き兵士がやってきた。
「カイン殿下がって!そいつは我々が!」
なーるほど、あのじじい。どうしても戦うか。
「いや、いい。こいつは俺が殺る」
「そう来てもらわなくてはな」
俺は剣を構え、奴は拳を構える。
心を読まれるという事は、全て反射でやらなくては。まあ対処法はわかっている。
心にいくつもの壁を作るんだ。奴に一番重要な情報を読まれないようにする。
さあ、どうくる?
ほんの一瞬のまばたきで奴を見失った。
は!?そんな奴この世界にいんの!?
こういう時は大体後ろ!前転して距離をとっ...ちょ待てっ!なんで前に!?読まれたか!
これは盾で防ぐ!
「フンッ!!」
なんとか鳩尾キックは防いだ。
駄目だ、盾を捨てないと速さに追いつけない!
盾を捨て後方に飛び距離を取る。
「ふむ、自らを身軽にしたか」
ああー大丈夫!もう目が慣れる頃だ!思い出せ!現役時代はもっと速いやつと闘っただろ!
「今度はこっちから行かせてもらうぞ!」
奴のとこまで軽く跳躍、重力を利用して剣を振り下ろす。がもちろんサイドステップでかわされた。
右斜め前からのローキックを剣で受け止め、頭目掛けてハイキック。
残念ながら脚を掴まれぶん投げられた。
まじかよ...仕方ない、剣を捨てる!
「剣まで捨てたか。良いぞ良いぞ!」
あいつ頭おかしい。
とにかく立ち上がり構える。
奴が目の前まできた。
顔面目掛けてやってきた右ストレートを左手でいなし、右手で顔を殴る。
が拳を掴まれ止められた、
膝蹴りを鳩尾に一発、これはなんとか決めれた。
掴まれた腕ごと左に放り投げられる。
仰向けの状態から馬乗りされ、首を絞められた。
自らの両手で俺の首を掴んでいる両手を掴み握り潰す。
骨が折れる音がしたな。怯んだ隙に顔に右フックを決める。左に吹っ飛んだ奴に視線を合わせる。
早くも立ち上がったみたいだ。どうやらまだ奴の左手は動くみたいだ。
俺も素早く立ち上がり再び構える。
ローキックをかわし、直後に飛んできた左手を掴み骨を折ろうとしたが、足元をすくわれこかされた。
うつ伏せのまま腰に何度も何度もパンチが飛んでくる。
5度目でようやく横に転がり避け、お留守の左足を両手で掴み膝目掛け蹴り飛ばす。
これで左足はもう駄目だろう。
それでも奴は残った右足だけで立ち上がる。
なんでそこまで...
だが動けはしないみたいだ。
奴の目の前に立つ。何もしてこない。
カウンター狙いか?まあいい。
ここで右足を折る!
っ!しまった!心の壁を解いてしまった!
こうなったら相打ち覚悟!
奴の右足を蹴り飛ばし来たる衝撃を待つ....
でも何も来なかった。
何故?もしやすると?
「お前戦い始めた時から心を読んでいないな」
唯一思い浮かんだ事を口に出す。
「くくく、ばれたか。なかなかだろう我の戦闘スキル」
口から血を流しながら答える。
「でもなんで?心を読んだら勝てたかもしれないのに」
「なんで...か。なんでってフェアじゃないだろ?」
ニヤリと奴が笑った。
「フェア?そうだな、フェアじゃないな」
思わず乾いた笑いがこぼれる。
「最後まで我は諦めてないように見えたか?」
再び血を吐く。
「ああ....お前は不屈だったよ。でももういいんだ。楽にしてやる」
「そうか。.............ありがとう」
その言葉を聞き一瞬ためらったがすぐに奴の首を折った。
現役時代ももちろん何人も殺した。
その時は高揚感すら覚えた。
でも今はなんだか虚しい。
「カインさん!大丈夫ですか!」
「ああ、レント。まあ、ボチボチだよ...」
レントと一緒にマンションから出るとしよう...
マンションから出て通りに出ると殆どが、というか全て制圧されていた。俺たちが最後だったらしい。
「おい、屋上にどんな奴がいた?」
フィストか、今は喋りたくないんだが。
「初老で格闘バカで誇り高い男が1人いたよ」
「本当か!?そいつはここのリーダーだ!よくやった!基地に戻ってゆっくり休め!そこの広場にヘリが来ている!一緒にいた少女ももうヘリに乗っている!」
言われるがままヘリに乗り込んだ。
「あ!カイン大丈夫!すごい傷だよ!ねえ!聞いてるの!?」
レントがラスの口を塞ぎ、無言で首を横に振った。ナイス、レント。
ヘリの窓からさっきまでいたマンションを眺めながら色んな事を考えていた。
でも一番考えたのは"何故虚しい?"だった。




