スズメバチ女王
スズメバチ女王
机に伏せるように、教師から見てなんの悪びれも無いように眠る彼、鳥居大狼の日課は居眠りからの教師からの説教タイムである。
大狼、通称タローのこの居眠り衝動は彼に流れる血に関係している。
彼の生活するこの町、この空間、天電町は国内でも数少ない電界妖怪の存在を認める町なのである。
電界妖怪、略して電妖とは何か?それは古代は雷により生まれたとされたあやかし、現代では電気と言う便利なものから生まれた妖怪という扱いをされるモノである。その正体は電子の運動、電波の発生、電流・電圧などで生じる電界、こことは違う世界・空間から現れたとされるモノ。実際のところはよくわかっていないのも現状である。
電妖は見える人間と見えない人間がいる。これは電妖そのものに遭遇しなくては見ると言うことができないからである。
電妖に遭遇する以前に必要なアイテムもそろえなくてはならない。電妖は異世界の生き物、それを見るためにはレンズが必要で現代ではメガネがその役割を果たしている。昔は鏡やガラス越しにしか見えなかった。だが、これはプラスチックレンズでは意味をなさない。逆に最近ではガラスレンズのメガネは減って来てしまった。そのため見える人間も減っては来ている。そして、もう一つ。電気を身にまとっていなくてはならない。昔は雷の日、静電気の多い季節とされてきたが今では電気を使うものなど身近に溢れている。そのため電子機器、電子端末を持って電妖に遭遇するのを待っていれば会えるのだ。
電妖というモノは電気を主体にしているためか雨の日、特に雷雨の日にはその力を増し、狂暴化するモノもいるという。そしてそういったモノが見える人間を襲うのだ。ちなみに見えない人間を電妖は通り抜けてしまう。見える人間にのみ触れることができるのだ。
電妖が人間を襲う理由、それは多々ある。電気という不安定な存在から人間のように確立的存在になりたいのだという者、人間の血を飲むことで人間に近づこうとしていると言う者、それこそ人間になれると信じていると言う者。見解は様々だが一番多いのは物理的満腹感を欲しているのではないかと言うこと。でもそれは個体によって異なり、人間に力を貸す友好派もいれば関わりを持ちたがらない根暗派、人間を嫌う陰険派、そして襲ってくる危険種の凶悪派など、誰かが図にまとめて発表し、世間的には精神を病んでいるとまで言われた大人もいる。
ここで現代課題として取り上げられている内容を説明しよう。電妖は人間を襲う。襲われ方は様々だが口を使った攻撃、噛まれる、吸われるなどそういった襲われ方をした人間は電妖の力を何等かの形で体内に移されてしまう。そうして生まれるのが電妖人間、通称妖人。妖人となった人間たちは現在では国の管理下での生活を強いられる。それは電妖の力は人間ではコントロールしにくく暴走の危険があるからである。そもそも国は電妖の存在を公式には認めていない。もちろん地球全体をみて公認している国なんて片手が余るほどしかない。だがほぼすべての国が電妖に対する対策、妖人となった者の管理など徹底して行っている。我が国日本ではいくつかある電妖地区で唯一、この天電町のみ妖人、そしてその家族の半妖の自由が認められている。
半妖とは妖人と人間の間に産まれた子を指すのだが、最近では妖人同士の間の子供もそうさすようになった。ちなみにタローは半妖である。
タローの母は人間だが父は妖人である。幼馴染の二人は結婚と同時に切っ掛けがありこの町に越してきたと聞いている。タローは生まれて此の方町の外に出たことがない。町自体は山と海、森に囲まれたところにあるにも関わらず高層ビルが立ち並び利用者の少ない立派すぎる駅に、無駄に金のかかった町役所、国内でも一、二を競うほどの大きなショッピングモールにデパート、そして海辺にはこれまた大きな遊園地まである。川が流れ緑豊かな辺ぴの地なのだ。近隣の町から買い物にくる人も多くけして隔離地区と言うわけでもない。特に部活動、学校行事が盛んな天電高校は進学率も高く、就職先もいいものがそろっている。そんなことからいちいち電車で二時間以上かけて通っている生徒もいるぐらいだ。
タローの通っている天電第四中学校ならびそのほか第一から第五中学、町内すべての中学校で電妖についての勉強が行われている。それはいざ、身近な人間が妖人になってしなったとしても偏見や先入観、偏好な目で見ることの無いようにという町長の移行でもう何十年も続けられている。
もちろんこの教育は保育園、幼稚園、小学校でもそれとなく行われている。あまり意識させずに電妖というモノについて勉強してきた町の子たちは妖人だろうと人間だろうと知っていても知らなくっても噂に惑わされることなく公平な思考と心を持っている生徒が多い。教師も町の出身が多いためさらにそれが功を奏していると思われる。
人間だろうと妖人だろうと半妖だろうと差別のない町社会。そこでタローは日課と言える説教を終えて帰路についていた。
「お前、いつもこの時間に帰ってるのかよ…」
タローは背後からの声に振り向いた。
「なんだ燭影かよ。」
