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電界妖怪  作者: くるねこ
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祭壇ホタルビ

  祭壇ホタルビ


 夏休みが始まり、間もなく八月という七月の最終日。生徒会室はにぎやかであった。

「小楯ここ違う、それはこっちの公式使わないとえらいことになる。」

「世良くん漢字間違えてるよ。それじゃあ笑ってることになっちゃう。」

と小楯と世良を中心に勉強会が開かれている。

 その横で羽喰は今日も電卓を会計の柏尾の横で叩いている。

「会長、それ俺の仕事…」

「貴方たちは時間のあるときに宿題をしてしまいなさい。それにこれは私の個人的なものの計算だから気にしないで」

といって再び電卓の音が鳴る。

 「羽喰は宿題終わったのか?」

タローが小楯の宿題から顔を上げてきく。

「そんなの夏休みが始まる前に終わらせたわ。タローも早く終わらせないと中学の時のように最終日に必死で燭影のを映す破目になるわよ。」

「解ってるよ。」

 その後しばらくの沈黙の中電卓の音と燐がお菓子を食べる音だけが続いていたがドアのノックで意識は紙切れから現実に映る。

「どうぞ」

羽喰がそういうとドアが開く。

「みんな揃って会議かと思ったら宿題しているの?」

と言って入ってきたのは数学教師の(けい)()がそこにいた。

「蛍火先生ちょうどいい、小楯にこの公式の使い方教えてやって」

とタローに言われ蛍火は小楯の宿題を覗く。

 説明が始まり蛍火の声以外音が消える。

 「ありがとうございます。」

理解できたのか小楯はそういうと宿題を再び始める。

 「それで、先生は何しにここに?」

と羽喰が聞くと

「あ、そうだった。蛍火神社のお祭りがもうすぐあるんだけどその日はみんな開いてる?」

そう聞かれ羽喰はスケジュール帳を開き

「生徒会メンバー含め全員開いてます。」

「本当?ならお手伝い頼みたいんだけどいいかな?」

「はい、構いませんよ。」

と淡々と二人は話を進めていくのを見て

「待て、全員て俺らもだろ?」

「そうよ。」

さらっと返す羽喰の言い方はなにか問題ある?と言ったような言い方だった。

「手伝いの内容は簡単なんだ。祭りの本部のテントで救護と迷子案内、簡単な巡回なんだけどいい?」

と今度は蛍火がタローたちに直接聞く。

「あたしと煌はいいですよ。」

燐が言うと煌が頷く。

「俺も構いません。」

と世良も承諾。

「俺もいいけど小楯は?」

「俺もそのぐらいなら」

と燭影と小楯も申し出を受け入れるため

「俺もやりますよ。やりゃいいんだろ。」

とやけな言い方で承諾する。

「ありがとう。ちゃんとお礼はするからね。それじゃあ、当日の二時くらいには神社に来てくれると助かるかな。」

「わかりました。」

羽喰の返事を聞くと蛍火はドアを開け出ていった。

 再び羽喰が電卓を叩こうとすると

「蛍火神祭って今年だったんだな。」

「五年に一度じゃ忘れちゃうよな。」

とタローと燭影が話出す。

「なぜ五年に一度なのか知らないの?」

羽喰が訪ねると誰一人として言葉を発することなく首だけが動く。

「毎年行われている水流神社祭は水流一族の電妖が電妖被害で悩む民のため祭りの日に相談を聞いてそれを叶えるために存在していたの。そして相談が無事解決したら電妖のことは忘れ水に流す約束をするものなのよ。それが語源で水流神社っていうの。」

その場の全員がへえ…と声が出そうな顔をしていた。

「それで民の心から消えたものは神社には残るわけ、電妖から逆恨みとかされる可能性もある。そこで蛍火神社が作られたの。電妖のための神社だったんだけど何百年とたって人間にも利用されるようになっただけで元は電妖の悩みや恨みを聞いて火で燃やす。水流神社の電妖の悩みも燃やすための神社なのよ。」

羽喰は説明が終わり電卓を叩こうとするも

「何で五年に一度なんだ?」

タローに聞かれ

「電妖にとって一年も五年も変わらないのよ。」

といって電卓を叩きはじめる。

「何でそんな大事な祭りを俺らに頼むんだよ?」

「半妖はいわば電妖と人間の友好の印と考える電妖も人間も多いのよ。まあ、神社の境内では電妖の力は何割か落ちるのだからいくら電妖が集まっても人間に危害が出ることはないのよ。」

