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電界妖怪  作者: くるねこ
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ジョウホウヤシキ胤裔

  ジョウホウヤシキ胤裔(インエイ)


 六月である。登場人物は高校生が中心なのだが体育祭も遠足も問題なく終わっていった。事後報告が欲しいというのならばタローたち四組はクラス対抗の体育祭で八クラス中二位と微妙な結果であった。痛かったのは世良が足は速かったもののゴール手前でズッコケたことと、小楯が玉入れで顔面キャッチを連発した結果だろうか。

 そして遠足も貸し切りの電遊園で遊んで終わった。天電町からは妖人・半妖は許可なく出れない。一学年とはいえ許可が下りるのが修学旅行の時だけだろう。

 そんなつまらない行事が終わった六月。梅雨の到来である。

 「と、言うことでこの時期だけは四人にも手伝ってもらうわ。」

「了解!」

燐がうれしそうにいう。

「この時期だけって、春も手伝ったぞ。」

タローの言うとおり確かに小楯との一件以来二、三回見回りをしているタローと職影。

「いいじゃんか。会長ちゃんの役に立ってるんだから」

「お前はいいが俺はよくない!」

「何か予定があるの?」

煌がタローに聞く。

「予定は…ない。でも!」

その時バンっと音をたててドアが開く

 「タローは俺に付き合うから予定は詰まってる!」

と宣言するように入ってきたのは世良である。

「予定って何だよ?」

燭影が聞くと

「お前には関係ないだろ!お前はそこの女をタローに近づけるな!」

「意味わかんねえ」

世良の暴走はさておき、羽喰は話を進める。

「タローには小楯を任せるわ。あの子の体質については知ってるわね?」

「ああ?体質?そんなの知らねえよ。」

羽喰は遠くを見る目でタローを見る。

「なんだよ!」

「あんなことがあって聞いてないの?気にならないの?あの子から電妖が生まれたのよ。」

タローはポカーンと言う顔をする。燭影に至っては脳を働かせるもそれが意味をなさないとすぐにわかりやめる。

「はあ…小楯に直接聞きなさい。小楯が一緒ならどこに行っても構わないから、煌と燐だけど…」

とタローを適当にあしらい本題を双子に伝える。

 「ちょっと!俺の話は?」

「今羽喰が言っただろ。小楯と一緒ならお前の予定に付き合ってやる。まあ、小楯のことだから燭影も一緒だろうけどそれでいいなら」

タローに言われ世良は悩む。

「し、仕方ない…お前の動向を許可する。」

「何様だ。」

燭影がどこから出したのか解らないスリッパで世良を叩き、パコーンっといい音がした。

 タローは羽喰の様子を見る生徒会の仕事を始めたのか机の上でノートと電卓を駆使して何かしていた。邪魔にならないためにタロー、燭影、世良は生徒室を出ていった。

ドアが閉まるのと同時に

「いやあ、毎日にぎやかだねえ、ここは」

「ほかの役員が来にくいくらいにね。」

燐と煌がそんな話をしている横で羽喰は電卓を撃ち続けていた。

 「どうしよう、家賃払えるかな?」

「え!」

双子の驚く声が被る。

「何で?この前だって捕まえた電妖売れたって言ってたじゃん!」

「そうだよ!」

「まだ入金がないの。しばらくは節約していかないと…」

羽喰は電卓をまた打ち始める。

「大変だね一人暮らし、お偉いさんたちはなんて?」

「特に何も、ボーナスぐらい出してくれればいいのに」

そして電卓の数字を家計簿と表紙に書いたノートに書いていく。

「しばらく家来る?」

と煌がいうも

「何とかなるわ。多分。私スーパー行くから今日はもう解散ね。」

そういうと羽喰はノートとチラシを見ながら部屋を出ていった。

 「羽喰ちゃんのあんな姿、タローくんや燭影くんが見たら驚くだろうね。」

「なんせあの喋り方で天電西団地に住んでんだもんね。」

「ホント、あの二人は一生知らない方がいい情報だよね。羽喰ちゃんが捨て子ってことも、入ってた施設からお金で国に売られて強制的に電妖狩りを強いられていることも」

「知らない方が幸せだよね。お互い…」

煌は鍵を持って立ち上がる。燐も部屋から出る順備をする。



 その頃タローたちは小楯を合流して大分なれた帰路についていた。

 「え?タローくんと一緒に行くように羽喰ちゃん言ってたの?」

「ああ、なんがお前の体質がどうとか言ってたけど関係あるのか?」

タローに聞かれると小楯は黙ってしまった。