後ろに居たのは寒そうにマフラーを口元までかぶせ、弓を持ったタローの幼馴染で隣りの家の住人、朝比奈燭影、同い年。ちなみに彼らは現在中学三年生の冬、受験生なのであるが二人ともそんなことどうでもよく、燭影は弓道部の帰り、タローは説教の帰りなのだ。
「お前も人のこと言えないだろ。部活はもう引退だろ。」
前を向き歩き出す。燭影はタローと並んで歩く。
「いいんだよ。どうせ半妖は天電高校って決まってんだから、あ、お前は成績的に優先順位ギリギリなんだっけ?」
プップーっとふざけた笑いをする燭影も半妖である。
彼も父親は人間、母親が黒い鳥、おそらくカラスだろう姿の電妖に襲われたのは大学生のころであったらしい。当時は追わされた傷が酷く婚約の破棄まで考えたらしいが友人であるタローの母親の助けもありどうにか結婚できたらしい。二人は示し合わせたように同い年になるように子供を産んだらしいくその結果タローと燭影は幼馴染と言うより腐れ縁となっている。ちなみに誕生日は二日違いのため小さいころは二人一緒の誕生会でプレゼントの自慢大会、ケーキのサイズ争いからの発展でどっちが先に彼女をつくるかなど変なことを競っている。二人の母親からするとどちらかが女の子として生まれてきてくれればもっとよかったのにと思っているらしいことを二人は一応知っている。そのせいもあって何かと競ってしまう。
だが、その中でも成績については競い合うものの一向に決着がつかないため先にタローが値を上げて現在では居眠りに時間を費やしている。もともと夜行性と言える狼の特徴を持つタローは日中でテンションが上がらない限り眠たいのだ。だが燭影曰く、タローのテンションの上がるスイッチはよくわからないという。
「次のテストでどうにかすりゃいいんだろ。解ってるよ。それより今日変な話聞いたんだけどさ」
「何?」
「あの生徒会長が妖人になったんじゃないかって話」
今日、タローは職員室で説教されつつ、生徒が相談事を持ち込んでいるのを聞いていた。天電第四中学の生徒会長蜂須賀羽喰は町内で有名な人物であった。誰にも慕われているが両親がいないということで町内のお年寄りのほとんどが孫のように慕っているし、大人たちも彼女を頼りにしているし子供に至ってはそれこそ知らない子はいないのではないだろうか。何が彼女をそこまでにしたのかはわからないがとにかくそんな有名人なのだ。タロー自体がよく理解していないが彼女は誰からも愛され、頼りにされている存在らしい。
「ふざけんな、あの人は俺が狙ってんだ。お前どういうつもりだ?」
と、眉間に皺を寄せながらいう燭影。これは中学に入ってからずっと言っていることだ。
「お前俺の話聞いてた?お前なら知っているかと思って聞いてんだけど」
「知るわけないだろ。一度も喋ったことないし、クラスすら同じになったことないんだぞ。その話、詳しく教えろ。」
燭影は見た目に似合わない険しそうな顔をしてタローにいう。
「なんか、話してたのは生徒会のあの双子でさ、ほら、あの三人って幼馴染らしいじゃん。その双子が先生に少し前から羽喰ちゃんの様子がおかしい、今まで以上に電妖の匂いと血の匂いがいつもしてるって言ってた。」
「あの双子も半妖なのは有名だからな…だが会長ちゃんって随分と前から電妖の匂いも血の匂いもさせてただろ?俺はてっきり妖人か、半妖だと思ってたんだけど…」
そういいながら燭影は鼻をすする。寒いせいか、鼻先は赤い。
「お前は鳥だから匂いには鈍感だろ。あの人の匂いは一つじゃない。いつも違う電妖の匂いがする。血も人間だったり動物だったりするしな。」
タローも釣られたように鼻をすすりポケットをあさる。
「はいティッシュ」
「ああ…」
ぶっきらぼうに返事しつつ燭影からティッシュをもらい鼻をかむ。
この角を曲がればもう家である。
「じゃあな」
「おう」
そう、返事をし、二人はそれぞれの家に入っていく。
その頃、閉園した遊園地・電遊園で一人の少女が光る何かを振り回していた。
彼女は何もない空に足を置いていた。宙に浮いている彼女は何もない空間を切り付け、はじかれるように飛ばされた。体勢を立て直し宙に足を着く、だが上空から今度は押しつぶされる形で地面に落下するもそこに姿はない。一瞬でなにかの背後を取り光る物で刺したようだった。
汗をぬぐう姿に一つの人影が近寄って行った。彼女がその人物を見上げながら持っていた物をどこかにしまう。
彼女の目の前に立つ人影は抱きつくように彼女の耳元に口を寄せる。誰もいないのだから普通に話せばいい物を、その人物は口角を上げにやつくと彼女の肩に顔をうずめた。
朝が来る。燭影は鳴っている目覚ましを止めるため窓を二回開ける。
「おい、起きろ。遅刻するぞ…。おーきーろー…。」
眠たそうな声で燭影が起こす人物、それは燭影の部屋の窓越しにある隣の家の窓がある部屋に寝ている人間。いや、半妖タローである。
二人の部屋の窓と窓の間隔は十センチぐらいしかない。ほぼ一つの敷地内にある二つの家。
タローの両親は朝早くから仕事に行ってしまうため燭影に起こされない限り寝坊は確実なのだ。燭影の両親も同じ職場なのだが仕事の内容の違いから朝はゆっくりしている。
「ショーくん、タローちゃん起きた?朝ご飯の順備できてるわよ。」