溜息をつきながら羽喰はノートを閉じた。それをカバンに戻すと次は違うノートを出す。

 皆も話はそこで切り宿題に意識を戻した。



 八月の頭のこの日、二時に集合してきたのはなぜかタローと燭影のみであった。

「あの子たちは何しているの?」

「急に予定を入れたお前が悪いだろ。」

タローにそういわれても羽喰は詫びるつもりはない。

「双子は遅刻、残りの生徒会メンバーは?」

「みんな部活の呼び出しよ。あの子たちみんな新聞部で顧問に呼ばれたみたいだからいいわ。」

「顧問ってだれ?」

「蛍火よ。」

と羽喰が言うのだから二人して遠い目をするタローと燭影。

 「小楯と世良は?」

「自宅に寄ってから来るって」

羽喰は燭影の話に溜息を漏らし

「博士と姉たちに捕まったわね。」

と解釈した様子であった。そこに

「遅れてごめんね。」

と燐と煌が長い階段を上がってきた。

「みんな遅刻だから今日は許すわ。」

「そうなの?さっき蛍火先生と翌桧くんたち下に居たけど?」

「彼らは新聞部の作業中みたい。待ってれば上がってくるでしょう。」

燐と煌は鳥居の下の石に腰を下ろす。羽喰も鳥居にもたれ掛り、タローと燭影は階段に座り込む。

「たむろってる。」

しばらくして聞こえた声に視線を向ければ

「遅れた。でもまだここに居たの?小楯と神社内に入って探しちゃったじゃん。」

と世良と小楯が現れた。時計を見れば時間は三時近い。

「蛍火って時間にルーズなのよね。それで神様できるのかしら」

羽喰の発言に

「神様ってなんだよ?」

タローが聞く。

「蛍火神社は代々蛍火の男が跡を継ぐの。次はあの蛍火が神になるのよ。まあ、いつになるか解らないけどね。水流も同じことよ。彼らは何十年と人間のふりをして過ごし神になる順備をするのよ。」

