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電界妖怪  作者: くるねこ
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獣身ウオゴコロ

  獣身ウオゴコロ


 羽喰はその異形な体隠すように天電町の路地を進んでいた。時刻は三時手前、人通りのない、雨の激しく降る今日はこんな時間に外に出るものなんて見当たらなかった。

 電気を帯びる白い髪にいくら攻撃を受けても痛みを感じない血色の悪い体、一時的に伸びてくる犬歯に爪、水面に映る目は可笑しな色をしている。羽喰の中でこの姿に見覚えがあった。

 いつもなら人間らしく染めたような明るい髪色に血色のいい肌、牙なんて目立たず、爪も綺麗に切りそろえられているあいつ、嘘喰。彼の狂暴化したときの姿に似ている。あの時以来目にすることはない。本人も戦うのは好きではない自称友好派の吸血鬼なのだ。

 羽喰はボロボロでずぶ濡れの疲れた体を引きずってようやく自宅の玄関前までたどり着く。ドアを開けようとすると、ガンっと鍵のかかっている音がする。イラッとしつつ羽喰は鍵を出し部屋に入る。

 この時間に電気がついていないのは当たり前なのだがいつはずの人物、いや電妖の気配がない。いつもであれば

「傷だらけじゃん!俺が舐めて治してあげる」

といいながら上機嫌で人の血をすするやつがいない。

 羽喰の苛立ちは食卓テーブルの上の紙切れを発見した時点でピークに達していた。

 今日は帰らないから飯いらない。明日の夕方には戻ると思う、と書かれた紙をグシャっとに握りつぶし

「私はあんたの母親か!」

とつい深夜にも関わらず大声を出してしまった羽喰は窓の外を確認する。幸い、雨の音と重なりそこまで響かなかったようだ。

 羽喰は溜息を漏らしお風呂場の前で服を脱ぎ浴槽にお湯を溜め始める。

 お風呂からあがれば時刻はすでに四時を回るところ、羽喰はベッドに入り髪を乾かすことなく眠りについた。

 時刻は七時半である。現在テスト中で今日が最終日ということもあり羽喰は双子たちと登校していた。学校までは歩いて二十分。始業の予鈴が八時三十分に鳴る。そのまた三十分前には登校してくることの多い双子やタロー燭影たち。おそらく双子はそろそろ迎えに現れるだろう。

二人の家から学校にいく途中にある羽喰の住んでいる団地は住民のほとんどが高齢者。羽喰のことを気にかけとてもかわいがってくれているためか支度を終えて玄関を出るとそこには袋がドアノブにかかっており入っているメモにはたくさん作ったから食べてと書かれ煮物のタッパーが入っていた。それを冷蔵庫に入れ再び玄関を開けると

「あ!おはよう羽喰ちゃん。よかったらこれ食べて」

と同じ棟のお婆ちゃんが言った。

「おはようございます。良いんですかこんなに?」

袋を覗け場たくさんのさくらんぼが入っていた。

「農家に嫁いだ娘が毎年送ってくるんだけど今年は去年までいた孫が一人暮らし始めちゃって食べきれないんだよ。」

お婆ちゃんは四人の子供がおりその長男の息子が大学に通うのにお婆ちゃんと住んでいたが今年社会人となり社員寮に入ったためまたお爺ちゃんと二人になったと以前言っていた。

「そっか、じゃあありがたくいただきます。学校持って行ってみんなで食べるね。行ってきます。」

「行ってらっしゃい。雨だから気を付けてね。」

とお婆ちゃんに見送られ階段を降りればちょうどそこに

「おはよう羽喰ちゃん。」

「おはよう、それなに?」

傘をさした燐と煌がいた。

「さくらんぼよ。さっきお婆ちゃんにもらったの。テスト終わったらみんなで生徒会室で食べましょう。」

「やった!」

と燐が煌の手を掴みジャンプして喜ぶ。足元に薄っすらたまった水が跳ねる。

「燐、小学生みたい。」

と煌がいうも燐は気にする様子無く

「そういえばまた怪我してる?」

と急に話を帰る燐。

「昨日というか今日ちょっとね。でもそこまでひどくないから安心して」

と羽喰がいうものの燐は羽喰の見えている肌をじっとみる。

 夏の制服の羽喰は露出している腕やスカートと靴下の間も傷がたくさんあった。

「無理しないで俺たち呼んでね。」

と煌はいうものの羽喰は二人を呼んで助けてもらいたいのも山々、だが、以前嘘喰にピンチを助けられて以来吸血衝動はないものの自分がどんどん電妖に近づいていることをひしひしと感じていた。