「今はいいじゃん、その話。で、今からどうするの?」

燭影はタローに尋ねる。

「どうすると言われても…世良、お前の言ってた予定って何だ?」

タローの問いに蚊帳の外にいた気がする世良はハッとなりタローを見る。

「予定…?あ、予定…ね。いや、それは時間のあるときでいいよ。うん…」

一人で言って納得する世良、

「じゃあ、週末にでも時間作るよ。今日はこのまま俺ん家行くか?」

「いや!俺、用事思い出したから今日は帰る。週末な、うん、わかった。じゃあな!」

と世良は焦った様子でいつもの大通りを直進していく。タローたちはそれを見つめつつ角を曲がった。

 夕日にはまだ早い空で電流が走っていることにだれも気が付いていなかった。

「一緒ってことは泊まるか?」

「え?」

小楯は驚いた声を上げる。

「その方がいいな。」

燭影も同意し、勝手に話が進んでいった。



 羽喰は雲行妖しくなってきた空の下スーパーを出たのは六時手前の事だった。

「嘘喰、そこに居るのは解ってるのよ。出てきたら?」

スーパーの横の脇道に嘘喰の姿はあった。

「なんだよ。そろそろ忙しくなる頃だから帰って来てやったんだろ?そんな言い方しなくても、ねえ?」

「ごめんなさいね。でもこれが私なの、そういうの解って襲ってきておいてよく言うわ。」

「俺が犯罪者みたいな言い方すんなよ。」

「十二分犯罪者よ。」

羽喰は歩き出す。その後を嘘喰はついて行く。

「機嫌悪いの?」

「そうでもないわ。」

「荷物持つ?」

「おねがい」

そんな会話をしながら帰路をいく。

 嘘喰。彼は電妖である。だが、今まで存在してきた電妖の中では稀な人型、尚且つレンズがなくても、電妖が見えなくても見えるという異質な電妖。羽喰が彼に遭遇したのは一年近く前のことである。

 いつも通りの見回り、いつも通りの狩り、それを行っていた最中、羽喰は女性ばかりを襲い吸血する電妖に出くわす。それが当時はまだ名のない嘘喰である。

 貴重なサンプルになりえる嘘喰を電解せずに捕獲しようとした羽喰であったが彼は今まで羽喰が遭遇してきたどんな電妖、暴走した妖人・半妖よりもはるかに強かった。殺すか殺されるかの勝負で勝ったのは嘘喰であった。死を覚悟した羽喰であったが嘘喰はある提案をしてきた。

「俺の餌になるのと殺されるのとどっちがいい?もちろん、あんたにもメリットはある。」

嘘喰はそういうと倒れていた羽喰の首に牙を付ける。

「餌になることであんたは妖人となる。普通の人間とは違う数十倍の力を使うことができる。もし怪我や死にかけても俺がいればそんな傷一瞬で治してやれる。なんだったらあんたの探している物を見つけてやってもいい。」

そこまで言われ羽喰は剣を振るも

「おっと、そんなもので俺は切れても倒すなんてことはできないよ。どうする?」

再び牙が羽喰の首に当たりツーッと一滴の血が流れていく。

「好きに…しなさいよ……」

羽喰にはプライドと雀蜂の掟がある。それを考えつつも曖昧な答えを出した。

 それにより羽喰は妖人となったのだ。

 「で?お友達とはどうなの?仲直りできた?」

団地に入って階段を上がっていると嘘喰はそんなことを聞いてきた。

「別に、そんなこと流して、前とそんな変わらないままよ。」

五〇三号室の前に来て羽喰は鍵を出し開けた。

 羽喰について中に入る嘘喰は持っていたスーパーの袋を食卓テーブルに置く。

「そういえば今日は質素なものばっかり、どうしたの?」

「あんたのせいでしょ」

「え?」

嘘喰は何を言われているのか解らないという顔をする。

「電妖がご飯食べるなんて聞いたことないから!」

と羽喰は怒鳴ってふすまを閉めた。

「だって、俺だって腹減るもん…だから機嫌わるかったのね。」

嘘喰は椅子に座りボーっとする。

 羽喰が最近金欠になりつつある理由、それが嘘喰である。

 電妖は電気を食べることで存在を保っていると考えられている。そのため血や精気などを奪っていく電妖は異端な危険種なのだ。なのに嘘喰は電気はもちろんの事、人間と同じ食事を摂取している。

 羽喰は今までの電妖を売ったお金を切りつめて生活していたが嘘喰が来て以来電気代はかさみ食費が以前の三倍以上になったことに頭を悩ませていた。

 なのに当の本人はというとふらふらっと別の餌となっている人間の所に行ってはおそらく電気代がかさんだことや食べる量が半端ないことでたびたび追い出されている。その度に羽喰のもとに帰ってくるもののまたふらふらとどこかへ行ってしまう。

