タンチョウ水流
タンチョウ水流
体育館に集まる生徒、教師のまなざしの先には羽喰が壇上に立ち終業式のあいさつと注意事項を述べていた。
「それではテストの点がよかった人も悪かった人も、学校に来る予定がある人もない人も気を付け安全な夏休みを楽しんでください。」
毒のある言い方ももうおなじみである。
校長のあいさつも終わり生徒はまばらに教室に向かっていった。
そこに羽喰は生徒会のメンバーを見つけ話をしているのをタローは見つけ、その話が耳に入る。なので、
「生徒会集まるのか?俺らは?」
と声をかける。羽喰は
「そうね。来て頂戴、夏休みの予定を立てるわ。」
そう言って羽喰は誰かを捜しに行く。あたりをきょろきょろ見渡し、見つけたのか一人の教師に話しかけていた。だが話はすぐに終り頭を下げてまたきょろきょろしだす。
タローと燭影、小楯はその様子を気にしつつも教室への廊下に出ていった。
廊下には夏休み中に行われる祭りや花火大会、海神・山神開きというこの町独自の行事の日程が乗っていた。
「そういえばあの神社のツルってまだ居るのかな?」
燭影がポスターを見ながら言った。
神社のツルと言うのは幼い時に祭りで迷ったタローと燭影を境内まで案内してくれた電妖のことである。水流神社に鳥の電妖が出たと言うことで二人はあの鳥はツルなのだと認識していた。でもそれは歳を重ねるにつれ漢字の勉強も進む。水流神社の水流は鳥のツルではなく地名、人名から来たものだと知ったのだ。
幼いころの記憶に浸りながら三人は歩き出す。
「ツルって?」
小楯に聞かれ簡単に説明を返す。そんなことをしているうちに教室についてしまった。
教室に戻ってしばらく、どこに行っていたのか双子と共に世良が土竜の手伝いとして荷物を持たされ戻ってくた。それと同時に後ろのドアから羽喰も入ってきて土竜のもとまで行くとまた何か話していた。タローは思う。忙しそうだな…とのんきなことを
話が終ると羽喰は配布物を受け取りそれを列ごとに人数分を数え配っていく。
世良と双子は席に戻り一息ついた。
「世良は手伝いなんて珍しいな。」
タローがななめ後ろを振り向いていう。
「煌と話していたら燐に拉致されて手伝いに連行された。」
と世良が言ったのが聞えったのか
「拉致じゃないし!連行でもないし!」
後ろを向いてそんなことを言っていたので前から回ってきたプリントが燐の手の上に置かれ、あ、ごめん。と小さく漏らす。
通知表が配られ始め羽喰も席に着いた。
「さっきから誰か探しているのか?」
タローが聞くと
「生徒会顧問の先生、他学年担当だから授業はないけど一度合わせたことあるでしょ。彼がいないのよ。」
「生徒会に全然顔を出さない顧問ねえ…よく覚えてないや」
タローは土竜に呼ばれ立ち上がり通知表を受け取り戻ってきた。
「まあ、記憶にないのも当たり前ね。学校には午前中しかいない特別講師だし」
「そんな奴が顧問でいいのか?」
通知表を見ながら言う。
「決定権は私にあるし意見は校長に直接届けられるからいても居なくても同じなのよ。」
そういうと今度は羽喰が通知表を受け取りに行き戻ってきた。
「お前評価は?」
「トリプルAよ。」
タローは燭影の通知表を覗き
「ダブルAか…」
そう言われ燭影はタローのを奪い
「Aマイナスって微妙…煌は?」
燭影はタローに通知表を戻し煌に聞く。
「評価はAだけどテストのない家庭科が悪いかな。」
「煌も?あたしも家庭科悪かった。せめて手芸じゃなくて調理がよかったよね。」
「うん。」
と双子が話だし燭影は再びタローの通知表を見る。
「家庭科に選択の音楽もか…」
燭影は再び机にそっと通知表を置くと
「悪かったな。どうせ俺は音痴の不器用だよ。お前は美術だろ?どうだったんだよ?」
「選択なんて自分の得意なものを選ぶんだぞ。悪いわけないだろ。家庭科も得意だしな。」
「燭影くんってお母さんみたいだよね。」
隣りの煌がボソッというとタローは吹きだしそうになるのをこらえる。
「お前…笑うなら堂々と笑えよ…もう聞きなれた。」
燭影は肩をぴくぴくさせているタローを無視してその後ろの小楯に聞く。
「小楯はどうだった?って言っても評価の仕方違うけど」
「それは羽喰ちゃんも同じことだよ。僕はBプラスで体育と英語と数学が悪かった。テストもそんなによくなかったけどギリギリ補習にはならなかったよ。」
「そっか、じゃあ休み中はみんなそろってどっか行けそうだな。」
そういうと小楯は嬉しそうに笑った。
その時小楯の体から丸い電妖が生まれるも
「すぐ消えるわ。あの程度ならね。」
羽喰の言うとおりシャボン玉のように弾けて消えた。その後楽しそうな小楯からはシャボン玉が出ては弾けてを繰り返してタローたちは笑っていた。
「世良はどうなんだ?」
タローが羽喰の後ろを見ながらいう。
「僕はAマイナス。タローと同じ、成績はお前等と違って平坦だよ。よくも悪くもない。」
そう言いながらカバンに通知表を閉まってしまった。