 歩きだし十五分、待ち合わせの交差点にはタローに燭影、小楯がいた。

「おはよう」

「おはよう」

言われれば言い返す挨拶の言葉。羽喰にとっては当たり前ではなかったこんな日常が今では毎日やってくる。それをくれた双子に羽喰は隠していることの大きさを考えていた。

 「どうしたんだ?」

タローからの声にハッとなり意識を戻す。

「何が?」

とそっけなく返すも

「随分と疲れた顔してるからどうしたんだって聞いたんだよ。電妖狩りで寝不足か?」

寝不足。そういってしまえば一言ですむ。だが素直に認めれば先ほど双子に言われたようなことが待っている。

「まあ、そんなところね。どっかのおバカさんと違ってテスト前に勉強してるものでね。」

と羽喰が話をそらすために言うと

「お前なあ、前回の学年順位見ただろ?俺はお前の次に頭はいいんだ!」

「常識ないけどね。」

歩いてきた世良がいう。

「それに順位は俺と一緒だしな。」

と燭影も付け足す。

「そういうこと、言われて悔しいならその出来はいい頭を使って私に勝つことね。」

といいながら全員がそろったことで歩き出す。

 「でも羽喰ちゃんって妖人でも半妖でもないのによく一番でいられるよね。」

小楯が言った。

 電妖の力の一つとして個体によって異なるが脳内の電気信号のスピードを飛躍的に向上させることができる。生まれながらに半妖の彼らのほとんどは勉強なんてしなくてもいい点が取れるような脳の仕組みを持ち記憶しているのだ。

「羽喰ちゃんは小学校の時から一番だからね。」

「さすが国のトップクラスの教育を受けたことあるだけに脳の作りは俺たちに近いんだね。」

と燐と煌がいう。

「小学生って、さすがに幼稚園の時まで天才じゃなかったろ?」

「知らない。あたしたちが羽喰ちゃんに始めてあったのは小学校三年の時だからそれ以前のことは国の教育機関に居たってことしか詳しくは聞いてないの。」

「燐、あんまりべらべら話さない方がいいよ。」

煌が燐の話に歯止めをかける。

「別に構わないわよ。私のこと彼らに話しても、蜂の巣に入れたんですものそのうち誰かがしゃべっちゃうわよ。」

羽喰はうつむきかげんで振り向きながら言った。

 学校につけばいつものように下駄箱で履き替え廊下を進む羽喰の後ろ姿を双子はじっと見ていた。



 羽喰は産まれてすぐ児童施設の前に捨てられていたらしい。事実かどうかは確かめようがない。国の秘密機関は何を基準に羽喰を選んだのかは本人は知らない。孤児で尚且つ病院で検査を受けた際に偶然居合わせた国家医師から情報が流出したとか、その後羽喰の意識しないところで数多くの試練を与えられそれを難なくクリアしていたとか、DNA検査で実はとある国会議員の隠し子と解っていたことなど羽喰自身は知らない。

 知っているのは多額の寄付金と引き換えに蜂須賀家に養子に入ったということだけ、その後のことを知るのは羽喰本人のみである。

 国の教育機関女王蜂育成プログラムに選ばれたのは羽喰、当時八九一番を含め今季は十五名いた。皆が羽喰同様、孤児で国に買われた子供であった。

 プログラムの内容で大半を占めるのは実戦訓練である。毎日のように電妖に襲われ泣き叫ぶまだ言葉もまともに発声できない子供たちであったが日がたつにつれその様子に変化が現れる。

 鳴き声が聞こえていた実戦室からは電妖の苦しむ叫び声が響いていた。

 電妖のレベルも上がっていく。そして時に死人が出る。だがそれに動揺するような歳ではない子供たちはその光景が長い期間を経て当たり前のようになってきた。

 そしていつしか踏んで蹴落とす女王の座を争う戦いになっていた。

 国のほうはそれが目的だったのか止めることなく羽喰たちを観察していた。時に脱落者を監視している男どもから手を下すこともあった。逃げ道のない上を目指すことしかできない最悪のプログラムを羽喰は約五年続けた。十五人いた子供も羽喰一人となった瞬間、ここに来て以来久しぶりの外に出ることができたのだ。その時一度知らない町に連れて行かれた羽喰。それが現在の天電町であった。ただ町内を見て回る、半日の外出に涙を流した記憶があった。

 その後羽喰を待っていたのは電妖の殺し方を今までやっていたにもかかわらず捕獲を目的とした狩りの方法であった。それから電妖の知識、妖人、半妖についてから対電妖具、吸電器、タイヤの仕組みなどの勉強とともに一般教育として小学校から中学、高校、大学レベルまでの勉強を短期間で頭に叩き込まれるた。

 そして八歳になったその日、といっても国がかってみ決めた誕生日に羽喰と言う名と土竜という世話係を受け取ったのだ。

 団地には当初従兄妹と言うことで土竜もともに住んでいたが天電町に来て彼の結婚が決まったのは羽喰が小学校を卒業する年の暮れのことだった。相手は土竜が潜入している羽喰の小学校の教師、もちろん羽喰のことは知っている。そして土竜と羽喰の正体も、それを聞いてもなお結婚までこぎつけることのできた二人にとって羽喰はお荷物である。当初二人は羽喰の一人暮らしに反対したものの押し切り今の生活に至る。



