生シ
生シ
羽喰は楯麟の体の近くで座り込んでいた。
タローも楯麟の体を見下ろし自分の手にあるモノに視線を移す。そこに燭影が歩いてくる。
「それは?」
燭影はタローに聞く。
「多分、海月だと思う……。」
自信がないため羽喰に視線を送ると
「それが楯麟の中に居た海月の電妖で間違いないわ。」
息を荒げながら羽喰は言った。そこに嘘喰が下りてくる。
「終わったの?」
「ええ、終わったわ。」
羽喰は嘘喰を手招きする。
「血吸う?それとも吸われたい?」
「吸う方に決まってるでしょ…」
嘘喰の首に牙をたてる羽喰を見てタローは視線をそむけその先で泳ぐ。
「羽喰ちゃん!」
「大丈夫?」
燐と煌が羽喰が嘘喰がら口を離したところで降りてきた。
「ええ、大丈夫よ。それよりも」
羽喰は楯麟を見る。
「電魔はそう簡単に死なないよ。強力な吸電をされない限りね。」
嘘喰はそういうと楯麟を肩に担ぐ。
「病院に届ければいい?」
「お願いするわ。みんなも動けるなら行きましょう。」
羽喰は立ちあがる。
「八九一、そこから動くな。」
聞き覚えのある声にタローはその人物を睨む。
「金魚、遅かったわね。この通り解決よ。問題の電妖はタローが持ってる。」
原型が解らないようなものではあるがそれをタローは金魚に見せつけるように前に出す。
「それは捕獲だ。」
近くに居た部下がタローから海月を受け取りケースに入れる。
「八九一に利用されていた民間人、並び嘘喰と洗脳されていた被害者を病院に連れていけ」
また別の部下が燐や煌、タロー、燭影の背を押して歩き出す。
「この人瀕死だから俺先行くよ。すぐに迎えに戻るから」
嘘喰はそういうと電波を蹴って行ってしまう。
「さあ、君たちも」
部下の一人がタローに言うも
「利用されたわけじゃない。」
燐が金魚に反論した。
「俺たちは自分の意志で羽喰ちゃんに手を貸していたんだ。」
煌も燐と並んで金魚にいう。
「元観察対象が無駄口をほざくな。それ以上反論を述べるようであれば八九一と共にこの場で処分するぞ。」
その言葉にタローと燭影も
「処分ってなんだよ!」
「自分たちの意志で羽喰を電魔にしておいて何言ってんだよ!」
というと金魚は片手を上げた。
「ふぐうっ!」
羽喰は言葉にならない声を上げる。
「吸電を始めろ。」
刃物が突き刺さりそこからどんどん羽喰の中の電気が吸われていく。
「ふざけんな!」
タローが声を上げると銃声がして自分の頬に痛みが走る。
「次はかすり傷では済まないぞ。」
金魚は銃をしまう。
そんなやり取りをしている最中も羽喰の吸電は進み倒れてしまった。
「羽喰ちゃん!」
燐は涙を流す。煌はこらえながら燐を支える。
羽喰の体を数人の部下が触る。
「死亡、確認されました。」
「本部に戻るぞ。」
金魚はそういうと羽喰の体を放置して歩き出す。
タローたちは背を押されるも一歩も動かない。
「ほっておけ」
金魚に言われタローたちを置いて蜂の巣の人間は戻っていった。
燐は崩れるようにその場に座り込んだ。煌の頬にこらえていた涙が伝っていく。
タローはおぼつかない足取りで羽喰の傍らに歩み寄り膝を着いた。
「なんで…なんでお前ばっかりこんなことになるんだよ……。お前はなにもしていないのに!なんでだよ羽喰!」
壊れたように泣き叫ぶタローを燭影は見ていることができず背中から抱き締めた。
「羽喰……」
燭影はタローの肩に額を寄せかみしめるように泣いた。
辺りが静まり返る。動いたと思った時間は簡単に四人を止めてしまった。
世界を統一している空間的時間はどのぐらいたっただろか一人の足音が近くでなった。
「何してるの?」
この状況を理解できない。そんなニュアンスのこもった声で嘘喰はいった。
