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処女王エリザベスの華麗にしんどい女王業  作者: 夜月猫人
第6章 メアリー・スチュアート帰国編
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第78話 出会い系女王


 そうは言ってもなぁ……


 説得する、とはウォルシンガムに言ったものの、昨日の敗北はかなり私の中で響いていた。


 はぁ……仲良く……するのは無理かもしれないけど、何とかお互い、対立しないようには出来ないもんだろうか。


 あの嫌われようじゃ、きっと無理なんだろうなーと、2日目にして半ば諦めムードになっていたら、その日の午後、私が1人になるのを見計らうように、マリコの方から声をかけてきた。


「エーリ!」


 ぽんっ、と背後から、飛びつくように両肩に手を置かれる。


 背後を取られたっ!?


 慌てて振り向くと、私にワインをぶっかけたことなど覚えていないかのようなほがらかさで、マリコが提案してきた。


「ねぇねぇ。アタシ、イイコト思いついちゃった♪ せっかくだし、天気もいいから午後から遠乗りに出てみない? そっちのイケメンズも連れて。あ、ちゃんとこっちも選りすぐりの連れてくからさー」


 合コンですかっ?


 驚異的なコミュニケーション力に唖然としつつ、マリコと親睦を深めるという理由で自分を納得させて、私は秘密枢密院たちを伴って、メアリーご一行様と遠乗りに出ることにした。


 同伴には、秘密枢密院と、少し心配だったがヘンリー・ケアリーも選抜した。


 他の3人が今ひとつ乗り気じゃなさそうだったから、ノリノリなケアリーを場の盛り上げ役というか繋ぎ役というか……って、何でこんな合コンのお膳立てみたいな気の遣い方をしなきゃならんのだ。


 自分の立場と時代を忘れそうになる。マリコ・ワールド恐るべし。


 どうやらマリコは、今回は取り巻きの4人のメアリーは連れて行かないらしく、代わりに4人の男の従者を連れてきた。


 自由すぎる隣国の女王に振り回され、何かと気苦労の絶えないノーサンプトン侯爵に見送られ、私たちは馬を歩かせ、城から少し離れたなだらかな広陵地帯へと向かった。


 晴れた春の日差しが、柔らかに翠色の丘を照らす。

 気持ちの良い外出日和だ。


「まぁ、レスター伯はダンスもお得意ですのね」


 私の前方では、青毛馬に乗ったマリコが、隣を栗毛馬に跨って並び歩くロバートに、甘い声で笑いかけていた。


 なるほど。見事な猫かぶりである。

 私も人のことは言えないが。


 ロバートの少し後ろに馬をつけたセシルが、愛想良く持ち上げた。


「ええ、彼はイングランド宮廷一の踊り手です。おそらくはフランス宮廷でも、彼ほどの名手はそういません」

「本当かしら?」

「今夜にでも、1度お試しになっては?」

「そうね……」


 セシルが仲人のおばちゃんみたいになってる。


 マリコの逆隣には、ケアリーが鼻の下を伸ばしながらついており、私は私でマリコが連れてきた4人の従者に囲まれていた。


 どうしてこうなった……


 完全にグループデート状態である。男女の比率がおかしいが。


 マリコとの溝を埋めるチャンスかと思ったのだが、どうやら向こうは、私は眼中にないらしく、さっきからロバートやケアリー、セシルとばかり話していた。


 代わりに彼女が連れてきた従者を宛がわれているのだが、マリコの従者と仲良くなる意味が見出せない。


 思わず溜息を零すと、芝居がかった声が隣から届いた。


「どうされましたか? エリザベス女王陛下。憂い顔の貴女も素敵ですが、出来たら春の日差しの中で微笑む貴女の姿が見たい」


 あ……今、私イラッとした。


 顔を上げ、戯れ言を吐いてくる相手を見ると、隣に馬を並べる男が、何となく腹の立つ流し目を向けてくる。


 マリコの従者の1人、シャトラールという名の、フランス人の詩人だ。


 フランスの詩人、というといかにもロマンティックな響きだが、そのイメージに違わぬ優男の美青年は、鼻にかかったようなしゃべり方とわざとらしい流し目で、私を引かせてくれた。


 なんだろう……歯の浮く台詞はロバートで慣れてるはずなんだけど……


 妙にイラッとするのは何故だろう。


 愛着の問題か?