 羽喰は部屋着に着替えて出てきた。

「今日の夕飯は?」

「八割キャベツのロールキャベツ。」

「なにそれ!嫌なんだけど!」

と嘘喰が返すも

「まともなものが食べたいなら私の仕事を手伝うなり、稼ぐことをするなりしなさいよ!人間に見えるんだから」

と、羽喰は包丁を向けながらいうも嘘喰には聞くはずもなく

「ちぇき…」

と言い残し羽喰の部屋のベッドにダイブした。



 その晩は雨が降った。タローは燭影の部屋とは別方向の窓を見ながら宿題を進めていた。

 タローは考える。今頃羽喰や燐、煌は見回りをしているんだろうな、と。

 「タローくん、お風呂ありがとう。」

小楯がだぼだぼのタローの服を着て髪を拭きながら入ってきた。

「ああ、家には連絡したのか?」

「うん。と、言っても電話でないからメールしておいた。見ないだろうけど」

なんて話をしていると燭影が窓を開けて入ってくる。

「そんなに小楯のお父さん研究ばっかりなの?」

「そうだね。滅多に部屋から出てこないよ。羽喰ちゃんが電妖を持ってきても最近じゃ僕が受け取ってたし」

「そうなんだ。」

髪を拭きながら話す小楯を燭影は手招きする。

「ここ座って」

とベッドのすぐ脇を指す。そして燭影はベッドの上に座る。燭影は小楯からタオルを奪い不器用に手を動かす小楯に変わって髪を拭く。

「いいな…」

なんて漏らすタロー。

「お前はやってやっても可愛くないからやだ。」

「酷い!」

とタローと職影が話していると小楯は笑ってしまった。

「小楯、笑っているがお前今可愛いって言われたんだぞ。良いのか?」

「うん…もう慣れた…」

とのほほんとした雰囲気でいう。

 「お前も風呂入ってきたらどうだ?宿題の続きはみんなでやろうぜ。」

と燭影に言われ

「そうする。いいな、燭影はそのままの体制でいるんだぞ!」

とそそくさとお風呂に入る順備をして言ってしまうタロー。

「どんだけしてほしんだよ…」

と燭影と小楯は開けられたままのドアから廊下を見る。

 「そういえば燭影くんはお風呂入ったの?」

「小楯が入っている間にね。髪はドライヤーでもう乾かしてきたんだ。」

「そうなんだ。」

燭影は思う。同い年だが少し歳の離れた弟が出来たみたいだと、もともとタローのこともあり世話好きの燭影は一人和んでいた。



 夜長の雨は強く、羽喰たちの体力を削っていた。

「羽喰ちゃん…どうするの?」

「このままだと永遠に増えていくだけだよ。」

双子は息を切らせながら羽喰に問う。

 相手の電妖は攻撃すれば分離を繰り返し、三人は囲まれていた。ここ最近、クラゲ型の電妖が増えている。その手で触れたものの電気を奪い傘の下に蓄電しているようで分離すると電気を半分に、そしてまた電気を溜める。そして分離をくりかえす。厄介なモノに当たってしまった。

 羽喰は悩んでいた。このままでは二人が怪我だけでは済まないことになってしまうかもしれないと、だから、

「二人とも、土竜たちに救援を求めてきて」

「そんなのインカムで…」

「出ないから言ってるの!早く行ってきて!」

羽喰は怒鳴るように二人に言う。そして一か所の電妖を吸電ネットで捕まえ道を開ける。

「すぐ戻るから!」

燐がそういうと煌とその穴から出ていく。網にかかった電妖の電気を吸い電池にいくら変えたところでその数は減らない。

 「こりゃあ、面倒なことになってるね。」

どこから来たのか羽喰の背にくっつくように嘘喰はいた。

「何しに来たの?」

「ん?助けに、かな?」

適当な物言いに羽喰はイラッとする。

「はあ……貴方、戦えるの?」

羽喰はふと思った疑問をぶつける。

「戦えないのに俺は血を吸ってたと思う?これでも電界では俺は厄介者だからね、ちょくちょく狙われてるんだよ。特にこの電妖のご主人様にはね。」

「ご主人様?」

羽喰がそう聞くと嘘喰は羽喰の手から剣を奪い自らの電気纏わせた。

「嘘喰…何するの?」

「羽喰を強くする。」

そういうと嘘喰は羽喰の胸を剣で貫いた。

 その瞬間、今まで威嚇的だった電妖が急に消極的に変わった。

「さあ、羽喰。踊ってきな。俺が見ててあげる。」

嘘喰は羽喰の耳元でそうささやくと手に剣を戻した。

 羽喰の見た目は変化している髪は白く変わり、目は黄色くそして充血している。牙が青白い肌と紫の唇の間から顔を出す。

 羽喰は剣を鞭のように扱い次々と電解していく。

 だがそんなことでは時間がかかる。すると羽喰の髪がいきなり伸び電妖を捕まえていく。捕まえるまでなら恐れることはない。だが、髪の束が絡められた電妖はその存在が消える。電解されていくのだ。