「あれが神様…」

とタローが言うと

「僕が神様じゃダメ?」

階段の下から声がしたので振り向くと神社の下、階段の前に蛍火と翌桧や柏尾たちがいた。

「嘘、あんなところから声聞こえるのかよ。」

「それが神に近い電妖の力なのよ。」

 しばらくして上がってきた五人に

「遅い!」

と燐がいう。

「みんなが遅刻するのが悪いんだよ。全員そろうの待ってたんだから、ほら、一先ず家に入ろう。」

蛍火について皆が歩き出す。

 境内にはいくつか出店が順備をしていた。それを抜けて神社の脇の平屋に入る。

「リビングで待ってて、みんなに着替えてもらいたいんだ。」

と蛍火は家の奥に行ってしまった。

 羽喰はなれた様子でリビングに入り机の上の大福に手を付ける。

「勝手に食っていいのかよ。」

タローに言われ

「平気よ。これ、私は一昨日持ってきたものだもの」

と透明なフィルムを剥しながらいう。

「何しに来たの?」

燐が羽喰から半分にされた大福を受け取りながら聞いた。

「水流はまだ入院中、神社の悩みを運ぶ役がいないことについて相談してたのよ。」

ともぐもぐさせながら言った。

「で、誰がやるの?」

「蛍火が代わりをすることになったわ。後は問題ないでしょう。」

羽喰が話を切ったところに丁度よく。

 「おまたせ、女の子は隣の部屋で、男の子はここでこれに着かえて」

と渡された風呂敷。中には黒い着物に女は赤、男は紺の袴と足袋などが入っていた。

「燐ちゃんの着付けは羽喰ちゃんできるから任せるね。僕こっちで手一杯だから。」

そういわれ羽喰と燐は隣の部屋に見送られる。

 部屋の戸を閉めたところで

「羽喰ちゃんこれ着れるの?」

と燐が聞いてきた。

「五年前も十年前もやったからね。先に燐の着せちゃうから服脱いで」

「十年前?」

羽喰も脱ぎだし手早く肌襦袢を着てしまう。そこに

「蛍火、タオル貸してちょうだい。」

と羽喰は戸越しにいうと

「こっちにも持ってきてもらっていい?」

と言われてしまい、羽喰は肌襦袢のまま廊下に出て脱衣所からタオルを適当に掴み部屋に戻る。

「はい。」

開けっ放しの戸から中に入りタオルを渡すと何事もなく羽喰は燐のいる部屋に入る。

 タローと燭影の動きが止まる。

「あいつ…」

とタローがいい視線と向かいの戸から外せずにいた。そこに蛍火は

「着物は下着きれないからね。」

と言って手を休めることなく着せられている小楯はくるくる回される。

 タローと燭影の様子を見て世良は持っていた下駄でスコーンっと二人の背中を叩く。

「人が教えてやっているんだからこっち見ろ!」

といって二人を現実に戻す。

 しばらくして着替え終わった羽喰と燐は戸を開け煌を呼ぶ。そして煌の着付けを始める。

 やっと全員の着付けが終った頃には四時半を過ぎていた。

「それじゃあ、あとは祭りの間は鬼の面をしていてくれればそれでいいから、分担だけど」

「それはこっちで決めました。燐と煌、タローと燭影は見回り、翌桧と柏尾、白柏と木杉は応急手当と迷子案内、小楯と世良は私と受付、案内をやってもらうわ。」

羽喰は全員に支持を出している間蛍火は姿を消していたが戻ってきたときには

「早い!」

すでにタローたちと同じ格好になっていた。

「慣れているからね。それじゃあ分担が決まったところで僕は水流神社に行ってくるから、見回り隊は僕が戻るまで鳥居の近くで待機ね。それじゃあ」

と手を振りながら行ってしまった。

 祭りの始まりは六時からそれまで羽喰の指示の元、仕事内容の確認が行われていた。

 六時になった。五年に一度この日この時間は水流神社から蛍火神社まで楽器の使われていないお囃子が流れる。水流神社に溜められた悩みを運ぶその道筋は一直線ながら音は町のどこからでも聞こえるほど通った音が響く。これが神社に使える電妖の力なのだ。

 祭りは水流神社からの使者の到着と共に始まる。終わりなど無い。誰も決めていない。人間の祭りは深夜に近づくにつれ終わる。だが電妖にとっては時間などただの人間が決めたもの眠りにつくまでが祭りなのだ。

 水流に変わって蛍火が届けた悩みは一番に燃やされる。

「すげえ、なんだこれ?」

燭影が声を上げた。

「これは面越しか神、もしくは神に近いモノにしか見えない。悩みや恨みの燃え終った形のものよ。」

「ホタルみたい!」

燐が声を上げる。

「だから蛍火神社なのよ。」

付け足すように羽喰は言った。

 その後の祭りは何事もなく進み、タローや燭影、燐と煌は休憩をしていた。蛍火のおごりでいか焼きを食べる一同。だかそこには一人足りない。

「あれ?小楯は?」

タローの声に皆は当たりを見渡すも姿はない。

「世良、小楯は?」

と受付で老人と話し終ったばかりの世良に聞くと

「トイレに行ってるよ。でも遅いな…」

腕時計を見ながら首を傾げた。

「タロー、燭影、休憩中だけど小楯を探してき、迷ったのかも」

羽喰にそういわれ軽く返事を返して二人は探しに行く。

 その頃小楯はトイレを探して迷い、見つけたと思えば長い列ができており今やっと用事が済んだところであった。

「早く戻らないと」

と小楯はつぶやくも視界に入る人物、

「タローくん?」

によく似た人物。ジーパンに白のシャツを着ている人物は明らかに今の彼の服装とはかけ離れている。顔は似ているが髪は長く縛られている。こんな短時間で伸びるわけがない。そして身長もおそらく彼より高い。小楯の記憶の中の人物が脳内で姿を現す。

「兄さん?」

写真や記憶にしかない彼はもう少し若くタローにもよく似ている。だが、今目の前にいる人物は成長した兄、楯麟を思わせる人物だった。

「兄さん!」

思わず叫んでしまうもその声は鳴り止まないセミの音や人の声、電妖によって遮られ届かない。

小楯は足を進めた。ゆっくりとした歩調がだんだん早歩きに小走りにそしてあと少しと走る。だが、急に足が止まる。止めさせられる。目の前に大きな暗いくぼみがあるのだ。

 小楯は考える。今日ここには始めてきたが世良と境内を回った時にこんなくぼみはなかった。と、まるでここだけ空間が違うかのように小楯の耳には何の音も聞こえない。今まで五月蠅かった鳴き声も人の話し声も、