 「孤児として電妖狩りの訓練を受け小学三年生の時にこの町に来たわ。訓練や知識を身に着けるので私は必死になりすぎてその当時のことはよく覚えていないわ。土竜は私の世話係で世間的には従兄妹ってことになってるわ。私の過去なんてこんなものよ。」

簡単すぎる説明をする。

「土竜先生とそんな関係だったのか…」

「なんか無理やり話させた?」

燭影とタローがさくらんぼを口に含みながら言った。

「別に無理やりじゃないわ。昔と違って国側を恨んだり私は孤独なひとりぼっちなんて考えることも今はない。ただの思い出話をしただけよ。」

「羽喰ちゃんって小学生の視点で傍から見た雰囲気は中二病みたいだったもんね。」

「そうそう、私に近づくとやけどするわよ。みたいなオーラ出してね!」

「それ違うオーラよ…」

燐の誤解を訂正しつつ羽喰もさくらんぼを口に含む。

 燐はヘタを口に含み、

「ねえねえ、口の中でヘタ結べる?」

といって試み始めた。

「キスが上手いとかいうやつだろ?燭影すぐできそう。」

なんていいながら燭影にヘタを渡すタロー。

「お前何を基準にそれ言ってんだよ?」

「俺できるよ!」

と世良はヘタを口に含み数秒転がすと

「すごい!もうできてる!」

見せられた小楯が声を上げる。

「昔、家にたくさんさくらんぼ届いたことあって姉様に言われるがままめちゃくちゃ練習させられたことがあったか…」

と今度は世良が遠くを見る。

 「できない…」

と燐がヘタを吐き出す。

「できても汚いからやめなさい。さて、生徒会も今日はないからそれ食べ終わったら帰りなさい。」

羽喰はいいながら立ち上がりカバンの中身を見る。

「羽喰ちゃんもう帰るの?」

「テスト終わったしゆっくりすれば?」

燐と煌が言うも

「寝不足で眠いの。四時に寝て七時半に起きたものだから、それじゃあ、また明日」

そういって羽喰は部屋を出ていった。

 「なんか羽喰ちゃん高校は行って変わったね。」

「そうだね。」

燐が煌に向かっていい返事を返す。

「中学の時と何か違うか?」

「さあ?俺たちクラス一緒になったことないし」

タローと燭影が顔を合わせ首を傾げる。

「生徒会室でのたむろは禁止っていって一番最後に帰るのが当たり前だった。テスト期間中に電妖狩りに出ることもなかったしこんなにおしゃべりするのは作り笑顔浮かげているときかすごく怒っているときだけだったし」

「確かに出会った頃は喋らないし無表情だし何考えている解らないような子だったけど」

「それお前がいう?」

燐と煌の話に世良が聞き返す。

「煌の無口も無表情もあたしがいるから話さなくていいし、笑ったり怒ったり顔に出さなくてもあたしがわかればそれでいいの。でも羽喰ちゃんは違うの、小楯とあった時はまだましだった。始めてあたしたちがあった時は死んだ魚の目してたもん。」