 数えきれないほどいた電妖も嘘喰が来てからほんの数分でその存在が消えていた。

「どう?ちゃんと羽喰の役にたってるでしょ俺。」

電妖の姿が消え去ったその場所だけやけに強く雨が降っているように感じた。

「あんた……そのうち殺してやる…」

羽喰はそう言い残し力尽きたようにぐったりと倒れ込むのを嘘喰が抱きかかえる。

 ちょうどそこに燐と煌が土竜や巣の蜂たちを連れて戻ってきた。

「羽喰ちゃん!」

燐が驚きの声を上げる。

「いったい…どうやってあの数を……」

煌も唖然としてしまう。

 二人は羽喰の姿を探す。そして二人の見知らぬ人物に抱きかかえられた羽喰を見つける。

「あんた誰?」

煌が男に聞く。

「俺?俺は羽喰の彼氏かな。疲れているみたいだから連れて帰るよ。電妖はもう全部狩り終っているからそっちの好きにして」

そういうと羽喰のように宙を跳ねるように跳んで行ってしまった。

 唖然とする一同は数秒間動けずにいた。

「大変!羽喰ちゃんに彼氏が!」

「燐、そこじゃないと思うよ。」

煌が冷静に返すも

「何言ってんの!最近の金欠はもしかしたらあのチャラそうな男に貢いでいるのかも!」

「え!」

真に受ける煌。

「お前等、あいつがそういう人間じゃないのは一番解ってるだろ?」

と冷めた目で土竜が見る。



 朝が来る。いつも通り燭影は窓の向こうの目覚ましで目を覚ます。

「おーい、小楯、タローを起こしてくれー」

と眠そうに窓の外にいうも反応は帰ってこない。

「おーい、おーい?」

燭影が部屋を覗くとそこには小楯の姿が無く、仕方なしにいつも通り

「起きろタロー、朝だぞー…」

といったところで反応はないので鼻と口を塞いでからくすぐる。

「ふぶんあ!」

とよくわからない声を漏らすタロー。まあ、当たり前だ。口と鼻をふさがれて苦しいのだろうから

「ほら、苦しいなら起きろ。」

というものの

「俺は拗ねているから起きない。」

なんて言い出すタロー

「お前まだ昨日の根に持ってんのかよ。あんなどうでもいいことで拗ねるなし」

タローが拗ねている理由。それは燭影が髪を拭いてくれなかったというしょうもないことでである。

「うるせい!そんなこと言うやつはこうだ!」

「おわ!」

燭影はタローにより布団の中に引きこまれてしまう。

「あああ…マジでこの抱き枕いい。」

「離せ!さすがに高校生にもなって男に抱きつかれて寝るなんてキモいから!」

「そんなこと言うなし!じゃあ中学生ならよかったのかよ!」

「そういう問題じゃねえだろ!とっとと起きろ!」

「やなこった!こんな丁度いい抱き枕そうそう出会えないからな!」

なんて楽しそうにいうタローとあきれる燭影をドアの脇に立って小楯が見ていたなんて気付くにはあと十五分ほどかかる。



 登校中、待ち合わせ場所となっていた大通りとの交差点で珍しく今日は羽喰が双子と立っていた。

「おはよう。珍しいなお前がいるなんて」

「本当よ。朝から燐が興奮して電話してくるかと思ったら…」

「だって!羽喰ちゃんに彼氏がいたなんてあたしたち知らなかったんだもん!酷いよ!しかもあんなチャラ男!」

「チャラ男反対…」

と双子そろっていうことに同調するように

「なにそれ!会長ちゃんいつの間に?」

と燭影まで加わってしまい収集が聞かなくなってしまう前に

「だから、何度言ったら解るの?あれは単なる同居人で彼氏じゃないの!彼氏なんて作ってる暇があったら勉強でも生徒会でも電妖狩りにでも使ってるわ。」

「なんだ…って同居人?」

燭影が聞く。

「いろいろあって少し前から家にね。と、言ってもほとんど家には帰ってこないから同居と言うより泊めてあげているだけよ。しかも人間じゃないし」

「人間じゃない?」

タローが聞く。

「とにかく、行くわよ。」

と羽喰が言うも

「まだ世良が来てねえよ。」

と言われ足を止める羽喰。

「そう、丁度いいわ。彼に頼みごとがあったから」

「頼み事?」

燭影がまたも興味津々で聞く。

「まあ、情報屋敷への仕事よ。最近のあのクラゲの原因が気になるし、あいつの言っていたことも気になるし、調べてもらうの。」

「そんなの父さんに直接言ったら?俺、あんたと話したくないから、おはようタロー、小楯、それと煌も」

そういいながら世良が団体に混ざる。

「あたしには何もないの?」

「俺、女嫌いだから」

そういって世良は信号を渡っていってしまった。燐は少し頬を膨らまし唇を尖らせる。

「昨日といいどうしたんだあいつ」

燭影が世良の異変に疑問を持つ。

 「ところでなんで小楯は何も話さないの?」

羽喰が小楯に聞くと、

「へ?ちょっと考え事…」

といいながら羽喰の横に並ぶ。珍しい。いつもならタローにくっつく世良のように燭影にべったりしているのに、と一同は思っていた。



 休日である。ここ数日続いていた雨のためは久々の晴れ渡った空に向かってタローは起きたての体を伸ばす。

「そんな悠長なことしていると世良が迎えに来ちゃうぞ。」

とこれまた起きたてではあるがすでに脱力した燭影は小楯に抱きつく形でよっかかっていた。

「お前も人のこと言えないだろ。見て見ろ、なぜか小楯は毎朝起きたその時点ですでに着替えが済んでいる。お前も見習え」

「お前にだけは言われたくない。俺だって起きてすぐ着替えたいがお前を起こさなくてはいけないからな。このタイムロスがどういうことか解るな?」

タローはもう一度窓の外に向かって背伸びをし、

「いやあ、いい天気だなあ…」

と誤魔化す。

 「あ、世良が来た…」

ちらっと見えた視界の中、庭でジローに遊ばれている世良がいた。

「世良!鍵開いてるから入ってこいよ。」

なんて声を掛けたものだから世良の肩は大きく跳ね、タローの部屋に視線が移された。

