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僕が綴る物語  作者: ハルハル
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急章 17 アイアス


「ねぇ、小説はここで終わりなの?」

「いやまだまださ。ここから先は後日談みたいに書こうかと思ってね」

「へぇー、私はあの後どうなったのか詳しく聞いてないんだよね。だから気になるよ」

「まぁ確かにそうだろうよ。ここで終わってしまうとまるで君は死んだかに思えるもんな」

「そうだよ。私は生きてるもん。ちゃんと全部、きっちり書いて見せてね」

「はは、大丈夫さ。全部書くよ」


 終業式も終わって、あらかたの生徒は帰った教室。僕らは後方窓側の席で向かい合っていた。もう日がだいぶ西に落ちている。西日がまぶしかった。

 明日からは夏休み。でも僕らからしてみれば高校三年生の夏なんて勉強一色さ。だから今日、ここに書きかけの原稿用紙を持ってきて、君と物語の続きを語り合っていた。




 僕はテウクロスに馬乗りになって、その体にナイフを突き立てていた。そして、辺りの血の海で、生があるのは僕だけだった。


「ああ、翠さん。翠さん…」


 僕は君の体を抱きかかえた。

 君の体からはもう血が噴き出すようなことがなかった。もちろんナイフを抜いても血は出なかった。体は冷たくなりかけている。もう、君は死んだんだ。

 血の抜けた君の肌はとても白く透き通っていた。文字通り人形のようだった。


「どうして、こんなことになったんだろう」

 僕は声に出して疑問を具体的に作るだ、頭では一切考えが進まなかった。


「単純に僕が弱かった。それだけなのかな。努力が足らなかったのかな」

 僕は弱い。そんなことは分かっていたつもりだったけど、それでもなんとかなるかなぁなんて思ってたんだろうな。そして失敗しても君が何とかフォローしてくれたりして。


「僕の失敗は、君みたいになれなかったことだ。僕は一線引いてやってた。その点君は命。僕も最初からそうするべきだったんだ」


 ぽろぽろと涙がこぼれてきた。やっとなのか思えてしまうくらいゆっくり出てきた。だんだんと大きな粒が出てきて、そのうち止まることなくなっていった。

 君を抱えている下のほう、手の先から血と涙が混ざったような液体があった。それが地面に落ちて、涙と血が混ざりきらないで、渦を巻いているような液体。それがだんだんと地面にしみ込んでいく。次々と血や涙がしみ込んでいく。しかし次第にしみ込まないようになっていく。最初は地面が許容量を超えたのかと思ったが、そうではなかった。

 地面の砂が盛り上がっていく。砂だけじゃない。辺りの空気も異様に集まってきている気がした。

 僕は君をかかえて数歩下がる。


「アイアス…」


 集まったそれらが成したのはアイアスだった。

「やぁ、久しぶりですね。ずいぶんな状況にいるみたいですけど、少しいいですか?」

 だんだん形がはっきりしてきて、でもアイアスは以前みたいなパーカー姿じゃなかった。黒いマントをはおってしかもそのマントはかなりボロボロだった。

「アイアス。出てきてくれてうれしいけど、もう遅いみたいだよ。手遅れだ」

 僕は腕の中の君を再び見る。そして少し離れたところにいるテウクロスも。

「確かに、僕は遅すぎたみたいだね。本当ならこんな闘いをさせる気もなかったんだけど。僕のほうが手間取りすぎたみたいだね。

 でもまだ手遅れじゃない」

「手遅れだよ。もう、翠さんは死んだんだ」

「大丈夫。僕ならまだ間に合うんだ。その為にここまで時間を使ってきた」


 そういうとアイアスは僕に翠さんをその場に下ろすように言った。そして無効にいたテウクロスもつれて、隣に寝かせた。

「見ててください。ちょっと自慢したくなる代物だから」

 するとアイアスはマントの背からフードをかぶり、少しうつむいたかと思うとその顔には面がついていた。そして懐に手を入れ、抜き出すと大きな鎌が握られていた。


 その姿は死神以外の何物でもなかった。


「みんな結構誤解しがちなんだけど、死神って命を刈るだけじゃないんだ。命全般を扱ってるんだよ。だからこうやってしまうこともできる」

 鎌を振りかぶり、振り下ろす。その刃の部分は二人の体を過ぎていく。

「傷口が、消えた」

 胸の真ん中に空いた穴が、ふさがった。白かった服は赤く染まったままだが、手を握ると脈は感じ取れた。テウクロスも同じだ。

「な、何をやったんだ?」

「刈り取ったんだよ。死、そのものを」

「死なんて曖昧なもの、刈り取るって意味がわからん」

 アイアスは面をとってフードを下ろして、鎌もいつの間にか消えていて来た時と同じ姿になっていた。

「理解しなくていい。というか理解できる代物じゃないらしい。君にも渡した力は、すべての力は理論がわかるようなもんじゃない。

 これは死神の力、僕が新たに手に入れた力なんだ」


 話を聞くと、どうやらアイアスは僕らとは別のところで戦っていたようだ。僕らが知っているように力の移動はいろいろある。アイアスはそのうちの奪うというやり方を行使したようだ。