 まるでこのくぼみにすべてが吸い込まれているかのようだった。

「兄さん!」

小楯は叫んだ。今までに出したことがないぐらい大きな声で

「楯麟兄さん!」

泣きながら叫んだ。電妖を作ってしまうのではないかということも忘れて、

「兄さあん!」

叫んだその時、ゆっくりと楯麟が小楯の顔を見て片手を伸ばしてきた。小楯は必死でその手を掴もうと手を伸ばす。あと少し、あと少しで手が届く。そう思いくぼむに落ちる覚悟で思いっきり前のめりで手を伸ばす、だが

「小楯!」

急な浮遊感と聞きなれた声、後ろに引っ張られドスンっとした衝撃と体のぬくもりを感じ小楯は現実を見る。

「何やってんだよ!」

燭影が小楯の体を抱きしめる形で地面に座っていた。

「おい!小楯?」

燭影が小楯の体を自分に向かせて肩を揺する。そこに

「燭影!」

とタローも合流する。

「小楯、大丈夫か?」

「何で?」

タローの声に小楯は小さな声で返した。

「何で邪魔したんだよ!あと少しで兄さんに、兄さんに!」

小楯は涙を浮かべながら燭影の胸を力の抜けた手でポンポン叩く。

「何で!あと少しだったのに!あと少しで兄さんに届いたのに!」

と声ががらがらになりながら言う小楯であるがタローの燭影も何を言っているか解っていない。

「小楯?お前の兄さんがここに居たのか?」

タローにそう聞かれ

「そうだよ!そこに居るだろ!」

と後ろを指さしながらいうも

「小楯落ち着け、よく見ろ後ろはもう崖だ。お前の兄さんはいない。」

燭影のその言葉に小楯は振り向く、小楯の後ろは先ほどの暗いくぼみの姿も楯麟の姿もなく、うっそうと木々が生い茂る森の手前にある渓谷のような川に面した崖の上だった。

「なんで?」

「小楯、先生の家に戻って休もう。そこで話聞くから」

燭影にそういわれ小楯はタローの手を借りて立ち上がる。そして燭影に背中を押されて歩き出した。小楯の耳には再びセミや人のざわつく声が入ってくる。



 翌日。小楯は昨日楯麟を見たところに一人で立っていた。羽喰はその姿を探して小楯の後ろに立っていた。

昨日は日付が変わる頃には人はいなくなり、酔い潰れも帰っていった。

「お疲れ様、みんなの家には連絡してあるからもう遅いし今日は泊まっていきな。」

蛍火の言葉に甘えるように彼の彼の家に戻るとすでに小楯と燭影が眠っていた。

 タローにより何があったのかを簡単に把握しているのもの羽喰は楯麟の姿があったことに驚きを隠せずにいた。羽喰や蜂の巣、それに神保博士は洞窟の一件を聞いて楯麟の生存にはすでにあきらめの色を見せ

「楯麟のことを早く見つけてください。」

と報告に行った土竜に博士は話したという。それなのにこんな短期間に手が狩りになりうることが起きた。小楯の話を詳しく聞く必要があった。

 とは言ったものの寝ているのをこんな時間に起こすのも悪い。

 空き部屋に布団を敷きつけみんなで雑魚寝をして目が覚めたところ今に至る。

 「小楯」

声を掛ければ少し暗い、辛そうな顔で小楯は笑って見せた。

「本当に兄さんを見たんだ。僕に手を伸ばしてた。」

「そう」

羽喰は小楯の隣に立ち辺りを見渡していた。

「昨日は、ここは崖じゃなく大きなくぼみに見えて、その先に兄さんがたってたんだ。いくら呼んでもこっちに肩を向けたままで、やっと声が届いて手を伸ばしてくれたから、必死でその手を掴もうとして、あと少しで届きそうだったんだ。でも、」

