急章 13 デート
昼過ぎになって、君の体もかなり回復してきたようだった。動き回れるようになった君を連れて僕は家を出た。僕らには差し迫る危機がある。それを回避するために策を講じるのだ。
この街みたいな地方の図書館には発刊されたばかりの新品な小説こそ少ないものの、地元の歴史や古い文献が今でも一般人が見られるようにされている。君には少し考えがあるみたいだった。
僕たち高校生は当然車なんて移動手段はないし、基本はせいぜい自転車だ。とは言っても、今の翠さんに自転車に乗っていく気力はないだろう。ということで僕は図書館まで徒歩で向かうことにした。
「翠さん。大丈夫?歩けるかい?」
「ええ大丈夫。歩くくらいなら問題ないから」
「そう…じゃあ行こうか。そこ、右に曲がって」
「ここら辺りもさして、私の家から遠いというわけではないんだ。道くらいは分かっているよ」
「うん。僕も分かって言ってる。だけど、今日ぐらいはエスコートさせてくれないかな、今日ぐらいは…」
「今日にこだわるのは私の体調が良くないせいなのかな?でも、いいよ。そんなにやりたいって言うんなら、させてあげる。したいようにすればいい。今だけは君に従ってあげるよ」
ということで、ここから先は僕のエスコートで向かうことになった。正直深い意味何てないといってもいい。意味があっても深くなんてないだろう。だから別段口に出すほどでも、頭で考えるほどでもない。深く考えてみたら矛盾してることだって考えられるんだから。
「僕の家からは、図書館まで二十分くらいかな」
「そのくらいなら疲れるような距離じゃないね。…え?」
何してんの?と君は不意を突かれたような声を出した。僕としても、この行動はよくよく考えたら何してんのって感じだけど、君を見ていたらついなんとなく手が出てしまった。
僕の右手は君の左手をしっかり掴んでいた。
「あーいや、まぁ、あれですよ。あれ。こう、なんか危なっかしく見えたもんで」
今の図としては、僕が君の手を引いてあげている、という図式でいいのかな。
「ようするに、私が倒れたりつまずいたりしたら危ないと思って手を握った。そうでいいのね?」
「うん。おおよそ」
えっと、どうだろう。これは怒られるのかな。「何勝手に人の手握ってるんですか、このくそ虫が」みたいなこと言われんのかな。
「ぷっ、あははははっ。おこったりなんてしないよ。ただ、こんな恋人っぽいことを君からしてくれるなんて思ってもなかったからびっくりして」
「あー、恋人っぽいというとそうだ」
これはまさに手をつないで歩くというやつか。
「うん。いいね。このままエスコートしてもらおうかな」
また君は笑った。今日で何回目だろう。今日に限ったことじゃない。僕たちが付き合うことになってからよく笑っている。覚の契約で君の人生は不幸が襲ってきているのに。笑うが度に福来るっていう諺が本当ならいいなぁ。
「よし、じゃあ行こうか」
僕が君の手を引くことで、僕らの二十分のデートはスタートした。