「そうだっけ?」

と小楯が漏らす。タローたちには想像のつかない話であった。

 「あいつもいろいろあるんだな。」

タローがまたさくらんぼを口に運ぶ。

 「さて、あたしたちもそろそろ帰るよ。」

そういって席を立つ双子の片割れに

「煌、五時までに来いよ。夕飯食っちまうから」

「解ってる。」

そういって煌は燐を連れて部屋をでた。

 廊下で燐が

「五時って?」

「今日タローくんの家に泊まりに行くんだ。」

「聞いてない!」

階段を降りながら燐が言うとその声が響いた。

「そうだっけ?テスト前に言ったと思ってた。」

「煌はいつもそうだよ。伝えた気でいる。テレパシーは使えないんだからちゃんと口で言って、」

「ごめんね。」

二人は下駄箱で靴を履きかえ学校を出た。

 「お昼ご飯何かな?魚がいいな。」

「俺は油揚げがいい。」

そんな冗談を言いながら二人は帰路を行く。



 羽喰は銀行にいた。通帳に記帳を済ませ中身の確認をする。昨日は電気代など光熱費の引き落とし日であった。そして電妖を売った相手からの入金日でもあったのだ。

 通帳には入金後に引き落としがされており羽喰はほっとする。そしていくらかお金を卸、銀行を出る。

 スーパーに寄り家に帰るがまだ時間は十二時半、羽喰は着替えすぐに布団に入った。携帯のアラームをセットして目を瞑った。



 燐は隣で顔には出さないが楽しそうに泊まる順備をしている煌を見る。煌は燐からの視線に

「一人が寂しいなら羽喰ちゃんの所に行ったら?」

という煌に

「でも今頃疲れて寝てるよ。起こしちゃ悪いよ。」

そういうと燐は座っている椅子でくるくる回る。

「疲れて寝てるならご飯食べてないかも」

「あ、そっか。ご飯作ってあげようかな?でもあたし料理うまくないし」

「燐が作ってくれたのはいつもおいしいよ。」

燐は立ち上がり玄関に走っていった。

「お母さん!あたし羽喰ちゃんのところにいるから!」

といって返事を待たずに家を出ていった。

 双子の母は

「燐?何か言った?」

とベランダから顔をのぞかせる。

「羽喰ちゃんにご飯作りに行ってくるって、俺も今日泊まりに行っちゃうから燐も泊まってくるかも」

「そう、まあ、母さんも仕事あるからいいんだけどね。何かお菓子でも持っていきなさい。」

そういうとベランダへの窓が閉まる。



 その頃の世良は

「椿姉様!なになさっているんですか?」

自分の部屋に帰ってきたところで世良は室内にいた人物に声を掛けた。

「あら、お帰りなさい。知っちゃったわよ。今日タローくんのおうちにお泊りなんですって、これ持っていきなさい!」

と見せてきたのは淡い黄色のワンピース。知っちゃったとは情報収集中にでも偶然入った情報なのだろうがいちいち首を突っ込まれ迷惑しているのはいつも世良のみ

「着ませんから!もう、荷物全部出しちゃったんですか?僕の部屋から出ていってください!」

と椿の背を押し廊下に追い出すと勢いよくドアを閉めた。

 そして散らかったものを片付け、カバンに着替えを詰め直す。そこに

「胤臣?ドアが壊れちゃうから静かに閉めるのよ。」

と母親が現れた。

「文句なら椿姉様に行ってください。あとこれも返しておいてください。」

無造作にドアの近くに落ちているワンピースを指さし言う。

「あら可愛いワンピース、桐のかしら?」

と母親は服を持ち上げそのサイズを見ながら言う。

 世良六人姉妹は桐以外は皆両親の遺伝で背が高い。その中でも桐は一番低いものの世良と同じぐらいの身長である。世良は一番背が低い。祖母に似たようだ。

「さあ?姉様たち、俺に合わせて服買ってくることあるので誰も気ない物ありますよね。」

「そうね。椿と桐に聞いてみるわ。お友達の家の方に迷惑の無いようにね。あと、これ持っていきなさい。」

と渡された菓子折り。

「はい。気を付けます。月曜日には帰りますので」

「わかりました。楽しんでいらっしゃい。」

母親はそういうと部屋を出ていった。

 荷物をまとめた世良は制服のまま部屋を出る。来着用玄関で

「行ってきます。」

そういってから家を出た。



 その頃のタローの部屋では

「ジャンケン、ポン!」

とタローと燭影がジャンケンをしていた。

「あいこでしょ!」

「しょ!」

「うっし!」

「負けたー!」

室内に掛け声とその結果について喜び、悔しがる声が聞えた。

「今日か小楯は俺の部屋!」

「明日は俺の部屋だからな!」

「二人とも本気すぎ…」

と小楯は苦笑しながらいった。

 タローの家に泊まると言ってもさすがにタロー含め四人が同じ部屋で寝るには窮屈、そこで燭影の部屋に小楯、もしくは誰か一人が寝ると言うことになったのだ。金曜、今日は燭影の部屋、明日土曜日はタローの部屋に寝るのだ。そして日曜日はまた燭影の部屋。

「当たり前だろ。」

「少なからず世良はタローの部屋で寝るって言いきるだろうから」

「いいじゃねえか、煌だぞ。煌なら何の問題もないじゃねえか。」

とタローが燭影に返す。

「タローはまだしも俺は煌とそんなに話したことないんだよ。」

燭影は窓に足を掛ける。

「部屋帰るのか?」

タローに聞かれ

「客用の布団を屋根裏から出して乾燥機かけて置こうかとおもって」

「優しいな…雨で湿気やばいもんな。」

と燭影に向かってタローが言葉を漏らす。そこに小楯が

「そういえば燭影くんの部屋に泊まるのは始めてだね。結構長く泊めてもらっているけど」

小楯は言う。泊める切っ掛けを思い出しているタローは

「小楯ってなんで俺の観察してるわけ?」

唐突に小楯は質問をぶつけられた。それに小楯は

「教室で始めてあった時僕すごく驚いたんだ。タローくんが兄さんにすごく似てて、さらわれたのも今の僕らと同じ十六歳の時で当時はまだ六歳だった僕の記憶にはもうはっきり残っていないけど…」

「で、なんでストー…観察なんて始めたんだ?」

「父さんにその事伝えたらもしかしたら兄さんの皮をかぶった化け物なんじゃないかって言いだして、まだ、タローくんや燭影くんのことよく知らなかったから兄さんかもしれない。誘拐犯で化け物なんじゃないかった思ってずっと観察してたんだ。ごめんね迷惑なことしちゃって」

