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僕が綴る物語  作者: ハルハル
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急章 05 男気と馬鹿


「お茶」

「はいはい。ほら、どうぞ」

「馬鹿か、君は。お茶と言えば急須で入れた温かい緑茶に決まっているだろう。何だこれは、冷たい麦茶じゃないか」

「別にいいだろ、お茶なんだから。」

「よくなんか無い!私の中のベスト・オブ・お茶と言えば、緑茶なのだから」

「知らないよ、君のベスト・オブ・お茶なんか!それに生憎、翠様のご要望に添えるような茶葉も、急須も、湯飲みさえないんでね!」

「それは大丈夫だ。茶葉も急須も湯飲みも全部持ってきている」

「何でだよ!」


 全く、有木翠という人間は変なところで運がいい。あんな燃えカスみたいになったアパートの中で、そんな的確にお茶のセットだけが燃え残るなんて、冗談もいいところだ。他はほとんど燃えてしまったのに。


「じゃあ、お姉ちゃん。私が入れてくるね。ちょっと台所借ります」

「よし、すみれ。凛ちゃんはまだ勝手がわからないだろうから、一緒に行って来なさい」

「えー、おにぃと離れたくないよ」

 優しく手を握ってやる。

「すみれ、お願いだ」

「うん。わかった、行ってくるね」

 ごきげんになったようで、ぱたぱたとキッチンに走っていく。

「とりあえずは二人きりになったところで、話を聞こうか」

「うん。まぁ、そうだけども。何だな。妹も妹だが、兄も兄だな」

「え?どういうこと?」

「このシスコン野郎め!」

「ほんと、どうしちゃったの!?」

「相思相愛兄弟め!」

「うん!ほんと、意味わかんない!」

 ビンタもらっちゃった。何で?


「お姉ちゃん、落ち着いた?」

「うん。ありがとう」

「おにぃ、大丈夫?」

「うん。冷やしてくれるのは嬉しいけど、とりあえずくっつくのやめて。暑い」

 二人だけの間で話を進めようとした僕の思惑は見事に外れて、妹たちが戻ってくるまでぼこぼこにされていた。

「君はもう少し節操を覚えた方がいい。もしくは常識だ。

 本当は言いたくは無いが、君は言わないとわからなそうだから言うが、むやみに女の手を握るんじゃない」

「女の手って、妹の手だよ?」

「妹の手でもだ。私は君の、…か、彼女なんだ。彼女の目の前で彼氏が他の女の手を握っている姿なんてありえない。もう少しその、私の事を、考えてほしい」


 君の気持ちを考えてなかった。

 僕は少し、いや、かなり思い違いをしていたのかもしれない。

 君の力を知って、その中で生きる君の辛さを知って、…僕は意図的に彼女の気持ちを考えないようにしてきた。

 君の気持ちを理解する事は、君に同情する事だと勝手に思っていた。言われてもいないのに、同情する事はいけないことだと思っていた。今思えば、そう思っていることこそが君に同情していることなのかもしれないと思う。

 そもそも同情する事と、彼女の気持ちを考えることはまるで違う。

 僕は無神経で、馬鹿で、愚かで、どうしようもないくらい自分勝手な人間だけど、それでも君の彼氏であることは僕にしか出来ないと思っている。

 君の辛さをしっている僕にしか君の彼氏は務まらないと思う。これもひどく自分よがりな考えだし、君の辛さを知っていると言う事を理由にするあたりで君に同情しているかもしれない。

 きっかけは同情だとしてもいいのかもしれない。今こうして、君の彼氏でいることとは関係ない。

 僕は単純に君の事が好きで、愛していて、どうしようもなく僕の手で守ってあげたいだけだ。だから、


「翠さん。此処で一緒に暮らそう。僕が君を守る」

 君の気持ちだけを考えて、君の事だけを思い続けるのもいいかもしれない。

「やば、いきなりかっこいい。そういうところに、私は惚れちゃったのかな」



「一応聞いてみるけど、お茶のセット以外に残ったものってあるの?」

「今身につけているもの以外は、全部灰だよ」

「私にいたっては、家が燃えているなんて知らなかったから、ほとんどないもん」

「私は、おにぃ以外は何もいらないよ」

「黙ってろ」

 そうなると、色々と大変だな。食事や住む所はいいとしても、二人とも学校がある身だから、どうしてもそこが不安になってしまう。そして何よりも、お金が大問題だ。両親には僕ら二人分しかもらえないから四人で暮らすとなると、頭が痛い。

「なぁ、シスコン」

「ん?何、翠さん」

「そろそろお昼ご飯だ。作れ」

 ほんと、頭が痛い。



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