世良は思っていた。小楯はともかく半妖の成績の良さをただの人間を比べないで欲しいと、小楯は頭があまりよくないことを自覚しているし皆解っている。だが世良は高校に入ってからの二回のテストは随分と勉強してからの結果だ。それが成績に反映されていないことにショックは大きい。
通知表は人間、妖人、半妖の三種類に分かれている。書かれている紙自体は同じなので見た目では解らないのだが中にはいろいろと書かれているのだ。生まれたときより脳の伝達能力に関しては人の数倍ある半妖はきつめの評価を、ある日突然妖人となり脳の伝達と意識が混沌としている者からそれに慣れている者まで様々な妖人はそれぞれ妖人となった月日からレベル的は評価判断をされている。そしてただの人間は普通の学校レベルの評価をされるのだ。
世良と小楯は学校レベルのタローに燭影、燐と煌は半妖として、羽喰に至っては評価の基準などないものの評価され紙切れに結果として渡されるのだ。残念な社会である。
これが天電町でなければ燭影や羽喰は文武両道才色兼備の高嶺の花だっただろうにと、考えたところでこの町ではどうにもならないのだ。
「連絡は以上だ。それじゃ、怪我の無いように、元気に九月に登校して来いよ。」
土竜の言葉を皮切りに皆はいそいそ帰り支度を済ませ教室を出ていく。
そこに土竜は羽喰に近づき
「水流先生のこと聞いてみる。生徒会室に居てくれ」
「わかりました。」
と人前では一様教師に敬語の羽喰。
「もうみんな来てるかな?早く行こう。」
と燐が羽喰の腕に自分の腕をからめ反対の腕を煌の腕にも絡めて歩き出すが
「ドア通り難い」
と煌に言われ止む終えず腕を解いていた。
それに続いてタローたちも生徒会室に向かうのだが小楯は仕方ないとは言え、
「世良も来るのか?」
タローはともに歩く人物に聞く。
「着ちゃ悪いかよ。」
少し膨れた様子で彼はいうと燭影はクスっと笑った。
「なんだよ?」
「いや、夏休みは平和では済まないようだ。」
何を予期しているのかは分かたないタローは燭影に聞くも答える気配のない姿にタローは不機嫌な顔を向ける。
談話をしながらついた生徒会室にはタローたちが最後のようでドアを閉めて席に着く。現在、小楯と世良の分も椅子は用意されている。
「それでは夏休み前に第三八回生徒会会議を開始します。今回議題は夏休み中の集合日程の報告と定期的に行っている天電町内の娯楽施設等での生徒の迷惑行為などの聞き込み、現在電妖を見ることのできる常時メガネを電子端末などを持ち歩いてる生徒をリストにまとめてあるから妖人への変化が見られたときの対応について、町外に出る生徒の素行調査といった内容について話します。そのほか議題がある人は?」
羽喰が珍しく会長らしい仕事をしていることに驚くタロー。それに三八回も会議をしていたなんて知らなかった。
「無いようなので話を進めます。まず一つ目、生徒会の集合日程は手元のプリントで各自確認。来れない場合は必ず私に連絡を入れること、つながらない、返信が来ない場合は副会長の燐に連絡を入れるように、理由はしっかり述べること、タローたちもよ。」
関係ないと思っていたことに名前を呼ばれ驚くものの燭影は普通に
「わかってます。」
と返事を返してしまう。
「では二つ目、生徒による迷惑行為に関して、町内の生徒はともかく町外から来ている生徒がここ数年電遊園や海、山などで迷惑行為、客、店員、従業員、建物などへの冷やかし、中傷、悪戯などが多発していることから今年は見回りを行うように言われています。これも以前聞いていた出席可能日からチームを組んで隔週で行ってもらいます。その際は私が必ず同行するから安心してね。それからゴミのポイ捨ても多いので行く際はゴミ袋を一人一枚持ってきてください。燐も煌も一枚ずつだからね。」
「解ってまあす。」
燐は返事をしながら羽喰が今まで言っていたことを黒板に書いていっている。
「質問ある?」
と羽喰はタローたちを見て言う。
「はい、俺ら開いている日程なんて聞かれて無い。」
「それに関しては燭影と小楯から聞いているわ。タローの予定もね。」
「おい!」
タローは隣で苦笑いする二人に怒鳴るも諦めて紙に視線を向ける。予定は特にないがかってに入れられては癪なのだがどうせ三回ぐらいいいかと諦めるのであった。
「ほか質問は?」
と再び聞くと世良が手を上げて
「俺は言ってないの?」
と聞くものだからタローは驚いた顔を世良に向ける。
「そう、なら後で日程をメールするから、どこに入るかわからないけど」
「わかった。」
タローは世良に聞く。
「どうしたんだよ?お前は別に俺らみたいにこき使われている訳じゃないだろ?」
「家にあまりいたくないんだよ。家に居たくないだけ、また泊まりにいくから」
「ああ、分かった。」
と二人の話が済んだのを見て