小楯はそういうとうつむいて目に涙を溜めていた。

 そこに戻ってきた燭影は

「なに小楯泣かせてるんだよ!」

と声を荒げる。

「え?違う!これは!」

弁解しようとするタローであったが

「小楯、これからは俺の部屋で寝よう!タローなんかに預けておけるか!」

と小楯の肩を掴んで引き寄せる。

「え、えっと…違うんだよ、燭影。これは、その…」

 燭影もタロー同様、小楯から観察していた理由を聞く。

「でも、それならよくタローの家によく泊まる気になれたな。」

「確かに、もし本当に俺が小楯の兄貴をさらった化け物だったらどうするつもりだったんだ?」

「あんまり深く考えてなかった…。それにタローくんが悪い人なんてその頃にはもう思えなかったから」

小楯がそういうとタローは照れたように笑う。

「小楯、お前騙されてるぞ。こいつは悪い人間だ。朝起きないし、料理できないし、宿題は解るのに俺のを写そうとするし、お弁当はよく忘れるし、授業中寝てるし」

「待て!」

と燭影の話をタローが遮るとピンポーンっと音が聞えた。

 一階でタローの母親が誰かと話しているのがわかった。そして誰かが階段を上がってくる音。それはこの家の人間のものではないのは癖で解る。凄く丁寧な動きをしているようで響くことのない足音に

「世良かな?」

とタローがいうと

「おじゃまあ」

といって入ってきたのは予想通り世良であった。



 燐は一人、スーパーにいた。

「あら、珍しい。燐ちゃん一人?」

「うん。ちょっとね。」

とレジのおばさんと話、会計を済ませる。

 燐は羽喰の団地の前まで来ていた。

「おお、羽喰ちゃんのお友達の燐ちゃんだっけ?羽喰ちゃんの家に行くのかい?」

見知らぬお婆さんが話しかけてくる。

「そうですけど…」

と返すと

「それならこれ持って行ってあげて」

渡されたダンボールの中を覗くとそこにはきゅうりにカボチャ、トマト、なす、ピーマンなど野菜が山のように入っていた。

「これお婆ちゃんが作ったの?」

「そうだよ。あそこの畑でね。」

お婆ちゃんが指さした先にある平屋と大きな畑、燐は思い出す。小学生の時に何度か収穫を羽喰と煌の三人で手伝ってトマトときゅうりを丸かじりした記憶を思い出す。

「トマトのお婆ちゃん!」

燐がそういうとお婆ちゃんはニコニコして

「よろしくね。」

といって家のほうに歩いて行った。

 燐は重たいダンボールを持ち直し階段を上がる。

 羽喰の家は鍵はかかっておらず燐は

「お邪魔しまあ…す?」

といいながら入ったが中はシーンっとなっておりベッドを覗くと羽喰は規則正しい寝息で布団に潜っていた。

 燐は音をできるだけたてないように、聞こえないようにするためゆっくりとふすまを閉めた。

 冷蔵庫にメモの貼ってある煮物を見つけ中身を器に移すと洗って乾かす。後で羽喰に代わって返しに行こうと考えていた。

 冷蔵庫の中身と自分の買って来たもの、先ほどもらった野菜から何を作るか考える。

 調理を始めるとおいしそうな匂いが室内に立ち込め始めた。

 間もなく完成、と言う頃羽喰は物音に目を覚ます。嘘喰が帰ってきたのか?と思ったが彼は料理ができない。となると思い当たるのは一人、というか二人いるかもしれない。

 眠たい目を擦りながら羽喰はベッドから立ち上がる。

「燐?あれ、一人なんだ。」

ふすまを開けながら言うと

「あ!おはよう羽喰ちゃん。そうなの、煌ったら一人でタローくんの家泊まりに行っちゃってね。だから羽喰ちゃんの様子見がてらご飯作ってるの」

燐は楽しそうにそういった。食卓テーブルの上には見た目は悪い物のおいしそうな匂いのするものが並んでいた。羽喰自身そこまで料理が得意ではないので見た目をとやかく言えた義理ではない。

「ありがとう助かるわ。」

羽喰はそういったものの燐がこのままいると嘘喰と居合わせてしまうと考え、夕方、彼が帰ってくる前にどうにかしなくてはと思っていた。

 そんなことなどつゆ知らずの燐は食器棚を開けて羽喰と自分お椀を出す。

「そういえば彼氏の食器はないの?」

と燐が聞くので羽喰は椅子に座りながら

「彼氏じゃないって何度言ったら解るの?彼は土竜の食器使ってるわ。もう使う予定なかったから」

とういうと箸を取り不格好なオムレツに伸ばす。

「つまみ食いはダメ!それより、まだ三時半だけど夕飯には早いかな?どうする?」

「別に私は構わないわよ。今日、さくらんぼしか食べてないし」

羽喰は机に肘を付いて言う。

「そうだ、トマトのお婆ちゃんから野菜いっぱいもらったよ。そこのダンボール」

顎で方向を教える燐、視線をその方向に向けると野菜の山があった。

「いつもたくさんくれるのはいいんだけど食べきれずに腐っちゃうことあるのよね。燐、食べたい物もって行っていいわよ。」

「ホント?じゃあ、トマトもらってく。あとなすも」

「煌好きだものね。なすと油揚げのお味噌汁」

そんな話をしていると

「具はなすですなす!」

とお椀をテーブルに並べた。中身はなすと油揚げ。そしてお茶碗に炊き立てのご飯をよそい

「いただきます!」

「いただきます。」

二人は手を合わせ食べ始める。

 一日降り続く雨は小雨に変わっていたが遠くの空では雷が轟いていた。

二人は窓の外の様子を見ながら食べ進める。



 「それじゃあ、あまり散らかさないでね。ショーくんは火使うの気を付けてね。」

「鍵忘れないでね。後、雷なり出したからジロー家の中にいるから」

母親二人が毎度のごとく言葉の雨を降らす。二人の両親は今日から二泊三日の旅行に出る。今回は南のほうだと言うことしか教えてもらっていないがいつものことで、お土産も期待していない。

