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第一話

 『宇宙(そら)

 宇宙には空気が無く、重力も無く、ダークエネルギーと呼ばれるエネルギーがおよそ7割を占める空間。

 残りの3割はダークマターとわずかな原子により構成されている。

 分かっていることは5%にも満たない原子の存在だけの未知の空間。

 初めて宇宙に飛び出してから、数百年、数千年というときを重ね人類は技術を進歩させ、そんな未知の空間である、宇宙へと飛び出し、拠点を地球から銀河系の外、恒星アウロラ系へと移した。

 アウロラ系に地球によく似た環境の星があり、その星は発見者により、アクアと名付けられた。

 アウロラ系が発見されたのが800年前、地道に調査を重ね、文明はまったく発達しておらず空気があること、緑が豊富なことが判明したことからこの星が移住先に選ばれ、地球の人々の大半は移住した。

 それが300年前くらいのことらしい……悲しいことに私は実際にその場にいたわけではないから、それがどれくらい凄いことかはさっぱり分からない。

 そもそも生まれてすらいない時代のことは聞いたことがあるだけで実際に見ることはできない。


 私は広大な宇宙を宇宙用にカスタマイズされた戦闘機により、未踏査惑星を探していた。

 未踏査惑星などを調査した結果を持ち帰ることにより、アウロラ系政府より報酬を得て生活しているので、調査結果がそのまま生活に直結する。

 今は上司である、海鳴(うみなり) (つかさ)とツーマンセルで、互いに並列で飛行している。

 「まったく、(かえで)ちゃんはロマンが無いなー……宇宙人はいるよー?絶対いるって。悲しいことに人類史の中では今の今まで出くわしたっていう記録はないんだけどー。」

 「宇宙人なんて存在しませんっ!!」

 私は司さんの言葉を全力で否定した。

 だって……宇宙人とかいたら怖いじゃん……言葉には出さず心の中で付け足す。

 「そーれにしても、今日も平和だねぇ……まー、平和が一番なんだけどねー。」

 司さんがつまらなそうに呟く。

 ――司さんの言葉通り、私がこの仕事に就いてから一度もトラブルに見舞われたことがない。

 このアウロラ系を見つけたときにはそれなりにトラブルがあったと聞いてはいるが、それもどのような規模のものかも分からないのでなんともいえない。

 「まー、平和なんてものは、束の間の代物であり、ちょっとしたきっかけですーぐ壊れるものだって誰かが言ってたけどねー、僕には信じられないかなー。」

 司さんがとても物騒なことを言う……私としては、今の平和な日常は壊れて欲しくない。

 「さってと、今日は特に収穫なしということで……帰りますかー。」

 突然の帰還提案に私は困惑する。

 「えっ?もう……帰るんですか?今日はまだ何も見つけていないし……このままだと昨日に引き続き本日も収入がない気がするんですが……それに私そろそろ生活費がやばいんですよー……もうちょっと探索しましょうよぅ」

 口を尖らせながら司さんに抗議する。

 「ふむ。一理あるね……幸いまだ推進剤の残量は十分にあるし、今日はもうちょっと遠出してみようか。ただ、遠出すればするほど危険性(リスク)は増すから、さっきみたいに考え事でボーっとするのはやめてよー?そっち側の警戒が疎かになるから危ないんだよー?」

 「うぐっ……」

 痛いところを突かれて変な声が出る……お互いの顔を直接見ている訳でもないのに何故分かるのだろうか……今の私は顔をヘルメットで覆っているはずなのにだ……ちょっと司さんが怖く感じてきた。

 「おやおや~?バレてないとでも思ってた?まぁ、このまま2日連続で何もなしって言うのは僕としてもあまり望まない結果だから、ちょっと進行速度を上げて遠出でもしてさくさくーっと未踏査惑星の探索でもしようか。」

 どんな言葉でも、いつもの調子で言い、こちらの緊張などを解そうという心遣いまでしてくる司さんが憎らしい……上司としてはこの上なく、恵まれていることは分かるのだけども、普段の行動を考えると素直にありがたく感じられないのがとてもとてもやりきれない。

 「はいっ!速度あげて少しでも長く探索して成果を得ましょう!」

 複雑な気持ちになりながらも未踏査惑星の探索が継続できることにわくわくとした気持ちが抑えられず、元気な声で返事をしてしまう分かりやすい性格の私がいて、驚いた。

 

 ――5時間後――

 