 話を聞くと何て言ってみたが実際はほとんど聞いてなかった。僕は安心と喜びでそれどころじゃなかったからな。

 アイアスは続けて話をした。死神っていうのがどんな存在なのか。どうやって倒したのか。僕らのところから離れて他に何をしていたかとか、いろいろ言っていたようだが、僕はまったく興味がわかなかった。


「ところでさ、君に一つ聞いておきたいことがあるんだけど。

 扇とかって名乗ってる女、知らない?」

「扇…。アイアスもしってるんだ。残念だけど、今日はここにいないよ」

「今日?ということはこの街にやっぱりいたのか!?」

 アイアスは思ってもみない反応を見せた。いや、扇の名前が出てきた時点で何かおかしいと思って。でもそれを上回る反応を見せた。

「そもそも翠さんの話では三年前もこの街にいたみたいだよ。その時に地蔵を壊すように命じたのもその女らしいし」


 アイアスはもう消え始めていた。唐突に話も終わっていないのに。きっとアイアスの中ではすべてはつながっているんだと思う。そうしてまたアイアスは次に向かって動きだしたんだろう。

「君には伝えていてもいいかな。最近、人界に異常が起きているって報告を天界でも魔界でも聞いているんだ。そして僕たち堕天使ではその中心にいるのが扇という女だと、魔物だと結論付けたんだ。

 魔物っていうのは、まぁ俗称なんだけど、簡単に言うとルールを破って他の悪魔や妖怪、天使からも力を集めている奴のことなんだ。最近、魔界ではかなり問題なってきている」


 へぇ問題になっている。そう、なるほど。だからって感じがものっすごいする。


「だとすると、君は扇を追ってこの街にまた来たの?」

「それもあるよ。割合としてはそれも結構ある。でもね、僕は今回君たちを助けるためにここまで来たんだ」

 アイアスは言い切ったとたんに消えた。

 そしてまた僕の後ろに現れた。

「うええええっ!?今消えたじゃん!もう帰った雰囲気じゃん」

「ああ、ごめん。思ったよりも言いたいことが多くあったから、帰る前にやっぱりもう一度しっかり姿出しておこうかと思って」

 振り返ってみてみると僕の後ろでテウクロスのそばに膝をついて、見守っているようだった。

「ケルベロスのときね。僕は君たちを助けるために君に僕の力をあげた。その場はそれで乗り切れるだろうし、そしてそのあとでこうなることも予想できていた。いつかその力を見て天使がやることやるだろうなってことは簡単にわかる」


 だから、僕は死神の力を手に入れようと思ったんだ。と続けた。

 どうやらどっちにしろ誰かが死ぬことになるのはアイアスには見て取れたことだという。


「それで僕らを生かすために来たってことなんだ。でもさ、そんな簡単に生き死にを弄っていいものなの?」

「まずいね。でも今回にかぎってはまったく問題ない。今回、テウクロスが発行した執行予告書はまったく効力がないものだった。つまり偽物だったんだ」

「執行予告書って、あの黒い手紙のこと?」

「そう。あれは天使のみが書くことを許されている手紙だ。内容は知っての通り。テウクロスにはその資格がないんだ。それなのにどうして君のもとへそれが届いたか。そこにも扇が関係している。

 どうやら、テウクロスに黒い便箋をわたして、書かせたようだ。便箋そのものも偽物」

「扇、話を聞く上じゃ黒幕が彼女だ。僕はもちろん、翠さんは人生を狂わされる可能性がある」

「その感じだと、僕も扇に狂わされているひとりかもな」

 アイアスは少し笑って見せた。

「堕天使の身だからゼウスやサタンと話がうまくいったことはなかったんだけど、今回に限り僕の独断で命のやり取りができるようになったんだ」

 ゼウス、サタン。神や魔王といわれる名前だ。僕もどこかで聞いたことがあるような名前だった。そんな連中にまで扇は知られているのか。そしてアイアス。自分のことは全然話さない彼だが、実は僕もその名を知っているような大天使だったんじゃないかって思ってしまう。


「そろそろ僕は行こうと思うよ。今の僕の立場上、扇を探さないといけないからね。どうやらこの街に何か関係があるみたいだからまた会うことになるかもしれない」


 バイバイと去り際に言い残し、テウクロスを抱えたまま消えていった。

 残された僕は君を抱えたまま、登っていく朝日を眺めていた。


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