「わかった!」

そういうと世良は家に向かって歩き出した。

 「着替えてくるわ。朝飯はそっちで食うから」

「そういえば母さんたちは?」

窓に足をかけていた燭影にタローは聞いた。

「次の旅行先探しに代理店行くんだとよ。あと仕事の打ち合わせもしてくるとかでさっき出てった。」

「ああ、そんなこと言ってた気がするようなしないような…」

昨夜の記憶を探るタローであったがよく覚えていない。

「言ってたよ、タローくんのお母さん。それにしても仲いいよね。」

「俺たちと違ってな。」

という燭影であったが小楯からして二人も十分仲がいい、良すぎるぐらいだと思っている。

 そこに

「おはよ」

そういって入ってきた世良だがまだ着替えていない二人を見て顔をしかめる。

「俺この時間に来るって言ったじゃん!それまでに支度済ませておくのが常識でしょ?」

「なにその常識?」

とタローが素で返してしまうので他三人は呆れるか苦笑してしまっている。

「はあ、すぐ着替えてそっち行くから、悪いんだけど小楯、下で朝飯の順備しといて」

自分の家ではないのにそう告げ、燭影は自分の部屋に戻っていった。

 タローも来ていた物を脱ぎ始めタンスをあさる。

 「いつ見てもこの家の仕組みってよくわからないな…」

と世良は言葉を漏らして小楯について下に下りて行った。

 数分後、タローと燭影はそろって階段を下りてきた。

 小楯はキッチンでお味噌汁を温めていた。

「悪いな小楯、世良も、すぐ食っちまうから」

そういうとタローは席に着き、燭影はキッチンに入る。

「普通逆でしょ?」

と世良がつぶやいた。

「何が?」

タローが聞く。

「何がって、普通はこの家のタローがキッチンに入って、燭影が座って待つ物だろ。」

と世良がいうものの

「世良、タローをキッチンに立たせてみろ、確実にこの家はおろか俺の家まで消し炭になっちまう。」

と真剣な顔で燭影が世良にいうものの

「お前キッチン立ち入り禁止なわけね。」

「正確には冷蔵庫まではオッケーだけと電子レンジとトースターは禁止、ポットはセーフ」

よくわからないこの家のルールに世良は溜息を洩らした。

 「とにかく食っちまうぞ。」

燭影がお盆にお味噌汁のお椀を載せてキッチンから出てくる。

 「いただきます。」

と三人声をそろえていうと食べ始める。



 「よし、行くか」

と世良が来てから一時間ほどしてやっと家を出ることができた。

「三人に先に言っておくけど俺の家では絶対に世良じゃなくて胤臣って呼ぶこと、あと絶対に俺の家に居る女とはかかわらないこと、これは命の危険が…」

と世良は顔色悪く言う。

「世良って女苦手みたいだけどなんで?」

と燭影が聞くも反応は返って来ず、その代り小楯が口を開く

「情報屋敷には六人の女性が働いているんだ。みんなすごく美人で、知らない?世良の六姉妹って」

「ああ、時々町内テレビに出てる?」

「そう、彼女たちが…」

「小楯!」

世良が小楯の話を切る。

「そんなことどうでもいいだろ、とにかく俺の家では胤臣って呼ぶのと女と話さない、いい!わかった?」

と世良はタローと燭影に向かって言うも熱い視線を送られているのはタローのみ、燭影はどうでもいいようだ。

 大通りに出てから西に向かって進む。いつも世良や双子たちが来る方向である。おそらく羽喰もこちらから来ているのだろう。今のところ行きも帰りも一緒になったことがないので解らないが、

 大通りをしばらく進むと大きな中華系の建物が見えてきた。それが情報屋敷である。

「あれが情報屋敷だったんだ。」

ボソっと漏らした燭影の言葉に

「お前そんなことも知らないのにこの町に住んでいたのかよ。」

と世良がいうものの

「俺も知らない。もとからこっちにはそう滅多に来ないからな。」

とタローが言うので世良は黙ってしまった。

「そういえば小楯の家ってどこなんだ?」

燭影が小楯に聞く。

「僕も燭影くんたちと同じ住宅地の中だよ。二人の家より少し学校に近いかな。」

という。タローと燭影の家がある住宅地は大通りを挟んで学校とは反対側である。天電町はこの大通りを挟んで住宅地と公共施設、商店街などがある地区と分かれている。住宅地の向こうには川がありその先は森、そして商売地区の向こうには娯楽施設や海が広がっている。それが天電地区の全貌である。

「そうなんだ。今度行ってみたいな。」

なんて燭影が言うと小楯の肩がピクっと跳ねた。

「バカじゃないの、自分が半妖なの解ってる?神保博士ならお前が家に来ただけで捕獲に入るよ。」

タローは思う。そういえばそんな話を以前羽喰が双子にしていた気がすると、すると燭影は世良に

「それは前、会長ちゃんから聞いたよ。でも、その実験自体気になるし」

と燭影は小楯に笑いかける。

「そう…なら聞いてみるよ。事前に言っておけば実験体になんてしないだろうから」

「楽しみにしてるよ。」

といいながら頭を撫でる。

 そんなことをしているうちに

「ほら、着いたぞ。そこの鏡に顔を映せ」

そういわれタローと燭影は鏡を見る。

「我、世良の胤臣、この者の許可を申請する。」

二人の視界にも、鏡の中にも映らないで世良が何かをしていた。

 「いいよ。中に入ろう。」

世良の後をついて門をくぐる。

「お?」

タローは短く声を出す。

「結界?」

燭影も気づきくぐった門をみる。

「こっちは正門じゃないからね。許可を出さないと入れないんだ。」

世良が得意げにいう。

「じゃあ、何のための門なんだ?」

「お得意様用の門なんだけど家の者はみんなこっちから入るんだ。正門遠いし、玄関入りにくいしってことでね。これで二人の申請は俺がしたから二人が家にくれば俺のところに連絡が来るって仕組みだ。」