「燭影に止められたのね。」

「助けてくれたんだよ燭影は…」

小楯そういうと空を見てゆっくり涙を流した。

 「なんでこんなに感情的になっているのに電妖がでてこないんだろ?」

涙声で羽喰にそう聞いてきた小楯に

「ここは神の領域に近いのよ。ここではなにも生まれないし、なにも死なないわ。だから落ちそうな小楯を燭影は見つけることができたんだわ。」

夏なのに冷たい風が二人の後ろから山に向かって吹いていく。

「そろそろ戻りましょう。何故か朝から出前でお寿司取ってくれるそうよ。」

「うん」

小楯は向きを変え歩き出す。その姿を羽喰は見送り、

「土竜」

そう呼ぶと土竜が姿を現した。

「ここ、ずいぶんと電界と近いのね。いつから?」

「さあ?だかこの前、羽喰と来たときはそんなことなかった。」

「昨日、ここに一番に来たけど電界の異常なんて気が付かなかった。祭りの間に誰かがここに電界への道を無理矢理開いて小楯を連れ込もうとした。」

「そう考えるのが妥当だな。ほかに開いた形跡がないか調べておく。小楯のこと注意しておかないとな。」

「ええ、そうね。」

土竜の姿が消え羽喰は小楯を追いかけるように歩き出す。



 それから数日たった。最近のタローの悩みは小楯が自分の顔を見ると泣きそうな顔になってしまうこと、それを見た燭影が小楯を彼の部屋で寝かせるようになったこと、そして燭影自身があまりタローに構うことなく小楯に付きっきりになっていることだった。

「燭影、宿題教えて」

「自分でできるだろ。俺は小楯の見てるんだ。」

それぞれの部屋で勉強中、タローは窓を開けて燭影にいうも燭影にあっさり切られて尚且つ窓どころか鍵も閉められてしまった。

「なんだよ!燭影のバカ!」

と窓越しに行ったところで聞えているだろうが反応を返してくることはなく、タローは仕方なく一人で机に向かう。今日は見回りの日なので時間いっぱい宿題を進めておこうかと思ったがやる気が失せてしまった。見回りは燐と煌と羽喰の四人で行くことになっている。

 タローの携帯が新着メールを伝える。メールボックスを開くと羽喰からで

「すぐに集合、今日はゴミ袋いらない。水着と着替えとタオルを持って森の前に集合。」

と書かれていた。

 タローはジローの散歩がてら森まで連れて行くことにした。

 家の外に出れば散歩と解っているのかシッポを振って喜ぶジローと定位置になった背中にマリーが犬小屋の上には雛がとまっていた。

「お前等もついてくるか?」

タローがそういうと

「ミャー!」

と元気よく鳴くマリー。マリーも最近燭影に構ってもらっていないらしい。雛もそれは同じことでたびたびこうして言葉は通じないもののタローについて行くことが増えた。

 町の人間からすれば見慣れた光景でタローが三匹を散歩させれば通りすがりの町民はよく挨拶をしてくる。

 タローは燭影のことを頭の中の片隅に追いやろうと必死で違うことを考えるが燭影の次は小楯、小楯の次は世良、双子、先生たちに最後に羽喰にたどりつくとその思考は再び燭影に戻りループする。

「俺何してんだ?初恋中の女子か!」

と自分に言ったところで意味はなく。思考はぐるぐる回って終わらない。

 そんなことをしているうちについてしまった森の前には双子がすでにいた。

「マリー!」

と珍しく声を上げたのか煌でマリーを抱き上げ楽しそうである。

「最近マリーが家に来ないって煌が拗ねてたんだよね。」

燐が近づきタローに教えてくれた。燭影問題は双子にも影響を出していた。

 「そろってる?」

と森から出てきたのは羽喰と土竜、蜂の電妖たち。

「タロー、その子がジロー?」

「ん?ああ、そうだけど」

羽喰はタローの返事を聞きジローをまじまじと見る。

「確かにただの犬ね。電妖とは一瞬じゃ判断できないわ。」

そういいながら頭を撫でる。

 「で、今日は見回りなしでなにするんだ?」

タローの問いに

「洞窟の奥に入った時に一つだけ先に破けていた袋があったのをタローは見てた?」

タローは記憶をさかのぼり思い出す、

「ああ、見た。ちょうど湖の真上のやつだろ?」

「そう、その死体がまだ上がってないのよ。蜂の巣ではそれが小楯の兄、楯麟ではないかと思ってるわ。」

羽喰の言葉にタローは言い返す。

「待てよ!まだ見つかったのは三分の二で残りの人はまだ見つかってないだろ!」

タローの言葉に羽喰は溜息をついた。

「それが昨日見つかったのよ。数名失踪者の中からは見つかっていない子供はいるけど誘拐されたとされる子は全員見つかったわ。その中に楯麟と思われてる人物はいなかった。」