「いってらっしゃあい。」

とタロー燭影、小楯に世良、そして先ほど来たばかりの煌が見送る。

 玄関が一瞬シーンっとなると遠くで雷の音が聞えた。

「ひとまず飯にするか。ショーくんよろしく!」

タローがそう呼ぶと

「よろしくねショーくん。」

「ショーくん…。」

と世良と煌が繰り返す。

「うるさい!今ショーくん呼んだやつは夕飯抜きだ!」

燭影はそういうとリビングを抜けてキッチンに入っていった。



 羽喰は電妖狩りの順備に入っていた。だがその傍らで燐が合羽を着こんで同じく順備をしている。

「燐は来なくても大丈夫よ。昨日の今日でそんなに強いのが出てくるとは思えないし」

「ダメ!羽喰ちゃん最近そればっかり、怪我もしてるんだし今日は一緒に行く、ダメって言われても行く!」

断言する燐に溜息を漏らしつつ何かあれば煌を呼んで来てとでもいえばいいと考えていた。

「さて、行きますか!」

燐はそう意気込むと玄関のドアを開けて出ていった。羽喰もその後を追って出る。嘘喰は帰って来なかった。

 見回りを始めてしばらく何本か近くに雷が落ちた。

「燐、行ってみましょう。」

「うん。」

二人は真剣な顔つきで雷の落下地点へと向かう。

 落ちたのは空き家のようなボロボロの木造住宅。そこに雷の電力を求め電妖が寄ってきていた。

「特に狂暴化しているのも居なさそうだね?」

「ええ……あっ燐!」

羽喰がそういうと燐はいきなり地面へと落ちてしまった。だが身軽な体で受け身を取り燐は対電妖具を構える。

 燐のブーツ状の電具は雷を帯びた水が渦を巻き足に纏われている。蹴るようにして放たれる水球が空き家を壊すとそこには一体の狂暴化した電妖がいた。

 羽喰はクラゲ型ではないことに安堵をして剣を構える。

 向かってくる電妖を剣で応戦、そこに燐が吸電器の網をかぶせる。だが網をかぶせられ力を吸い取られているにも関わらず動き回る電妖に羽喰は剣を突き刺す。

 悲鳴のような電妖の声は雨に消され消えていく。

 「いっちょ上がり!ね、二人のほうがらくでしょ?」

「そうね。」

羽喰は電妖を電池に替えその小さくなった体を網から逃がす。

「次行ってみよう!」

燐は元気よくそういうと次の落下地点へと向かう。

 雷が落ち、狂暴化した電妖を狩り次へ移動。それを繰り返すのが雷の日の面倒臭いところである。

 雨の小雨に変わった頃風が強く吹いてきた。

「きゃっ!」

燐が短く声を発したので間にかあったのかと視線を向ければ

「合羽が飛んでった!買ったばっかりなのに」

と言っていた。この電妖狩りではよくあることだ。電気がちりちりと合羽を傷つけ少し引っかけただけで破けてしまったりこうして風で飛んでしったりすることもよくある。

「私の着てなさい。剣を使うのに邪魔だし」

燐に羽喰は自分の来ていた合羽を着させる。

「いいの?濡れて寒くない?大丈夫?」

「大丈夫よ。逆にムシムシしていたしね。」

「そう、帰ったらちゃんとお風呂入ってね。」

そんな話をしているとゴロゴロと大きな音がすぐ近くで聞こえた。二人は近くに落ちるのを見こし注意を払う。そして羽喰のすぐ横を光の柱が通る

「きゃあああ!」

今度は燐が悲鳴を上げる。

 燐に雷が落ちたのだ。

「燐!」

地面に落下する燐。羽喰もそれを追って下りる。

 雷に当たり電気をまとう燐に羽喰は近づけずにいた。



 「燐?」

トランプをぱらぱら落としながら煌は窓の外を見ながらいった。

「燐がどうかしたのか?」

世良や煌が持ってきたお菓子を頬張りながらタローは聞いた。

「解らない。でも、燐に何かあったみたい。」

「どういうこと?」

世良が聞く。

「二人ってテレパシーとかできるの?」

「いや、でも言いたいこととか気持ちとか今何しているかとか何となくで解るんだ。」

小楯の質問に煌は答える。それに燭影がさらに聞く。

「タローから聞いたんだけど燐は満月の日に吸血衝動があるんだろ、その時は我を失うものだけどそれも解るのか?」

「うん。少しだけ、でも今のは違う。体がびりびりしびれてくる…。」

煌は自分の手を握ったり開いたりしているがそれは見ても解るぐらい震えていた。