「では話を進めます。三つ目電妖を見ることのできる生徒のリストとその子の自宅の記してある地図、電妖の多発している地域は三色にぬりわけられているからその説明するわよ。まずリストだけど名前の横に黒丸と白丸が不規則についているのだけれど黒丸は学校に報告している生徒、白丸が報告していない生徒、三角も同様で意味は常時ではないがメガネをかけていたい外していたり、電子機器を持ち歩いていたりいなかったりとする生徒のマーク、だから三角はあまり警戒しなくてもいいわ。地図の数字はリストについている番号でその子の家、で色分けされているのは緑が安全性は高いが悪戯でたびたび人間に傷をつける電妖のいる地域、黄色が安全ではあるが大型の電妖で傷付けたことにすら気が付いていないような電妖のいる地域、で、赤いところには翌桧、柏尾、白柏、木杉は注意してね。見えると解るとすぐに襲ってくるような電妖がいるところだから」
「わかりました。」
と翌桧が返事を返す。この生徒会四人は羽喰の蜂の巣にいる幼虫だとタローは以前説明を受けていた。電妖か見えるがタローたちとは違ってただの人間。主に羽喰への情報を伝えたり収集に当たったりしているメンバーなのだと言っていた。天電町役場に親が勤めているらしく国から羽喰に協力するように高校に入ってから通達が来たらしい。
「まあ、襲ってくると言っても狩りが必要かと言われればいらない程度の弱い電妖、タイヤで防げると思うけど」
と、話をしていると
「羽喰ちゃんの家の周り多いの?」
と煌が聞くのでタローたちは地図を見るものの家がおそらく西と言うことしか知らないのだと思い出す。
「そうなの。最近夜に道路工事をしているでしょ、発電機目当てで結構集まっているのよね。燐たちも遅くに帰るときは気を付けるのよ。」
なんて珍しく人の心配を口にする羽喰をタローは眺めながら
「次は?」
と聞くので羽喰は向きをタローたちに向け
「町外に出る生徒が多くなるということで申請が来た場合その生徒に関する情報を急いで集めてもらいます。とはいってももとから情報収集は常時この子たちがしているからそこまで必要ではないからこの話はいいわ。」
羽喰がそこまで言うと生徒会室のドアがノックされた。
「入るぞ。羽喰、水流先生のことなんだが」
そういいながら入ってきたのは土竜であった。
「見つかった?」
「それが校長にまで聞きに行ったら連絡が取れないらしくってな。先生の家に行ってみたんだがこの二日間帰って来てないらしい。悪いが探してくれないか?」
土竜に言われ考え込む羽喰。
「そうね。探さないと……でも間に合わないし…」
とつぶやく羽喰に視線が集まり
「間に合わないって何が?」
と燭影が聞いてみた。
「それが海神開きの前に今年は電妖が多いらしくってその駆除を生徒会にお願いしたいと言われていてね。生徒会で動く以上は名目上の顧問の動向が必須なのよね。土竜、貴方明日暇?」
と羽喰は聞くと土竜は一瞬遠くを見るような目をしていから苦笑いを浮かべ
「俺が代わりに行けばいいんだろ?羽喰から言われると何かあっても断れないだろ。」
「別に貴方はもう私の世話係じゃないのよ。暇じゃないなら生徒会ではなくボランティアとしていけばいいことだもの」
羽喰は携帯を操作しだすも
「いいよ。生徒会で言ってもらった方がいい、俺がついて行く。何時に集合だ?」
土竜がそういうと
「本当にいいの?それじゃあ明日の八時に天電海浜浴場の案内センター前に集合よ。みんなもいい?」
とまんべんの笑みでいうものだからその場の人間の大半は溜息を漏らし、羽喰の性格を熟知している者は苦笑している。
「持ち物は水着と体育着、帽子と水分補給できるもの、あとはこっちで用意するわ。」
「はい!」
と話が終った途端燐が手を上げる。
「お昼はどうしますか?」
なんて言い出す燐に視線が集まる。
「お昼ご飯は持ってこなくていいわ。」
「なんで?」
世良が聞く。
「網を使って捕獲する予定なんだけど案内センターの人が言うにはその網で魚も採れるからそれを食べればいいと言われたわ。私も面倒だからそれでいいかと思ったんだけど」
「そう、ならいい。」
「じゃあ、今日は解散でいいかしら?何かあったら明日聞くわ。」
そういうと羽喰は土竜と部屋を出ていった。
「あたしたちはこの後どうする?お菓子でも買って駄弁る?」
「太るよ燐。」
煌にそういわれ頬を膨らます燐。そこに燭影が
「時間あるしうち寄っていくか?」
と提案すると
「行く!」
と一番に燐が飛びついた。
「お前等は?」
と燭影はそのほか生徒会メンバーに聞くも
「いや、明日の順備あるから」
といって四人は帰っていった。
タローたちも荷物をまとめて教室を出る。
時間は飛んで朝が来る。
「起きろ!」
と燭影の声がタローの部屋に響き小楯が苦笑いをする。
「お前って本当に寝起き最悪だないろんな意味で」
と世良が漏らす。
「ただ見てるんじゃなくって助けろよ!」
燭影は今日もタローの抱き枕にされている。
「タローくんと燭影くん、どちらかが女の子なら少女漫画な展開なのに、これはこれで別ジャンルの展開だけど」
と燐が窓の向こうからいう。
「燐は黙ってた方がいいかも」
煌が燐の肩に触れながらいう。