羽喰は山道を歩き出す。

「もとから小楯の兄さんの誘拐にはきかかいな点がいくつかあったんだ。」

土竜が話し出した。

「当時、誘拐、失踪したのは大半の子供は十歳以下、楯麟を抜いて皆十二歳以下の小学生だけだった。にも拘らず楯麟は電妖にさらわれた。その瞬間は小楯が目撃している。何故当時小楯ではなく楯麟がさらわれたのかは仮の巣でも会議に上がりこれと言って結論は出なかったが羽喰はなにか気付いた様子だった。」

土竜に話を振られ羽喰は

「誘拐の日時からいって楯麟が一番初めに誘拐されている。始めは電妖も神保博士のことをひどく警戒している節があったから手出しの無いようするための工作なのではないかと想定した。でもそれなら尚更小楯のほうが誘拐しやすい。この電妖は随分と知能の高い電妖、もしくは妖人、半妖であるからにして誘拐の意図を掴むのにこんなにも時間を使ってしまった。」

羽喰のいっていることの理解できないメンバーは首を傾げる。

「で、どういうことなんだよ?」

「目的は楯麟ただ一人でそのほかの子供たちは電気を溜めるためだけにさらわれた。その電気を溜めているのは楯麟で現在電魔になっている可能性がある。」

洞窟の前に足を止め羽喰は言い切った。

 電魔の存在がよくわかっていないタローは疑問符を浮かべるも双子は驚いた顔をしている。

「待って羽喰ちゃん、電魔ってどうやって生まれるかもわからないすごく強いマイナスの電気の電妖のことだよ?なんでそんなんになっちゃうわけ?」

燐が聞く。

「電魔とは電妖またはそれに近い電気生物の電気をマイナスに変換して体内に蓄電することで人間を電妖に替える科学的、人工的な電妖生成術の一つよ。天然の電魔確かに伝説や迷信として広まっている。でもこれはもう十六年ほど前に神保博士の父親、小楯の祖父にあたる人が立証させ危険と判断された禁術。この術は体内に電気を溜める過程で抵抗が生じて器の人間自体が死んでしまう可能性が極めて高く、尚且つ成功して百人の人間のエネルギーを体内に溜めたところで器が長期間現世にとどまることができず電界に落ちてしまうという難点があった。それを小楯の祖父は確実に電魔を成功させる方法を最後に発表し自殺した。」

羽喰の話に息を飲みつつ洞窟の奥に進む。

「論文には最後に愛する孫にとんでもないことをしてしまった。と書き納められていたわ。」

「とんでもないこと?」

煌が聞く。

「小楯の体質。あれが電魔になる鍵なのよ。」

一同の足が止まる。羽喰は振り返りタローはその羽喰の目が離せなくなる。

「小楯の祖父は楯麟を電魔になりうる体に改造した。そして電魔になるために小楯を放電体質の電妖生成機にしたのよ。」

羽喰は再び歩き出す。たどり着いた洞窟の奥はすでにすべての袋が破られ湖には電妖が出てこれないように封印がされていた。

 「楯麟はここで小楯の代わりとなる人間の子供から電気を集めそれを一旦電妖に替え、体内に入れる作業をしたと思われる。あのクラゲの電妖はこの湖の先にあったもう一つの洞窟から卵を運んでくる役割をしていたみたい。そして電気が足りないからタローと燭影のペンダントに替えられた電妖の力を狙って似た系統の電妖を送ってきたのよ。発電機を置きに来るような協力者もいるみたい。発電機で大きく育ってから確実に二人のペンダントを手に入れる予定立ったんでしょうね。でも、それが失敗したため次の作戦が水流の誘拐になったと私は推測しているわ。神に近い電妖の電気はまた特殊で永遠に搾り取れるものだからね。もう電魔になる際十段階を踏んだ。もしくは乗り越えた可能性が高いわ。」

