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僕が綴る物語  作者: ハルハル
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急章 10 役者


「おいシスコン。あいつの言っている事は、そういうことなのか?」


 そう言って君は僕を見る。もう、それだけで僕の持っている情報は君に筒抜けになる。

 今更ながら、君に力が戻ったのは明々白々だ。そうなれば、君の淡い緑色の右目もまた違って見えてくる。まぁ、だからと言って、特別この状況を打破できるような事にはあまり繋がってこない。

 今僕らが立っているのは、焼け跡の丁度真ん中辺りだ。周囲には黒炭転がる黒い山。僕らの背後には逃げ道となる道路があるが、それを忘れさせるほどの圧力で僕らの前に立つ奴がいた。


「正直に言って、この状況」

「死ぬかもしれないね」


 もはや僕と君は運命共同体のようなものになっているのかも知れない。死に目を共有するなんて。

 僕らと奴との距離が残り五歩六歩になったところで、ようやく動き出した。

 君の首を目指してその腕を伸ばしてきた。

 奴は地面を蹴り上げ、右手を伸ばし空を駆けてきた。


「ぐ、がっはぁ」


 僕は君の肩を後ろから横へぐいっと押しやった。すると身代わりに首を絞められる形になる。そして勢いは止まらず僕は押し倒される事になった。

 奴はほとんど無言で片手で首を締め上げ、残った片手で僕のいたるところを殴り上げた。本気で撲殺、絞殺するようなやり方だった。

 そんな状況を見て、君は黙ってみているわけもなく、すぐさま奴に飛び掛った。しかし奴は殴っている片手を君に向けて、たった一発殴り飛ばした。ただそれだけで、十分。僕は今身体能力を軒並み向上させている状態だ。ケルベロスでさえ蹴り飛ばせるような力がある。そんな僕を片手で押さえつけている奴の力なら一発で君を無力化出来てしまうのだ。


「どうだ、首を絞められては何も出来ないだろう」


 そもそも僕も何故やられっぱなしなのかと言うと、僕の力の根源は何度も言ったように、血液なのだ。その能力をフルに発揮させる為には酸素が不可欠となる。奴の攻撃がその元を締めるようなものだと僕はもうどうしようもなくなってしまう。というか、呼吸を止められては人間としてもう長くは持たない。

 つまり、打つ手なしだ。

 もう、殴られる感覚もなくなって、視界も暗いまま変わりなくなってきた。かすかに残る聴力には奴が僕を殴る音が確かに聞こえて、君のものだろう呻き声が聞こえた。

 もはや耳すら遠くなってきたとき、首の圧力がぱっとなくなった。僕の体の金緊張が解けて、力が抜ける。それと同時に遠くの方から女の声が聞こえてきた。


「そこまでにしなよ。死んじゃうじゃん」

「おい、邪魔するな。これは俺の仕事なんだ」


 また、首を絞められる感覚。体はもう、僕の支配下にはない。僕には何も抵抗できない。

「これで終わったら面白くないんだよ」

 また、首の圧迫がなくなった。今度は体の上に感じだ重さも同時になくなった。

 どこか遠くで、誰かが倒れる音がした。この状況を考えるに、誰かが奴をやっつけてくれたんだろう。きっとそうだろう。そして、僕らはこれで助かるんだ。もう命を狙われることもなくなるんだ。

 僕はそう考えながら意識を眠らそうとした。そうして、また目が覚めれば全てがなかったことになる。そう考えながら僕は、

「ヒントは彼女に託したから。後三日、時間をあげよう」その女の声を聞きながら眠りに付いた。


 再び目が覚めたとき、辺りは暗くなっていて、僕はあのアパートの場所にいた。向こうには翠さんがまだ眠ったままなのがみえる。

 携帯の時計を見ると六時になっていた。と、画面の左上に不在着信のマークが光っていた。不安を感じながらも見てみると、すみれの名前が表示された。…二十六件も。

 僕が体の埃やらを落とし終わると、君も目が覚めたようだ。いや、話を聞くとどうやら僕が目覚めるよりもずっと前から起きていたようだが、体の方が起きてくれなかったみたい。


「私たちは、あと三日で何をすればいいんだろうな」


 君の隣で僕が座り込むとそう話を始めた。

 瓦礫に背を預けて、何かこう、放心したような表情だった。僕だってそうだった。何もかもが唐突に起こりすぎて、でも具体的には何もわかっていない。そんな状況だ。少し、頭を空にしたくもなる。

「僕にはもう声しか聞こえなかったけど、やっぱり誰かが来たんだ」

「うん…」

 君は言葉を少し溜めていた。むしろ、言うかどうか戸惑っているような風だった。が、君は口を開いた。

「前にも話したよね。あの、扇…が来たんだ。奴を殴り飛ばして行って、私たちに言葉を残して行った」

 扇、以前君が話てくれたあの人物。『緑の悪魔』と言われるようになったあの地蔵壊しを先導した人物だ。

 しばらく、沈黙が続いた。何から話していいのか、何を話していいのか、よくわからなかった。

 その時、僕の携帯がけたたましく鳴り響いた。

「…、はぁ、はい」


 僕はその着信をとって、耳から少し離しておく。


「あっ!おにぃ。おにぃ?今どこ?大丈夫?ねぇ、聞こえてる?ねぇ…、おにっ」

 耳から離したところでいっそ関係なく大音量ですみれは喋り上げていった。あの状態なら、もう会話は成立しないので無視する以外に方法はない。

「あのブラコンが家で心配してるみたいだな。帰ってあげなよ」

「すみれはブラコンじゃなくて家族愛が強いだけだって」

 あの大音量なのでもちろん君にも誰の電話の内容は筒抜けだった。いやでも本当にすみれはブラコンじゃなくて家族愛が強いだけだからね。本当だからね。

「ちっ、どんなけ念を押すんだよ」

「うわ、読心術が戻ったんだっけ」

 久々にこの感覚味わったな。心が見透かされる感じ。なんかもう、懐かしい気もする。

「まぁ、時間も時間だし。すみれだけじゃなく、凛ちゃんも待ってるだろうから、早く帰ろうか」

「ああ、そうだな。そういえば朝から何も食べて…な…い。…お前、何やってんだ」

「へ?だってこうしないと帰れないじゃん」

「いや、だからって、だからって、おんぶって!」

 僕は君に背を向け、背中を差し出す姿をとっていた。

「このシスコン野郎。一体何を考えてんだ!」

「べ、別に変なことは、何も考えてないし」

 僕はつい、むきになって振り返ってしまった。そして目が合う。

 あっ、まじぃな。これは。

「ひっ!い、こ、この、変態がぁ!!」

 だって女の子をおんぶできる状況になったら、考えちゃうでしょう。だって男の子だもん。

 動かぬはずの体で君は、瓦礫を持って僕の頭を叩きつけた。そして、ブラックアウト。



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