「だってさ」
と燭影はいうもののタローは起きる様子はない。燭影は仕方ないと言わんばかりの溜息を吐きタローの部屋に行く。行くと言っても窓を通るだけなのだか。そして鳴りっぱなしの目覚ましを一旦切る。
タローは抱き枕に顔を埋めて寝ている。その体を仰向けにすると彼の鼻と口を塞ぐ燭影。タローは苦しそうな顔をするものの起きる様子はない。
燭影は片手で鼻と口を押え開いた手で脇腹をくすぐる。するともがくように動くタロー。それに気をよくした燭影はさらにタローをくすぐると
「うわ!」
とタローにより体をベッドに倒される。
「ジロー……」
そういいながらタローは燭影を抱き枕の代わりにしようとしたので
「俺はジローじゃねえ!」
と手てはじくととその手は顔面に当たる。
「い、いったい…!」
顔をしかめながら起きるタロー。
「またかよ…」
「それはこっちのセリフだ。毎朝毎朝素直に起きればこんなことにならないじゃないのか?」
燭影はベッドの上に立ち上がり窓に足を掛ける。
「とっととジローに餌やって家に来い。飯が冷めるだろ」
ジローとは鳥居家で飼っているゴールデンレトリーバーだと思われる犬である。
「ああ…着替えてすぐ行く…」
眠たそうに起き上がりタローは服を脱いでいく。
「お前、絶対彼女できないだろうな。できてもすぐ別れそう」
燭影はそう言い残し部屋に戻る。
登校する生徒に混じって歩くタローと燭影、学校の門の前にいる会長羽喰を見つける。
「おはようございます会長」
「おはよう」
「羽喰先輩おはようございます。」
「おはよう」
と、行きかう生徒が彼女とあいさつを交わす。だがその顔は疲れているように燭影には映る。
「疲れてんだろうな。顔色悪いし」
「悪いなんてもんじゃないよ。体調悪いのに三年の終わりだからって無理やり仕事してるし」
「先生もそれをいいことにいろいろ押し付けてるし、お人よしにもほどがあるよ。」
そういうのは生徒会の腕章をした校内でも会長に続いて有名な秋月双子、兄の煌と妹の燐。
「おはよう二人とも、それと鳥居大狼くん、朝比奈燭影くん。二人には忠告があるの。」
羽喰は一言でいえば見た目大和撫子、中身冷徹非道。いくら慕われていても同級生には人気がない。それは彼女の性格を身近で見る機会があるからだろう。
「忠告?」
タローは返す。燭影に至っては固まって動く気配がない。
「そう、忠告。今晩から一週間、日が沈んでから外に出ないことね。死にたくなかったら」
彼女はそういうと双子と共に校舎へ入っていく。地面につきそうなぐらい長いマフラーと髪が揺れる。
「どういう意味だ?燭影はどう思う……?燭影?ショーくん?」
呼んだところで返事が返ってこないのにタローは呆れ引っ張るように校舎に入っていく。
昇降口に入れば羽喰を目で追う後輩にひそひそと話す同級生に顔を赤らめる先輩。そしてそんな彼らの視線はタローと燭影に集まる。
「最悪だ…」
「幸せすぎる…!」
二人はそれぞれ違う反応をと顔をする。
昼休み。燭影はタローの教室に足を運んで、二人同じ中身の同じ見た目の弁当を広げる。
「あ、母さんまたグリンピース入れやがった。タローにやる。」
「じゃあ、ピーマンと人参お返しだ。」
「二つもずりいよ。アスパラやる。」
二人の間を端が行き来する。
「アスパラベーコンなのにかよ。」
「うえ、ベーコンがアスパラの味に…」
何ていう一部始終をクラスメイトは食い入るように見ていた。なんせ二人は羽喰や双子に次、知らないところで有名人なのだから、二人は同じ弁当の理由を知らない生徒の間で憶測が飛びかう。二人の関係をよく知る生徒はこの後何も無いようにと願う一方である。
「で、昨日と今朝の話の続きだけど会長ちゃんがあんな忠告してくるってどう思う?」
燭影は羽喰のことを会長ちゃんと呼ぶ。本人曰く名前を呼ぶのが恥ずかしいらしい。
「どうって、また匂いが違った。あの人一体いつも何してんだ?電妖の匂いが着くってのも変な話だけどさ。」
タローは炒め物の中に合ったピーマンをさらに燭影の弁当に移す。
「そういえば昨日の夜、天電園で電妖騒ぎがあったみたいだぜ。カラスが喋ってた。」
カラスと会話できるのは半妖の力である。
「またかよ。そういえばお前別の噂聞いたか?吸血鬼の電妖がまた出たんだと」
「またねえ…」
燭影はピーマンを食べながら言う。
「今回のもそれがらみかな?何人目だっけ?死者も出るほどだろ?」
「十八人目だよ。電妖狩りの雀蜂様は助けに来てくれないのねえ」
電妖狩りの雀蜂。町内に数年前から流れる人間なのか電妖、妖人、半妖なのかもわからない人物。噂が噂を呼びその人物像は化け物のように言われている。
「それ迷信だろ?そんなことより吸血鬼と会長ちゃんからの忠告についてだろ。」
燭影はチャーハンを食べながらグリンピースで山を作っていく。
「簡単に確かめる方法は今晩外に出ることだな。」
「だな、どうせ母さんたちいないから俺ん家から出ればばれねえよ。」
二人は悪戯をする子供の用に笑う。
それを見ている生徒はそれぞれウキウキぞわぞわしていた。
一先ず羽喰の忠告通りに明るいうちに帰る二人だが二人一緒に帰る姿に驚く生徒も多い。
