第四話
フレイヤの機首を建物方向に向けて着陸したため、フレイヤのロックをしっかりとして、光学迷彩を発動させた。念のため、武器として光学銃を装備しておく。
大気組成はアクアと同じようだから問題はないとは思うけれども、ヘルメットは外さず、建物に向けて歩き出す。上空から見たときは、木々が多く、止められる位置はあまりないと思ったけれども、意外と高低差も大きいようで歩くのにも苦労する。
現在は建物に向かうため、森林地帯を徒歩で進行している。静寂という言葉がぴったりなくらいに木々の葉擦れなどの自然の音しかしない。
また、生い茂る木々の葉で光が遮られているため、暗い……ヘルメットに暗視機能がついていてよかったと思いながら、フレイヤから降りる時に呼吸が出来るなら要らないと思い外さなかったことも幸を為したようだった。
どのくらい歩いたのだろう……自分は今建物から何kmの地点にいるのだろう……まったく未踏査の惑星ということが私の心に不安の種を蒔き、成長させる。
「こんなことになるなら……素直に……司さんと一緒に来たらよかったかな……」
不安感から、弱気な言葉が私の口から漏れ出る……こんなことじゃダメだ!と自分を鼓舞し、再度足を動かし、先に進む。
不意に何かの咆哮が聞こえた。原生生物だろうか……私は周囲を警戒しながら、咆哮が聞こえた方に歩み始めた。
木の影から、先のほうを覗く。
2匹の生物が争っていた。
どちらも4足歩行の生物で、種類は同じに見える。
鋭い爪、牙、私が襲われたら一瞬で殺されるだろう……襲われた場合は、鋭い爪を持つ前足で胸から腰の辺りまでを斜めに切られ……切られた傷から腸などの内臓が出てくる……痛みにより、仰向けに倒れて……倒れたところを圧し掛かられて、生きたまま内臓を食べられるのだろうか……最悪の場合を想定したらそれだけで、胃の中のものが喉の辺りまで込み上げてきた。
音を立てても気づかれるかも知れないと思い、込み上げてきたものを無理やりに飲み下す。あまりの緊張感から肩を上下させて呼吸をする。
このまま気づかれずにやり過ごしたい……そう考えているうちに、生物の争いは終わったのか、先ほどまで聞こえていた獣たちの声が聞こえなくなった。
争いが終わってそのままどこかに行っていればいいな、そんなことを考えながら、様子を伺う。
勝ったほうの獣が負けたほうの獣を貪るように食べていた。
見なければよかった……無意識のうちに後ずさる……後ずさったせいで足元の木の枝が折れ、小さい破砕音が鳴った……獣の動きが止まった。
音に反応したのだろうか……見つかりたくない……心の底から神に祈った……獣の鼻がひくつき、匂いを嗅いでいる……獣がこちらに向いた……私は獣と目を合わせてしまい……腰が抜けてしまった。
不味い……立ち上がれない……このままだと……私は獣の餌になってしまう。
獣から目を離さず、手探りで腰の辺りにぶら下げた光学銃を探す。
獣が足に力をこめた……このままだと殺されてしまう……光学銃に指が触れる……そのまま光学銃を握り締め、眼前まで持っていき、セーフティを解除する。
獣がこちらに向けて跳躍する。セーフティを外した光学銃を獣に向け、引き金を引いた。
光学銃から光線が放たれ、獣の胴体に風穴を開けた。
獣が地面に横たわる……息の根は止まっていないようで、足で地面をひっかきながら、立ち上がろうとしている。
私は死にかけの獣の頭に光学銃を向けた。
「ごめんなさい……ごめ……んなさい……」
獣だって必死に生きてきたのだ……私がこの星に来なければこの獣もまだ生きていられただろう……命を奪うことへの罪悪感が私を支配する……謝罪の言葉も後半は震えていた。
震える指で引き金を引く。
光学銃から放たれた光線により、獣の頭が蒸発する。
頭を失った獣は動かなくなった。
私は改めて未踏査惑星を調査していることを思い出し、調査は死と隣り合わせということを思い出した。