 湖の脇には羽喰が先に来て順備しておいたのだろう酸素ボンベとゴーグルに足ヒレが人数分用意されていた。

「何で羽喰がそんなこと知ってんだよ?」

「順備が出来次第潜るわよ。」

羽喰はタローの話を無視して服を脱いでボンベを背負うとゴーグルのゴムの調節に入る。

 タローたちは前回の海で更衣室が大混雑したのを思い出し中に着て来ていた。

「ここ数日何もしてなかったとでも思ってるの?」

羽喰は小さく声を吐くもその声がタローの耳に入ったかは定かではない。

 全員の支度にはそれほどかからず土竜も含め五人とも順備を追え湖の封印を解きにかかる。

「三・二・一で一斉に剥してね。行くわよ。三・二・一!」

ベリっと封の文字が入った紙を剥し湖に入る。

「蜂たちは仮の結界よろしくね。」

と羽喰は蜂の電妖に伝え潜る。

 湖は深くいたるところに袋から出てきたあの卵のようなものが孵化して空になった状態で沈んでいた。

 タローが当たりを観察していると羽喰が手を掴み引っ張るように泳ぎだす。

 しばらく湖の底を進むと光がさすとこがあり浮上する。

「ぷはっ…ここは?」

天上には同じように穴が開いているがほかに出口などなさそうな空間があった。

「ここがもう一つの子供たちのいたところよ。」

今の今まで繋がれていた手を離し地面に立つ。ボンベを置きヒレを外して歩き出す。

「足怪我するぞ。」

とタローが言ったところで反応はなく

「ここと向こうとで合わせて一五一の袋と約六〇〇匹分の卵が回収されたわ。その六〇〇匹が蓄電した電気を楯麟に渡し、発電機やあの大型のクラゲ型の電妖から電気を分け与えられ電気を探しに町に出る。溜まれは意図的に分離と繰り返し続けていたとしたらこの十年でとんでもない数になっているでしょうね。」

「でも、あの電妖って人口的なんでしょ?」

燐が聞く。

「そうなんだけど、文字的に聞き間違えしやすいわね。人工的とは言っても人間が作ったのではなく意図的に作られた電妖って意味だわ。まあ、関わっているのに人間もいるのかもしれないけど」

 羽喰はもう一度ボンベを背負い、

「もう少し調べるからみんなは向こうの洞窟で待ってて」

といって潜ってしまった。この湖は地下で無数につながっておりほかにも出口がある。

 「大丈夫かな一人で?」

「俺ついて行ってみるから二人と先生は先行ってて」

とタローが羽喰を追って潜る。

 「最近思うんだけど、羽喰ちゃんってタローくんのこと構いすぎだよね?」

「燐、嫉妬?」

煌に言われるならまだしも土竜に言われて不機嫌な顔をする燐。

「違うますう。」

と反論すると

「でもタローくんもここのところ燭影くんたちが構ってくれないってよく言ってるからそれで羽喰ちゃんのところに来るんじゃない?」

「これは恋の予感?」

「それならいいんだけどな。」

といって土竜は二人を置いて先に潜る。

「あ!待ってよ!」

と燐と煌も続いて潜っていく。



 その頃燭影は世良がタローの家に来たのを見て自分の部屋に上げ宿題を教えていた。

「元素記号間違えてるぞ。」

「どれ?」

とノートと教科書、プリントと駆使して進めていた。

「燭影くん、これ何て読むの?」

「しさ(示唆)だよ。」

理科と国語が同時に行われていた。

「飲み物取ってくるよ。」

そういって立ちあがる燭影に

「ありがとう」

と二人は言って見送った。

 一階のリビングに下りると庭に雛の姿を見つけ窓を開ける。

「雛?」

鳥と意思疎通をのできる燭影は無言の会話を行い雛は飛んで行ってしまう。

「タローたちはまたあの洞窟行ってるのか。小楯の正体に兄貴の存在…」

窓を閉めキッチンでグラスとお菓子をお盆に乗せ冷蔵庫から飲み物を取り出す。それを注いで部屋に向かう。

 「おまたせ」

そういって部屋に入れば集中しているのか二人の反応はない。

「ほれっ」

と冷えた飲み物を入れたグラスを二人の頬にくっ付けると

「うわ!」

声を上げた。

「休憩しよう。」

机にグラスを置きお菓子を広げる。燭影は自分の勉強机にあるパソコンの電源を入れる。

「調べもの?」

世良に聞かれた。

「うん。神保博士の論文が読みたくて」

「父さんの?」

小楯が反応した。

「小楯はお父さんの論文読んだことあるか?」

「一様読むけどそれがどうかした?」

小楯は首を傾げながら言った。

「いや、じゃあ、お祖父さんのは読んだことあるか?」

そう聞かれ小楯は記憶をあさるも

「無い、かな?家にないから読もうにも読めないんだ。父さんが隠してるみたい。」

燭影は少し険しい顔になる。

 電妖の研究者として神保博士は有名だ。その研究の始まりが自分の息子がさらわれたことに関係していることも、だが神保博士の父親については余り情報がなく博士同様電妖の研究をしていたことしか記録にはない。