羽喰の回りで皆が泣いている。なんで泣いているのか?それよりなぜ羽喰が先ほどより怪我がひっどくなっているのか?そしてなぜ死んでいるんだ?と嘘喰の中をぐるぐる渦巻き混沌として沈んでいく。心の中の深い海に沈んで、沈んで、海底に着くとマリンスノーが舞いあがる。それに埋もれて姿が見えなくなる。理解するのに使う時間とは人それぞれだが思考回路の発達している電妖の血が流れる者には一瞬で終わる作業だがいざ絶望感を目の前にしてしまうと人間も妖人も半妖も電妖も電魔だって関係ない。
嘘喰は地面に倒れうずくまる。
「俺を残していかないで!」
近くの壁に反射した声は町を包んだ。
早い物でタローたちは高校二年へと進級していた。
あの後小楯は目を覚ました。強くはないが洗脳され、その間の記憶は曖昧のようだったがタロー、燭影、燐、煌、世良、そして水流と蛍火にも泣きながら謝罪していた。
新年の始まり、それと同時に羽喰の存在は羽喰の予告通りに消えた。覚えているのは電魔とそれに近い小楯の三人だけだろう。
楯麟は電魔の治癒力の高さが幸いし退院は早かった。
蜂須賀総合病院は名前を替えた。表抜きは院長が退任したことにより地名にすることになったと発表された。天電電妖総合病院。天電病院と区別できるようにと可笑しな名前になってしまったことは町内放送の番組で言っていた。
蜂の巣は無くなった。天電町だけではない。全国の蜂の巣が姿を消し女王は一般人に戻った。
嘘喰は小楯と楯麟と共に神保家にお世話になることになった。嘘喰は言っていた。
「仲間が出来た喜びよりも失う悲しみのほうが何十倍も大きいんだね。」
と、今となってはタローたちの認識は小楯と楯麟の従弟。少し年上に見えるけど性格は小さな子供。そんな彼も天電高校に通うようになった。
タローは羽喰の記憶を失ってから嘘喰に言われた。
「あの子は君のことが好きだったよ。」
凄く幸せそうな顔で嘘喰は言った。
タローにとってあの子が誰なのかは解らなかった。だがそういわれて遠い記憶で自分が喜んでいるのがわかった。
矛盾と矛盾が交差する記憶に蓋をしてタローは普通の高校生になっていた。
桜の木に葉っぱが混ざるようになった春先、いつも通りの朝がそこにあった。
「おはよう!」
「九十九!遅刻だぞ。生徒会長が何してんだ!」
木林が声を上げる。
「生徒会の仕事が終わらなかったんです!遅刻ではなく七時には学校来てました!」
と必死で弁解するのが九十九エリカ。羽喰の代わりの人間だ。
「わかったから早く席に着け」
そういわれまんべんの笑みを浮かべ
「先生大好き!」
「先生も好きだぞー」
と棒読みが帰ってくる。
「おはようエリカ。生徒会ならあたしたちで手伝うから連絡してよ。」
「そうだよ。エリカ全部自分一人でやろうとするから」
燐と煌が左右の席が声をかける。
「そうだ!鳥居も手伝って、お願い。前はよく生徒会室いたじゃん。」
エリカが振り返りタローに拝むように手を合わせる。
「九十九!おとなしくホームルームぐらい受けられないのか!一年の時の授業態度はどこ行った!」
と怒鳴られる。
「そんなこと忘れました。あたしが大人しいわけないでしょ?」
開き直る。
これがいつもの朝。
修業中も特に変わらない。エリカが前後左右、ななめの人間に声をかけるのでタローたちの授業態度も下がったのは一年の終わりの成績で発覚したため
「ねえねえ、これってなんて読むの?」
とエリカが振り返って来ても
「先生、九十九が漢字読めないみたいです。小学校で習った字ですけど」
「ばらすな!」
とやると教室に笑いが満ちる。
「先生、授業進めてください。」
世良の当たりがきつくなったことは言うまでもない。世良の苦手なよく喋る女子。燐もそれに入るが煌がいるためそこまで毛嫌いはしていない。
授業が終われば放課後が来る。
「それじゃあまた明日ね。」
エリカが手を振って双子と生徒会室に行く。
「やっと静かになった。」
燭影も性格が以前以上に落ち着いた。烏天狗になったからだとみんなは解釈していた。