「それよりも早く起きてもらわないと朝ご飯燭影くんが作るんだよ。」
と小楯が言うと世良、燐、煌は小楯のほうに振り向いたと思いきや急いでタローを燭影から剥す。
「最初っからそうしてればいいんだよ。もうこんな時間じゃんか」
と目覚ましを見ながらいい、
「タロー、着替えろ!早く!」
燭影が揺すり
「ああ、おはよう」
そういいながら立ち上がりタンスをあさり出す。
「燭影くん毎日こんなことしているの?」
燐に聞かれ
「生まれてからずっとな。」
そういうと燭影は窓をくぐり部屋に戻ると
「燐、煌、自分の使った布団も使わなかった布団もちゃんと畳んで端に寄せて置けよ。お前等のほうが少女漫画だろ。」
と言いながら部屋を出て一階に下りていく。
そこに窓を通って世良と小楯が来る。二人の目に入ったのは明らか使われていな布団と誰かが寝ていた布団。そして自分等の今いるのは燭影のベッドの上、明らか数が合わない。
「ダメ?」
と燐が二人の考えていることが解ったのか聞きながら布団を畳んでいる。
「ダメじゃないが、燭影昨日ちゃんと寝れたのかな?」
心配になる二人であった。
タローも合流し朝ご飯を食べ五人は荷物を持つと
「お父さんが車で海まで連れて行ってくれるって、バス乗らなくて済んでよかったね。」
といいながら秋月家のあるマンションまで歩く。
小楯はともかく世良と双子は制服のままタローと燭影の家に泊まっていたのだ。水着などは家に帰らなくてはない。そのため朝の七時前に家を出る破目になったのだ。
秋月家までは歩いて三〇分ほど
「遠くないか?」
「そう?羽喰ちゃんもそんなに変わらないんだけどなあ」
燐はそういうものの歩いて三〇分はそこそこ距離がある。よく毎日歩いて来ているな、とおもう四人であった。
「そういえば羽喰の家ってどこなんだ?」
タローが聞くと双子に肩が一瞬跳ねた。もうマンションは目の前、途中と言うことは
「もうとっくに通り過ぎちゃったよ。一〇分ぐらい前にあったよ。」
といって燐はマンションに入り自動ドアのロックを解除、先に進んでいく。
「家は二階でよくそこからマリーが来るんだ。」
話をそらすのに必死の双子だが
「そういえば最近マリーがジローの小屋から帰って来ないのどう思う?」
と煌に聞く。
「ジローはマリーの彼氏らしいからいいんじゃない?」
なんていってしまうと燭影はショックを受けた顔をして固まる。
「ジローとマリーが恋人…恋獣?」
「変な単語作るな」
タローの発言に世良は文句をつける。
「ここが家だよ。すぐ順備してくるから待ってて」
といって二人は家に入る。
しばらくして出てきた燐と煌と二人によく似た男性が父親なのだろう。
「おはよう。いつもこの子たちが迷惑かけてるね。」
なんて挨拶されれば
「いえ、そんなことないですよ。今日は送ってもらえると言うことでよろしくお願いします。」
と燭影が丁寧にあいさつする。
「さ、こっち、駐車場いこう。お父さん、途中で情報屋敷寄るの忘れないでね。」
と燐が先に行く。
車に乗り込み途中世良のために情報屋敷へ、そして海に着いたのは七時四十五分のことだった。
海ではすでに羽喰たち蜂の子がせっせと作業していた。
「おはよう羽喰ちゃん!」
すでに体育着に着替えている羽喰は浮き輪に吸電器の網を結び付けていた。
「おはよう。燐と煌以外は水着の上に体育着着てきなさい。向こうに更衣室あるから」
「こいつらは?」
タローが聞く。
「二人は水着だけで十分よ。なんて言ったって二人は人魚なんだから」
といって作業に戻る。
着替え終わり戻ってきたときには土竜も来ており近くに子供を一人抱き一人手を繋いでる女性がいた。
「桃花先生!」
と着替え終わった燐が走っていく。
「あら、二人とも大きくなったわね。」
と桃花と呼ばれた先生はいった。
「茜ちゃんも葵くんも大きくなりましたね。」
とオウム返しではないが同じようなことを繰り返す。
「いくつになったんでしたっけ?」
と煌も混ざり話し出す。彼女は土竜の妻であり元小学校教師である。
「茜が四歳で葵が二歳になるところよ。二人にあったのは葵が生まれてすぐだったから」
「そうですよね。土竜ちゃんったら全然桃花先生のこと話さないから」
「悪かったな。」
と土竜も話に加わる。
その横で羽喰は網のついた浮き輪を五つと漁に使うようないつも使っている網と大きな虫取り網を用意し終わっていた。
「これでどうやって捕まえるの?」
小楯が羽喰に近づき聞く。
「小楯と世良は危ないから浜から網を撒いて電妖を捕獲して、燐と煌には遊泳エリア内の電妖を沖から浜まで追い込んでもらうから、タローと燭影には手持ち網ですくったのをこっちの浮き輪の網に移しながらどんどんとってもらうから」
といつの間にか集まっていた皆に説明する。
順備が出来たということで捕獲作戦が始まる。
「うおおお!」
と声を上げながらなぜか気合が空回りさせる世良は網が上手く巻けない様子。