「それがどうかしたの?」

「なんでもない。俺も電妖について調べたくなっただけだよ。前にも言ったろ?」

「そういえばまだ父さん忙しくで会えそうにないみたい。」

「そっか、いつでもいいから」

燭影はそう返すも内心早く会っていろいろと聞きたかった。



 その頃タローは羽喰を追って湖を迷っていた。そこに

「こんなところで人に会うなんて」

という声に水面から顔を出していたタローは驚き振り返る。何時か感じたことのある視線。

「何しているの?」

と聞いてくる人物は夏らしい白のシャツにジーパンというラフな格好になぜか山中にも関わらず下駄をはいていた。

「あんたこそなんでこんなんところに?」

人物の顔に見覚えがあるも思い出せずにいた。

「探し物をね。早く帰りな。じゃないと学校に立ち入り禁止のところに君がいたことチクっちゃうよ。」

「汚ねえ、お前だって入ってんじゃねえか」

タローが反論を述べると

「俺はいいの。でも君はダメ。それにそんな言葉づかい教師どことか目上の人間に使うものじゃないね。」

タローの記憶の中に一人の先生が浮かんだ。

「あんた、たしか海月(くらげ)って言ったっけ?よく学校休む教師」

「そう、それ、まだ君たちの授業は一回ぐらいしかしてないからね。解らないのも当たり前か。早く帰れよ。」

そういいながら海月はひらひら手を振りながら洞窟の奥に行ってしまった。そこに

「何しているの?」

と羽喰が水面から顔を出す。

「ああ、ちょっと迷った。」

「何やってるの。ほら、行くわよ。」

とまた手を引かれ潜る。

 その様子を気配で感じながら海月は

「こんなところに隠れてたんだ。」

と笑みを浮かべて言った。

 元の洞窟に戻りこの日はもう解散となりタローはジローにマリー、そしてどこに行っていたのかタローは知らないが丁度戻ってきた雛を連れて帰ることにした。

 家に帰ると自分がやけに磯臭いことに気が付き急いでお風呂に入った。

 部屋に戻るとそこには燭影の姿があり

「小楯は?」

と聞くと

「着替えを取りに家帰ってる。世良も一緒だよ。それより雛から大体の話を聞いて小楯の祖父さんの論文、探してコピーしておいた。これ、お前の分だから」

「ああ、小楯のやつ何で俺の顔見ようとしないんだ?」

タローは論文をめくりながら聞く

「お前が似すぎてるんだよ。あいつの兄貴に、小楯の刺激にならないようにするのが一番だと今は思ってる。だがずっとこのままってのもあいつには悪い。お前今から整形して来い」

シリアスな会話をしていたような気がするタローなのだが急な話の転換に顔をゆがませる。

「何でいきなりそうなるんだよ!俺と兄貴が違うって解らせればいいことだろ!なんでいきなり整形に話が飛ぶんだよ!」

と燭影の肩を掴み前後に振ると燭影の首が捥げそうになる。

「ストップ!ストップ!」

と静止してやっと止まったタローの腕に燭影は一回首を回して落ち着いてから思いっきりタローの頭を叩く。

「痛いだろうが!」

言われながらなぜか笑うタローに燭影は引きながら

「お前マゾだったこと忘れてたわ…」

といって帰ろうとすると思いっきり抱きつかれた。

「なんだよ!」

と返すと

「だってここ最近全然かまってくれなかったから」

「俺はお前の彼氏か!」

何て返され

「何言ってんだ。お前は俺の第三の母で彼女だ。」

と言い切られる。

「誰が母親で誰がお前の彼女だ!離れろ!マザコン野郎!」

とベッドの上で乱闘になる。

 しばらくして

「大丈夫燭影?」

と小楯が窓の向こうからいう。

「タローくんさすがにそろそろ燭影離してあげないと苦しそうに真っ赤だよ。」

と言われタローは固まり、すぐに燭影を開放する。

「小楯、もうタロー平気なのか?」

と燭影は聞く。

「うん。ごめんねタローくん。もう大丈夫だから」

と笑って見せる小楯は無理をしている様子はない。

「そっか」

とタローが小楯の頭と撫でる。

「僕、先にお風呂もらうね。」

と帰って来て早々行ってしまった。

「なにがあったんだ?」

「世良が何かしたのか?」

二人は疑問に思うも何があったかなんて小楯にしかわからないのであった。


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