ゲームに読書、それぞれ時間をつぶし空が暗くなるのを待つ。
「そろそろ行くか?」
「おう。あ、ジローの散歩忘れてた…」
「ついでに連れてけばいいだろ。」
燭影の言葉に納得してタローは部屋に隠してある靴を持って窓をくぐる。
「ジロー」
「ワン!」
と、元気に吠えるのをシーっと口に指をあてながら二人はジローの小屋に近づきリードを付ける。
「さて、どこから行く?」
「待て、マリーに今探させている。」
マリーとは燭影の家で飼っているヒマラヤンと言う種類の猫だ。庭の中を自由に行動しているマリーはいつでも外に出れる。ジローとも仲がいい。
「お前って猫ともテレパシーできたっけ?」
「できない。だから雛が一緒にいる。」
雛とはその名の通り雛鳥のことである。
「一号たちも探してくれてるがあいつらすぐサボるから」
燭影の特技は鳥類とのテレパシーを使えば町内のことであれば調べるのか簡単だ、だが鳥だって性格は多種多様。個体によっては嘘だってつくしサボる。それに比べたら飼い猫の方が動ける範囲は決まっているが確実で性格な情報をくれるのだ。
「それじゃあ、有力なものが来るまで普通に散歩するか…」
そういって歩き出す姿を見られているなんて二人は思ってもいない。
この季節に合わない下駄の足は音をたてずに二人の後を追っていた。
数十分の散歩だが特に何も起きない。それどころか先ほどマリーをジローが発見してしまい今は燭影の腕の中で寝ている。
「どうすんだよ。帰るか?」
「とは言ったものの随分と町はずれまで来ちゃったね。どうする?飛んで帰る?」
「この数持って飛べるのかよ?」
「だから俺はジローとマリーを連れて帰るからお前は走って帰れ」
そういうと燭影はバサッと背中に黒い翼をはやす。
「お前ヒドっ!」
燭影はそんなの聞いているそぶりを見せつつ翼をはばたかせ上空まで上る。
「お、おい!お前もとっとと獣になれ!やばいの来るぞ!」
焦った声の燭影をタローは見上げる。見上げたところで燭影の目線の先の物は見えない。仕方ないという動作でタローは力いっぱい地面を蹴る。誰かの家の屋根の上に着地したその姿が半獣と言ったところだろうか。
「どれだよ?」
「あれ、よく見ろ」
燭影の指さす方向、山と山の間にうごめく影に二人は息を飲む。しかもその動きは早くもうすぐ町に入ってくる。
「なんだよ。あれ?」
「とにかく家帰るぞ。護符のある場所に許可なく電妖は入れないからな。」
「ああ…」
燭影はジローを背負いマリーと雛をタローが抱き家に向かって全速力を出す。
だが、影の動きは早く町に侵入を果たしていた。
二人は振り返ることなくタローの家の屋根裏の窓に滑り込む。急いで窓を閉めるとその上を影が通っていく。窓越しに二人は何かと目が合った。にやついた男だった。
朝。タローと燭影は自室に戻ったものの一睡もできないまま朝を迎えていた。
今日も燭影の家で朝食をとるタロー。
「そういえば二人とも気付いた?昨日の夜に大きな電妖が町を通っていったのよ。お母さんタイヤを持っていたからよかったけど何人も病院に運ばれて行ったみたい。」
タイヤとは電妖避けのようなもので人一人分の結界を貼る作用があるシリコン製のリストバンドのことである。オシャレの一つとして普及しているためそれが対電妖具と知って付けている者は少ないもののこの町では常識として付けられている。だが、結界の中と外を遮断するもの、電妖の力を使うには抵抗が生じてしまうためつけない妖人、半妖も少なくない。その分自分の身は自分で守れと言うことだ。
もちろん常時付ける人間なんて少なく病院に運ばれるものが出たのだろう。
「母さん昨日何時に帰ってきたの?」
「昨日と言うより今日になってからね。父さんは多分まだ職場でしょう。休みを取るのにみんな必死よ。」
なんていいながらキッチンに戻っていく。
「お前どう思う?」
「まあ、あれが会長ちゃん忠告してきたモノだとして今日からはタイヤを付けておけば対策になる。会長ちゃんもあの時そう忠告してくれればよかったのに」
「そういえば昨日の朝、珍しく校門に居たのってもしかして生徒のタイヤを見ていたとか?人参やる。」
タローは千切りされた人参を燭影の小鉢に入れる。
「可能性としては無くはない。こんなちっこいもん食えよ。」
「ならグリンピースぐらい食えるだろショーくんよ!」
何てやっていると
「そんなことしてないで残さず食べなさい!」
と、二人して怒られた。
登校したところで今日も羽喰は校門にいた。
「忠告は素直に聞くものよ。ま、タイヤをしてきたことは褒めてあげる。」
なんてすれ違い際に言われた。燭影はと言うとめちゃくちゃ嬉しそうである。
その日も日課の通り寝て怒られ帰るタローと部活に行った燭影。
だがその日は夕日が沈んだ途端、影がきた。
「どうなってんだよ!」
「知るかよ!」
なんて言い合いをしながら走る二人。理由は数分前、
「嘘!タイヤ切れちゃった!」
「え?早く帰らないと門限あるんでしょ?」
なんて燭影の部活の後輩が話しているのを聞き
「俺の貸してあげる。早く帰りな。」
「でも先輩、あのへんなの危ないって先生言ってたし」