燐と煌は潜り刺激があったのか電妖は海中から空に飛びだすのを燭影やタローが回収。生徒会メンバーもそこそこうまく取れている。
タローはふと気づく
「あれ?羽喰は?」
その声に燭影は
「さっき熱中症だって言って案内センターに入ってった。」
とその声に海から顔を出し
「昨日徹夜みたいだったし海水が傷に染みると痛いと思うからやらなくていいよって言ったんだけと世良くんたち手伝って熱中症なの。多分すぐ元気になるだろうけど」
といってまた海に潜っていった。そして今度は煌が
「さっき案内センターの下に行ったんだけどもう元気ぽかったよ。今お昼の順備してるみたい。」
また潜ってどこかに行ってしまう。
「あいつら言い逃げみたいになってんな。」
「そうだな。まあ、会長ちゃんのことだし大丈夫だろう!彼女の分まで働くぞタロー!」
と燭影も意気込んでいってしまった。
昼が過ぎたころ浜には大量の電池が転がっていた。
そして浮き輪の中は電妖は吸電されて姿はなく魚が何匹か入っていた。
世良と小楯の網にはもっと多くの魚がおりバケツの中で跳ねていた。
「大量だな!」
タローが世良と小楯の頭をぐしゃぐしゃにしながらいう。
「当たり前だろ!」
世良も楽しそうに返す。
「ちょうどいいわね。お昼にしましょう。」
と言いながらいつの間にか机を浜に固定する。
「お前もう平気なのか?」
「少し休んだから平気よ。でも熱帯夜に徹夜はつらいわね。」
と言いながら戻っていった。
しばらくして料理をいくつか持ってきては魚を持って行ってしまった。
次に戻ってきたとには皆食べ始めていた。
「燐ちゃんこんなの拾って来ました!」
と持っていたのはウニにサザエなどの甲殻類。
「これもあるかに」
と煌がいうとシーンとなるも羽喰は受け取りどこからか網を持ってきて適当に石を組むと
「煌、火」
と言ってくる。網の下に木や新聞を入れて燃やす。その上に下処理をした魚などを並べていくとしばらくしていい匂いが立ち込める。
最終的にバーベキューパーティーのようになり夕方解散した。
そう、解散したのだがなかなか帰らないタロー、燭影、小楯に世良と双子。
「帰らないわけ?」
と羽喰が聞くと
「水流先生のことで徹夜したんだろ?で、今日一日バーベキューにまでお前が付き合ったってことは先生の居場所の目星がついているってこと」
「会長ちゃんのことだからまた一人で行動しかねないからね。」
とタローと燭影に言われてしまう。
「そうね。確かにそうなのだけど…今から山に行くのについてくるの?」
羽喰がそういうと唖然と険しいの間の残念な顔に皆なる。
「無理についてこなくていいのよ。」
というと羽喰は宙に電波に足を置く。
「無理なんて思ってねえし」
タローを筆頭に皆ついてくる気満々の様子に溜息を漏らす。
「まずはその電波に立つ方法教えろよ。」
とタローに言われ一旦地面に下りる羽喰。
「これは自分の回りの電界を調節するの。タロー、まずタイヤを付けた状態で携帯で空の写真取って見なさい。」
タローは言われた通りに携帯を空に向けシャッターを切る。
「お!」
と短く声を漏らした。画面にはなぜかいくつのも横線縦線が通っていた。
「それが電波よ。それに立つには電波と反発する電気を足裏に溜めること、足の写真取って見なさい。」
再びシャッターが切られる。
「足のほうが丸いな。」
「そう、それが反発する電気よ。後は立つことだけど綱渡りはできる?」
「やったことない。」
タローの言葉に面倒臭いという顔をする羽喰に携帯を向けてシャッターを切った。
世良と小楯も隣で写真を撮っているの
「映らない。」
という。
「二人にもこれあげるわ。で、続きだけど、まあ、縄の上に立って跳ねると言うことができればいいのよ。とにかく足元に意識して適当に立ってみなさい。」
「アバウト」
「大丈夫、あたしたちもそんな説明だったから」
と言って見本を見せるように燐は電波に立つ。
「こうか?」
と言ってやってのけたのはタローではなく
「燭影は飛べるからいいじゃない。」
「俺もできた!」
と世良もできた様子。小楯に至っては煌に肩を借りて辛うじて立っているとストンと全員が地面に落ちる。
「電波が切れたのよ。」
と羽喰が説明する。
「何でできないんだよ!」
皆できたのになぜか一人だけできないタロー。
「お前のことは俺が運んでやるよ。」
と燭影はタローの肩を叩きながら言った。
「それじゃあ、水流先生救出に行きましょうか!」
燐が張り切って先導を行くも
「燐、場所解るの?」
と煌に言われて動きが止まる。
「行くわよ。」
そういうって羽喰の後に皆が続く。
「何で俺だけできないんよ。」
「不器用だもんな。」
抱きかかえられてるタローは今この状態で燭影に反発することを言うと落とされる可能性があるため黙って運ばれる。
「ここ?」
とタローは羽喰に疑問をぶつける。
「そうよ。ここはもとから電妖の多発地帯、でもそれはここ数カ月のこと、それで土竜と昨日調べに来たら案の定あそこらへん」