「それじゃあ、僕たちも行くね。嘘喰と先生に呼ばれてんだ。」
そういって小楯も嘘喰と共に行ってしまう。
「小楯も従弟が来てからあまり遊ばなくなったな。」
「高校生なんてこんなもんなんだよ。きっと」
タローの疑問を適当に燭影が返す。
「胤臣。」
「桐姉様、どうかしましたか?」
目の前に桐がたっていた。丁度階段を下りてきたところだろうか。
「姿を見つけたから声を掛けただけよ。遊んで帰るの?」
「いえ、もう帰ります。何故三階に?」
桐は三年なので一階に教室がある。だが来たのは三階から
「蛍火先生に提出の物があってね。あの人珍しく担任持ったでしょ。」
「それで、あ、じゃあな。」
そういって世良は桐と歩いて行ってしまった。
「帰るか。」
「そうだな。」
残されたタローと燭影も歩き出す。
門をくぐればそこには勘衛門が燭影を待っていた。
「またせたな。」
そういって肩に乗せる。
日常とは少しずつ変わって行くものだ。だがタローの中で大きく変わったものがたくさんあった。
遠回りして帰る。これも変った日常の一つだ。
誰のかもよくわからない真新しい墓。わからないのだがここに毎日来てしまう。名前もほられていないまっさらな墓石に手を当てる。そして近くの切株に座りしばらく墓を眺める。タローの行動に理由を求めない燭影もともに切株に座り時間が立つのを待つ。
夕方、ほとんど日が暮れた空になった頃、
「まだ居たの?風邪引いちゃうよ。」
と言いながら燐が来る。その後ろに今日も一輪の花を持った煌もいる。
「今日は何の花?」
「綺麗だったからチューリップにしてみました。」
黄色と赤の混じる花びらを持ったチューリップが昨日、一昨日、それ以前に来たときに持ってきた花と一緒に並ぶ。枯れかけた花を取り除いていく。
燐もなんだか落ち着いた。妹特融の甘えた言動が減りエリカの世話をよく見ている姉のようであった。
「二人もたまにはお線香ぐらい持ってきたら?」
ただいるだけじゃなくて、そう煌にいわれると苦笑いになってしまう。
「あれ?でもいつも三本燃えカスあるよね?」
燐が聞く。
「小楯だよ。あいつの家からは近いから毎朝来ているんだと、あいつと、兄貴とあの従弟の三人で」
「そうなんだ。」
さほど興味無く燐は答えた。
「そういえばエリカに聞いて来てほしいって言われたんだけど」
「燐、そこは言っちゃダメだよ。」
煌が言うと
「あ、そうだった。まあ、いっか。タローくんはエリカのこと好き?」
直球に聞いてくる。だがタローは
「ただのクラスメイトに恋愛感情なんて持たないよ。それに好きなやつがいる。」
そういうとタローは立ち上がる。
「そうだったの?」
「誰?」
珍しく煌も食いついた。
「さあな。忘れた……。」
そういって歩き出す。それについて燭影も行ってしまう。
「煌もその子のことが好きなの?」
「そういう燐もでしょ?」
そういうと二人は墓に手を合わせる。
「また来るね。」
立ち上がり二人もその場をあとにする。
タローは携帯の画像フォルダーにある自分の足が映る写真に混じっている誰かの足。そして空を写した写真ともう一枚、その日、その時間にシャッターは切られていた。
「お前が好きなんだよ。」
つぶやいたところで誰の耳にも入らない。
携帯に残る画像に写る人物が誰だかわからない。偶然写っただけかもしれない。それでもタローは、燭影は、燐や煌もその人物に恋していた。小楯と世良はその人物に心を許していた。
写真が消去されるまで、失ってしまうまで自問自答の交わらない問いと答えの平行線は終わらない。
皆が来るから孤独はない。
夜風に花びらが散る。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
同時進行で投稿しています化猫一門も宜しくお願いします。