 「はぁ……」

 継続した探索でも成果が見られず、思わずため息が出てしまう。推進剤をいつも以上に消費したうえに、新規の発見は無し。

 技術的にはいつでも探索できるような技術はあったようなのだけれども、人々からはアクアの繁栄を高い優先度で求められていたため、アウロラ系の探索は数年前までおこなわれていなかった。

 そのため、未踏査の惑星は未だに多数あるものと思っていたけども……同業他社の手でアクア近辺の惑星の大多数が探索されており、新たな鉱石や資源の発見はされなくなり久しい。

 本日の探索もアクア近辺ではなく、離れたところの惑星を目指して飛び回ったけれども、それらしい惑星が見当たらず、2時間ほど前に司さんの提案により、恒星アウロラを目印に、おおよその方向修正をおこない、アクアを目指していた……

 「ため息なんか出してもいいことないよー。昔の人なんかはため息を吐くと幸福が逃げて、不幸になるからため息ばかりするんじゃない!って怒ってたそうだよー?本当のことだったのかどうかは分からないけどねぇ。」

 「……ため息を吐くだけで不幸になるなら私はきっと不幸な女なんです……」

 ヘルメットの下でしょんぼりとした表情で司さんと他愛の無い会話を続ける。

 「楓ちゃんはかわいいんだから、そんなに自分を卑下するものじゃないよー」

 「…………」

 司さんの言葉を聞いても、2日続けて成果なしの結果は変わらず、気持ちは優れなかった。


 ――惑星アクア周辺宙域、クリーニングゲート

 私たちは、アクアに降りるためのプロセスとして戦闘機に付着した(ちり)などを落としにクリーニングゲートに来ていた。

 このゲートは、宇宙に出た戦闘機が宇宙由来のウイルスなどをアクア内に持ち込まないようにするために通過を義務付けられている。

 ゲート自体はアクアの周囲に合計10基あるので、それほど混み合わないけど……私はゲートを通過するのは苦手だった……まず、戦闘機を強烈な突風を周囲から当てて塵などを吹き飛ばす。

 実験室とかの前のクリーンルームみたいなイメージがあっていると思う。

 その次に、1000℃の熱で機体が炙られる……設計資料では耐熱温度が4000℃くらいになっていたので問題はないとは思うけれど……愛機が火炎で炙られる様は何度見ても慣れるものではない……そこまでしてやっとゲートの終わりが見えてくる。

 ゲートが終われば、晴れて大気圏内となり、大気圏内の飛行を楽しめる。大体はオートパイロットで着陸位置まで辿り着けるので、やることはあまり無いけれど……一部の人たちはゲートを抜け次第、オートパイロットを解除して自分で制御して遊覧飛行をしてから戻るような猛者(もさ)もいるみたい。

 私みたいな貧乏な人間には推進剤の補給費用が増えるので絶対に出来ないことなので……少しというかかなり憧れる。

 遊覧飛行と言えば……入社当初に司さんにやってもいいか尋ねてみたけど……「君の薄給で遊覧飛行に使用した推進剤の費用が払えるならね♪」と言われてしまい、それからは遊覧飛行に関する話題は出していない。

 「ふへー……やっとゲート抜けられたー……今日もお疲れ様だよー楓ちゃん♪」

 「はい、今日もお疲れ様です。探索の結果が芳しくなかったのは悲しいですが……明日も頑張りましょうね!」

 「そういえば最近は言わなくなったけど、遊覧飛行はもうあきらめたの?」

 久しぶりに遊覧飛行に思いを馳せたタイミングで……こういうことをいう司さんはエスパーか何かだろうか。

 「それは……したいですよ!えぇ、したいですとも!憧れですよ!でも貧乏な私には推進剤補給の費用も払えないんです!だからあきらめてるんですよ!」

 「やってもいいよ?って言ったらどうする?」

 一瞬何を言っているのか理解できなかった……やってもいいよ?何を?遊覧飛行を?アクアの空を自由に飛びまわってもいい?理解が追いついた瞬間、心が躍るように跳ねた……ような気がした。

 「それ、マジで言ってますか?マジのマジですか?」

 念のため、聞き返す。こういうときの司さんは大体ニヤニヤと性格の悪い顔をしていることが多いのだ。

 「やりたいなら……まぁ、やってもいいよ?遊覧飛行で消費した推進剤の補給費用は楓ちゃん持ちだけどね♪」

 「やっぱりかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 私は絶叫し、遊覧飛行への憧れを更に強くして、オートパイロットに身を委ねた。

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