急章 08 黒手紙
この日の夕飯はハンバーグにした。チーズとデミグラスソースを掛けて出来上がり。みんなおいしいって言ってくれて良かったと思う。その後は翠さんが僕の宿題を見てくれて、燃えちゃったから自分の分も一緒にやって、話を聞くと凛ちゃんは教材は全部学校においてるそうだ。君も知らなかったみたいで、説教されてた。明日は月曜で学校だって言うのに、皆で少し夜更かしして、なんか楽しかった。つまらないとか言ってたけど、やっぱりこういうのが一番良い感じがした。
そして、翌朝。僕は郵便ポストをあけて、僕はまだ、君との物語を綴らなければならない事を知った。
「おはよう、翠さん。凛ちゃん。ゆっくり眠れた?」
「おはよう」
「おはようございます。お兄さん。ちょっと寝不足ですけど、休めました」
二人は昨日買ってきた服に袖を通して、一階奥の客室からでてきた。二人が私服なのはやっぱり、火事で制服も燃えてしまっているから。ただ凛ちゃんの通う、私立中学には決まった制服はなくて、普段着ているのも制服っぽく見せた私服だった。ただ僕と翠さんの高校は決まった制服はあるので、翠さんは新しい制服を注文したりするまでは私服で通うしかない。
「もう、朝食は出来てるから先に食べようか」
「すみれちゃんは待たなくていいの?」
「ああ、すみれは朝が弱いんだ。心配しなくても学校行く前には起きてくるから大丈夫。それより、君には話があるんだ。食べ終わった後でいいから」
「ん?ああ」
「じゃあもう食べよう。冷めないうちにね」
トーストとミルクティーを進めながら、時計の針は七時四十五分をまわってきた。凛ちゃんを送り出して、すみれも起こしてからすぐに学校へ行かせて。開いた食卓と静かになって部屋で、八時をすぎても変わらずカチッカチッと音を鳴らす時計は何か哀愁を秘めていた。
「今朝、これがポストに入っていた」
食卓の上に置いたのは、真っ黒な封筒。僕らにはそれが誰からのもので、どんな内容なのかはおおよそ分かっていた。
「中は、まだ開けてないみたい…だな」
「一応、君にも確認を取っておこうと思って。やっぱりこれがそうなんだよね。その、天使の手紙でいいんだね」
「うん。開けて見てくれ」
そういわれて僕は糊の付いた封を切って、中の便箋を広げた。黒い便箋には浮き上がるように白い文字が綴られていた。
「〝貴公の存在は和を乱す。その力は貴公に相応しくない。在るべき元へ戻すため、貴公を殺す。〟…、なんか、かなり直球な内容だね」
「私のときとは大違いだな。文面から見るに、やはり君を狙っての事だね。〝力〟が指すのはアイアスからもらった身体能力のことだろう。〝在るべき元へ戻す〟というのはアイアスに力を返すということか」
「またアイアスが絡んできてるのか…」
前のこともその前もそうだったけど、すべてのことにアイアスが絡んでる。別にあいつ一人が悪いわけでもないし、かなり助けられてるから、僕からはどうこう言うことないけど…。
「またあいつが絡んでんのか。ケルベロスの時といい、私の時といい。ちょろちょろ出てくるのがうっとおしいんだよ」
「うわぁ、そんな明らかに嫌そうな顔しなくても」
「折角この二ヶ月、何もなく過ごせたのにまただよ!?全く、騒ぎを持ってくるのはいつもアイアスだ。はっ!まさか私の家が燃えた事についても関係してるのか?」
最近、僕がアイアスの話をすると君は何時もこんな感じに小言を言うようになってる。でもアイアスを中心に色々起こっているのは確かだ。
「よく漫画とかでさ、何かしら能力がある人のところに皆集まってくるよな。なんかこう、主人公的な存在?もしかしたらアイアスがそんなかもしれないかな」
だとしたら、君を綴ってきた物語で、本当の主役となるべき者はアイアスだったのかも知れない。
「この世界がフィクションとかならそんなのもいいかもね。実際アイアスは天使だった訳だし。今は悪魔か…。三流小説とかでよく見かけそうな登場人物だし。でもその話なら、君だって主役をはれるんじゃないか?アイアスの力だって、今は君の中だし。ねぇシスコン」
「確かに今の僕もその要素があるかも知れないけど、僕は書くほうだから。主役は君だよ。僕が綴る物語の主役は君だけなんだから」
「…少しさぁ、少しだけ心配してたの。今の私には前みたいな読心術の力はない。それだけでも面白み、と言うか主役性が薄れてたんじゃないかなって」
君はテーブルの上にだらしなくその頬をくっつけ、腕も伸ばして上目使いで僕を見てきた。まるで猫みたい。僕は君のそんな姿がとても愛おしかった。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
時計はすでに十時を回ってしまっていた。
「そうだね。学校に行かなきゃ」
「今日はサボる!」
立ち上がって、体を伸ばしているかと思いきや、とんでもない事を言い出しやがった。
「今から燃えた家に行って、探してくる。君は学校行けよ。わたしと違ってバカなんだから」
そう言って、僕の反論も聞かずにさっさと行ってしまった。残った僕は黒い便箋を鞄に忍ばせて、お気に入りのスニーカーを履いて家を出た。