「びりびりって、電気が流れるような?」

再び小楯が聞く。

「そうだね。そんな感じかも…」

「さっき雷落ちたよね。まさか…」

小楯は不安そうな顔をすると

「ワン!」

とジローが鳴く。小楯はハッとなり自分の体を確認する。

「大丈夫だ小楯、電妖はできてない。」

燭影は小楯の背中に手を回す。

「行ってみよう。燐のこともだが電妖が暴れているかもしれない。」

タローはそういうと立ち上がる。

「そうだな。世良は小楯とここで待ろ。」

燭影も立ち上がり煌も荷物から吸電器を取りだす。

「羽喰ちゃんのほど性能は良くないけどないより増しだろ。」

煌ははっ水生地の上着を着込みタローたちについて部屋を出ようとする。

「気を付けてね。」

小楯に言われ笑みを浮かべる三人は走って階段を下り玄関から出ていった。

 家の前に出てインカムを付けるが燐はおろか羽喰も出る気配はない。

 雷はゴロゴロ言っているものの先ほどの大きなもの以来落ちていない。

 燭影によりタローは空へ、それを追うように煌も宙を歩く。

「何で羽喰も煌も空中に立てるんだよ?」

ずっと思っていたことを聞く。

「羽喰ちゃんに教えてもらったんだ。電波の上に立っているんだよ。」

「電波の上って…無理だろ。そんな不安定でどこにあるか解らない物の上なんて」

燭影が聞き返す。

「メールや通信の電波は短い分たくさん飛んでいて電話中の電波はそれに比べて長さがある電波が飛んでいるんだ。立つのには電話とかの長い電波、一瞬の足場でいいものは何でもいいんだ。でも二人は一緒にいるから必要ないんじゃない?」

と珍しく燐も羽喰もいないのに説明文ではあるが長くしゃべる煌にいろんな意味で

「ほお」

と声を漏らす二人。

 「あ、あっそこ!」

煌は話しながら雷の落ちた地点を探していた。そして見つけたのは光る地上のあるところ。

「行こう。」

燭影の掛け声で飛んでいく。

 光は大きくなったり小さくなったり、右へ左へ動いている。三人は電妖を想定、近くに羽喰がいるのだろうか考えていた。



 羽喰は剣を盾にしながら攻撃を避けていた。攻撃することができず防戦一方の現在、インカムを落としてしまい拾う余裕もない。そこに

「羽喰ちゃん!」

その声に羽喰は上を向き煌のほかタローと燭影の姿を確認した。その瞬間

「うっ!」

燐からの攻撃を喰らってしまう。

「会長ちゃん!」

タローと燭影が羽喰の元へ、煌は燐の様子に絶句していた。

「何があったの?」

煌は羽喰に背を向けながら聞いた。

「燐に雷が落ちたの。燐のどころかすぐ近くにいた私のタイヤも壊れるほどのものが落ちてきて…」

と攻撃を喰らったお腹を押さえながらタローの肩を借りて立ち上がる。

 羽喰は目の前の燐のことも心配なのだが今ここで自分が電妖のようなあの姿になってしまったらと、考えながらこの場での最前の策を考えていた。そこに

「よかった。吸電器持ってきておいて」

と煌は言った。

「吸電でどうにかなる?」

羽喰は自分よりもはるかに燐をよく知る煌に聞く。

「家にあるのほど強くないけど多分、羽喰ちゃんのも使えば何とかなる。でも、今の燐が大人しく網にかかるわけないから、俺が抑え切れればいいんだけど」

「わかったわ。私がおとりになるから燭影は空からタローは地上から燐に網をかけて、煌は網にかかった燐を吸電が終わるまで抑えてて、無理のない程度にね。」

三人は頷き行動を開始する。

 羽喰の大型の吸電器を持って燭影は飛び立つ、タローも煌から受け取りスタンバイ。

「少し手荒く行くわね。」

羽喰は煌にそう告げると剣を構える。そして羽喰の姿が若干変わったことに煌は驚くがそれも一瞬のこと、すぐに意識を燐に向ける。

 羽喰は煌に気付かれたのか冷や冷やしているもののそんなことより今は燐である。一歩踏み出すと同時にすごいスピードで燐に突っ込むと燐は半妖の姿、その魚の尾びれで羽喰を叩き落そうとするも羽喰は宙に飛び跳ね電波を足場に地面に向かって跳ぶ。

 燐は避けることが間に合わず、水しぶきが舞う。燐と羽喰の間には水の壁があり羽喰の剣はそれに刺さり燐には届いていない。燐はその壁を変形させ羽喰を包みこむも羽喰は剣を使い水を切る、が、