「俺は平気だから早く帰りな。」
「ありがとうございます。」
燭影は笑顔で彼女たちに手を振る。
「イケメンショーくんはさすがだね。」
「その呼び方やめろ。俺は先帰るぞ。」
「まて、俺も帰る。」
と、タローは自分の手についているはずのタイヤがないというのを見せつける。
「どうしたんだよ?」
「寝てる間に誰かにパクられた。」
「アホだな…」
何ていいながら学校を出るなり二人は猛ダッシュで帰路を行く。
ゼイゼイと息を荒げて二人は家に入る。だがなぜか二人そろってタローの家に入ってしまった。
「あら?ショーくん。二人で息荒げて、タイヤしていかなかったの?テレビでやってるわよ。外の様子」
タローの母の言葉にリビングでテレビをみる。
町内電波放送の番組で多くの見えなかった人間が病院に運ばれ見えるようになってしまったことが確認され、見えていた人間もタイヤが切れるほどの力を結界に加えられたという。電妖も逃げるように姿を消したらしい。テレビに神保博士が映る。
「この電妖は昨日から何か探しているように動きまわっているように見えますね。」
「と、言うことは、それが見つかれは去るのでしょうか?」
「おそらく。国の方は今頃この電妖を狩るかどうか検討中でしょう。」
「なんせこの規模の電妖ですからね。国の方も貯蓄型の電妖の場合、捕獲して国のエネルギー確保に使いたいでしょうからね。」
なんてアナウンサーと神保博士が話す。
神保博士とは天電町で電妖について一番詳しい人間だ。家族を電妖にさらわれ今は次男と二人暮らしだと以前テレビで言っていた。
「捕獲するとしてどうやってやるんだろうな?」
「知るかよ。お前、ネックレスのチェーンが髪に引っかかってるぞ。」
「どこ?」
燭影はタローの髪に手を伸ばしチェーンを外す。
「あら、そのペンダントまだしてたの?捨てていいって父さん言ってたじゃない。」
このペンダントネックレスはタローの父親が電妖の狼に襲われた時に皮膚にめり込んだ牙を金属で封じた物がついている。牙自体電妖の物ということで物理的存在はしていないもののタローの父親は銀に封じて存在を保たせている。
幼い時にタローのペンダントが羨ましかった燭影は母親に頼み似たように羽を入れたペンダントを作ってもらい肌身離さず持っている。
「いいんだよ。気にいってるから」
そういいながら立ち上がりリビングを出る。それについて行く燭影。
自室に戻るとジローがしっぽを振って迎えてくれる。
「ただいまジロー」
そういうとカサカサと音がする。窓の向こうの窓でマリーが窓を開けようと頑張っていた。燭影は窓を二回開けてマリーを抱き上げる。
「外の様子どう?」
「ん?もうあいつは行ったみたい。この後どうする?あいつが何探してるのか気になるし、どこから来てんのかも気になる。」
「明日休みだし追ってみるか?」
「そうするか」
と、二人は話をまとめ、荷物を置きタイヤを付けて一階に下りる。
「ちょっと出てくるわ。」
「行ってきます。」
家を出れば真っ暗。とにかくあの影の行先を探すためタローも燭影も半獣の姿になる。近くの家の屋根に乗りそこから電波塔まで行く。
あたりを見渡しながら
「あ!あそこ」
タローが海の方向を指す。あいつはいた。
「遠いな。タイヤの抵抗があるから今から行ったところで追いつけないだろうな。」
「見ろ燭影、方向変えたぞ。」
影は大きな体をくねらせ方向を替えてまっすぐタローたちに向かってくる。
「やばくね?」
「やばいな。」
とはいえ、電波塔は結構高く、見たところ影は平べったい。精々三階ぐらいまでの高さにしか来ない。
「ここで様子を見よう。何かあれば俺がお前を抱えて飛ぶ。」
「お!頼もしいねショーくん。」
「置いてくぞ。」
「すいません…」
なんて話している間に影はもうすぐそこまで来ていた。
影は電波塔を囲むように停滞してしまう。影の表面は表すのであればクラゲのようにふにふに、プルプル、ぶよぶよといった感じに動く。
「この状況どう思う?」
「会長ちゃんの忠告ってもしかして…」
二人の思考はシンクロしていた。この影の狙いって俺たちなんじゃねえの?と
しばらく様子を見ているとどこかからか視線を感じた。燭影がその方向を見たところで何もない。タローが向いた先には人姿があったものの視界に入るなり消えてしまった。
そんな時、影に動きがあった。
「燭影飛べ!」
「うわ!」
間一髪と言うところで空に逃げる。影の一部であろう細長い管が燭影に迫っていたのだ。
電波塔に残されるタロー。自らの爪で襲ってくるそれを切りつけるもそれはひるむことなく襲ってくる。切った先は地面の影に落ち同化、切られた管は何もなかったように襲ってくる。
「大狼!」
燭影の声に手を空中に伸ばすとそれを掴まれ宙に飛ぶタロー。
「追いつかれる前にかえっぞ。」
「ああ…」
タローは影を見る。タローを見失ったからか伸びる管がうようよと動き回っている。
しばらくして影はまた二人を探しに行ってしまった。
土曜の朝は寝坊がお決まりなのだがタローの母親は覗いた部屋のほほえましい光景にそのまま寝かしておくことにした。
