破章 01 勝ち組と負け組
時系列を整えてみよう。
僕は、休み明けの教室で君との出会いの物語を読み直していた。
僕が有木翠に話しかけたのは、試験が終わった週の金曜日だった。そしてその日にアイアスと言う悪魔、いや天使に会って、君の苦しみを知り、結果的に君を救った。さらにその結果、君と恋人同士になる事になった。素晴らしくもひどくも、破天荒のような一日だった。
「てめぇ、どういうことだ」
机から顔を上げると、クラスメイトの男子の顔があった。何か怒っている様子で、僕には読心術の力が無いので、どういう言われなのかを聞くと、どうやら僕が今朝方、有木翠と共に登校している様子を目撃したようだった。どうやら、ただの八つ当たり。負け犬の遠吠えのようだ。
「おい、今俺の事をバカにしただろう」
「何故、僕の考えが分かる!」
「やっぱりか、この野郎」
そう言って、彼は僕にチョークスリーパーをかけてきた。細い腕の割りに、力の強いこいつ…の…名…ま、え…は、
「うわぁ」
僕は文字通り気が付くと、保健室のベッドの上にいた。ゆっくりと壁にかかっている鏡で首を確認すると、うっすらと痣が残っていた。どうやら、落とされた様だ。
「目が覚めたか。だったら教室に戻るぞ。残念ながらまだ授業は始まっていない」
普通、養護教諭が座るべき椅子に腰掛けていたのは、有木翠だった。
「わざわざ彼女が自分の様子を見に来てくれた、なんて気持ちの悪い事を考えないでくれ。私はただ、授業をサボる機会を窺っていただけだ」
「サボる気だったの?」
「ああ、君の様子を見てくるといって、そのまま君の息の根を止めにかかろうとしただけだ」
「殺意100%じゃん!」
「冗談に決まっているじゃないか。取り乱すな」
「ああ、そうか。ならいいんだ」
君の冗談は真顔のままだから、本当と冗談の違いが分からない。
「私にサボる気などあるはずがなかろう」
「まさかの真実!」
「虫けらの如く騒ぎ立てるな。そんな風では君の虫けら度の株がさらに上昇してしまうぞ。虫けらは虫けららしく、ひっそりとしていればいいんだ」
「さっきから、君は自分の彼氏を何だと思っているんだ」
「私の理解者だと思っているが?」
「おおぅ、その通り」
返す言葉が御座いません。
「さぁ、そろそろ教室に戻ろうか。サボる機会…、あっ、間違え…」
「間違ってないよ!それで合ってる。君の言葉に間違いはないんだ。さぁ、行こうか」
流石に僕もこれ以上はメンタルが持たないかもしれない。
僕はこれ以上を何も言われないように、急いで保健室を出て、一人で階段を駆け上った。
「君は自分の彼女をどう思っているんだ?」
「そんなの、決まってるだろ」
「言葉にしてほしいな」
君は階段の下に居て、僕を見上げている形になっていた。君は腰に手を当て、その顔はあたかも僕が言う言葉が分かっているようだった。
「大切な彼女だよ」
「一言で言うと」
「ぐぅ、好きだ」
「台詞がくさすぎる」
捨て台詞のように吐き捨てて、僕の隣を通り抜けて行った。
「君が言わせたんだろう」
「何時までも、私の思い通りの君ではダメだからな」
君は僕の少し先で、止まって僕を見下ろしていた。まあ、君のことだから僕に見下ろされるのは嫌だったのだろう。ただそれだけの事で、僕を追い抜かしたはずだ。
「私の隣に居るのは君なんだから、頼りにしてるからな」
僕らは、並んで教室に戻った。ちなみにその後、教室に戻った僕が再び保健室に戻ってしまった理由は残念ながら今朝の事件と同じ理由だった。