「あつっ!」

羽喰は剣を手放す。燐の回りを水とは別に水色の炎が飛んでいる。

 燐と煌は双子である。親は魚とキツネの姿の電妖に襲われ妖人となった。その電妖は古来より妖怪とされてきたモノである。魚は水中の生き物であるからに水をキツネは狐火という炎を扱う。二人はその力を強く受け継いでいる。もともと羽喰が双子に接触したのは二人の危険性の調査と言うのが名目であったが二人はよく力をコントロールできている。そのことから蜂の巣へ入ることになったのだ。

 燐は母親の魚の力を煌は父親のキツネの力を強く受け継いだ。だがお互い両親の血が流れている。燐が炎を使い獣人になることも煌が水を使い人魚になつことも可能なのだ。

 燐は水と炎を巧みに操り剣を熱して羽喰の手から手放させることに成功した。

 熱湯に捕まっていた剣が地面に落ちる。羽喰は燐から一旦離れ体勢を立て直しにかかるも昨夜から明け方の狩りが相当体に来ているようで羽喰はふらふら、いくら人前に意地を張るように平気な振りをしても実際の疲労は半端なく、羽喰の意識を連れていこうとしていた。

 現在、煌からは燐がいるため死角となっている。だが上空の燭影にタローからは見える位置。羽喰は考え再び燐に向かって突っ込む。燐は水を壁にするもそれを羽喰は思いっきり爪で切り裂く。その瞬間水蒸気で辺り曇る。羽喰は燐への攻撃まじかで嘘喰からの力を使い電気を帯びた高熱の手で水に触れた。そのことで水が蒸発したのだ。

 目くらましの中、羽喰は燐を一瞬取り押さえ水蒸気が晴れるのと同時に

「網!」

と叫んだ。

 燭影とタローがほぼ同時に燐に向かって網を放ち羽喰は燐から離れる。

 吸電器の電源を入れると燐は苦しそうな声を上げる。そして

「煌、お願い。」

羽喰のそういわれる前に煌は動いていた。優しく燐を網の上から抱き締める。

 それから数分、抵抗を見せながらも吸電は進み燐は徐々に姿をもとに戻していく。

「もういいわ。電源切って、網回収して」

羽喰の言葉にタローと燭影は電源を切って網を引き寄せる。

 煌は網から燐を出し腕に抱える。

「家に連れ帰って、多分あとで土竜がご両親に説明に行くだろうけど」

「わかった。タローくん、荷物は後で取りに行くから置いといて」

「ああ、いつでもいいから、早く燐を連れ帰ってやれよ。」

「ありがとう」

煌は走って三人の前から言ってしまった。

 いつの間にか止んだ雨なのだが羽喰の服からは水滴がたくさん落ちている。

「じゃあ、私も帰るわ。おやすみ」

そういう羽喰に

「家寄っていけよ。ここからそんなに離れてないし、そんな恰好だと風邪引くぞ。風呂入って着替えてから帰っても時間あるだろ?」

タローにそういわれ微妙な目つきで羽喰は彼を見る。

「会長ちゃん、大丈夫だよ。俺と小楯と世良が見張ってるから!」

と楽しそうにいう燭影にタローは

「人聞き悪いこというなよ!」

「まあ、そこまで疑っている訳じゃないし、お言葉に甘えてお風呂借りよう……」

羽喰は途中で言葉を止め一点を道の先を見つめる。タローと燭影はそれに気づき羽喰の視線の先を見ると一人の人物が視界に入る。その人物はまっすぐこっちに歩いてくる。

「嘘喰?」

羽喰の言葉にタローたちは聞き覚えのある名の人物が彼なのだと気付く。

「何しに来たのよ!」

そう言いながら羽喰が詰め寄ると嘘喰は

「帰ってきたらいないから狩りに出たのかな?って想って、それでなんか強い力感じたから来てみたら羽喰がいた。」

と適当な身振り手振りを雑ぜながら言う姿に羽喰は大きくため息を吐いた。

「今日は帰ることにするわ。二人も早く帰りなさい。」

「え?あ、ああ…」

タローがそういうと羽喰は嘘喰と並んで歩いて行ってしまう。

 燭影はタローの横にたち

「なんなんだあいつ?電妖?妖人?半妖?人間にも見えるけど…」

「ああ、なんか嫌な雰囲気のやつだな。」

タローはそういうと自分の家の方向に歩き出し燭影もそれについていった。



 月曜日、タロー、燭影、小楯と泊まった世良は交差点で双子の姿を見つけた。

「燐!もう大丈夫なのか?」

「あ、みんなおはよう。それがねえ、よくわかんないんだよね。雷に打たれてから目が覚めるまでの記憶がポーンっと飛んでてさあ、なんか迷惑かけたみたいでごめんね。」

明るく言う彼女の姿に四人は安堵の色を見せる。

 「羽喰は?」

タローが煌に聞く。

「先に行ってるよ。荷物帰りによって持って帰るよ。」

「ああ、わかった。」

そう言って歩きだす。

 七月頭のテストが終わった今生徒のほとんどが夏休みを待ちどうしく思っていた。


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