と世良が言っている背後に

「こら!胤臣、俺なんて荒っぽい言葉づかいはやめなさい。」

と現れた女性はいった。

「うっ…今日は出かけるのではなかったのですか……」

急にかしこまったような言葉づかいになる世良、

「ええ、今から行くところです。みなは先に行っていますが私はお父様や貴方の食事の順備があったので、お友達も来ると言うことでその子たちと今来られているお客様の分と作っていたのですよ。」

と背の高い、綺麗な女性はいった。

「それでは私はこれで、何もなかったら夕方までには戻りますので、ゆっくりしていってくださいね。」

世良と話、最後にタローたちに会釈をしながら彼女は行ってしまった。

「あれって…」

タローが口を開く。

「あれがうちの母さんだよ…」

と脱力したように世良はいった。どうやら家での世良は肩身が狭いようだ。

 庭は和風でありながら建物は中華風。タローは異空間にでも来てしまったのではないかと考えていた。

 屋敷に入りしばらく廊下を進むと

「父さんに帰ってきたの伝えてくる。ここで待ってて」

と世良は言い、大きな扉の部屋に入っていった。タロー、燭影、小楯は扉の隙間から世良の行方を追う。

「ただいま戻りました。」

そういうと一人の男性がソファーから立ち上がり

「お帰り、今日はみんながいないから何もできないが」

「解っています。それでは失礼します蜂須賀様。」

と世良がいうものだから三人は目を見開きその姿を探すも丁度人の影なのか見えない。そこに

「次期屋長様のご友人は随分と無礼な人間のようね。まあ、人間は一人で後は半妖だけど」

そう羽喰が言った。世良は振り返り扉を勢いよく開ける。

「待っているように僕は言ったはずです!貴方方は何がなさりたい?」

と世良がいうものだから扉が開けられた驚きよりも羽喰に気付かれた気まずさよりも世良の態度にタローと燭影は笑いをこらえるのであった。

 「貴方たち本当に失礼な人間ね。」

と羽喰が近づきながらいう。

「蜂須賀様のお知り合いでしたか。どうです?何かお調べしましょうか?」

そう世良の父はいうと

「父様!僕らは部屋に居ますので…」

そこまで言って羽喰が世良の言葉を遮り

「面白そうだからやってもらいなさい。」

何ていうものだから世良は頭を抱える。

 「では鳥居大狼くんから」

「え?なんで俺の名前?」

タローは突然名前を呼ばれて驚くも

「私が貴方たちの話をよくするのよ。それに」

「ご両親もこちらに良く来られますので」

世良の父親が言った。なるほど、とタローも燭影も思う。度々親たちは二人の行動について詮索はしないものの知っているそぶりを見せることがある。小楯のことだってそうだった。ここから情報を仕入れていたのか……。

「こちらに」

そういわれ羽喰の隣に座る。

「では、何をお調べいたしましょうか?」

と、言われたものの特にこれと言って気になっていることはなく、そこに燭影が

「ジローのことは?」

と言ってきてハッとなる。

「あ、じゃあ、飼い犬の事なんですけどもういい歳なのに子犬みたいに元気で、あいつの親は電妖になっちまったみたいでジローもそうなのか調べてもらえますか……?」

語尾に行くにつれだんだんと声が小さくなっていくタローに世良の父は

「その事でしたら以前、大狼くんのお父さんに頼まれて調べたことがあります。」

うつむきかげんだった顔を上げタローは話をする本人に視線を向ける。

「ジローくんは申しわけありませんが電妖のようです。ですが動物が電妖になってしまうという例が私の元には少なくジローくん本人を少し見させてもらいそう判断しました。電妖の力は持っていないものの電気が存在する限り彼は生き続けるかもしれません。」

世良の父にそういわれ再びうつむいてしまうタロー。それを見て燭影はタローの背中を優しく撫でた。

 「しょっぱなから重い質問をしたものね。燭影、貴方はないの?」

「俺は…あの、ジローを普通の犬に戻す方法ってないんですか?」

それを聞き世良が答える。

「あるわけないでしょ。そんな方法があったら妖人であること、半妖であること、悩む人間がいなくなる。」

冷たく言われたものの

「そりゃあ、そうだよな。そんなこと出来たら母さんも悩んでないか」

と暗い空気を作る二人に

「いいじゃない。一生一緒に居られるのよ。最後を考えるのは自分が死ぬときにしなさい。どっちが先に死ぬことがお互いのためになるのか。貴方たち半妖はただの人間よりも寿命が長いことは神保博士が発表した論文にも載っていたしね。時間ならたくさんあるでしょ?」

