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僕が綴る物語  作者: ハルハル
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急章 11 できる事


「なるほど、初めから便箋は二枚あったのか。これで、私も関係ないなんて言えないな。しかし、どうして初めから言わなかった。君一人でなんとかなるとでも思ったのか?私の方が断然頭がいいんだから、私が対策を立てるのが筋ってもんじゃないの」

「はい、おっしゃる通りで」


 僕は絶対に何もしないことを条件に、君をおんぶして帰路についていた。

 ほんのしばらく沈黙が続く。

 夕暮れ時、主婦が買い物を終えて帰宅するような時間帯で、会社勤めの人もそろそろかえろうかという時、つまりは人が多いわけだ。汚れた女の子を背負って、この中を進んでいくのはまぁ、恥ずかしい。背負われてる君はもっと恥ずかしいだろうが。

 こんな風にしてると、少し昔を思い出す。すみれは幼いころから変わらずに甘えん坊で、小さいころはこうしてよくおんぶして家まで帰っていた。人を背負うということは守ってあげているような気にもなってなぁ。当時のすみれは小さく、実際僕が守らないといけないくらいだった。

 今こうして、君を背負っていると僕が守ってあげているように感じる。君の体は思ったよりもずっと華奢で小さかった。僕は今までこんな人に守られていたんだ。そしていざ、守ろうとしても守れなくてこんなにしてしまうこの僕が、とても情けなく思えてしまった。


「僕はさ、翠さん。今回だけは僕が君を守ろうと思ってたんだ。だから、二枚目を見せなかったんだ。前の時は結局僕が守られて、その前はただ見てるだけしかできなくて。だから、今回は、もうただの人に戻った君を僕が全力で守りたかったんだ。でも結局何もできないで、こんな怪我まで負わせてさ。僕は自分の力不足を痛感したよ」


 ははっと笑って誤魔化しては見たが、きっと君にはこの強がりは意味を成さないんだろうな。

 吐息の音しか聞こえない。周りの音もとても小さく聞こえる。


「いつかさ、話したよね。日記の事…。これ…」


 君は動かない体を、腕を必死に伸ばして身につけていたショルダーバックからそれを渡してくれた。その日記はいたる所が燃えていて、あの山の中から見つけのか。

「その、最後のページを見て」

 僕は言われるがまま、片手でページをめくっていった。そこに書いてあったのは…、

〝支え、支えられる、そんな人と、永久に共に〟

最後のページには真ん中に、細く小さな、消えてしまいそうな字で書かれてあった。

「一緒に頑張ろうよ…」

 そう言って君は僕の首にまわしている両の腕を、そっと強く引き寄せ、君の頬が僕の頬にくっつきそうなくらい近づくと、ゆっくり、わずかな時間、僕のほっぺに唇を触れさせていった。


 しばらく歩いて、やっと着いた家の前にはすみれと凛ちゃんが二人して待っていた。二人のその姿を見れば、散々心配を掛けた事がすぐにわかった。鞄も下ろさないで、二人とも革靴のまま走り回っただろう。汗もかいたままで、服も着崩れている。

「ただいま。二人とも」

「おにぃ、良かった…無事で。でも、それは…」

「お姉ちゃん!!」

「大丈夫だよ。今は寝ちゃってるだけさ。ただ、しばらくは安静にしないといけないかも」


 凛ちゃんは僕らを見ると、すぐに翠さんのところに駆けつけた。えも言えぬような表情を見せ、それがまた心を締め付けるように痛かった。

 部屋に翠を寝かせて、二人に事のあらましを伝えた。ただ、全てを伝えたところで理解できるはずも無いだろうから、僕と翠の力の事は隠して、ただ僕が狙われてそれに翠が巻き込まれたと、そう伝えた。

 察してか、幸いな事に二人は何も問い詰めようとはしなかった。その後、簡単にご飯を作りおかゆを持たせて凛ちゃんに翠さんの元へ行って貰った。

 もう、この日はほとんど会話といえる会話は無く、僕は電気を落とした自分の部屋でただ天上を見つめていた。

 僕は横になったまま、おもむろにケータイを取り出し、あいつの番号にかけた。


「おう、海人。夜遅くにすまんな」


 本田海人。少し変わった奴だが、確かな信念を持っていて僕の親友と呼べる人物だ。

「少し話を聞いて欲しくてね。好きな女を守れなかったら、お前ならどうする…」

 もちろん、翠さんのことを話していた。だけどあえて海人には伏せてみた。どうせ誰のことだかすぐにわかるのに、僕はしょうもない意地を張った。

『…、そうだな。まぁ、お前の言っているのが誰だか知らないが、その女の思っていることはお前とは違うんじゃないか?』

 海人は勘の鋭くて頭のいい奴だ。だけどそれ以上にいい奴だ。僕があいつに電話したのはそういうのをわかっていて、きっとそういうだろうとわかっていてかけたんだろう。僕は、卑怯な人間だもんな。

