第一話
桜の花びらが舞う。
春の陽気な日差し――心地よい風が雄一の頬を撫で、肩まで伸びた髪が揺れる。
(あれから一年……)
閑静な住宅が立ち並ぶ中にある、細い水路。
それは彼が通う高校傍まで続いている。
歩道を歩き、学校へと向かう。
右手には水路。
左手には桜並木。
この景色を見るのは一年ぶりだった。春休みが終わり高校二年なった雄一だったが、その虚ろな眼には二人が居る。
一つ上の兄である虎乃宮、同い年で幼馴染の大輔。
二人が雄一の傍には居た。だが彼らが居なくなってから一年が過ぎた。
(どこに……行ったんだ……)
行き場のない想いだけが心の中を彷徨う。
――行方不明。
その言葉を聞いたとき、耳を疑った。兄と幼馴染は姿を消した。
探し回った。
探して、探して、探して、探して、探して――。
それでもどこにも彼らは居ない。彼らの影すら見つかることはなかった。
事実を受け入れなければいけない。
そうわかっていた。
警察の捜査も打ち切られ、家族は悲しみに暮れる。親戚や友人もまた気を使う。そんな生活を過ごしてきた。この桜の花びらを見る度に、彼らの顔がちらつく。
桜の花びらだけじゃない。
彼らと共に過ごした時間、共に過ごした場所。
それらを見る度に、どうしようもない虚無感に苛まれてしまう。心にぽっかりと空いた大きな穴は決して埋まらない。
ゆっくりと歩みを進め、雄一は学校を目指す。
何一つ変わらない日常。
すでに変わってしまった日常。
そんな日常をこれからも過ごすのだろうか。
彼らの居ない、この日常を――。
そのときクラクションが轟く。
虚ろな眼をした雄一は信号があることに気づかなかった。
赤い信号機。
【――――――――――――ッ!】
クラクションが鳴るも、雄一は動くことができなかった。
蒼く澄み渡る空。
雲が点々と散らばり、太陽が見える。
遅れてやってくる鈍痛。
朦朧とする意識が飛び、雄一の眼は光を閉ざした。
そうして彼は意識を失った――。