羽喰の言葉に薄っすら笑みを浮かべ

「ありがとう」

タローがそういって燭影に笑いかけていた。

 そこに世良の父は

「そういえば小楯くんの体質は何か改善は見られましたか?」

「え?あ、いえ。この前また作ってしまってそこの三人に迷惑をかけてしまいました。」

という小楯を何の話をしているのか解らないタローと燭影、世良が見る。

「感情のコントロールと無口になるのは違うことですよ。感情豊かな友人もできたようですぐ近くに蜂須賀様もいらっしゃる。自分を隠してストレスを感じるよりも自分を表に出すことも重要ですよ。」

「はい。ありがとうございます。あと、もう一つのほうは?」

小楯は少しタローたちを気にしつつ聞いた。

「その事なのですが蜂須賀様からの今回のご依頼に関わるかもしれません。」

そういわれ羽喰は少し険しい顔になる。

「どっちの依頼のほう?嘘喰?それともクラゲ型の電妖?」

タローたちは嘘喰という名に覚えがなく首を傾げる。

「クラゲ型のほうです。楯麟(じゅんりん)くんを連れ去った電妖、そして当時同じく電妖にさらわれた子供たちの目撃談ではクラゲ型の電妖に連れて行かれたという共通点があります。」

「でもそれだけで多発する今回の事件と誘拐事件が関連するかなんてわからないじゃない。手口も暴走と誘拐。この二つに共通することなんて電妖の形のみよ?」

そういうと世良の父は立ち上がり棚から電子端末を取り出し戻ってきた。

「これを見てください。こっちが誘拐事件の多発していたころの電妖の動き、こちらがここ最近のクラゲ型に限っての電妖の動き、共通するのはさらわれた場所に多く現れていると言うことと現在子供親のほぼ全員が町外に引っ越し空き家になった家に集まっていると言うこと」

「つまりクラゲ型は何かを探しているのではないかっと言いたいわけ?」

「その通りです。」

羽喰の言葉に笑顔を見せる世良の父、そして不安な顔をする小楯。

「楯麟兄さん…」

不安気に漏らされた声に燭影は小楯を見ていた。

 「小楯の体質ってなんなんだ?」

と話を蒸し返すタローに隣りの燭影はおもいっきり頭を叩く。

「お前は空気を読むと言うことができないのか!」

「だから常識がないんだよ。」

と世良が漏らす。ふと、そういえば口調がいつものに戻っていると思い出す燭影。

「で、体質って?俺たちが聞いちゃいけないことなら聞かないけど」

と言われ小楯は

「聞かれて困ることはないよ。もう二人には見られてるし、」

と小楯は言いながら開いているソファーに座った。

「十年前に僕の兄、楯麟兄さんは電妖にさらわれたんだ。そのあとすぐなぜか僕の感情が高ぶると電妖が現れるようになったんだ。もともと放電体質で電妖が見えていた兄さんには電気を求め小さな電妖が集まってきているってよくからかわれていたんだ。兄さんがさらわれてから僕の回りで電妖事件がたくさん起きるようになって」

「そこで私と出会ったのよ。」

羽喰が口を挟む。

「うん。羽喰ちゃんがいなかったら僕今ここに居なかったと思う。電妖がただの人間から生まれるっていうのはすごく異質なことなんだ。」

「でも静電気からも電妖って生まれるだろ?」

タローが聞く。

「人間からの放電で生まれた電妖は人間からの電気しか吸収できないの。静電気から生まれた電妖なんてたかが知れているけど小楯の放電で生まれる電妖がすごく危険なものって言うのは貴方たちは実際に体験したでしょ?」