 いまいちその男のしゃべりを好きになれない理由を考えていたのだが、すぐに分かった。


 言葉が上っ面だけで、中身がないのだ。


 主の命令で、一応私におべっかを使っているだけで、シャトラールは骨の髄までメアリー信奉者だった。


 そうと分かれば扱いは簡単で、私は、彼がしゃべりたくて仕方がないであろう、メアリーのことを聞き出すことにした。


「あなたはメアリーを追ってきたの?」

「はい。私の主人は、フランス宮廷では並ぶ者のないメアリー女王陛下の賛美者でございます。私は主人を代弁して、女王陛下に賛美の詩を贈り続けるために遣わされたのです」


 さすがはフランス・ルネサンスの全盛期。よく分からない。


「勿論、私自身も女王陛下の賛美者を自認しております。こうして陛下のお側に侍らせて頂くなど、この身に余る光栄……ああ、今夜もこの春の丘に舞い降りた女神の素顔を詩にしなければ……」


 案の定、メアリーの話になると、彼の言葉は急に熱がこもった。


 聞き流しながら、きっとロバートの寝言も、周囲はこんな風に聞いているんだろうなーと思うと、思わず遠い目になる。


 だが、ロバートからアレを取ったらしおれた青菜になってしまうように、きっとこの詩人は、メアリーを賛美していないと死んでしまうのだろう。


「そうね、詩はいいから、メアリーのことを聞かせてくれない? フランス宮廷で彼女はどんな存在だったのかしら」

「陛下は皇太子妃であらせられる時から、晴れ渡った昼の光のような輝きを見せておられました。あのカトリーヌ王妃すらもこう言ったものです。宮廷中を振り返らせるには、メアリーがちょっと微笑むだけで十分だ、と……」

「なるほど……」


 それがメアリーの青春だとしたら、才女と褒めそやされながらも、大人達の陰謀の渦中で汚名を着せられ、どうにか足をすくわれないように綱渡りの青春を送ってきたエリザベスとは、まるで対極だ。


 シャトラールは更に、メアリー女王が最も輝いた日――15歳の時の、亡きフランソワ皇太子との結婚式の話を熱く語った。


「ご存じの通り、我がフランスでは、白は喪の色でございますが、陛下はあえてご自身の1番お好みの色である、純白のドレスを花嫁衣装にお選びになったのです。その姿たるや、天上の女神の100倍の美しさで……」


 どうやら、本物のメアリーは白が好みだったらしい。

 今のメアリーは、赤を好む印象がある。


 そういえば、メアリー・スチュアートが断頭台に上る時に、死装束に選んだ色も赤だったな、と嫌な共通点を見つけてしまう。


 彼の言葉は詩人らしく修飾過多で、ほとんどがメアリーの容姿を賛美するだけのものだったので、あまり有用な情報は得られず、私はだんだん飽きてきた。


「あら?」

「んん?」


 そこで、私はわざとらしく声を上げ、馬上で今にも歌い出しそうなほど悦に浸っていたシャトラールを現実に引き戻す。


「シャトラール、今、メアリーがあなたを呼んだみたい」

「本当ですか? それは、すぐ参らねばなりません。エリザベス女王陛下、失礼ですが……」

「いいわよ、いってらっしゃい」


 許可を出すと、早速馬に鞭を入れて飛んでいく背中を見送る。


 呼んでないと怒られても、私は知らない。


 私は馬の歩を緩めて、他の男達を先に行かせ、1人最後尾についた。

 

「はーっ」


 大きく溜息をつき、肩を落とすと、急に隣にウォルシンガムの馬がついた。


「なんですか、この茶番は」

「知らないわよ私も」


 およそ愛想というものを知らないこの男は、かなり最初の段階でマリコに隣につくよう言われたのだが、いつものごとく慇懃無礼な調子で受け答えをして、さっさと接待から逃げおおせていた。

 ……まぁ、そのフォローにロバートが回る羽目になったのだけど。


 投げやりに言うと、ウォルシンガムにも溜息をつかれた。


「メアリーの説得は成りそうでですか?」


 この状況を見て、そういうことを言うコイツはやっぱり意地悪だ。


「そうね……ロバートが何とかしてくれるんじゃない?」

「それは無理でしょう」


 私の悔し紛れの返答を、ウォルシンガムはあっさりと否定した。

 彼の視線の先には、マリコの側を離れて戻ってくるセシルとロバートの姿があった。


 シャトラールがマリコの元に駆けつけたのをきっかけに、2人はヘンリー・ケアリーを置いて戦線離脱したらしい。


 ぶつかりそうな距離で馬を並べて戻ってきた2人は、なにやら言い合いをしていた。

 

「どういうつもりだセシル」

「どういうつもりとは?」


 ロバートが詰め寄ると、セシルがとぼけた口調で首をかしげた。


「貴殿のお膳立てには悪意を感じるぞ!」

「それは穿ち過ぎと言うものでしょう。この機会にレスター伯がメアリーを籠絡して下されば、後々スコットランドとの交渉が円滑に進むという期待はありますが」

「そのまま俺をメアリー女王の結婚相手に送り込むつもりだろう?!」

「それはメアリー女王自身がお決めになられることです。自信があるならお試しになられては?」

「俺はメアリー女王と結婚する気はないっ!」


 あーあ、始まった。


 たまによく、この2人は対立する。


 別に、特別仲が悪いわけじゃない……と思いたいのだが。


 喧嘩するほど仲が良いというかもしれないし。


 うん。そういうことにしておこう。


 結局、その日の遠乗りは、ヘンリー・ケアリーだけがデレデレと楽しんだ状況で、ぐだぐだのまま終わった。



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