といいながら羽喰が指をさしたのは以前タローと燭影を狙った大型の地を這うクラゲ型の電妖が出てきたあたりを指す。
そう、ここはタローと燭影が初めて世良と出会った場所である。
「それで、あそこに何があったわけ?」
「発電機よ。あの電妖はその電気を食べてあれだけ巨大化したんじゃないかしら」
羽喰は腕を組みながら言った。
「そういえばあの電妖、父さんが人工的な電妖かもって、その後来たクラゲ型のも全部」
小楯がそういった。
「人工的ねえ…。」
「そんなことあるのかよ。電妖を意識的に作るって」
「可能よ。私も自分の電気で作った子たちを蜂の巣で使っているのも、系統としては小楯のとは違って自分の電気を媒体に他の電気を加えることでそこそこ成長させるという仕組みなの。でもあそこまでの数を作るのは不可能に近いわ。」
電妖のいる一点の山肌を見ながら羽喰は考える。
「じゃあ、切って増殖するって言うのを意図的にしている可能性があるかもしれないね。」
煌がそういうと羽喰は
「そうね。電気を与えればすぐにもとに戻る。切れば切るほど量が増えていく。厄介ね。」
「今回もそのタイプ?」
燐に聞かれ
「いえ、そのタイプは確認していないわ。水流先生を捕獲して電気を奪っている可能性が強いから貯蓄型で発電機からは余り離れられないタイプを想定しているの。」
「何で水流先生から電気取るんだよ?」
とタローが質問するとあったことがないはずの世良や小楯まで溜息や苦笑を見せる。
「タロー、最近バカになる進行スピードが速くないか?水流先生は電妖だぞ。」
と燭影に言われポカーンという顔をする。
「マジで?」
「マジで!」
と返されショックを受ける。だが
「でもあの人、人間の姿してんじゃん!」
と疑問をぶつける。
「電妖にだって人間になれる個体はいるわ。水流先生の場合は特別な電妖で人間の姿を自由に変えられる人なのよ。」
「でも長く持たないから午前だけなの。長く生きている電妖はそういうこと出来るようになる電妖も時々いるんだって、先生は特殊だけどね。」
「へえ…」
とあまり興味の無いように返事を返す。
「さて、そろそろ始めるわよ。燭影、鳥を使って周りの様子聞ける?」
「了解。」
燭影は返事を返すと口を開く。そしてカラスの鳴きまねが山に響いた。すると一斉に木に止まっていたであろうカラスが飛び立ち燭影に向かって飛んでくる。そして羽喰たちの回りはカラスだらけになってしまった。
「この烏天狗が!」
とタローが燭影に言うとカラスの視線が一気にタローに集まる。
燭影は気にする様子もなくカラスと会話を続ける。そして数分して
「水流先生のほかにもう一人、人間が出入りしているみたい。今日はもう帰ってったらしいけど」
「クラゲ人間の捕獲は後ね。水流先生の救出が先だわ。」
羽喰に言われ皆がうなずく。
「行きましょう。あの辺は発電機以外の電源はないから日が暮れる前に終わらせるわよ。」
そう言って羽喰は宙を走っていく。それに続き燐も煌もついて行ってしまう。
「燭影、よろしく」
タローも出発したところでその場には世良と小楯だけが残される。
「何で俺らっていつもお荷物なのかな?」
「仕方ないよ。僕ら人間だもん。みんなみたいに戦う手段があるわけじゃないし」
そう言いながら空を眺めていた。
羽喰たちは山道に下りた。
「この上の洞窟よ。」
「様子見てくる。」
燭影はタローを降ろして洞窟を覗きに行った。
「気を付けろよ。」
燭影は慎重に中を覗く。そこには発電機と倒れている水流が視界に入るのみで電妖の姿はない。
「どう?」
燐が聞く。
「電妖はいない。先生が倒れているだけだ。そうする?」
「私たちも行くわ。」
洞窟に入ったところに皆が立つ。羽喰は一人歩きだし奥の様子をうかがう。
「燭影は先生を世良たちの所に連れて行ってその場で待機、燐は発電機を止めて、煌は外から電妖が来ないか監視、タローは私と奥に行くわよ。」
返事を返し燭影が水流を背負って飛んでいく。煌はそれを見送りあたりを警戒、燐は半分壊しているような手つきで発電機を止めにはいる。
奥に進むにつれ洞窟内はひんやりとした風が通っていく。
「風があるってことは出口があるってことか?}
「地図にはそんなの乗っていないわ。それにどう見ても壁は削られた跡がある。前の電妖がここから出てきたのならもっと広いか長い空間がないと無理よ。もっと進んでみましょう。」
しばらく進み見えてきたのは開けた空間、そして日光の指し込む湖だ。
「塩だわ。」
羽喰はその場にしゃがみ込み地面をいじる。白い結晶がゴロゴロと転がっている。
「岩塩かしら?}
「でもここ山だぞ?」
タローが聞く。
「何言っているの、天電町は人口的に作られた海上都市。数千年前まではここは海の底、時代と共に電妖や人間が自分たちが住むために開拓してきた地よ。」
そう言いながらあたりを見渡す。日光、夕日の差し込むこの時間しかここはこんなにも明るくないのだろう、天上に開いた一つの穴、その周りにはいくつかの袋のようなものがブラ下がっていた.