と羽喰が言い返した。

「僕からの放電で生まれた電妖は僕の感情に乗って現れる。しかも僕から電気を絞りと取ろうとしているみたいなんだ。だから羽喰ちゃんはあの電妖を電解したんだよ。」

と小楯がいうとタローの視線は羽喰に向けられる。

「何でそういう大事なことを言ってくれなかったんだよ。俺はてっきり残虐行為を平気でできる女王様かと思ったよ。」

「タロー!俺は何か理由があるんじゃないかって思ってたよ。でも小楯に関係あることとまでは考えてなかったな。」

と燭影はタローを殴って言った。小楯はその様子を見て笑う。

「まあ、そういうことだから貴方たちに小楯を任せたのよ。」

そういうと羽喰は立ち上がり

「お願いした仕事よろしくね。それじゃあ私はこれで」

と扉を開けると

「きゃっ!」

「痛い」

「押したからでしょ!」

何て声がしたため羽喰は視線を下に向ける。

「こんにちは(さくら)椿(つばき)(えのき)(ひさご)(ひいらぎ)(きり)もいるのね。」

なんてのんきな声を漏らしていると

「何でいるんですか!今日は夕方まで帰ってこないんじゃ?」

と世良が焦ったように口を開く。

「だって、お母様から世良ちゃんがすごくかっこよくて美人なお友達連れてきてたって聞いて」

と羽喰に楸と呼ばれた女性が言った。

「世良ちゃんがお友達連れてくるなんて何年ぶりのことだろうって思ってみんなで顔見たくて帰ってきたの!」

と楽しそうにいう桜に世良は肩を落とす。

 「世良…その人たちって」

と最後まで言う前に世良は珍しくタローを睨む。

「おいタロー家族の前では胤臣って呼ぶよう言われたじゃねえか。世良ちゃんなんて呼ばれてるから嫌なんだろううよ。」

と燭影が耳元でタローに告げる。

「なるほど、あいつが女嫌いな理由が何となくわかった気がする。燭影を嫌う理由も」

「そうだな…って俺も?どこが?」

と聞いてくる燭影にタローは六人姉妹の一人を指さす。

「あの人にお前似ている気がする。おかっぱ頭とか目つきとか」

そういいながら指さすのは桐という世良の姉。

「前々からテレビ見てて思ったんだよね。」

「椿って人が母さんに似ているってのは何度か話したことあるが、そうか?俺あんな顔か?」

と燭影は顎に手を添えて考える。考えたところで結論が出ることはなく。

 「ねえ?貴方たち大狼くんと燭影くんでしょ?二人ともお父さんにもお母さんにも似ているのね。」

と椿が言ってくる。

「当たり前じゃないですか二人のお子さんなんですから、私はこれで失礼します。」

「待って、お昼ご飯用意してあるからその頃までいれば?」

なんて榎に言われても

「すみませんが友人と約束があるので」

「友人なんているの?」

と世良がボソッと声漏らすのでそれに燭影は

「俺たちだって会長ちゃんの友達だろ?それに俺たちよりも親しいだろう双子もいるしな」

「ああ、双子がいるか。」

と納得するタローに世良は今日のタローは大丈夫か?と考えてしまう。

「その子たちも呼びましょうよ!そうすれば蜂須賀様帰らなくていいんでしょ?」

榎に言い寄られ羽喰は溜息をもらす。

「わかりました。どうせ会うのは夕方なので呼ばなくて結構です。」

「やった!」

と大げさに喜ぶ榎。珍しく羽喰が押しに撒けたところを目の当たりにしたタローは世良に

「羽喰のやつ珍しいな。」

とつぶやくと

「榎姉様は羽喰が好きだから帰したくないだけ、羽喰も今後の情報があるから断れないんだよ。それより部屋行こう。ここは騒がしい。」

なんて世良が言ったものの

「いいじゃない!ここでおしゃべりしましょう。そうだ!アルバム持ってくるわ!」

と椿は廊下に出る。それを追って世良が

「いりませんから!客が来るたびに人の過去を見せびらかさないでください!」

と声を上げる。

 溜息を吐きながら世良は室内に戻り羽喰の座っていたところに気分は苛立っているだろうが丁寧な振る舞いで腰を下ろした。

「胤臣も大変だな。」

 「大変何て物じゃないわ。胤臣はこの家の跡取りとしての教育を受けながら姉様たちにお人形にされているんだから」

と今まで黙っていた桐が近づきながら言ってきた。

「胤臣はよくやっていると思うよ。私の幼いころに比べて分析力も読解力も優れている。」

と世良の父は本人を撫でながら言った。

「そんなことは有りません。情報収集は姉様方に任せていますので俺は座って待っているだけ、お父様と比べるなんておこがましい。」

といいながら嬉しそうに世良は言った。

「桐は胤臣に期待しているわ。でも、できるだけ早くその女性嫌いは治してね。もう高校生なんだから」

と桐も世良の頭を撫でながらいう。

「精進します…。」

そういったところに

「大狼くん燭影くん見て!これが小さいときの世良ちゃんよ。可愛いでしょ!」

とアルバムを持った椿が戻ってきた。

 「悪いんだが世良、正直な感想行っていいか?」

「勝手にしろ」

世良は拗ねたように言った。

「可愛い…お前こういう格好のほうが似合うんじゃねえか?」

とタローが言うと世良はどんどん不貞腐れた顔になっていく。

 アルバムの中身は姉たちの人形と言っていただけあり見事な着せ替え人形であった。女の子が着るような服が和洋折衷、この家の前で撮ったのだろうチャイナ服の写真にはそれこそ日本ではないかと思うほどである。

 姉たち六人に混ざり末の女の子のように見えるその出で立ちにアルバムを覗く二人は釘づけであった。

「羽喰も見てみろよ!」

とタローが顔を上げるとそこには羽喰と姉たち数名の姿がなかった。

「あれ?」

「ん?どうした?」

燭影もあたりを見渡す。

「お父様もいない…俺たちが来たから別の部屋で情報の話してんじゃないの?」

と世良はいいアルバムを閉じてしまう。

「まだ見てる」

「もういいだろ。俺だって好きで見せてるわけじゃないんだから!」

と棚の上にアルバムを置き、

「ほら!部屋行くよ!姉様たちがいない隙に行かないとタローたちが餌食になる。」

と言う世良の言葉に疑問を持ちながらタローと燭影は小楯と共に部屋を出た。

 その後、二人は世良の部屋に行くものの姉たちが現れ帰路についたのはもう暗くなってからのことだった。親たち四人は脱力した三人の姿をみて何か悟ったように早く寝るように告げたのだった。


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