昨夜帰るなりばたばたと部屋にも戻っていった二人になにか悪さでもしてきたのか、それともこれからするのかと思っていた母親からするとそんなことはなかったと払拭される光景であった。
「大変、天使がいる…」
と、携帯のカメラにその光景を収め急いでメールで燭影の母親に送られる。
数分も立たないうちに燭影の母親はタローの家に来る。
「可愛い…」
と、カメラを起動させる。
そんなことが起きているなんて気が付いたのはマリーだけであった。
母親たちはそのまま隣りの部屋に入っていった。そこにはパソコンとプリンターがあり起動させる。
しばらくすると印刷が始まる。
「二人とも日常からこうならいいのに」
「本当よね。」
親バカである。
昼を回り二人はジローとマリーによって起こされる。
「あとちょっと…」
「なんだマリー?飯は母さんにもらえ…」
寝ぼけながら答え、ふと燭影が部屋の時計を見る。
「おい!もう昼だぞ!あいつの寝床探しに行くんだろ!」
「あ!そうだった…」
タローは起き上がりジローと同じ動作で頭からつま先まで体を振るう。ときどきあるこの動きの理由を知りたい燭影であるが本人もよくわかっていないらしい。
「そういえばなんで母さん起こしてくれなかったんだ?」
「さあ?とにかく飯食っていくぞ。」
と、人の家だが慣れ過ぎて普通に動き回る燭影。
一階に下りると二人の母親がソファーで仲良く談話をしていた。
「おはよう」
「おはよう」
二人そろってそういうと母親たちはさらに楽しそうに笑みを返す。
「ご飯そこにあるから、パン焼いて食べなさい。冷蔵庫に野菜ジュースあるから」
言われたとおりタローは冷蔵庫を開け、燭影はトースターにパンをセットしてタイマーを回す。
食べ終わるころには母親たちは一緒に買い物に行ってしまった。使った食器を燭影が洗い、タローが拭いて食器棚に戻す。
「さて、行くか」
「そうだな。タイヤなんだけどさ、どうする?」
「いらなくね?」
「いらないか」
下駄箱の上に置いて家を出る。
町はずれまで来るともう川と森しかない。少し離れたところに寺がありその反対側には神社がある。その二つをまたぐように川は流れている。電妖にとって水は移動手段で森は隠れるのに適した空間。そんなことから電妖の森と呼ばれている。
「君たち森に行くのかい?やめた方がいいよ。あいつが寝ている間は」
二人の背後に立つ小柄ない少年。歳下のような彼に
「お前誰だ?あの電妖について知ってんのか?」
「知ってるよ。俺は世良胤臣。初めまして鳥居大狼くん。朝比奈燭影くん。」
デジャヴを感じながらスルーし、話を続ける。
「知ってんなら教えてくれる?あの電妖一体なぜ俺等を襲って来たんだ。」
「お前には興味無い。大狼くん、君が俺の物になってくれるんなら教えて上げてもいいよ。」
「ホントだな。」
「おいタロー!」
燭影は思う。こいつただの電妖のために見ず知らずの人間の下僕になる気か?いや、知っていたとしても俺以外のやつの下僕なんてありえないだろ!と、
「別に友達になるだけなら安い条件じゃねえか!」
ニカっと笑ってタローがいうものだから燭影は大きく肩を落とし世良に至っては目が点になっている。
「ところで世良、お前いくつだ?年下?」
「はあ?お前眼科行けよ。メガネかけろよ。」
急な口調の変化に今度はタローたちが目が点になってしまった。
「俺はお前等と同い年だ!」
「え……マジで!」
三人の間に沈黙が流れること数分。
「まあ、いいや。で、あの電妖はなんなんだ?なんで俺等を襲って来たんだ?」
「は?そんなことも解らないの?お前等二人そろって示し合わせたようにそんなもの付けといてバカなの?お前等バカなの?」
二回も言われた。身長的意味で小さな暴君がここに居る。
「まあ、仕方ない。お前等の小さい脳みそじゃ解らないだろうから俺が説明してやる。」
世良は二人の襟元に手を入れ引っ張り出す。
「こんなものしてたら狙われるに決まってんだろうが!」
その手に握られているのは銀の牙と羽のペンダント。
「これがなんだっていうんだよ?」
燭影が言ってもジトーっとした目で見られるだけなのでタローが聞きなおす。
「これは電妖の力を銀で封じている。しかもその電妖本体はもう殺されている。にもかかわらずこうして体の一部が残ってしかも封じられていると言うことはこの中には本体の力が現在凝縮されて封じこまれているということだ。もともとの電妖の力が強すぎるんだ。引き寄せられるように力が欲しいやつが寄ってきたんだよ!」
言い終わるとフンっとわざとぶつかるように二人の胸に強く投げつける。
二人は今の話、よく理解できていない。
「要するに、あの電妖の狙いはこれってことだな。だから俺たちは狙われた。」
「そういうこと」
「しかもこれは、俺のは狼の、燭影のは黒鳥の力が入っていると」
タローは燭影のを、燭影はタローのを手に取って見るもなんの変哲のないペンダントだ。これにそんなに強い力が凝縮されているとは思えない。
「俺、嘘は言ってないから、それを付けている限りあいつは襲ってくる。国はまだあの電妖の対策を渋っているから少なくともあと五日は追われる破目になるだろうね。」
羽喰も一週間出るなと言っていた。何故二人の話はかぶるのだろうか?