「なんだあれ?」
「クラゲの卵ってところかしらね。」
羽喰は壁際に歩いて行き低い位置の袋を剣を出し切り付ける。すると中から
「人間!」
タローが声を上げる。
仲からは小学生ぐらいの男の子が入っていたのだ。
「もう死んでる。」
「何で?}
「誘拐事件との関連も調べないといけないわね。」
羽喰は立ち上がり携帯を取り出すも
「電波がない。タローの携帯は?」
「俺も圏外だ。インカムも雑音のみ、いったんその子を連れてここを出た方が」
「いえ、まだ生きている子がいるかもしれない。タローは先に戻ってこのことを土竜に連絡してきて」
タローは言われた通りに洞窟を戻っていった。
羽喰は近くの袋をまた破く。どんどん破いていくも生きた人間が出てくる様子はない。人間一人と袋に最低三つ、多い子は五つ以上の卵と思われる物体が入っていた。電妖のうちその一部の種類が卵で繁殖するのは神保博士の論文に合った。驚きはしないもののそのエネルギーに人間を使うというのは随分と高度な知能を持った電妖がいるようだ。と、羽喰は考えていた。
手の届く位置の袋は破き終えてしまう。ふと、光の差し込む天上を見ると一つ破けた袋が目に入った。そこに
「羽喰ちゃん!人が死んでるって本当?」
燐がタローと共に入ってきた。
「ええ、結構破いてみたけど生きている子供はいない。思い出してみればこの子たちみんな十年前に誘拐、失踪した子供たちのリストに載っていた子たちだわ。」
「え?でもどう見ても子供だし、でもそれじゃあなんでこの体腐ってないの?」
燐が子供の一人に触れる。固い感触がするだけで人間とはおもえない。
「多分袋の中の液体のせいでしょうね。一緒に入っていた卵は同じように硬い物と孵化して割れている物とあるからここは電妖の繁殖場所で人間から電気を吸って卵を育ててたんでしょうね。」
羽喰がそういっている後ろで湖に波紋が広がる。
「羽喰後ろ!」
タローの声に振り向くと水面から一本の触手が羽喰を貫通する。
「羽喰ちゃん!」
燐が叫ぶ。
羽喰は水面から姿を現した電妖の自分に刺さっている触手を切り落とす。廃喰の様子が一瞬変わったことにタローと燐は気付くも今は羽喰の怪我である。
「燐、羽喰を連れて戻れ、ここは俺が何とかする!」
というと燐は羽喰を連れて洞窟を戻っていく。
タローは槍を出し構える。
洞窟の入り口では土竜と数匹の蜂の電妖が到着していた。
「煌はこのままここに居ろ、羽喰たちは奥だな。」
「はい。」
煌の返事を聞き中に進もうとしたところ奥から燐が出てきて
「羽喰ちゃんが大変!」
というものだから土竜の顔色が一気に悪くなり燐と羽喰に駆けよる。
「何があった!」
「またクラゲの電妖がいて、今タローくんが一人で奥にいるから早く!」
土竜は蜂の電妖を奥に行かせる。
「羽喰なら大丈夫だ。燐、煌、二人でタローの援護に行って来い。」
「土竜ちゃんは?」
「俺は水流先生と羽喰を病院に運ぶ。すぐ戻るから怪我のない程度に時間を稼げ」
そういうと土竜の姿が一瞬で消える。
燐と煌は奥に急ぐ。
タローは槍で触手を切るもすぐに再生を繰り返す電妖に苦戦していた。
「くそっ!」
そんなことを言ったところで何にもならないことは解っている。やけの回るタローに電妖の攻撃は容赦なく届けられる。それを避けるか切り落とすかに必死になっていると
「うわっ!」
といいながら塩にあしを滑らせ湖に落ちる。やばい。タローがそう思ったときにはもう遅く電妖の触手は目の前、夢中で槍を触手に突き立てる。その瞬間、電妖の攻撃が止む。槍の先から電流と共に大きな盾が現れたのを目を瞑ってしまい見そこねたタロー。
湖から這い上がるタロー、そこに
「タローくん!」
と燐と煌が現れる。
それ以降電妖は攻撃を仕掛けてこない。それ何処とか湖から頭すら出さない。
「倒したの?}
燐に聞かれるもよくわからないと首をかしげる。
タローの手に持つ槍がびりびりと電気を帯びている。
数分後土竜が現れるも死体と共に座り込む三人を見て
「電妖は?」
「どっかいちゃったみたい。」
煌が返事を返す。
「そうか、それよりお前等よくこんなところに居られるな。」
土竜に言われ三人はあたりを見渡しいそいそと土竜のそばによる。
土竜はこの空間を見渡す。そこで随分と高い位置の袋が割れているのをみて
「あんなところのも破いたのか?」
と聞きタローが
「いや、あれが割れてたよ。俺がここ来て見たときには」
そう言った。袋の下は湖、死体が重みで落ちて沈んでいるのかと考えていた。
「そういえば蜂たちはどうした?」
「ああ、電妖に触れた瞬間にこんなんになっちまったよ。」
タローはポケットから蜂の形び折られた立体的な折り紙を出す。
「そうか。とにかく戻ろう。警察ももうすぐ着く。お前等にも少し話を聞きに来るだろうけどそのままを話せよ。」
「はい。」
そう返事を返す。
洞窟の入り口まで戻ると燭影が待っていた。
「大丈夫か?」
「ああ、俺は平気だ。それより羽喰は?」
その言葉に土竜が答える。
「羽喰は大丈夫だ。今嘘喰がついている。」