『きっとさ、誰かを守ろうと思っても、自分が思ってるように守りきれる人間なんて一握りなんだろうぜ。でもさ、守られてる方からすると感じ方は全然違うはずじゃね?守ってくれようとしてるなんて思ったら、もうそれで守られたんだと思うだろう。人間てそんなもんじゃね?』

 僕はケルベロスのときを思い出した。あの時、僕が助かった後君は声がかれるほど僕に〝ごめん〟と謝り続けた。守れなかったと、守られてしまったと、君は謝り続けていた。もしかしたら今の僕はあの時の君と全く同じ事をしているんではないか、そう思えてきた。

 だとしたらそう、君の言っていた支え、支えられる、とはこの事かもしれない。ある意味僕と君とが同じような気持ちを味わっている事は物語としては沿っているのかも。

『そもそもさ、お前、守らなきゃならないのはこれからだったりするんじゃないか?』

 まったく、こいつは。

「海人、お前って鋭いよな。ほんと」

『ん?わりぃけどそんなことはねぇよ。分かりやすいんだよ。お前が』

「…どこがだよ」

『お前は何時も物事を深く、事が進んでしまう前に解決しようとしてんだよ。だから、今回もそうじゃないの?まだ終わってないんだろ?』

「ああ、そういえば…、そうなのかな。

 なぁ、これからどうすればいいと思う?」

『とりあえず、行動してみれば』

 それから、あくびともう寝るわと彼はいい、そのまま電話を切った。

 ケータイの画面を見ると、もう一時になっていた。

 行動か…。

 正直、明日も学校は休むし、ゆっくり寝る必要も無いわけだ。ということで、僕はベッドから飛び起きた。

 筋肉強化し、腹筋と腕力だけで跳ね起き上がる。ゆっくりと音を極力立てないようにしてジャージに着替えた。時計と財布とケータイを持つとカーテンが少し開いている事に気付いた。

 丁度正面には十五夜の月が見えた。雲がかかると光が遮られて部屋の中も暗みがかってくる。窓を開けて、僕は机に両手を置いて、深く息を吐いた。深呼吸をして肺の中に涼しい空気が入ってくると、目が覚めて決心が固まった。

「よし、行こうかな」

 階段を下りて、暗いリビングを抜けて玄関を開けた。

 まずはジョギング風に山まで走り、体を温めた。全身の血液が熱を持ち、肺や筋肉、脳にまで熱が回り、僕のやろうとしていることが明確に順序立てられていった。


「まずはステップ1。あいつを見つけようか」


 山に入った僕は踏み切り一番、全力でジャンプした。そして両目に血液集中。全力であいつを、アイアスを探した。

 十メートル、二十メートルとまだまだ高度を上げる。僕はすでに全身に回っているアイアスの血を両目に集めているので、体そのものは普通のものになっていた。つまり、その体ではとても急な気圧の変化が苦しく感じた。それでも僕は探した。あいつの姿を、痕跡を。

 はっきり結果を言うと、いっそ見つからなかった。十回も跳んだが、それらしい奴はいなかった。それらしい奴はいなかったが、それ以外の面白い奴は何人か見つけたが。

 いや、まさかクラスのあいつがなぁ。あの書店に入っているって事は目的はそれだよな。清心ブックス。名前とは裏腹に穢れた心を持つ男が入店する本屋だ。

 ふふふ、こんど昼飯おごってもらお。

 しかし、ここまで探していないんなら本当にアイアスはこの街を去っているのかも。


「ふう、アイアス。あいつは物語ならその登場人物として失格だな。漫画とかなら僕あたりの師匠キャラとかで出でくるのが普通じゃない?」


 僕は完全にアイアス頼みに動いていた。奴らからは三日の時間をもらったわけだけど、またまた持ち出すけど、漫画とか小説なら修行系のことをやってがんばったりするんだろう。今の僕がたとえ筋力をあげたとしても全く関係ないだろうし。何か作戦をたてるとしてもそれは翠が立ててくれるし、僕は何も出来ない

 じゃあ何をするかといえば、僕が考えたのは、アイアス本人にこの力の事を教えてもらおうという事だ。

「はぁ、まじやばいな」

 とりあえず見つけてそれからって考えだったのに見つかりすらしないなんて。

 僕はただジャンプして遠くまで見通せる視野で辺りを見回しただけじゃない。いつか翠が破ったように気体に変化している可能性もある。だから僕は目を赤外線までも見れるように変化させたときもあった。まぁたとえ夜であれ、街灯が少しでもある訳だから、結論。明かりが強く目に入りすぎて少々傷めてしまいました。

 山の中、木々生い茂るその隙間から黄色い光が覗いてきた。どうやら日の出みたいだ。さぁ、時間切れ。家に帰えろう。

 僕が初め来た道にのぞむと、ゆるい下り坂と僕らの街並みがあって、どうやら太陽はもうその姿を完全に見せたようで僕の影がどんどんと伸びていく。ぐーんとストレッチで体を伸ばして、帰路に着くランニングを始めた。



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