「早く蹴りを付ける方法はないのか?」
燭影が聞くも拗ねたような顔をする。燭影もさすがにこめかみに皺が寄る。それをタローが静止すると
「俺の方から国にこのことを報告して雀蜂に駆除させればすぐ終わる。今晩にでも…」
「雀蜂って、あの?」
雀蜂。国が派遣する電妖狩り集団の総称。同族をも捕食する姿から着いた名前である。各巣には一人の女王蜂の意味を果たす人間とそれに忠誠を誓った電妖、妖人、半妖が働く。狂暴化、危険種を主に討伐し、時に常時何かしらの被害を与える可能性があると判断されたものも狩る。国の命令で電気を貯蓄できる型の電妖などを捕獲することもある。と、いう噂の存在。電妖狩りの雀蜂とは別に流れる噂である。
「そう、あの雀蜂は実在する。地区ごとに担当の巣があってすぐに対応してくれる仕組み。だからもう一度言う。鳥居大狼、俺の物になれ!」
「だから友達にならなるって…」
ここまで言ったタローを静止させ
「行くぞ、重要なことは聞けた。あいつにもう用はない。お前に忠告だ。このまま俺等を放置した結果あの電妖に襲われてもしタローが一生手に入らない現実が来てもそれはお前の選択ミスだ。」
そういって燭影はタローを抱えて飛んでいく。
ふと、世良以外の視線をまた感じるも誰か解らないまま家に戻るのだった。
家の前に着地すると丁度
「お帰りタロー、ショーくん。父さんジローの散歩ついでに本屋寄るけど何かいるか?」
「ないかな?多分。」
適当に返し、家に入ろうとするが
「あ、待って」
タローは父親を止める。
そしてジローに近づき首にかけていたペンダントをジローにつける。
「まだ持ってたのか。良いのか?ジローに戻して?」
「もともと父さんがジローに作ったものだし、俺はもういらないよ。ジローが持てば狙われることないし」
父親は何の話か解らない顔をするがそのまま散歩に行ってしまった。
「どういうことだ?」
燭影は聞く。タローは燭影の横を抜けて家に入るとそそくさと二階の自室に戻る。
「どういうことだ!」
燭影はそのあとを追って階段を上っていく。
「おい!ジローの物ってどういうことだよ?あれはおじさんを襲った電妖の牙なんだろ?」
「そうだ。でもジローにとっては親の形見だ。」
「は?」
燭影は考える。ジローはオスのゴールデンレトリーバーで列記とした犬だ。電妖ではない。だがなぜそのジローの親の形見があの牙なのだろか?
「ジローの親犬はもともと父さんが独身時代から飼ってた普通の犬だったんだ。だがなぜかある日、電妖になっちまった。電妖になってからも父さんは飼い続けてたけど春先の雷が小屋に落ちたんだ。父さんは妖人になっちまった。でもその後も飼いつづけてたんだがこの町に来てしばらくして殺されちまったんだ。」
タローは悲しそうな顔で話す。
「じゃあジローは?」
「小屋の中に居たんだよ。殺されちまった後に、同じ毛色のゴールデンが…ジローは俺等の産まれる前から居る。もう一七歳のお祖父ちゃんのはずなのにあんなに元気だろ?多分、ジローも電妖の血が流れてんだ。俺たちみたいに」
「全然気にしてこなかったわ」
ベッドに座るタローの隣に燭影が座り肩に触れる。
辺りは夕日に包まれるころ、少女は電話を受けていた。
「はい。解りました。危険と判断しましたら捕獲をあきらめ殺していいのですね。失礼します。」
一方的に電話を切る。
「俺、またしばらく帰ってこないから怪我ないようにね。」
「解ってるわ。それより、死人を出すのだけはやめてくれない?貴方までリストに乗ったら私が困るの。」
「その辺はうまくやるよ。」
男は窓から空を歩いて出ていく。
少女は大きなカバンを背負い家を出る。向かうのは町はずれの森である。
「キャーっまた天使がいる!」
と、いう母親たちの声で目を覚ますタローと燭影。どうやら寝ていたようだった。
「母さん、そのカメラ何?」
「母さんも携帯でしようとしてんの?」
母親たちはばれてしまったことに落胆してカメラと携帯をしまう。
「夕飯出来たわよ。早く降りてきなさい。」
「はあい」
二人であくびをしながら部屋を出る。
一階のテレビが昨日のあの電妖の動きについて解説していた。そこには暗くてわかりにくいがタローと燭影が映っていた。
「ショーくんは一体なにがしたいんだい?」
と燭影の父が訪ねる。
「父さん、お願いだからショーくんはもうやめて…」
「いいじゃんショーくん!」
「なんだい?タローちゃん!」
似合わないすごい形相で燭影はタローにいう。
「お前本当にその顔に合わないからやめろよ。」
「大きなお世話だ。安心しろお前にしかしないからな。」
「え?なにそれ、俺特別みたいじゃん。胸キュン!」
「キモい!キモいからやめろ!」
よくあるいつもの夕飯の会話に親たちは気にせず食卓に着く。
「いただきます。」
父親たちがそういうと皆で口をそろえて
「いただきます。」
と、いう。これがこの家の日常である。