その言葉に燐と煌が微妙な視線を送る。
「土竜ちゃんはその嘘喰がいったい誰なのか知ってるんですか?」
と燐が聞き、煌が頷く。
「羽喰には一緒に住むようになったとだけ聞いてるから彼氏なんじゃないのか?」
土竜は意図していないことを口にする。
「先生はそれでいいの!」
と燭影が口を挟む。
「教育者がそれでいいんですか!」
「別に俺は本物の教育者じゃないからな…。まあ、羽喰には何か考えがあるんだろう。」
そう言って逃げるように土竜は姿を消した。
「逃げた。」
「逃げたね。」
双子はそういう。
「土竜先生って何者?」
とタローが聞く。
「クォーターの半妖だよ。だから人間と変わらない。今みたいに瞬間移動ができることぐらいかな。」
四人は一旦世良と小楯のいるとことに戻ることにした。
翌日。羽喰は自分のベッドで目を覚ました。
「何でここに居るの?」
これは自分にではなくここ数日いなかった人物に、
「偶然帰ってきたときにお前が倒れたの解って蜂の巣にお邪魔していたら偶然土竜にあったからお前を引き取って帰ってきた。どう?感謝してくれる?」
「全然」
そう答えると羽喰はお風呂に行ってしまった。
「なんだよ。せっかく血を取らずに傷だけ治してやったのに」
嘘喰は台所に出て冷蔵庫を開ける。そしてトマトを掴みかぶり着く。
「すっぱ」
空には太陽が丁度天辺に来ているところ
「腹減ってんだけどなあ…」
と漏らしながらトマトを食べ続ける嘘喰。
羽喰はそのころ湯船に浸かりふと思い出すことがあった。
「今日はなんでこんな中途半端に貧血なのかしら?」
触手の貫通により血が出た。だがその傷がないということは嘘喰が治してくれたのだろう。だがそれには血を吸うのがお約束。その所為で貧血だったのだが今日は頭痛はないが軽い眩暈のみ、可笑しなことがあるものだ。と、考えながらお風呂を上がる。
その頃タローは警察署で事情聴取と言う名の昼食にあり着いていた。
「燭影の飯のほうが旨いな。」
「確かに」
タローの発言に小楯が賛同する。
「ここのお弁当いつもはおいしいんだけど今日はハズレだね。」
「発注先変えたのかな?」
燐も煌とそんな話をしている脇で
「お前等な!出してもらったものは文句も言わずに食え!俺が恥ずかしいだろ!」
と現在事情聴取中の燭影が言うと
「だってこれ本当においしくないよ。」
といって世良がおかずの一つを燭影の口元に運ぶ。
「ん?これぐらいタローの作ったものに比べたら全然食えるだろ。」
と向かいに座る婦警が苦笑いするようなことをさらっと言いのける。
「そんなにまずいのか?」
「めちゃくちゃまずいのに見た目だけはいい。なのに簡単なものになればなるほど見た目も悪くなっていく。」
「ヒド!ショーくんひどくない?」
タローがそういうも世良も燭影も無視して
「そんなにまずいなら逆に食べてみたいかも」
「それには防火万全で消防車を呼んだ屋外を進める。」
話は進んでいるところに
「昨日のバーベキューでタローくんが置いただけの魚、炭になってたもんね。」
と燐が思い出したようにいう。
「俺、なんか寂しい…。煌助けて」
とこの話を終わらせてもらおうとするも
「俺その魚食った。」
と話を発展させてしまった。
「あれは魚じゃなくって炭だよ。」
そういいながらお茶をすする。
燭影も世良と交代して昼食を取り始めるも
「無言かよ。」
とタローに言われてしまう。
「食事中は基本喋るな。お前よく米粒飛んでんだよ。」
燭影はティッシュをだして机の上の米粒を拾う。
「タローくんて子供みたい。燭影くんがお母さんで」
「子供と言えばあの子供たちってどうなったんだ?」
婦警にタローが聞く。
「顔を照合させて身元を確認しているところよ。確認が終わり次第解剖に回して家族に連絡が言っているはずよ。今回見つかったのは誘拐、同時期に失踪している子供の約三分の二が見つかったけれど残りの子たちはまだね。」
小楯はうつむいたのに気付いた燭影は
「大丈夫、小楯のお兄さんは無事に見つかるよ。」
「ありがとう。」
小楯が無理に笑って見せるのを見て心を傷める。
「それ食べたらもう帰っていいわよ。神保くんのお兄さんのことは私たちも全力を尽くすから」
婦警はそういうと部屋から出ていく。
「これおいしくないしあたしたちも帰ろう。近くにおいしいランチ出すカフェがあるの。そこで食べ直そう。」
燐はそういうとお弁当の箱の蓋を閉めてゴミ箱に入れる。
「俺まだ食べ始めたところなんだけど」
「いいじゃんか。そのカフェって最近新しくできたところだろ?母さんたちがおいしいランチクレープがあったって言ってお前行きたいって言ってたじゃん。」
燭影はタローに言われ以前母親たちの会話を思い出す。
「仕方ないな。」
そう言って立ち上がりお弁当の蓋を閉めて袋に包む。
「燭影、食べ残しはいけないんだ。」
と煌は言うが本人も蓋の閉まった弁当の中は残っている。
「自分のこと棚に上げて人のこと言うな。ちゃんと持って帰って食べるよ。」
みんなで笑いながら廊下を進み警察署を後にしたのだった。