破章 07 シスコンは変態である
「おいしいな」
「うん。すっごくおいしい」
有木姉妹は口をそろえて言った。
「おにぃの料理は愛情いっぱいでおいしいんだよ」
愛情はともかく、僕は料理には結構なこだわりを持っているからな。カレーとなれば、香辛料の調合からだろ。
「これだけおいしいと、彼女としても鼻が高いな」
「彼女?」
妹の食事の手が止まる。君の手も止まる。すると、食卓に黒いオーラが現れた。
「あいさつがまだでしたね。お兄さんの彼女の有木翠です」
「おにぃの愛する妹のすみれです」
「女の戦いが始まるね」
凛ちゃんが僕にだけ聞こえるように話した。まだ食事の最中なのにな。と、僕は返した。
「お兄さんは私に、『君の全てを語りたい』って言ってくれました」
色々と変わっちゃってるな。
「おにぃは私に、『一生、一緒に暮らそう』って言ってくれました」
「嘘も甚だしいわ。生まれてこの方、一度もそんな台詞は吐いてないぞ」
二人は変わらず、にらみ合っていた。まるで互角の戦いでも繰り広げているかのように。
一方は半分嘘。また、一方は全部嘘。全く、嘘の付合いじゃないか。
「お兄さんは私に、『君が好きだ』って言ってくれました」
恥ずかしい。事実であることが恥ずかしい。
「おにぃは私に、『愛している』って言ってくれました」
「だから、嘘も大概にしろよ」
愛しているって、僕が言えるかよ。
二人は互いを認め合うかのように微笑み合っていた。一体どこにそんな事になる原因があったかな。
「翠さんはいい人です。おにぃが好きになるわけです」
「すみれちゃんはいい妹だ。これだけ兄の事を愛する妹は居ないだろう」
全く、僕もそう思うよ。これだけ愛されると、疲れてしまう。
僕は四人分の皿を抱えて、台所のシンクで水につけておく。
「へぇ、すみれちゃんは今、中学二年なんだ。じゃあ、私のほうが一つ年上だね」
「バスケ部のエースなんて、かっこいいですね。凛さん」
向こうでは、ほのぼのとした空気が流れている。
「すみれちゃんは、何か部活やっているの?」
「私は、陸上の短距離をやってます。おにぃがやっていたから、私も同じのがやりたくて」
「ねぇ、すみれちゃん」
「何ですか?凛さん」
「何をしたら、そんなに胸が大きくなるの?」
やばい、やばいぞ。真実は本当にやばい。僕も興味本位で聞いて、後悔したくらいだ。
「おにぃの為にたくさん調べて、片っ端から試したの」
ぐあぁぁぁ。
「あの、ブラコン度は本当にすごいな。普通、そこまで兄は愛せないぞ」
僕の隣で、食器を洗うのを手伝ってくれている君は、黙々としゃべった。
「シスコン。君はすみれちゃんをどうやって、教育したんだ」
「違うよ?断じて違う。僕が妹をあんな風にしたわけじゃない。いつの間にかあんな事になっていたんだ」
「いつの間にかあんな巨乳に育ったと?」
「間違ってない。間違ってないけど、その言い方だと僕は、妹じゃなくてその胸の方を育てようとした感じに聞こえるよ」
ずっと近くに居たから実感は無かったけど、改めて思うと、妹の胸はかなりでかいな。君や学校の女子と比べるとよくよく分かる。
「私はそれほど小さいわけではないし、普段はどうとも思ってないけど、すみれちゃんを見るとどうしても負けた気分になってしまうな」
「お姉ちゃん。私、…」
凛ちゃんが胸に手を当てて、涙目で君の所へやってきた。本当にもう、破壊力抜群だな。
「凛、大丈夫だよ。大丈夫。凛はまだ成長するから」
二人は本当によく似ているけど、こうやっているとやっぱり、翠のほうがお姉さんなんだなと思う。頭を撫でてあげる姿がとても似合っている。
「そうしていると、君達はまるで新婚夫婦のように見えるな。このシスコン」
「すみれぇぇ。離れろぉぉ」
「いぃぃーやぁぁーだぁぁぁー」
妹は全力で僕に抱きついていた。全力で抵抗する僕。しかし振りほどけないのは何故だろう。何故、僕より妹の方が地力が強いんだ?
「その押し付けられた、二つのクッションの感触はどうだ?」
やわらかぁい。ふわふわしていて、気持ちいい。しまった。つい本音が。
「やはり君は巨乳の方が好みなのか」
「僕が好きなのは、有木翠…君です!」
勢いに身を任せすぎた。
「だったら…」
ハシっと、正面から君がやわらかく抱きついてきた。これが、これが。
「彼女の私も、こうしていいだろ?」
「彼女からのハグなのかぁぁぁぁ!」
僕に新しい力が目覚めたようで、初めて妹の抱き付きを振りほどけた。