「で、なんで二人はあんなところで電妖に遊ばれてるの?」
燭影の母親が聞く。
「最後にはショーくんに助けてもらってるみたいだし、危ない遊びはやめなさい。」
タローの母親が言う。
「男の子だしそのぐらいいいじゃんか。」
「家や道場に籠っているよりずっといいと思うよ。」
父親もそういう。
「いや、なんだかさ、さっきジローにつけたあのペンダント狙ってあの影みたいな電妖は俺たち探してたみたい。」
「なんかこの中に母さんを襲った電妖の力が凝縮して入っているらしくてそれを求めてきたらしい。」
もごもごいいながら燭影がペンダントを見せるように持つ。
「あら?母さん説明しなかったっけ?小さかったから忘れちゃった?危なくなったら母さんに返してねって」
「覚えてない…」
「何やってんだよショーくん。」
「うるさいなタローちゃん!」
そんな会話をしながら夕飯は進んでいく。
夕日はタローの部屋に差し込む。だが、その部屋に二人の姿はない。
森の手前、二人は半獣の姿でそこに居た。
「現れないな。」
「そうだな。影どころか雀蜂も来ないとなると燭影の脅しが聞かなかったのか?」
「ああいう性格の人間にはあの言い方が一番だと思ったんだけど駄目だったかな?」
「ま、逃げる順備はできているしな。今回狙われるのは燭影だけだし」
タローは燭影の肩をポンと叩く。
「何言ってんだ。お前もだよ。」
そういうと数時間前にジローに渡したものがここにあった。
「何で持ってんだよ!」
「俺だけなんて癪に合わない。」
なんて話をしている間に日は沈みきってしまった。
「来るぞ。」
「ああ…」
構えるとすぐにその姿は現れた。黒い影がうようよ動きながら出てくる。
出てくる動作は遅いのに動くのは早い。寝起きのタローのようだと燭影は思う。
その時二人の背後より人影が宙を舞った。
「貴方たちは人の忠告もまともに聞けないわけ?」
この言い方、かすかな夕日に浮かぶシルエット、それは
「蜂須賀羽喰?」
「嘘、会長ちゃんが雀蜂?」
二人が唖然としている間に羽喰はカバンから何かを取り出し空になったカバンを投げ捨てた。
人間とは思えないジャンプ力で上空に上がり何もない空間に足を着く。
「え?なんだよあいつ…」
「どうなってんだ?」
ポカーンと口を開けてその様子を見る。
羽喰は持っていたゴム製のネットを影を覆うように投げる。羽喰の手元には機械が一台ある。それに着いた何かがどんどん大きくなっていく。
「あれって、吸電器か?」
「多分な。母さんの持っているのとは規模が違うが多分そうだろ。どんどん影の小さくなっていくし」
吸電器。妖人、半妖の中で暴走の心配がある者に町が配っているもので個人的の購入も可能。体内にたまって電気を電池に替える道具である。だが羽喰の手に持つものの規模が家庭用の数倍デカい物であった。
影は小さくなりつつゴムの網にその体をめり込ませていく。網も吸電とともに小さくなっていくためである。
「おい、なんかはみ出してないか?」
「やばそうな雰囲気出てるな…」
なんて二人で見ていると案の定、パンっと破裂した。網目から破裂した破片が落下する。
落下したそれらいくつのも破片は地面に着地するなり一つになろうと集まる。
羽喰はそれ目がけいつ出したのか白い稲光を放つ針のように細い剣を突き刺す。
影の残る電気も吸い取ったのかそれは外の皮の部分が残っていた。羽喰はそれを回収・吸電し、電池に姿を変えたそれを放ってあったカバンに詰める。
「あんた、いつもこんなことしてるのかよ?」
タローが聞くと羽喰は自分の顔にも飛んでいた影の皮を剥しながら
「貴方たちこそ、いつもこんなふうに首を突っ込んでいたら電妖だろうと死ぬわよ。」
そういいながら羽喰は剣をタローの首に向ける。
「やめろよ…別にいつもってわけじゃないし、いいじゃんか俺等のことだし」
「何言ってんだタロー!会長ちゃんの言うことちゃんと聞けよ!」
燭影がタローを売り渡した瞬間であった。
「おまっ!裏切るなし!」
「まあいいわ。早く帰りなさい。これだけ電界を揺るがせたとなるときっと貴方たち、明日一日寝て過ごすことになるでしょうからね。」
彼女はそういうとカバンを背負い宙を跳ねるように行ってしまった。
「どういう意味だ?」
「さあ?」
二人は気付いていな。腕に付けている時計が狂ってしまっていることもポケットに入れたままのミュージックプレーヤーのデータが飛んでいることに
タローは熟睡から激しい痛みで目を覚ます。
「いったーい!」
と近所に響く声を上げる。
「うるさい!こっちは頭痛いんだ!静かにしろ!」
と窓を開けて燭影に言われてしまう。
二人は昨日、羽喰に言われた通り体の痛みと頭痛で一日寝ている破目になった。
第一話を呼んでいただきありがとうございます。
定期的に続きの更新をして行く予定です。
誤字脱字がありましたらお教えいただけると幸いです。
コメントも待ってます。
ありがとうございました。